1998年11月
序文
COP3後、 日本政府は京都議定書で約束した6%削減を実行するための方針を確認するとともに、省エネ法の改正や地球温暖化対策推進法の制定、エネルギー需給見通しの見直しなどを行った。しかし、いずれもまったく6%削減を保証するものとはなっていない。また、柔軟性措置やシンクについても、抜け穴を拡大する方向で交渉を進めようとしているように見える。最大の問題は、COP3の議長国である日本が、京都議定書を批准する具体的なスケジュールをもっていないことである。このペーパーは、日本の各NGOが、分担してCOP3後の日本政府の対応について検討したものである。
日本政府は、COP3直後の1998年 1月 9日、京都議定書で定められた日本の削減 目
標である6%削減を達成するための「当面の方針」を確認した。これは「地球温暖化防止大綱」として追認される形で今年6月に閣議決定されている。確かに、計算はあっている。しかし、この「当面の方針」は、真面目に6%を削減する計画とは言いがたい内容となっている。
「当面の方針」では、CO2 、メタン及び亜酸化窒素で2.5%、森林等の吸収で3.7%、排出量取引、共同実施やクリーン開発メカニズムで1.8%を削減し、代替フロン類等の増加を2%に抑えることにより、温室効果ガス全体で6%を削減するとされている。
CO2 、メタン及び亜酸化窒素で2.5%を削減するとされているが、その内容は、メタン及び亜酸化窒素での0.5%を削減し、残りの2%は「革新的技術開発や国民各界各層の更なる努力」によるとされている。「革新的技術開発や国民各界各層の更なる努力」とは、日本政府の官僚用語では「具体的な削減計画がない」ことを意味している。
森林等の吸収での3.7%も、京都議定書第 3条 3項の吸収についての規定では、日本は0.3%程度の吸収しか見込めないことが明らかになっている。3.7%は、京都議定書第 3条 4項による吸収源の拡大が前提とされた数字となっている。代替フロン類等の増加の抑制についても、自主的な取組にまかせ、具体的な対策はない。
日本政府は、京都議定書を受けて、「地球温暖化防止大綱」の他にもいつくかの法改正や政策決定を行った。しかし、いずれも日本の削減目標の履行を担保するものにはなっていない。
通産省が行ったのが、省エネ法の改正とエネルギー長期需給見通しの改訂である。我々は、省エネ法の目的に地球温暖化を明記することを主張したが、入れられなかった。この省エネ法の目的はエネルギーセキュリティとされており、そのため環境庁が関与できない法律になっている。今回の改正では、対象の拡大や目標値の見直しも行われたがいずれも不十分で、情報公開もなく、どの程度温室効果ガスを削減できるかは疑問である。エネルギー長期需給見通しの改訂も、GDPの成長率を2000年まで3%、2010年まで2%と過大な見積もりとエネルギー需要の増大を前提とし(1998年の見通しは-1.7%)、再生可能エネルギーの導入には消極的で、これも温室効果ガスを削減して行こうという方向性をもっていない。
これに対し、環境庁は「地球温暖化対策推進法」を対置したが、この法律はそもそも京都議定書の削減目標を達成するための法律とはされておらず、具体的な削減を担保するための法律とはなっていない。国や地方自治体の「地球温暖化防止計画」は義務づけられたが、肝心の産業界は自主的計画のままになっている。
日本政府はCOP3の議長国として、京都議定書の削減目標の達成にリーダーシップを発揮すべきであるが、COP3で発揮しそこなった日本政府 のリーダーシップは、ここでも期待できそうにない。
日本の削減目標値は6%であるが、政府の削減計画の中でCO2の部分は0%、つまり1990年レベルに戻すだけである。しかもそれは省エネ法などで最大限の対策を講じ、原発を新たに21基建設し、新エネルギーは一次エネルギーに占める割合を3.1%(現在1.1%)に増やしてやっと達成できるとしている(「長期エネルギー需給見通し」総合エネルギー調査会需給部会中間報告、6月11日)。
それは経済成長率を2%と見込み、2010年の最終エネルギー消費が90年比で30%も増え、CO2排出量でいうと20%増加するシナリオを基にしているからである。そもそもこれは1994年のエネルギー需給見通しをベースにしていて、京都会議の結果を踏まえたものではない。日本政府が京都会議以前に掲げていた削減目標と何ら変わっていない。
