人権擁護推進審議会「中間取りまとめ」への意見


大河原康隆(法政大学院生)

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1、差別禁止規定または同内容の法律の制定
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論点箇所 第4の1の(1)
意見要旨
最終答申においては、諸外国の取り組みや「国連・反人種差別モデル国内法」などを参照の上、差別禁止事由と差別禁止分野を特定する実効的な差別禁止規定または禁止法の制定を提言すべきである。

意見
中間とりまとめは「積極的救済の対象とする人権侵害」につき、「対象となる差別や虐待の範囲をできるだけ明確に定める必要がある」としているにもかかわらず、その具体的方策を示していない。新たな人権救済機関に強制的な調査権限や執行権限を付与する際に、同時に「積極的救済」の対象とされる人権侵害・差別等の範囲を明確にするための差別禁止法などを整備することは、「法の適正手続の確保」及び「新たな人権救済機関の権限濫用の防止」の観点から不可欠である。
差別禁止法の制定にあたっては、諸外国の取り組みや「国連・反人種差別モデル国内法」などを参照し、以下のような差別禁止事由と差別禁止分野の特定に留意すべきである。

差別禁止事由:人種、皮膚の色、性別、性的指向・性的自己認識、婚姻上の地位、家族構成、言語、宗教、政治的意見、民族的もしくは国民的出身、年齢、身体的・知的・精神的障害、病原体の保持の有無、遺伝子など

差別禁止分野:雇用・職場、教育、居住、医療、物品及びサービス提供、施設利用など

最終答申は、差別禁止事由と差別禁止分野を明示する差別禁止規定または同内容の禁止法の制定に言及すべきである。


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2、 公権力による人権侵害
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論点箇所 第4の1の(3)
意見要旨
公権力による人権侵害については、例外なくいかなる事象をも「積極的救済」の対象とすべきである。

意見
中間とりまとめは「公権力による人権侵害すべてを積極的救済の対象とするのは相当でない」とするが、この文言が警察署等・刑務所・入管のような拘禁施設内における虐待、人権侵害、差別行為を対象外とすることを意味するものであってはならない。この点につき、国連・規約人権委員会の日本に対する総括所見(1998年)10項が、警察・入管職員による虐待の申立について調査・救済できる独立した機関がないことについて、9項とは別個に懸念を表していることを注目すべきである。この9項と10項は、既存の各種救済制度が実効的な人権保障のために十分に機能していないという現状に基づき、公権力による人権侵害についてあらゆる事象を「積極的救済」の対象とする措置を日本が取らなくてはならないことが、自由権規約2条と日本国憲法98条2項の上での国の義務であることから起案された。特に密室での差別や虐待のような人権侵害が危惧される、警察署・刑務所・入管などの拘禁施設に対しては、人権委員会は事前通知なしに立ち入り調査が可能となる権限を最終答申は明記すべきで、この権限は上記総括所見10項のみならず、欧州拷問等防止条約などの実定法などにも明定されており、国際法上の指導的潮流の一部となりつつある。


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3、 人権侵害に対する救済制度の国際手続きによる補完
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論点箇所 第4の2
意見要旨
審議会に対する法務大臣からの諮問事項が、国内制度に限定してしない点に留意すべきであり、最終答申は、自由権規約第1選択議定書や女性差別撤廃条約選択議定書などの国際的な人権救済申立制度への日本の加入を明確に答申すべきである。

意見
中間とりまとめは、人権条約に基づく個人救済申立手続に触れていない。審議会に対する法務大臣からの諮問事項が、国内制度に限定していない点に留意すべきである。
自由権規約第1選択議定書及び女性差別撤廃条約選択議定書の批准や、人種差別撤廃条約14条及び拷問等禁止条約22条に基づく宣言を行なって個人通報制度に日本が加入することは、人権侵害の被害者の救済の可能性を広げ、拡充・補完する。また、自由権規約第1選択議定書の批准は80カ国以上が行なっており、国際社会の大きな潮流となりつつある。国連・規約人権委員会が日本への総括所見(1998年)33項で批准を勧告したのは、国際的潮流から日本が遅れていることを意味する。さらに、女性差別撤廃条約選択議定書の批准は、内閣府の男女共同参画審議会が平成12年9月26日に答申した「男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方−21世紀の最重要課題−(答申)」において、「男女共同参画の視点から積極的な対応を図っていく必要がある」としている事項である。
最終答申で審議会は、上記の国際的な個人救済申立制度への日本の加入を答申すべきである。

以上


 

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