「人権教育・啓発推進のための基本計画(中間まとめ)」についての意見

2002年2月6日
人権フォーラム21
代表 武者小路公秀

○ 政府の文部科学省及び法務省は、2000(平成12)年12月に公布、施行された人権教育及び人権啓発の推進に関する法律(以下、人権教育・啓発法)第7条の規定に基づき、「人権教育・啓発に関する基本計画(中間取りまとめ)」を作成し、パブリックコメント手続で意見募集を行った。
 人権フォーラム21では、人権擁護推進審議会の「人権教育・啓発」答申づくりに先立ち、さる1998年10月に「これからの人権教育・啓発の基本的方向について-5つの原則と7つの提言」を発表し、問題提起を行ってきたが、1999年7月のとりまとめられた「教育・啓発答申」は、我々の意見をほとんど無視した内容であった。その後、人権教育・啓発法が成立したが、先のわれわれの提言は、ほとんど考慮されていない。
 それゆえ今回の「人権教育・啓発に関する基本計画(中間取りまとめ)」に関するパブリックコメントにあたっても、さきに公表した人権フォーラム21の教育提言「これからの人権教育・啓発の基本的方向について-5つの原則と7つの提言」(1998年10月)にそって、七点について意見表明してきたところである。以下にその主張の要旨を掲載する。
○ 政府の文部科学省及び法務省は、この間のパブリック・コメント手続きによる意見をふまえ最終案を策定し、本年3月末までに国会に対し「人権教育・啓発に関する基本計画」を報告する予定である。われわれは、引き続き「人権教育のための国連10年国内行動計画(1995―2004年)」との整合性をはかることを求め、政策提言を続けていく次第である。

○論点1: 「人権教育の意義・目的について」 <第2章2-(1)>
 「中間とりまとめ」第2章2(1)の「人権教育の意義・目的」の定義は不十分である。
 人権教育の定義は、人権教育のための国連10年行動計画の考え方、すなわち「人権教育」とは、「人権のための教育」(Education for Human Rights)を意味する。これは、非識字克服(Literacy)に象徴される「人権としての教育」(教育を受けることが人権、人権が守られた状態での教育過程の展開)という側面と、「人権についての教育」(人権とは何かの学習、人権を守り育てていく人間の育成)の両側面があるわけで、この定義を採用すべきである。

○論点2: 「人権教育の実施主体」の定義について」 <第2章2(2)>
 「中間とりまとめ」第2章2(2)の「人権教育の実施主体」の定義は不十分である。
 人権教育の実施主体は、人権教育のための国連10年行動計画の考え方を採用し、主体別には政府・自治体、NGO/NPO、マスコミ、企業のすべての関係者とすべきである。

○論点3: 「人権尊重の理念について」 <第3章1>
 「中間とりまとめ」第3章1の「人権尊重の理念」は、公権力による人権侵害が相次いでいる現実を無視した不十分なものである。「すべての個人」という抽象的表現に留まらず、公務員の人権遵守義務も明記すべきである。日本国憲法第99条はすべての公務員に憲法遵守義務を課しているが、この義務には、憲法第3章の人権規定を守ることも当然含まれる。さらに、日本が批准または加入した人権諸条約上の国際人権基準は、憲法第3章の規定を補完するものであり、これを遵守することも公務員の義務である。したがって、憲法・人権諸条約にもとづく公務員の人権尊重・遵守義務を基本計画に明記すべきである。

○論点4: 「人権教育・啓発の基本的あり方について」 <第3章2>
 「中間とりまとめ」第3章2の「人権教育・啓発の基本的あり方」の定義は不十分である。
 「(1)実施主体間の連携と国民に対する多様な機会の提供」としているが、人権教育・啓発の実施主体は、人権教育のための国連10年行動計画の考え方を採用し、政府のすべての省府であり、それゆえ全ての省府の大臣官房に人権教育・啓発担当部局をおくべきである。
 特に文部科学省においては、大臣官房での人権教育・啓発担当部局の設置は、緊急の課題であり、基本計画に盛り込むべきである。また今度設立が予定されている人権委員会(仮称)も実施主体として明記すべきである。
 また(1)のタイトルは、「すべての市民に対する多様な機会の提供」と改正し、外国人市民に対するリーガル・リテラシー(法識字)やリーガル・アドボカシー(法的支援)などもふくむことを明記すべきである。

○論点5: 「人権教育・啓発の推進方策について」 <第4章1、2>
 1 人権一般の普遍的視点からの取組」の項目については、以下の点を踏まえるべきである。
  ○ 「(1) 人権教育」では、「ア学校教育」において,「カリキュラム(または指導要領)に,人権教育を明確に位置づける」を明記すべきである。
  ○ 学校教育の中でも、とりわけ大学における人権教育が大きく立ち後れている。「大学等の教員養成機関における人権教育の実施,および人権教育の理念,内容、方法等に関する教育の実施」を明記すべきである。
  ○ 「(2)人権啓発」においては、公権力による人権侵害が相次いでいる現実をふまえ、公務員、特に幹部職員や特定職業従事者対象の人権啓発を充実することを明記すべきである。
 2各人権課題に対する取組の項目については、以下の点を踏まえるべきである。
  ○ 今後設置される「人権委員会」での人権相談を充実させ,相談事例から把握された問題点を人権教育の課題として各種機関にフィードバックしていくこと」を付記すべきである。
  ○ 特に「(4) 障害者」の項目では、サマランカ宣言をはじめ国際社会では統合教育の推進がグローバルスタンダードであり、分離教育を固定化する「特殊学級」という現行制度と表記は不適切であり、改めるべきである。

○論点6: 「人権にかかわる特定職業従事者に対する研修等」 <第4章3>
 ○ 「人権にかかわる特定職業従事者に対する研修等」の記述は、きわめて不十分である。人権教育のための国連10年国内行動計画との整合性を図り、第4章2と同程度の分量で、各省庁別に具体的課題を明記すべきである。
 ○ 特に法務省所管の検察職員、入国管理関係職員については、公権力による人権侵害が相次いでいる現実をふまえ、具体的な改善策を明記すべきである。

○論点7: 「第5章 計画の推進」について
 ○ 「中間とりまとめ」第5章の「計画の推進」は不十分である。
 ○ 人権教育の実施主体は、人権教育のための国連10年行動計画の考え方を採用し、政府・自治体のすべての分野であり、「推進体制」は、すべての省庁とすべての自治体で整備すべきである。またすべての自治体やマスコミなどの実施主体が「人権教育・啓発基本計画」を策定するよう働きかけるための具体的措置を明記すべきである。
 ○ またマスコミやNPO/NGOと協力して「人権教育・啓発基本計画」を推進するための体制を具体的に明記すべきである。


 

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