2000年6月
World Rainforest Movement (WRM)
San Francisco May, 2000
私達、以下に署名する非政府組織(NGO)は、気候変動枠組み条約の京都議定書に基づき、温室効果ガスの排出を削減するという先進各国の公約を果たすために植林の利用を想定していることについて、非常に強い懸念を抱いていることを表明したいと思います。今年の11月ハーグ(オランダ)で行われる第6回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP6)で、いわゆるクリーン開発メカニズム(CDM)の内容が決定されることになっていますが、発展途上国で行うプロジェクトによって、自国の温室効果ガス削減目標を達成することを先進国に容認する内容になるかもしれないからです。
化石燃料を燃焼する結果生じた炭素と植林で吸収された炭素とを差し引きすることは、先進国が実質的な二酸化炭素排出削減を遅らせることを正当化させる理由にはなりません。第一に炭素差し引きは、豊かな国と貧しい国、そして各国内部の裕福な者と貧しい者の間にある不平等性をさらに悪化させ、永続させてしまう可能性があるからです。第二に炭素差し引きにより、すでに世界中でその深刻な社会的・生態学的問題が指摘されている植林が増やされることが考えられます。第三にこの炭素差し引きの基になる「気候に中立的であること」を数値に表すことができる、という主張はまだ科学的に非常に疑わしく、途上国の政策決定に内政干渉を認めるものになるからです。
一世紀半の間、産業社会は地下で石炭や石油として保存され ていた炭素を空気中へと移動させてきました。今日では、産業革命の起こる前と比べ、1,750億トン以上もの炭素が二酸化炭素 となって大気中を循環していますが、その大半が先進国から排出されたものです。さらに、少なくとも60億トンの炭素が毎年それに加わってきています。わずか122余りの 企業による排出が、全二酸化炭素排出量の80%を占めています。
炭素の化石燃料から大気への移動は、無限に続くわけではありません。化石燃料のうちの4兆トンの炭素は、まだ地下に留まっています。これは、森林の中に貯蔵されている炭素量の10倍以上にものぼります。最近大多数の科学者で一致した意見によると、もし今後数千億トン程度でも炭素が大気中に加われば、極度に強い嵐・旱魃・洪水が起こり、農業の崩壊・害虫の蔓延・島嶼部や沿岸部の水没、そして何百人もの「気候難民」を作り出すことになる人類史上最大の気候変動が引き起こされると言われています。
気候変動は、貧しい人々に最も深刻な影響を与えます。例えば、ハリケーン・ミッチが中央 アメリカを襲撃した時、数え切れないほど多くの環境難民が生じました。小島嶼国の多くが海に沈むということも、場合によっては起こるかもしれません。アメリカでは石油会社、 電力事業、自動車から出る汚染物質によって最も被害を受けているのは貧しい人々です。気候変動はまた、何百万人もの人々が生計を立てる唯一の手段としている森林や、農業にも深刻な悪影響を与えることでしょう。
1997年度の気候変動枠組み条約の京都議定書 に基づいて、先進国は2010年までに1990年レベルから平均 5.2%の排出削減を行うことを誓約として出していますが、こうした危険を回避するには全く不十分です。たとえ京都議定書が批准され、全ての削減努力が実行されたとしても、傾向として2050年までに1.4 ℃気温が上昇すると予測されているのを、約0.05℃程度しか緩和することはできないと考えられているからです。それにもかかわらず、政府によっては化石燃料の使用削減を議定書の中で強化する代わりに、その使用削減努力を減らすことを正当化するために植林し、炭素吸収・貯蔵源を作ると主張しているところがあります。先進国内で生じた産業排出の「補填」をCDMとして行うために、発展途上国で行うこうしたプロジェクトが立ち上げられるという可能性もあります。
私達は快適な気候を維持するために、森林保護が重要な役割を果たすことに確信を持っています。私達は、各地域住民の管理の下で森林生態系の多様性が保全され、維持されることに 大いに賛成しています。私達はまた、先進国と発展途上国の間で富と公共財が公平に分配されることも支持しています。しかし地上や地下で炭素を貯蔵し続ける方法と、京都議定書において現在議論を呼んでいるこの炭素差し引き植林の計画とは、注意深く区別しなければなりません。これらの計画は間違った根拠に基づくものであり、逆効果になる可能性があるからです。私達は、次の4つの主な理由から、CDMに「吸収源」としての植林を含むことを反対します。