日本のエネルギー政策は3E政策と呼ばれ、エネルギー安定供給(Energy Security)、経済成長(Economy)、地球環境保全(Environment)の同時達成を至上課題としている。エネルギーの安定供給と経済成長を維持するために、原子力、石油・石炭は欠かせなく、地球環境保全のためにも、CO2を排出しない原子力が欠かせないのである。こうした従来の政策が堅持された中では、根本的なエネルギー政策の転換、経済構造、産業構造を変革することはできない。
京都会議が我々に突きつけたものは、今の先進国の生活・生産様式では、地球は存続できないということであった。必要なのは、環境に考慮したガス・コージェネレーションや再生可能エネルギーへの燃料転換や革新的な技術開発を可能にする新しい政策と措置である。
原子力はすでに現実的でないことは明らかである。石油・石炭に依存した産業構造は、いずれ高くつくことになり、国際競争力を失う。つまり3Eのうち、エネルギーの安定供給と経済成長のいずれも危うくなる。さらにCO2削減が実現できず、最後のEの地球環境を守ることも不可能になる。つまりこのままでは3つのEのいずれもが、達成できなくなるであろう。
京都会議を原発推進に結び付けているのは日本だけである。また京都会議を、風力や太陽などの自然エネルギー、あるいはガスコージェネレーションへの移行への合図と受け取っていないのも、日本くらいである。新エネルギーの達成目標は、京都会議以前の目標と何ら変わりはなく、新エネルギーを育てていくための新しい政策も補助金が少し増えたくらいで、その他には何も打ち出されていない。コージェネレーションの方も、電力の規制緩和が行われると、圧倒的に伸びる可能性はあるにもかかわらず、規制緩和に電力会社の抵抗は大きく、「部分自由化」という、実質的には本格的な競争導入を起こさない方向で話がまとまりつつある。
しかし、産業界の方では、積極的にCO2削減に取り組み始めている。シャープは、効率のいい家電製品を開発しており、さらに最近、待機電力をカットしたテレビを発売した。セブンイレブンジャパンはトラックによる納品を効率化し、全店舗に省エネ設備をつけてCO2削減を打ち出している。NTTは最大の電力需要者であるが、太陽光発電、風力発電導入に、産業界では最も積極的に取り組んでいる。北海道、沖縄では、今年になって大規模な風力発電設置計画が次々と発表されている。ガスコージェネレーションによる地域暖房など、自治体レベルでの取り組みも増えている。こうしたことをサポートする税の優遇措置などきちんとした政策が整えば、日本はCO2削減技術で世界のリーダーになれるはずである。
オゾン層破壊物質であるフロン(CFC類)の代替として登場した代替フロン類(HFC類、PFC類)、SF6が温暖化防止京都会議で削減の対象となった。しかし、京都会議後に日本政府のとった方針は「産業界の自主努力」を主眼とするものだ。
HFC類(ハイドロフルオロカーボン)はフロンの代替として登場。環境NGOは、HFC類が強力な温暖化ガスであることを指摘し、完全脱フロンを訴えたが、フロンのユーザーメーカーの多くが、CFC類ほどではないが、やはりオゾンを破壊するHCFC類や強力な地球温暖化ガスであるHFC類などの代替フロンを選択した。日本には、CFC類からHCFC類へ移行し、さらにHFC類へ切り替えることを決めた企業,切り替えたばかりの企業もあり、規制はそうした企業にとって頭の痛い問題となっている。途上国では、現在、CFCからHFCへの転換が始まっているが、CFCからHFCへではなく、環境を考慮すれば、直接、将来も規制対象となる心配のない物質(例えば、冷凍・空調分野なら炭化水素類など)を選択するのが賢いやり方と言える。
産業界の自主努力計画は冷媒の漏洩防止や回収など、大気中への放出の抑制が中心だ。通産省の試算では、2010年に1995年から4%の排出増に抑えられるとしている。しかし、これらのガスは、生産者、使用者、生産量が確認でき、規制しやすい。HFC類は、日本では92年には2,500トンだった生産量が95年には22,300トンと激増している(環境庁および通産省資料)。HFC類の中でも大量に生産されているHFC-134aは、二酸化炭素の同重量あたり3300倍もの温室効果を持ったガスである。しかも、 東大アイソトープ総合センターの分析によればここ数年間で大気中の代替フロンの濃度が急増、特に、北半球での増加が著しいという。地球温暖化への影響を考えると、HFC類生産全廃を前提にした法的規制による対策を率先して進めるべきだ。
