温暖化特集

第16回気候変動に関する政府間パネル(IPCC)総会参加報告

小倉正

 5月1〜8日のIPCCの総会(カナダ)にオブザーバー参加しましたので、特に森林に関わりのある吸収源特別報告書について紹介します。

 1997年の第三回気候変動枠組条約締約国会議(COP3)で採択された京都議定書には、削減数値目標を先進国が達成しやすくするための「柔軟性措置」を示す条項が組み込まれています。この中で現在最も問題となっているのが、森林などの陸上生態系の吸収源効果の定義・評価方法です。これについてIPCCは、今年11月ハーグ(オランダ)で行われるCOP6で具体的な運用方法が決められる前に、科学的な知見から報告書を作成するよう、COPに依頼されていました。そして今年5月、「土地利用・土地利用変化および林業に関する特別報告書」(別名「IPCC吸収源特別報告書」)のドラフトが出され、モントリオール(カナダ)で開かれた第16回IPCC総会で、各国の代表団・科学者・NGOらによる内容の検討が行われました。


IPCC吸収源報告書が完成

吸収源特別報告書の意義は何?

 京都議定書では、森林などの陸上生態系による二酸化炭素(CO2)吸収の効用と、森林減少の悪影響を認め、国別のCO2削減目標に組み込んでいます。しかしその実際の勘定の仕方や、文言の定義がさまざまに解釈可能であることから、1998年のCOP4で、各国は決議を行い、迷宮のような政治的交渉に入る前に、「森林」「植林」「森林減少」などの条文に用いられている言葉の定義と、考えられる各種の勘定手法、科学的な計測や検証の可能性について解説しオプションを示すよう、温暖化の科学に関するアセスメント機関であるIPCCに求めました。

 これに応じてIPCCは、土地利用、土地利用変化及び林業(LULUCF)に関する、いわゆる「吸収源特別報告書」を作成し、この5月のIPCC総会で受領と承認が行われました。

報告書のあらすじは?

 SPM(吸収源特別報告者本文および政策決定者向け要約)では、三部に分けて解説を行っています。

 第1部 地球の炭素循環の概説と、その中で「ARD(新規植林、再植林、森林減少)活動」(議定書第3条3項の内容)の持つ意味と「追加的な人為的活動」(議定書第3条4項の内容で、今後の交渉で決めるべき項目)の持つ意味を示しています。

 第2部 用語の定義と勘定手法の重要な論点をまとめて、各オプションの意味を紹介し、「ARD活動」と「追加的活動」の規模とその変動の幅を評価しています。

 第3部 「プロジェクト(自国以外での吸収源を利用する)活動」(議定書の中のいわゆる京都メカニズムに関連する活動)、持続可能な開発との関係、その他の交渉に際して有益と思われる情報をまとめています。

作ったのは誰?

 SPMの原案を作り、ここまでの文責を負うのは各国から推薦された科学者です。しかし、最終的に総会で採択され、今後各国の交渉担当者が引用することになる報告書は、科学者の原案に対し、政府および専門家のコメントと、総会に出席した各国代表団の意見が反映された上で採択・合意され、その後整合性が合うように書き換えられたものです。

日本代表団のポジション

 日本は、京都議定書の3条4項(森林吸収源に関する規定について書かれている条文)の中から、いくつか重要な文言や段落を削るよう要求したり、あるいは報告書本文に無い政治的な評価の段落を加えるよう要求するなど、自国に有利な解釈ができるようにねじ曲げようと足を引っ張る数カ国の代表団側にいて、他の代表団が本当にIPCCの科学性を壊そうとした時に、護る発言をしようとしませんでした。しかし、この報告書がCOP6での国際交渉に大きな影響を与える文章であり、科学的な記述の正確さを曲げないで、表現のみを政治的に中立に直すことを強く求めた総会のワトソン議長の努力により、この観点からの修正に留められました。

政治的な争点はなにか?