1)先進国の目標値自体が不十分であることから、先進国が「吸収源」を京都議定書に掲げた温室効果ガス排出削減目標を達成するために利用することは、気候を快適な状態にする助けにはならない
2)樹木の炭素を取引に加えることは、世界の自然資源の再分配をますます遅らせる
裕福な人々に、二酸化炭素を「吸収させる」ための植林事業に投資するその代償として化石燃料の使用を許可することは、彼らの活動による生態学的・社会的悪影響を拡大し、既存の社会的不平等をさらに増幅させることにつながります。例えば先進国の人々が、途上国の人々と比べて一人当たり20倍もの量の二酸化炭素を空気中に排出しているとすると、炭素差し引きの理論的解釈の上で言うと、彼らには排出を補填するために途上国の人々の20倍の植林地を使う権利が与えられることになってしまいます。そしてその土地は、不動産価格が安く、木の成長が早い南の国の貧しい人々の土地から逆累進的に奪われることになるでしょう。さらに炭素差し引きのシステムは、発展途上国を不利な状況に置くものです。途上国が(議定書の削減数値目標に参加し)排出削減を始めようとする時には、すでに先進国がこの最も簡単な排出削減方法を購入し、所有してしまっていることになるからです。先進国が地球上の炭素循環機能を歴史上濫用してきたことに対し、莫大な「炭素債務」を負っていることがしばしば指摘されてきました。しかし温室効果ガスの排出を「補填」するために 樹木を利用することは、「汚染者が支払う」という原理の遵守とはほど遠く、単に先進国の資源債務を増やすだけです。
このような計画は、先進国と発展途上国の両方において不平等性を認め、深めることになるでしょう。例えば、発展途上国で炭素「オフセット」植林に資金援助することによって二酸化炭素の排出権を購入する先進国の企業は、地域住民の健康を害する大気汚染物質を、自国の工場で放出し続けることが許されることになります。そして企業はそうした工場の多くを、有色人種の貧しい人々が住む地域に建てているのです。
3)大規模産業植林は、世界中の地域社会や生態系への脅威となる
わずかな量の産業排気ガスを相殺するためであっても、数百万ヘクタールもの広大な新規の植林地が接収されなければなりません。大規模植林で得た経験から言うと、そのような「オフセット」プロジェクトは、地域の人々が必要とする農地を奪い、貴重な自然生態系を消失させ、土地所有権の不公平性を悪化させ、貧困を増し、土地住民の立ち退きにつながるもので、さらに森林の保護に必要な地域管理の原則をも徐々に衰えさせるものだということが分かっています。植林はチリ、インドネシア、北欧などの国々で天然林を破壊してきた一方で、南アフリカ、アルゼンチンそしてウルグアイで大草原のような貴重な自然生態系と入れ替わってきました。ブラジル、タイ、チリのような国々では、植林は地域社会・地主・企業・国家の間で深刻な土地紛争の原因となっています。植林により、ほとんど全ての場所で水資源と生態系が喪失していっているからです。植林固有の林業モデルや、WRM(世界熱帯林行動)などの団体が何年にもわたって徹底的に記録してきたものによると、植林の有害な影響は遺伝子操作樹木が使われる場合、特に強調されるものとなっています。
4)二酸化炭素排出による気候への影響を「補填」するために植林プロジェクトを利用することは、科学的整合性が無く、プロジェクトの受け入れ側の国の社会政策において内政干渉を認めるものである
炭素オフセット市場は、「気候に中立的であること」あるいは「気候における交換可能性」という概念を持つことが前提条件とされています。植林「オフセット」プロジェクトをある産業排出量と差し引き可能なものにするためには、そのプロジェクトを行った結果生じたものと、プロジェクトが行われていなかった時に炭素吸収・貯蔵された炭素量を表わすための一つの確定した数値が算出されることが必要です。そのような数値を出すためには、次の2つのタイプのプロジェクトの結果を計測することが必要です。双方が、正味の炭素吸収・貯蔵量に影響を与えるからです。
一番目の影響のタイプは、物理的なものです。地下の石油や石炭とは違い、生木または枯れ木に貯蔵される炭素は、いつでもすぐに大気中に戻ることが可能なのです。人為的なものかどうかにかかわらず、森林火災は、森林と植林の両方にとって避けられない事象ですが、それによって森林の荒廃率を予測するのは難しいものです。さらに大気中の二酸化炭素濃度が上がると、局地的な気候変動が増えることによって植物の立ち枯れや森林火災が増し、また一方で森林・植林の両方が正味の二酸化炭素排出源に変わってしまうほど呼吸率が高まります。加えて植林は、特に土壌中の炭素貯蔵量をプロジェクト実施地域の内部と(土壌の浸食が増えることによって)外部の両方で減らします。地下で保存されている石油や石炭とは違い、脆弱で動的なうえ、将来的にどのようになるのか予測できない植林は、炭素貯蔵庫として不安定なものなのです。この考察だけでも、炭素オフセット植林市場の設立に必要な種類の産業排出と樹木の交換可能性は成り立たないということを示しています。
