「森林条約(仮の名称)」の事前交渉に関するこれまでの経緯

 これまでJATANとしては、IPF(森林に関する政府間パネル)について継続してウォッチしてきましたが、その後継のプロセスであるIFF(森林に関する政府間フォーラム)には懐疑的であり、間接的な関わりに態度を限定してきました。

【IPFでの議論】

 IPF(森林に関する政府間パネル、1995年8月〜97年2月)での議論の中で、森林NGOは(英国のNGO、EIAは条約交渉推進を主張していましたが)、ほぼ一致して森林条約の交渉を進めることに「反対」した経緯があります。それには以下の理由が挙げられます。

・既存の他条約(生物多様性条約、砂漠化対処条約、気候変動枠組み条約、あるいはITTOやGATT/WTOなど)との内容の重複があり、有効に機能しないおそれがあること

・森林問題の多様性を考えれば、世界全体での最大公約数的な条約は必然的に解決に不十分な内容となるおそれがあること

・一連の国際交渉には10年余の時間が掛かり、間に合わないおそれがあること(一般的な流れで言えば、枠組み条約の交渉/採択/発効→議定書の交渉/採択/発効→国内法整備へと至る、10年単位の長い時間が必要です。例えば地球温暖化問題と条約交渉の進展の速度を比べれば、森林問題の方がより対策を急くべきはずですが、92年の地球サミット当時には並行して議論されていた気候変動枠組み条約との間にはすでに10年の開きができています。)

・IPFの中で条約の目的自体について合意が得られていない現状では、交渉に入ってもいい内容がまとまるはずがないこと(つまり、先進国側は持続可能な森林管理(SFM)を追求していたのに対し、途上国側は、この交渉でも開発のための資金メカニズムや技術移転を求めています。)

・特にIPFの中では、森林条約の対象である 「森林の減少・劣化の背景要因」の解明について実質討議がされずにIFFに先送りされたこと

 以上のように、共通の問題である森林問題に対して、国際協調の下に具体的な解決策を取っていくという切迫感のある政治的意志が形成されなかったということから、森林NGOは人気取りのためだけの見かけ上の"前進"を拒んだ、というのが実情でした。
 また、リオの地球サミット(1992年)で成立した他の2つの条約、生物多様性条約と気候変動枠組み条約の現在の進展状況を見ていると、"国際環境条約交渉の積み重ねによる問題の解決"、というシナリオに多くのNGOが限界を感じ始めていることも一つの原因でしょう。
 気候変動枠組み条約においても、京都議定書こそ成立したものの、森林による吸収や国際制度にかかわる抜け穴の拡大の論議ばかりが進み、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告書に代表される、科学者の警告を正面から受け止めるような対策に向き合おうとしてはいないのが現状です。
 結局、このIPFで動かなかった事態を受けて、『リオから5年』を記念する97年の国連環境特別総会(UNGASS)でも、後継の機関であるIFFを設立したにとどまりました。継続審議を意味するものです。

【新規まき直しを図ったIFFプロセス】

 新たなIFFの第一回会合の時点で、IFFへのロビー活動を行う森林NGO側は、新規まき直しをするため、「森林の減少・劣化の背景要因(Underlying Causes: UC)」をIFFでしっかりと解明することを求め、国別のケーススタディを検証し、教訓を導くための地域レベルと世界レベルの会期間会合(UCプロセス)を開くことと、その事務局役を担うことをIFFに提案するという賭けに出ました。
 これによって生まれた成果を生かして、森林条約の目的をはっきりさせ、交渉の対立点が明らかになれば、自然に森林条約の交渉は進むと考えたのです。
 NGOがイニシアティブを取って開始したこのUCプロセスでは、南米、カナダ、ロシア、南太平洋、アフリカに続き、98年12月にインドネシアでアジア地域会合、そして99年1月にコスタリカでグローバルワークショップの一連の会合を行い、NGOばかりでなく、政府関係者も含めた参加型の会合を開催することによって、各地域別の主要な背景要因、世界全体で共通な背景要因などについてまとめたものを、99年5月の第三回IFFに報告して、今一段落ついたところです。
 英文の全体報告書は、ウェブサイト<http://www.bionet-us.org/uc-rpt.html>にあります(但しPDFファイルで2Mbyteと大きいので要注意)。
 また、各国の個別のケーススタディについては、<http://www.wrm.org.uy/>でも調べることができます。

【日本でのIFF関連の動き】

 98年4月に、環境庁と神奈川県の出資により、国際研究所である財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)が発足しました。
 JATANの黒田洋一は、IGESの6大テーマの内の一つ、『森林保全プロジェクト』にサブテーマリーダーとして参加し、ちょうど上記の「森林の減少・劣化の背景要因」に関する研究活動を行うと共に、このIFFに置けるUCプロセスの会期間会合に関するアジア地域の連絡担当者二人の内の一人として活動を行ってきました。
 これとは別に、あるべき森林条約の要素についての検討も、同じく『IGESの森林保全プロジェクト』の中で別のサブテーマ(法制度等の分析)として行われていたことから、IGESの研究者を経由して日本政府に働きかけることが重要であり、かつIPFのプロセスをフォローしていた日本のNGOが他にないことから、JATANとしても多くの海外のNGOの(条約の有効性について否定的な)見解を伝えた上で議論に参加してきました。
 その他の二つのサブテーマも、参加型森林管理の実態と、木材貿易の占める影響という重要なテーマであり、意見交換の機会を持てたことは意義が大きかったと言えます。

【今後の焦点】

 いよいよ、2000年の2月あたりに開催される第四回IFFで、森林条約交渉を始めるかどうかが交渉されるはずです。仮に森林条約交渉が始まるとすれば、その報告を受けて2000年の4月のCSD(国連持続可能な開発委員会)で森林条約交渉が始まり、2002年の「リオから10年」国連環境特別総会の場での締結を目指して、政府間交渉会議(INC)の場で交渉されるでしょう。
 第4回IFFまでの大きな山場としては、各地域ごとに開かれている、森林条約のあるべき要素に関するカナダ・コスタリカイニシアティブという会合があります。
 アジア地域については、マレーシアで8月初旬に開催され、最後に開かれるカナダ会合で各地域での討議をまとめ、その内容を受けて第4回IFFが開かれることになります。
 NGOとしては、UCの議論の経緯を踏まえて、森林条約の目的に関する、国内のコンセンサス作りに動くことが望まれていると言えますが、NGO自身も、国際的に合意した包括的な提案を持てていない現状では、とりあえずできることはそれほど多くはないといったところのようです。
 とはいえ、並行して11月に開かれるWTOのシアトル閣僚会議の場で、環境と貿易のバッティングに関する論点が整理され、さらにCSDでの貿易と環境の討議に委任された場合に初めて、森林条約の中身に貿易と環境の問題を組み込むための議論ができることになるでしょう。その意味では、森林条約の目的に貿易問題を組み込むことによって、実際に意義のある条約交渉が始まるためのハードルは、かなり高いものになると言えるかもしれません。■

ニュースレター記事一覧 | ホームページ

© 1999-2003 熱帯林行動ネットワーク(JATAN)