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東ギプスランド

世界遺産としての価値のある森林地帯

 オーストラリア南東部に位置するビクトリア州は、古来は88%が森林に覆われていましたが、現在は36%になってしまいました。

 東ギプスランドは、ビクトリア州の5%を占める小さな地域ですが、温帯と冷温帯が混在する独特の気候によって、多様な自然景観を維持しています。ここでは、1500種もの維管束植物(シダ植物と種子植物)や43種ものユーカリが確認されています。とりわけ生物多様性が豊かなグーロングックと呼ばれる地域には、樹齢500年以上のユーカリの原生林や、樹齢1000年を超える巨大なシダ植物などが見られます。

 また、この地域は野生動物の生息地としても重要で、オーストラリアで見られる哺乳類、鳥類、両生類のうち半分以上の種が、また動植物合わせて300種以上の希少・絶滅危惧種が生息しています。絶滅の恐れがあるとされているのは、オオフクロネコ、アシナガネズミカンガルー、オニアオバズク、ススイロメンフクロウ、オオメンフクロウなどです。こうしたことから、東ギプスランドは世界遺産としての価値があるとして、最も広く支持されている地域でもあります。

 政府は東ギプスランドの約20%がオールドグロス林であるとしており、その割合は州内で最も高くなっています。しかし、政府の「オールドグロス林」の定義は狭く、実際の面積はもっと大きいと言われています。オールドグロス林のうち、完全な保護の下にあるのは52%に過ぎず、残りの35%が伐採の計画対象となっています。

唯一の日本企業、大昭和

 この地域で本格的な森林伐採が始まったのは、70年代前半のことです。これはちょうど、日本の大昭和製紙がこの地で操業を始めた時期と重なります。大昭和製紙の現地法人ハリス大昭和が、ビクトリア州との州境付近のニューサウスウェールズ州イーデンに木材チップ工場を設立したのが、1967年。木材の安定供給のために、それまでの北米依存から脱却し、供給先の分散を図ることが目的でした。1971年に現地法人のハリス社が資本を売却した後、100%日本資本による会社となりました。現在、ハリス大昭和の株は、大昭和製紙が62.5%、伊藤忠商事が37.5%保有しています。工場の雇用者は約70人で、伐採や木材運搬などのための契約雇用者数は300人程度です。

皆伐と木材チップ生産

 東ギプスランドでは、その伐採方法が問題になっています。大昭和製紙がこの地にやってくるまでは、択伐が行われていました。しかし、大昭和製紙が木材チップ工場の操業を開始して以来、皆伐が主流になりました。小径木をも伐採することによって大量に発生する「残材」は、木材チップ生産を正当化する理由として使われています。しかし、伐採された木材のうち製材に回されるのはほんの一部で、80〜90%が木材チップの生産に使われています

 96年に中央政府と州政府の間で結ばれた地域森林協定(RFA)により、木材チップ輸出量の制限は撤廃され、その後20年間の木材供給が保証されることになりました。これにより、それ以前は毎年5,500haだった伐採面積は、RFA締結以降は毎年8,000haが伐採されるようになりました。これは、競技場6,200個に匹敵する面積で、1日に競技場17個分の森林が伐採されていることになります。また、95年度に110,450m3だった「残材」の量は、96年度には649,950m3に跳ね上がっています。木材チップ輸出量は、75年から95年の間に111%も増加しました。

 毎年伐採される木材の約95%は、オールドグロス林を含めた樹齢の高い森林から伐採されています

再生焼きと単一樹種植林

 伐採跡地には、森林の再生のためという理由で火が放たれます。しかし、「再生焼き」と呼ばれるこの方法は科学的根拠に乏しく、3分の1の森林が再生に失敗していると推定されます。また、伐採跡地での土壌流出も深刻で、肥沃な土壌は失われ、河川に流入した沈泥は水生生物に大きな影響を与えています。「再生焼き」の後には、ヘリコプターでユーカリの種が蒔かれます。このとき蒔かれるのは、成長が早く、良質の木材チップを供給できるユーカリ種です。商業的にはこれで良いかも知れませんが、それまであった貴重な生態系は完全に失われることになります。

地域的絶滅に瀕するコアラ

 オーストラリアに生息する動物の中で最も人気のあるコアラは、オーストラリア東部にのみ生息しています。大昭和が伐採を行っている地域では、急速に個体数が減少しており、50体以下を残すのみになってしまいました。繁殖が行われている群は1ヶ所だけであるとされていますが、その地域も伐採が許可されています。今や、この地域では、コアラは絶滅に瀕しています。

〜製紙用伐採によるコアラへの影響〜

 以下をクリックすると、製紙用伐採によるコアラへの影響について50秒ほどで紹介するビデオクリップをダウンロードできます。

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大昭和に与えられている優遇政策

 根強い反対運動にも関わらず、ハリス大昭和がこの地で操業を続けられる背景には、国及び州政府の優遇政策があります。製紙会社は、政府に対して、木材チップ1トンあたりわずか20セント〜2ドル(約13〜130円)の伐採権料を支払えばよいことになっています。

 低い伐採権料のおかげで、より奥地の木材を切り出すことが可能になっています。近年、ユーカリに対する代替原料あるいは補完原料として、麻やケナフなどの非木材繊維が注目されていますが、1トンあたり20セントという伐採権料の設定では、これらの原料が市場競争に勝つことは極めて困難です。

 低い伐採権料に加え、州政府からは道路建設などのために多額の補助金が大昭和に対して支払われています。EGFMPによれば、森林管理は経済的に成り立つものとし、4%の収益を見込んでいます。しかし実際には、1ドルの伐採権料収入に対し、2.25ドルの財政支出をしているような状況です。

ニューサウスウェールズ州南東部における大昭和

 大昭和の木材チップ工場への木材は、32%が東ギプスランドから供給されている一方、68%がニューサウスウェールズ州南東部から供給されています。

 この地域では、1970年以降、約12万haの森林が木材チップのために伐採されました。現在、公有林からは毎年約40万トンのチップ用木材と3万トンの製材用木材が、民有林からはさらに3万トンのチップ用木材が伐採されています。ニューサウスウェールズ州における伐採権料は、1トンあたり9〜20ドル(約600〜1300円)ですが、州政府はそれを引き下げようとしています。この地域の伐採量は減少傾向にあり、大昭和はその分を東ギプスランドやニューサウスウェールズ州北部からの木材で補っています。

木材チップは100%日本へ

 伐採が行われている地域の人々による抗議活動は、森林内や工場周辺地域の封鎖などが行われてきました。木材チップ工場の操業開始から、これまでに2,000人以上が参加し、200人以上が逮捕されています。

 州政府の地域の生態系に関する意識は低く、また、産業界の政治的圧力も非常に強力です。そのため、EGFMPやRFAの策定にあたっても、生態系に関する科学的な調査は十分になされず、原生林や野生動物に対する保護措置も不完全なものとなっています。ここで製造される木材チップは100%日本に輸出され、大昭和製紙の製品はオーストラリア国内では全く販売されていません。そのため、オーストラリア国内での反対運動などには限界があります。日本人が伐採地の状況を知り、何らかの行動を起こすことが求められています。

※大昭和製紙は合併により2003年4月に日本製紙となりました。

資料:CHIPSTOP, CROEG

イーデン現地調査写真東ギプスランド現地調査写真

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