1999年3月15日
熱帯林行動ネットワーク(JATAN)
国際森林政策/地球温暖化担当 小倉 正
本日、下記の意見書を外務省WTO新ラウンド係に送付しました。
主旨としては、日本政府が新農業基本法案などで示しているように、環境保全の機能を農業に求め貿易制限を正当化させたいのであれば、より直接的に環境問題と関わりの深い森林保全と木材貿易の関係についても同じ態度を取るべき、というものです。
経緯
今年11月の閣僚級会合で論議が始まるWTO新ラウンドに向けて、日本の外務省が広く日本国民から日本の立場についての意見書を求めるとしてホームページで呼び掛けていたものに答えたものです。
意見書自体の締切は3月末日となっていましたが、外務省では9日に、非政府組織(NGO)を対象とした説明会も省内で開いたこと、すでに日本政府方針の要旨が新聞等で出ていること、またちょうど3月15,16日とWTOの環境と貿易に関する高級レベル国際シンポジウムがジュネーブで開催されることから、今の時期に提出したものです。
背景
92年の地球サミット以来、森林問題は地球環境問題の一つとして、熱帯林の破壊ばかりでなく、先進国にある亜寒帯林、温帯林でも森林の質の劣化が大きな問題とされました。
CSD(国連持続可能な開発委員会)の枠組みの下で、森林に関する政府間パネル(IPF)と森林に関する政府間フォーラム(IFF)が開かれ、世界的な『森林条約』の制定に向けた討議が各国の間で続いています。
しかし、IPF等に参加してきた森林に関わるNGO側の態度は、ほぼ一致して、これまで自由貿易と森林保全のバッティングの問題に関して実質的な議論が行われていないため森林条約の目的に関する合意が各国間で取れていないことから、何も対策を打つつもりがないことを隠すための隠れ蓑として森林条約交渉が利用され、丸々交渉の期間中は森林保全の対策が取られず手遅れになってしまうのではないかと、森林条約の意義そのものに疑問を投げかけています。
唯一森林条約推進を主張しているNGO(EIA)の主張の要点も、盗伐された木材が貿易を通じて流通している現状を変えるべきという意見であるので、貿易に関する制限を除外した条約に効果がないというのはNGOの国際的なコンセンサスとなっていると言えます。
一方、日本林業を振り返ってみれば、木材自給率は20%まで下がり、もっとも自由化が進んでいる分野と言えるわけですが、なおもAPECの場などで米国は関税の撤廃を迫っており、更に非関税障壁として国内の補助金や流通問題を取り上げたい意向を持っているようです。
日本政府として、国内の林業をどう維持していくかは、本来重要な項目のはずですが、環境保全のための林業維持、あるいは木材自給率向上の方針は立てられていないのが実情です。
以下送付文を転載。
外務省経済局国際機関第一課
「WTO新ラウンド係」 御中 1999年3月15日
WTO新ラウンド交渉前にあたって日本の態度への意見書
意見聴取の手続きを取っていただいたことに敬意を表します。
私ども熱帯林行動ネットワークでは、1987年の設立以来、市民運動として、一貫してアジア太平洋各国における森林破壊と日本の木材消費、大量輸入などとの関係の解明とその解決に向けて活動を続けてきました。またそのような資源開発輸入を支えてきた日本の民間企業活動や政府開発援助、輸出信用のあり方の改善を求めてきました。
その際に常に問題となったのが自由貿易の原則と環境保護の論点の対立です。
例えばITTOなどにおける過去の議論では、自由貿易の原則を進めることが森林の保全につながると言う、必ずしも検証を経ていない主張が繰り返されてきました(注1)。
しかしながら日本の戦後の木材輸入の歴史や熱帯林の持続可能な森林管理の実現を目指した近年の熱帯林行動計画(=TFAPおよびITTOによる)などが必ずしもその目的を達成できなかったことから)(注2)木材貿易を持続可能な森林管理によるものに制限するなど環境保護面からの国際的な貿易制限のあり方の検討は不可欠であると考えます。およそ貿易の制限が討議の対象とならない国際的な取組みは実効性が無いと考えられます。
またこれまでの木材貿易を始めとする、日本や他の先進国、さらにはアジアの新興工業国の大量生産、大量消費に基づく産業発展のあり方を見直すことなしには、少なくともアジア地域などで起こった森林破壊のスピードを減速させることは困難であると考えます。(注3)
過去のGATTのウルグアイラウンドに際しても、農業のもつ環境保全の機能を維持するために貿易に対する制限を行うべきことを、EUおよび日本政府は主張していましたが、より直接的に環境問題に係わる項目である森林と木材貿易に関しては、同様の主張はなされなかったことから、環境保護を名目とする農産物の輸入制限という日本の主張が名目上のものであり、実際は国内の農業保護を目的とするものと見なされる一因となっていました。
そこで来るべきWTOのミレニアムラウンドの開始に当たっては、特に以下の観点を是非ともご検討いただき、真に地球環境問題対策の視点を日本の貿易政策において重視され、WTOの議論がアジェンダ21など地球サミットにおいて合意された精神に沿ったものに転換されるよう、さらなるご努力を傾けていただけるよう要望いたします。