 IPCCでの吸収源報告書の討議における本当の政治的な争点は何だったかというと、植林や、囲い込み型の森林保護といった、途上国における森林関連のプロジェクト活動、特にクリーン開発メカニズム(CDM・注1)として使われる可能性の問題と、途上国自身の国内政策への適用問題であったのかもしれません。つまり、議論としてはもう第二約束期間以降の「途上国の参加」問題を議論している面もあったと言えるでしょう。

 EU、AOSIS(小島嶼国連合)のNGOが、問題の根源である化石燃料の消費削減につながらない吸収源を使う事自体が、先進国にとっての問題の先送りであるとして批判する一方で、海外の森林保護を進めてきた米国の一部のNGOは、吸収源プロジェクトを加えたCDMを名目として使ってでも、自分たちのプロジェクトを促進する動機として使いたい意図があり、NGO同士で対立する面もあるわけです。

(注1) CDMとは・・・先進国が、途上国内で技術協力・資金供与などをしながら温室効果ガスの削減プロジェクトを共同で実施し、そこで得られた排出削減量を先進国の削減分としてカウントするシステム。

NGO側から見た問題点

 今後科学的な見解に従って、以下のことについて討議が進められれば、少しは良い方向に進む可能性があると言えるでしょう。

◆恣意的な取捨選択をすることにならないよう、関連する排出側と吸収側の双方の活動をセットにして、勘定体系に組み込むかどうかを検討すること

◆「科学的不確実性に対処するためには自然活動も含むべき」などの分かりにくくなるよう書き直された箇所を、もっとかみ砕いて紹介すること。

◆植林活動が他の社会面、環境面の悪影響を引き起こすことへの対応。

 特に3番目の問題点についてですが、植林の機会を増やすために、プロジェクトの領域外での伐採が増加することや、温暖化の影響により、近い将来植物が立ち枯れや山火事の発生のせいで排出側にまわってしまう危険性、科学的不確実性の点が森林保護にだけでなく、植林活動にも当てはまることが強調されていなかったのは大きな問題です。

日本政府は吸収源で3.7%を獲得しそうか?

 この報告書の科学性に沿った交渉が行われる限り、はっきり言って論外です。

 そもそも3.7%という数字には、専門家の裏付けは全くありません。この数字は、基準年の90年には森林の吸収量を算入せず、目標年の2010年頃の森林の吸収分だけを算入したものですが、これを交渉で獲得するためには、フル・カーボン・アカウンティング方式(注2)を用いる必要があり、さらにグロスネットの勘定方式(注3)が必要です。このフル・カーボン・アカウンティング方式は、SPMの中では京都議定書とは定義上違う勘定方式である、としてたった1段落で触れられているだけの代物ですし、グロスネットの勘定方式は、京都会議で各国代表団からの批判で退けられた内容で、京都議定書を再交渉したいと言っているようなものです。とはいえ、「日本政府は、交渉によって最大限3.7%を得られるよう期待する」として、少しでも多くを求めるという姿勢を未だに崩していません。

(注2) フル・カーボン・アカウンティング方式・・・自然に起こる植物の成長も人為的な活動の影響もすべてを勘定する方式。

(注3) グロスネット方式・・・基準年の1990年の吸収量は勘定せず、目標年の2010年の吸収量だけを勘定する方式。

【3.7%にこだわる日本政府】

 97年のCOP3で採択された京都議定書で、日本は2008年から2012年(第一約束期間)に1990年比で6%の温室効果ガス削減が義務づけられたが、このままでは実現は極めて難しい。そこで日本政府は、6%のうち森林による二酸化炭素の吸収分で3.7%を稼ごうとしている。

その後の国際交渉の動きは?

 6月に開かれた第12回下部機関会合(SB12)においては、8/1に〆切の吸収源に関する各国のデータ提出に関しては、日本政府が主張した通り、各国政府が望むオプションのみの勘定方式でデータを報告すればいい、というとんでもない話になってしまったようです。

 仮に、加盟各国が好きなオプションを選ぶことができるなどということにCOP6で決まってしまえば、どの国も、合理的な根拠に基づいたものでない勘定方式を選ぶことになってしまいます。まだ方式は明示されてはいませんが、日本政府は国内の3.7%の勘定の中には、人工林地で伐採した後に再度植林した場合、その伐採によって排出されるはずのCO2を算入していないようです。同じ形式の論理では、跡地に植林をする限りは、世界中の原生林伐採もまた、算入されないことになってしまいます。このままでは、日本がかつて「世界の森喰い虫」と呼ばれたように、京都議定書が「森喰い」議定書と呼ばれるのも遠いことではないようです。

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