政府が保守的な代替フロン対策に固執する中で、産業界ではアサヒビールが1998年中の名古屋工場での脱代替フロン化、松下冷機が1998年中に家庭用冷蔵庫の断熱材の代替フロンの使用を全廃、横浜ゴムが2005年までの脱代替フロンを宣言するなど、ビジネス界は一歩先を行っている。
なお、現在日本政府が提案中とされる、CFC類の破壊分を京都議定書のもとの温室効果ガス削減分として算定するという案はこうした危機的状況を無視した大変危険な“抜け穴”だ。(CFCの破壊はもともとモントリオール議定書のもとでやらなければならないことだ。)
●なぜ高い吸収源の数値を求めるのか
京都議定書第 3条 4項の拡大を国際交渉することによって完全なグロスネット方式を復活させ、国内の森林吸収源として3.7%を期待する、という立場は、通産省が主張して日本政府の立場となったものである。日本政府は、COP3前にまとめたCO2排出の0%削減の目標から、更に対策を強化する必要はないと、追加の国内対策を討議しないですませるためにこの数字を採用した。
●その数字は国際交渉で通用するか
しかし、国会での質疑においても、国際交渉で拡大される可能性が低いことを指摘され、環境庁は答弁で達成が難しいことを認めている。
日本の環境庁、林野庁は後日、それぞれ京都議定書の決定の中の森林吸収源合意が持つ意味について内部検討会を行い報告書をまとめた。森林管理の担当官庁である林野庁の報告書では、3.7%の数字については全く触れず、京都議定書第 3条 3項に対応する0.3%分の植林の目標と、国内の森林政策についてまとめている。
議定書条文のありうる解釈を整理した環境庁の報告書では、完全なグロスネット方式を復活させることは一部の先進国にとって著しい既得権の拡大になり、自国の削減対策を行わなくても目標を達成できることと、排出権取引を通じて莫大な利益を得ることを示し、公平性の観点からも3条 4項を拡大するのは好ましくないという声もある、と正しく指摘している。
もともと完全なグロスネット方式は、環境NGOが抜け穴であると批判して、京都会議では否定された方式である。
●その数字は意味のある数字か
日本の消費のための、海外での森林伐採活動の問題は、これらの分析からは抜け落ちている。この活動は現在のIPCCによる目録ガイドラインに従えば、伐採した国の排出として勘定されている。過去三十年間、日本は、国内の全ての森林の蓄積増加量(すなわち森林吸収量)を超える、膨大な量の木材輸入を行い続けており、その約半分は紙パルプや合板といった寿命の短い商品である。従って、貿易の影響を考慮に入れて改正される予定の、IPCCによる目録計算手法の内の一つ、大気フロー法に従えば、日本はLUCF部門が1990年には純排出国となっていると判断される可能性があり、この場合日本は京都議定書3条7項の適用国となる。しかし上記の報告書ではこの可能性の評価はされていない。
このように、3条 4項の交渉で、伐採された木材の取り扱いが勘定に組み入れられれば、輸入木材は国内の吸収源の規模と同程度の大きな影響を与えるため、3.7%という、国内の森林吸収量だけに基づく数値は無効な数字である。日本政府は無効な数字を獲得目標として、吸収源の拡大に向けた交渉をし、抜け穴を広げようとしているのだ。
京都議定書議長国として日本政府に今もとめられていることは、米国議会に縛られた立場からではなく、逆に条約本来の目的と科学的知見を反映した議論で米国を説得することであろう。
昨9月に日本が条約事務局に提出した共同実施とクリーン開発メカニズムに関するノン・ペーパーは非EU先進9ヶ国(アンブレラグループ)での綿密な調整を経て提出されたものである。このなかではまず、取引可能な排出権の量に制限を求めることを拒否、補完性(Supplimentarity)に関してこれ以上の規定は必要がないとしている。共同実施においてはベースラインの算定や監視のガイドライン等必要な規定は当事国同士のみで決められるとしている。
COP/moPでの決定が必要なCDMに関しても、多国間での基準決定は当初、必要最小限に留め、CDMの掲げる途上国の持続可能な開発への貢献はホスト国側で考えるものとし、先進国側の義務と認めてはいない。民間主体で行われるCDMプロジェクトはODA以上に環境や持続可能な開発を担保する事が難しい。しっかりした多国間合意に基づく基準なしに始まった場合、ホスト国の環境の犠牲の元に先進国の削減コスト低減が図られることすら予想される。また2国間主体のCDMは、途上国間でCDMプロジェクト誘致のための価格競争を招き、低い環境・社会的基準を強いられる恐れがある。同様に、モニタリングや検証基準・不履行罰則の制度が不十分ななかでのホスト国・売り手責任論も、基準維持の責任を途上国側に持たせることにつながる。