1.木材の貿易に関して自由貿易原則を進める事と、森林保全という環境保護
の目的の関連条約や合意文書(アジェンダ21、森林原則声明、国際熱帯木材
協定(ITTA)や生物多様性条約、気候変動枠組み条約)との整合性が欠落して
いることを認識し、
2.IFF(森林に関する政府間フォーラム)や、今後行われる可能性のある「森林
条約」交渉の過程において、森林問題に関わる自由貿易原則の見直しを提案する
か、
または、
3.木材貿易など環境問題と直接間接につながりの深い貿易品目を自由貿易原
則の適用除外条項としてWTOの協定の中に明文化させるよう主張することと、
さらに
4.3の例外条項にしたがって、国内での持続可能な森林経営を、各国での政
策と措置として実施すること、そのための環境税、補助金等の国内政策をWTO
ルール違反とみなさないように論陣を張られること、
または
5.3の例外条項にしたがって、環境保護と持続可能な森林利用を重視した国
内の措置と貿易との間の政策の整合性を確保できるような水準の関税措置の導
入を可能にするよう論陣を張られること。
以上のことを主張していただきたいと考えます。
注(1)天然資源採掘における環境破壊などの「外部費用」を価格に反映する手段が実現不能である現在、貿易における経済性の追求は結果として、天然資源の劣化や環境破壊を促進させてしまう危険性が高く、経済性の原理の貫徹にもとづく自由貿易の原則の採用と、森林破壊を最小化するという環境保護の目標の間には原理的にも矛盾が潜んでいる。
OECDやITTOによる分析では、伐採される木材に価値がなくなれば、農業など他の土地利用圧力が増大し、森林減少を加速すると主張されててきた。しかし、
a)伐採道路建設が、その後のさまざまな開発行為に文字通り道を開くこと、
b)農地開発には特別な立地条件が必要あり、山岳林の奥地などアクセスや土地条件の悪いところでは農地開発やプランテーション開発は起こりにくく、したがって森林開発が抑制されることが代わりの農地開発を促進するとは必ずしも言えないこと(各国、地域の事情により異なる)、
c)熱帯林開発は、これまで択伐であったとはいえ、国際木材市場と貿易の現実から、上級材を求める日本と下級材を求める韓国などの需要圧力を受け、同じ森林から繰り返し伐採が行われてきた結果、多くの森林で回復不可能なダメージが与えられたこと、
などの批判に答えてはない。
注(2)ITTA'94(94年改訂版国際熱帯木材協定)の中で唱われているいわゆる西暦2000年目標では、2000年以降は、すべての貿易される熱帯木材は持続可能な森林経営の下で伐採されたものに限るようにするという目標が作られたが、この原則を名目に貿易制限してはならないとする限定がある上、関係各国に目標達成に対する政治的意思が欠けており、達成は今から絶望視されている。
注(3)これまで少なくとも3億5千万立方メートル以上の熱帯木材が日本に持ち込まれ、ヘクタールあたり平均30立方メートルの木材の択伐が行われたとすると、これは1千万ヘクタールを上回る原生林に具体的かつ直接的な影響を与えたことになる。
また伐採道路建設や住民社会の社会文化的な変化などの間接的な影響も無視できない。これに加えてインドネシア、タイ等でのパルプ材やエビ養殖場開発によるマングローブ林破壊、ブラジルにおける大豆プランテーション開発援助、さらには国内でのパルプ用の二次林伐採及び拡大造林を放棄して以降の豪州ウッドチップ輸入、インドネシアの海外パルプ用植林地の造成や森林地域での銅や石油石炭等鉱物資源開発や輸入など、貿易と関連して私たちが海外の市民、住民の方々から受けた苦情は数多くある。
参考資料
1. 1999年1月、コスタリカで開催された「森林の減少/劣化の背景要因に関するワークショップ」(IFFに関連したNGOとコスタリカ政府主催の会合)では、貿易と森林問題に関して数多くの行動提案が提出された。その中にはWTO/GATTに関する注文や林産物を含むすべての関連商品(農産物、鉱物資源など)に関する認証制度が提案された。
2. 世界における貿易に関連する森林破壊の事例
1)世界最大の豚肉輸出国オランダにおける飼料輸入(タイ、ブラジルその他)
*パームオイル輸入拡大による油やしプランテーション開発(最大輸入国:オランダ、ドイツ、中国など)
2).森林地域における石油天然ガス開発の事例(ナイジェリア、ベネズエラ、シベリア、カナダなど)
3).世界のパルプ輸出入拡大による植林地開発による森林破壊や土地利用をめぐる紛争地域の例(ブラジル、チリ、南アフリカ、タイ、インドネシア、イベリア半島など)
4)近年急増している途上国の森林地域における鉱山開発(石炭、銅、金山など)の例(PNG,インドネシア、フィリピン、ブラジル、エクアドルなど多数)
5)エビ養殖は日本ばかりでなく、アメリカ、欧州などの輸入拡大でラテンアメリカ、アジア、アフリカの多くのマングローブ地域で開発による被害が進んでいる。
この件の今後のお問い合わせは、JATAN 小倉までお願いします。
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