アムネスティ・インターナショナル日本発表
2001年5月25日
政府から真に独立し、国際的な人権基準に則った人権救済制度の確立を
――人権擁護推進審議会の答申を受けて――

 人権擁護施策推進法に基づいて設置された「人権擁護推進審議会」が今日、「人権救済制度の在り方」と題する答申(以下、「答申」)を発表した。社団法人アムネスティ・インターナショナル日本(以下、「アムネスティ」)は、答申が国際的な潮流を視野に入れつつ政府から独立した人権擁護機関を設置する方向性を示したこと、ならびに同機関が公権力による人権侵害の被害者をその救済対象としていることを一定評価しつつも、提案されている機関による救済の実効性について懸念している。答申は、人権擁護機関の政府からの独立性の確保や、公権力による人権侵害の被害者救済の実効性の提示、また対象とされる人権侵害の類型の提示などについて、不十分である。
 アムネスティは日本政府に対し、答申を具体化する今後の過程において、それらの懸念についての十分な議論がなされること、ならびにその過程において、さらには将来設置される人権擁護機関の業務そのものについて、人権擁護活動を行なっている諸団体や個人、また人権侵害の被害当事者を含めた市民の参加を保障するよう要請する。

◇対象とする人権課題の明確化を―国際的な人権基準を取り組む人権課題と位置付けること
 答申は、「差別」、「虐待」、「公権力による人権侵害」、「メディアによる人権侵害」を、人権救済制度が取り組むべき人権課題と位置付けているが、この類型は性質の異なる事象を同列に扱うもので、不十分かつ不自然である。日本政府は、国連を中心に作成された国際的な人権条約の多くについて締約国となっており、それらを国内で実施、促進する法的義務を負っている。したがって、これらの国際的な人権条約が規定する権利に対する侵害を取り組むべき人権課題として明示していくことが重要である。(注1)

◇ 公権力による人権侵害についての実効的な救済策を
 アムネスティは、とりわけ捜査手続きや拘禁・収容施設内における暴行その他の虐待について、行政による既存の救済・不服申し立ての制度が十分に機能していない場面での人権侵害事例が多く存在し、そのような事例についてこそ救済を図る必要性が高いと認識している。したがって、そのことを強く認識した上で人権擁護機関の任務・権限を決定するべきと考える。具体的には、裁判や既存の制度による救済の記録にあらわれてこない現状についても調査・モニターし、人権侵害が生じていないかについての徹底したチェック機能を果たすこと、ならびにこれまでに十分に機能してこなかったそれらの制度の問題点を克服し、改善に結びつける役割を負うことを求める。そのためには、「(公権力による人権侵害については)私人間における差別や虐待にもまして救済を図る必要がある」との答申の記述を具体化すべく、刑事拘禁施設や入国管理局の外国人収容施設に対する立ち入り調査や法的拘束力を有する資料開示請求などの強力な調査機能、また処遇改善の勧告機能などの強い権限が付与される必要がある。また、証拠の偏在などによって裁判で不利な立場におかれる被害者に対して、実質的な平等を確保するべく補助を行う機能も必要である。(注2)

◇政府からの真の独立性の確保を
 答申は、人権擁護機関が政府から独立性を確保することを保障しておらず、また、実際に救済実務に関与する主体について、適切な提案をしていない。このことは、この答申が掲げる基本方針を根底から無にすることに等しい。公権力による人権侵害の被害者救済に際しても、人権侵害が政府機関によって行なわれている以上、人権擁護機関が政府から独立したものであることは必要不可欠な条件である。今後、人権擁護機関が政府からの独立性を確保し、また適任者が救済実務にあたることを可能にするため、あらゆる努力が払われるべきである。(注3)

◇行政府や立法府への提言機能を
 アムネスティは、人権擁護機関が、国際的な人権基準を国内で実施する機関としても機能することを期待している。その意味で、個別的な救済や啓発を通じて得た情報に基づき、行政府ならびに立法府に対して提言を行なう機能を併せ持つことが重要であると考える。 答申は人権救済機関が政府への「助言」や国会への情報提供を任務とすべきと提案しているが、助言や情報提供では不十分である。具体的には、多くの個別事例についての情報を収集し、それらの情報を国際的な人権基準に基づいて分析し、公権力に対しては権力濫用の予防のためのチェック機能を強く働かせ、個別救済だけでは解決できない問題について必要な立法措置や制度改善、また新たな政策の導入や国際的な人権条約の国内実施の促進などについての提言を行なうことが望まれる。
以上

◆お問い合わせは:アムネスティ日本 担当:森原(電話:03−3203−1050)まで



(注1)
 答申は随所で、国連総会で採択された「国内機構の地位に関する原則(パリ規則)」の重要性や、国際条約の条約機関によって採択された、人権侵害の申し立てに対する調査および救済のための独立した機関等の設置に関する日本政府への勧告に言及している。それらに留意するのであれば、その勧告の基調となっている国際的な人権条約が規定する権利救済の必要性を明確に位置付けることが重要であろう。

(注2)
 答申は公権力による人権侵害を、「歴史的にも、また現在でも看過することのできない」ものと位置付け、「私人間における差別や虐待にもまして救済を図る必要がある」と指摘し、さらに「捜査手続きや拘禁・収容施設内における暴行その他の虐待」が存在することを認めて積極的救済の必要性を強調しており、この点については評価したい。しかしながら一方で、各種行政処分についての既存の一般または個別の不服申し立て制度や他の関係諸制度との役割分担の必要性を理由に、「一律に積極的救済の対象とするのでなく、人権擁護上看過し得ないものについて、個別に事案に応じた救済を図っていく」との消極的表現を用いている。

(注3)
 答申は、提案している人権擁護機関が「政府から独立性を有し、中立公正さが制度的に担保された組織」であるべきとしている。しかしながら一方で答申は、その設置に向けては「法務省人権擁護局の改組も視野に入れて、体制の整備を図る」としており、両者は矛盾している。特に刑事拘禁施設や入国管理局の外国人収容施設内での虐待などについては、これまでの救済・申し立て制度が法務省内部の制度であったために十分な救済が構造的に行なわれてこなかったことが問題なのであり、法務省の一部局や法務局、地方法務局の改組を持って人権救済機関の事務を担わせることは、問題の解決にならない。また、答申は積極的救済に寄与すべき主体として人権擁護委員を位置付けている。このことは、答申が、人権擁護委員制度など既存の人権擁護制度について、「政府の内部部局である法務省の人権擁護局を中心とした制度であり、公権力による人権侵害事案について公正な調査処理が確保される制度的保障に欠けている」との認識を示していることと矛盾している。

以上


 

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