なお我々NGO側からのCDMの資金追加性(additionality)についての問いには、CDMへの資金は既存のODAの予算から拠出されると言う政府側の答えであった。
COP4でCDMのみならず途上国の京都議定書への付属書B国としての参加が持ち出されることは明らかだ。日本政府は京都イニシアチブなどの経済援助強化を示し、途上国ブロックの意見の相違を表面化させるよう働きかけを行っている。ここで心に留めておいてもらいたいことは、一九九〇年ベースでの京都議定書のシステムに途上国がそのまま参加することは、CDMを通じた短期的な資金獲得以上に失うものが大きいということである。
CDMを通じ先進国は途上国の安い対策オプションを買い取ることが出来る。第一期では、ロシア・ウクライナなどから供給されるホットエアーとCDMを通じ国外からのクレジット買い取りにより、国内対策へのディスインセンティブとなる。おろそかになった国内対策では現在三分の二をしめる先進国からの化石燃料起源のGHG削減が進まず、気候変動問題は存在し続けるであろう。いずれ議論される途上国の新規義務のもとでは、途上国の排出見積もりを高くとるトロピカルエアーが市場に入ることが予想される。結果、先進国間のホットエアー問題はトロピカルエアーで引き継がれる。安いオプションが減った途上国に先進国の投資家が振り向かなくなり、先進国内での削減へと向かうころになっても、それまでの先進国の排出が続いていたため、気候変動問題は続いている。途上国は高い国内削減オプションを自国資金でまかなわねばならなくなる。
途上国として地球全体での持続可能な温室効果ガスの排出量にもとずく平等な排出権の配分を求めることでこのシナリオを変え、米国の求める途上国参加の議論を受けてたつことが出来る。これによってもたらされる先進国から途上国へ向けた富の再配分は、対外債務に苦しむ途上国の状況を大きく変えることが出来るだろう。
先進国の切り崩しのなか、いま個々の途上国がCDMに個別に参加して行くことは、途上国の将来世代への権利を先進国に対し交渉する力を大きく弱める。単独で先進国と渡り合うのでなく、途上国全体で将来の権利を担保することが必要なのである。
このように、京都議定書での先進国の削減約束にはいくつもの抜け穴があり、地球温暖化をほんのわずかに遅らせる程度に過ぎない。第2約束期間により大幅な削減を行う準備を始める必要がある。そのためにも、議定書の抜け穴を小さくして早く発効させ、これを完全に実行すべきことはいうまでもない。とりわけ日本は京都会議の議長国であり、96年で90年水準からCO2で9.8%も増加している国として、率先して京都議定書を批准し、国内対策を推進するとともに、議定書の早期発効に向けてはずみをつけるべきである。
日本は、公式には京都議定書の早期発効を求めているものの、これを早期に批准しようとする動きは、国内では全くない。
l998年9月に「地球温暖化対策推進法」が制定されたが、政府・環境庁によれば、これは京都議定書で約束した6%の削減目標を達成するための法ではなく、その土台となる法に過ぎない。6月に通産省の省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)も改正されたが、CO2について、原子力発電所20基増設を前提として90年水準で安定化することを前提とした改正でしかない。
日本政府は京都会議後の国際交渉においても、吸収源の拡大に努めるとの方針をかかげ、2000年以前に開始されたプロジエクトもクリーン開発メカニズムの対象とし、取得したクレジットの取引を容認し、ロシアのホットエアーを見込んだロシアンバブルを画策するなど、京都議定書で約束した数値目標の実質的な切り下げを図る先頭に立っている。
今日本は深刻な経済不況にある。政府はこの日本経済の建て直しを、これまで同様に、エネルギー消費拡大によるGDPの成長に求めている。しかし、今日本に求められているのは、日本の社会経済構造を持続可能な社会経済へと転換することである。
自然と調和した省エネ技術の革新及び再生可能なエネルギー供給の拡大に公的資金と人を投じることが不可欠であり、そのために、社会の透明性を高め、市民参加のもとに真に実効性のある温暖化対策を策定推進する体制づくりから始める必要がある。
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