【資料2】
入管施設における「公権力による人権侵」と望ましい人権救済制度


入管問題調査会
1.密室の人権侵害の実態
 入管の収容施設は密室である。被収容者はそのまま本国に送還されてしまうし、法務省入管局は、内部の情報を隠蔽しているので、なおさら外に伝わりにくくなっている。私たちは現在までに100名を越える被収容経験者からの聞き取りを行なってきた。以下の報告は、この聞き取り調査の結果や、いくつか国家賠償請求で争われた事件の記録などから明らかになった収容施設の実態である。

入管職員による外国人への暴行
 入管に収容されていた外国人が、入管の職員から暴行をを受けるという事件が起きている。居室から連れ出し取調室に連れて行き、足でける、殴る、足払いをして腰から落とす、体を持ち上げて床にたたきつける。正座して土下座するまでこれが執拗に繰り返される。暴行を加えた後、隔離室に連れて行きそこに放置する。隔離室の鉄格子に手錠でくくられ、つり下げられ、放置された例さえある。使われる拷問道具としては、金属手錠、皮手錠、捕縄、舌噛み防止器具、毛布、竹刀、革の手袋(グローブ)。
 暴行のきっかけは、多くの場合、収容施設内での些細な規則違反をとがめて始まる。説諭が、リンチ・暴行に発展していく。些細な規則違反とは、夜中にタバコを吸った、夜中にゴキブリをたたいてうるさくした、処遇改善を訴えて騒いだ・・・・・などである。発生した事件の内のほんの4例ほどが国家賠償請求で争われているが、氷山の一角である。このような事件に対し、法務省入管局は「正当な制圧行為」として、その違法性を(1例をのぞいて)認めようとしていない。
 97年8月に東京入管第2庁舎でイラン人男性、ミールさんが突然死亡するという事件が発生した。これについては事件直後に赤羽警察署が捜査し、傷害致死容疑で入管職員8名を送検したが、東京地検は不起訴処分にした。入管側は「深夜居室でライターを使用した件でミールさんを説諭した際、自分で後頭部を床に打ちつけた」と説明している。搬送された病院でその死体の写真が撮られているが、体には無数の痣や傷跡があり、手足などには縛られた縄や手錠の跡が生々しく残っていて、拷問のすさまじさを物語っている。98年10月、亡くなったミールさんの遺族によって、国家賠償を求めて訴訟され、現在係争中である。

入国審査で暴行、金せびり
 拷問は収容施設の中ばかりではない。空港の入国審査の過程でも行なわれているようだ。ここでは怒鳴る、小突く、蹴る、殴る、はては金や貴金属を脅し取ったり、罰金と称してだまし取ったりされたとの報告がある。

麻酔をかけて送還
 1999年末。難民申請が不認定、異議申し出も却下された外国人が、行政処分取消訴訟の準備をしている最中、いきなり送還されてしまうという事件が発生している。彼は送還のいきさつを次のように語っている。「送還を拒否したらいきなり組み伏せられ、なにかを注射されて意識不明となった。気がついたら飛行機の中だった。」麻酔は体質によっては人の命を奪う。強制麻酔は立派な拷問である。

セクシャルハラスメントやレイプに関する事例
 入管内職員によりシャワー中のぞかれたり、女性被収容者の体を触るなどの性的嫌がらせや、さらにはレイプなどの証言は古くからある。事件となって該当職員が処分されたり刑事事件として告発された例も報告されている。私たちが直接聞き取った事例の中で衝撃的だったのは1994年10月ごろ東京入国管理局第二庁舎で発生したレイプ事件。(「密室の人権侵害」現代人文社、に報告してあるので参照されたい。)

表:入管の収容施設内での職員による被収容者への暴行被害事例。国籍別暴行数(セクシャルハラスメントも含む)(入管問題調査会しらべ)
中国人9事例
ペルー人8事例
イラン人6事例
フィリピン人(系)5事例
タイ人4事例
台湾人 (系)3事例
ミャンマー人(ビルマ人)2事例
コロンビア人2事例
ベトナム人、2事例
韓国人、1事例
ラテンアメリカ系1事例
エチオピア人、1事例
パキスタン人、1事例
チュニジア人1事例
左表は1982~2000年の間で、マスコミに報道された事例、および入管問題調査会の調査(アンケート調査、ホットライン、聞き取り)により記録された51例の内、国籍が特定できた事例。入国時、摘発時、取り調べ時、収容施設中で、取調官や警備担当者によって加えれた暴行事例である。暴行の被害者は、特定の国籍、特にアジア、アフリカ、ラテンアメリカ出身者が多い。


2.現行の救済制度は機能していない

 1999年6月の参議院法務委員会において法務省入管局長は「98年に改正された被収容者処遇規則によって、収容施設の長が被収容者から直接意見を聴取したり、巡視等の措置を講じて処遇の適正を図る」「施設の長の責任において処遇の適正を図ることで十分である」旨返答している。しかし、規約人権委員会での審査の中で指摘されたのは行政内で完結している手続きについでであり、「入管施設の長」による「監視」では人権が保障されるシステムとはなりえず、国際基準を踏まえたものとはいえない。


3.望ましい救済制度

A:入管行政の透明性の確保
 国会議員の国政調査において、次のような調査を認め、情報を開示すること。

1) 入管行政にかかわる、あらゆる文書の開示。たとえば「処遇細則」「職員の研修のカリキュラムとテキスト」「通達文書」「入管行政関連法令により作成が義務づけられた文書」など。

2) 収容施設への無条件の立入調査。被収容者への無条件のインタビュー。

3) 無期限・長期被収容者の実態にかかわる基本的な資料の開示。過去5年にさかのぼり、60日を越える被収容者の人数。無期限・長期収容に至った理由。
B:退去強制手続きにおける外国人の権利保障の為の監督機関「第三者機関」の設置を早急に検討すること。
1) 「第三者機関」の最高意思決定機関を構成するメンバーは民・官の有識者を充て、公平を期し「第三者機関」の独立性の確保に留意すること。

2) 当面の機能および権限は「人権侵害の通報の受付」「収容施設への無条件で、定期的な立入調査の権限」「被収容者に無条件にインタビューできる権限」「入管行政に対して是正勧告(あるいは命令)を出す権限」などとする。

3) 入管は次のことがらについて第三者機関へ報告をしなければならない。
隔離室や戒具を使用したとき。
被収容者の外部への通信を制限したとき。
被収容者の医療の記録。
その他、被収容者の権利を制限し、または義務を課したとき。
4)被収容者は無条件で第三者機関にアクセスすることができる。たとえば次のような事項について。
処遇に関する通報。
収容の適否についての異議申立。
収容の延長に関する異議申立。
退去強制の適否についての異議申立。
5) 将来的には収容令書に対する異議申立、執行停止をすることができる審理審判機能を持った「第三者機関」とするよう検討を開始すること。
C:収容施設の中に、警備課とは独立した課に、ケースワークを行う職員をおくこと。
ケースワーカーは、被収容者の健康状態、処遇一般について気を配り、必要に応じて病院や外部の機関と連絡をとるなどの業務を行い、収容令書発付権者や第三者機関に対し、収容の適否について具申できることとする。


 

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