二番目のタイプの影響は社会的なものであり、炭素吸収・貯蔵量に重要な影響を与えるものです。炭素「オフセット」プロジェクトは、以下に記すことにも影響を与えています。
*プロジェクトの破壊・取り消し・あるいは森林の開墾などを引き起こす恐れのある、近隣の地域共同体を立ち退かせ、結果として別の場所でも二酸化炭素排出が引き起こされてしまっている。
*気候が不安定になるような産業用地の開墾を防ぎ、持続可能な農業、あるいは森林保護を実施するその地方特有の知識の喪失を防ぐ既存の技術、あるいは社会ネットワークを徐々に衰えさせる。
*省エネ、再生可能なエネルギーに関心を寄せる投資家を減らす。
*木材伐採が行われる場所を別の土地に移動させ、木材価格や地価に影響を与え、森林伐採を増やす誘因となる。
*紙や家具などの植林木でできた林産物が、いかに迅速に二酸化炭素に戻ってしまうかということに影響を与える、消費者の需要や埋め立て地の法律制定などの社会的要因を変えてしまう。
*現存する炭素固定プロジェクトから資金を搾取する。
*新しい炭素クレジットを生じさせるために、プロジェクトの範囲外にある森林や他の土地を劣化させる誘因を与えている。
このような様々な社会的影響を測定するのは不可能です。実際、数量化と炭素差し引きの双方に必要とされる、特定のプロジェクトに対する単一の社会的影響を決定すること自体不可能なのです。
第一に、植林プロジェクトの社会的影響の程度は予測できません。さらに言えば、これらの影響は予測するためのものではなく、民主的決定が行われるための判断材料なのです。一つのプロジェクトから多くの異なる「大気中の結果」が生まれることが可能であり、それはどの政策が採用されるかに左右されるのです。例えば、植林「オフセット」プロジェクトによって立ち退きを強要された人々は、国の政策をあてにする代わりに彼らの土地の権利次第である地域内の森林に対し、様々な行動をとる傾向があります。彼らの行動に対し一つの数値を割り当てるのは、どの政策が効果的であるかを前もって判断することになります。そしてそんな政策を無条件で支持することが唱えられることもあるかもしれないのです。
第二に、(離れた町の再生可能エネルギーに投資する投資家の心理をモニターするのと同様に、プロジェクトの前後で多くの地域住民の行動に関心を注ぐことも含むため、)一つの植林プロジェクトが与える全ての社会的影響の程度を観察し続けることは、非実用的で非常に不経済です。
第三に、あるプロジェクトで炭素が吸収されている数十年間にわたり、大気中の炭素に人々の行動が与える影響を正確に計測できるようになった、というその程度では、「オフセット」プロジェクトによって影響を受けた全ての人々の行動を管理するのは不可能です。さらにそのような試みは、政策的にも受け入れ難いものです。同様に、植林が行われた場合と、「植林が行われなかった場合」に生じる大気への影響を数量的に比較するのは不可能です。ある個別のプロジェクト無しに起こることは、多くの変数に依存しており、それらの変数のいくつかは経済学者や生物学者、林学者、気候科学者が予め判決する権利を与えられていない政治的活動や政治的選択の影響を受けています。しかし、そのような前判断無しに炭素「商品」は成り立ちません。
要するに、プランテーション「オフセット」プロジェクトによる気候の影響は、(例えば)プロジェクトの前後で地域の植物や土壌に貯蔵される炭素量を比べることによって、あるいはプロジェクト対象地域外で植物の変化を観察することによって計算できるものではないのです。「実践しながら学ぶ」だけでは解決できない、奥深い問題が含まれているからです。
私たち以下に署名するNGOは、特にエネルギー保全・消費削減・より公平な資源利用そして公正な開発と再生可能なエネルギー資源の共有を通じて気候変動問題に取り組む、国内・国際協力を強く支持します。私たちは、クリーン開発メカニズムや他の手段によって植林「オフセット」の取引を普及させることは、過去に失敗している支配的な開発方式に対して措置を講じるために希少な機会を作るといった、必要かつ緊急の対策を取るための勢力をそぎ、妨げると考えています。私達は、各国政府にCDMに炭素吸収源としての植林を含まないことと、植林とは別に産業排出削減に取り組むことを強く求めます。快適な気候は、地球温暖化の根本的原因に正面から取り組むことによってのみ保証されることができるのです。
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