「差別禁止法」をはじめ人権法体系の整備に向け、積極的に議論を巻き起こそう!
(2001年11月14日)

● ご承知のように、さる5月25日、人権擁護推進審議会(以下「審議会」)は「人権救済制度の在り方について」の答申を公表したが、この答申は、人権侵害や差別を受けた人びとが救済される制度づくりの方向性を示す、きわめて重要な内容を含んでいる。すなわち、国連の場でもしばしば指摘されてきた日本の人権政策や人権擁護体制(法制度や行政施策)の不備を政府としてはじめて認知し、その改善策を進めなければならなくなったわけである。
 法務省は、先の「救済」答申と12月に出される予定の「人権擁護委員制度改革」答申の2つをふまえ、来年1月からの通常国会に必要な「人権委員会設置法案」(仮称)など必要な法律案の上程を予定し、人権擁護行政の再編策を構想している。また200年11月に施行した人権教育・啓発推進法をうけ、2002年3月までに「人権教育・啓発に関する基本計画」を策定する作業を文部科学省とともに進めている。今まさに、新しい国内人権機関設立を中心に、21世紀日本の人権政策の制度設計の最大の山場に差し掛かっているともいえる状況にある。

● 人権フォーラム21は、先の「人権政策提言」(2000.11.10)の中で、21世紀日本の人権政策の基本方向を明らかにしたが、人権擁護推進審議会の答申や法務省などの動向をふまえ、この「人権政策提言」をより充実したものとする作業を、規制・救済部会作業部会を中心に11月末をメドに進めている。そして、来る12月6日(木)午後から東京にて、人権フォーラム21第5回総会&シンポジウムを開催し、これからの日本の人権保障システムのあり方について、情報発信する予定である。
 先の「人権政策提言」では、これまでの日本の人権政策は、内容と実施の両面において不十分なものであり、今後の人権政策においては、(1)総合性の原則−すなわち「人権政策の策定・実施にあたっては、縦割り行政の弊害を排した総合的な取り組みを行うこと」、(2)当事者性の原則−すなわち「当事者の視点に立った施策の推進、及び当事者自らによる問題解決に対する適切な支援を行うこと」、(3)地域性の原則−すなわち「人権問題は原則として地域社会において解決されるべきであり、地域的な取り組みに対する支援に重点を置くこと」、という人権政策の三原則を柱にした積極的な取り組みが必要である、と提起した。
 そして、人権が尊重され、確保される社会を実現するためには、これまでの行財政的措置だけでは不十分であり、新たに人権法体系を整備する必要がある、とも提起した。すなわち人権法体系の整備にあたっては、法律上の狭義の「人権」、すなわち国家によって「人権」と認められた権利だけではなく、人権侵害を受けた当事者に対して実効性ある救済をなしうる普遍的価値概念としての「人権」を広く扱うこととし、人間の尊厳が真に尊重され、個人の人格と自律的な生存が保障される日本社会をめざさなければならない、とした上で、当面、「人権教育・啓発推進法」を制定すること、および「差別禁止法の制定」をもとめた。

● 人権教育・啓発施策の根拠法としての人権教育・啓発推進法は、いくつかの不十分さを内包しつつも2000年11月に成立し、本年3月より施行された。先の「救済答申」に基づき設置が予定されている新しい人権救済機関の権能を法的に裏付けるためにも、いよいよ「差別禁止法」(仮称)の制定を実現させるため、意見を出し合い、世論を高め、論議を集約すべき時期が到来したともいえる。
 われわれの「人権政策提言」では、日本国憲法第14条第1項が定める平等原則を具体化するため、社会的差別禁止法又は人種差別禁止法(部落差別・アイヌ民族差別・外国人差別の禁止、人種差別撤廃条約の国内法化)、性差別禁止法、障害者差別禁止法等の事由別差別禁止法、及び雇用差別禁止法(ILO111号条約を批准し、これを国内法化)等の分野別差別禁止法を順次制定する、としている。これら諸法の整備は国民的課題であり、また国際社会に対する責務でもある、と提起した。そして、差別禁止諸法の整備にあたっては、諸外国の取り組み及び「国連・反人種差別モデル国内法」を参照し、差別禁止事由と差別禁止分野を明示し、差別行為の予防ならびに規制、及び差別を受けた者の救済を図るものとすべきである、と提起した。
 人権フォーラム21が「人権政策提言」を公表して以来、2年が経過したが、この間、日本で「差別禁止法」を求める動きは、で急速に高まりつつある。すなわち部落差別撤廃(禁止)法制の実現については、部落解放同盟を中心に「部落解放基本法」制定要求の取組みが長年にわたって進められてきているが、近年、人種差別撤廃条約の国内実施の一環としての「外国人差別撤廃法」(仮称)や「人種差別撤廃法」(仮称)の制定要求も高まりつつある。
 また、さる11月8-9日に奈良市で開催される日弁連人権擁護大会は、8日にシンポジウム「障害者差別禁止法の制定を目指して−バリアのない社会のために」を開催し、「障害者差別禁止法」(仮称)の論議をまきおこした。また、DPI(障害者インターナショナル)日本会議は、日弁連の人権擁護大会に先立ち、「アジア太平洋障害者の十年」最終年記念フォーラム・第6回DPI世界会議札幌大会1年前プレ大会」を東京と札幌で開催し、「障害者権利条約」(仮称)制定へのアピールを行なったところである。

● 人権問題は抽象的な課題でなく、生身の人間が関わる問題である。人権侵害や差別事象をいかに解消するか、人権侵害や差別を実際に受けた者をいかに救済するかという問題の検討にあたっては、実際に人権を侵害され、差別を受けた当事者の視点を重視する必要がある。したがって、これからの人権政策や施策の検討は国家エリートだけに委ねることはできない。日常生活感覚、現場感覚をもった市民こそが、人権政策や施策づくりの過程に積極的に参画すべきである。
 来るべき人権フォーラム21第5回総会は、人権フォーラム21の4年間の活動を総括し、2002年の活動の方向を討議する意義ある大会となる予定です。また、同時にシンポジウム「世界の差別禁止法と人権救済機関」(仮)を開催し、NMP(国内人権システム国際比較プロジェクト)の研究成果をふまえ各国の国内人権機関(人権擁護機関)の実情を紹介するとともとに、政府が構想する人権委員会(仮称)構想や人権救済立法の問題点と課題を明らかにする予定です。「差別禁止法」をはじめ人権法体系の整備に向け、いまこそ積極的に議論を巻き起こそう!


 

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