|
|
あらすじ
ここはベラルーシ共和国ゴメリ州ドウヂチ村。チェルノブイリから170キロ離れたこの村も、事故によって激しく汚染されてしまった。
政府の立ち退き要請によって300家族が移住し、現在は移住を拒む6家族15人だけが住み続けている。村の3ケ所の入口はゲートで遮断され、警察官が常駐している。外部の人間は許可証がないと入れないのだ。そんな村の中は、まるでユートピアである。人々はじゃがいもを植え、魚を釣り、茸を採り、詩をうたう。豊かな自然に彩られたドウヂチ村の、四季を描く。
ものがたり
春。リンゴの花が満開だ。じゃがいもの植えつけも始まった。村人たちは馬や人手を出し合い、移住した親戚や子供たちまで手伝いに来てにぎやかだ。
立入禁止の村にも、週に一度食料販売の車がやってくる。ナージャの家族の最大の買い物は、主食のパン。父さんのボーブカは空になったウォッカの瓶を運んでいる。父さんは、釣りとウォッカが好きだ。息子のバロージャと釣りに行くが、「冷えると身体に悪い」と言って、魚を釣る前にウォッカで酔っ払ってしまった。
ナージャの長姉スベータはすぐ下の妹ナターシャを連れて、自転車でボーイフレンドに会いに行く。春の風はとても心地いい。近隣の村では、ポルカ祭りに行くバスが行き交っている。この間までドウヂチ村も、唄と躍りで賑やかだった。
夏。収穫の季節がやってきた。じゃがいも、トマト、麦、玉葱。どの家族も食べ切れぬほど収穫するが、みな町に出ていった子供たちや親戚に配られる。チャイコバーバは「草木も人間も、生まれたところで育つのが一番いいんだよ」と言っている。
保健局のターニャがまたナージャの家を訪ねてきた。汚染地区に子供が住んでいることが気がかりなのだ。10日後、母さんはチェチェルスクの町へ行き、新学期に間に合うよう引っ越し先を決めてきた。その日ナージャの一家は、森にきのこ狩りに出かけた。ターニャは「きのこは食べてはいけない」というけれど、みんなきのこが大好き。瓶詰めにして保存食にする。引っ越しを明日にひかえて、ナージャとすぐ上の姉エレーナは、村はずれのソージュ川へ夕陽を見に行った。
8月の終わり。村のみんなが手伝いに来てくれて、ナージャたちはチェチェルスクの町に引っ越した。父さんは町で新しい仕事がみつからないので、ひとりだけ村に残ることになった。
秋。町へ引っ越してきたナージャは、スベータ姉さんの友達の結婚式に連れて行ってもらう。生まれて初めて見る結婚式だ。一方、母さんは父さんの一人暮らしが心配で、たびたび村に戻る。この前まで喧嘩ばかりしていたのに、すっかり仲良しだ。母さんが留守にすると、スベータ姉さんが母親代わり。朝食を作って学校に送りだしてくれる。ナージャが初めて通う学校は、友達がいっぱいだ。
ある日、村ではチャイコの馬マリアが逃げ出した。バーバはとても心配し、山羊のシロにまで当たり散らす始末。結局ニコライの牡馬ロメオのところで見つかった。村人はチャイコとニコライがあまり仲よくないことを知っている。それで「馬のロミオとジュリエット」だと笑っていた。
チャイコは秋になると、いつも子供のころの恐ろしい記憶が蘇る。この地で10数万人の村人が、ナチスの手で殺された。「ひどい戦争だった。それでも村は残ったんだ。だがこんどのヤツはおれの村を消してしまった」と、チェルノブイリ事故を憤る。
ボクサーは、母親の一周忌をすっかり忘れていた。村人たちに急き立てられ、一周忌のための墓掃除にとりかかった。一周忌には村人たちが墓前で故人を偲ぶ。見渡せば、新しい墓がずいぶん増えている。みんな死んで、ようやく故郷に還ってきたのだ。
冬。チャイコバーバがかわいがっていたシロが転んで死んだ。チャイコが畑に埋めたが、犬に食べられてしまった。「仲良しだったのに」とバーバは歎くが、チャイコは「犬が腹いっぱいになったのだからいいじゃないか」と慰める。
クルチンはサマゴン(自家製ウォッカ)を作っている。大切な客を迎えるとき、祭りのとき、村では昔からサマゴンがふるまわれた。夏から秋にかけて収穫した食料が、冬の食卓を彩っている。クルチンとオリガ夫妻が大事に育てた豚も、美味しいソーセージになった。
1月中旬。ナージャを可愛がってくれたイワン・グレヴィッチが、亡くなって村に還ってきた。ナージャもこの日は村に戻っておじいさんを迎えた。
雪に埋まった大地の前でチャイコバーバはつぶやく。
「暖かくなったら、仕事にとりかかろう。種を蒔こう。玉葱、ライ麦、きゅうり、じゃがいも。もう冬はうんざりだよ。暖かくなるまで待つだけだよ」
まるで、未来につながるいのちに語りかけるように一一。


|
|