「森林等による吸収問題の今後」
小倉 正
【「地域開発」誌99年3月号への寄稿文より】
- はじめに
- 熱帯林行動ネットワークでは、熱帯林を始めとする世界の森林問題と地球温暖化問題の間に相乗的、相補的な関係があることから、温暖化の国際交渉に関わってきた。
- 98年12月に、気候ネットワークシンポジウム「市民による地球温暖化防止戦略」の「分科会1.
COP4報告」において報告した内容から、森林吸収源に関する交渉の現状と今後をかいつまんで紹介したい。
1.なぜ抜け穴対策は重要なのか
- 森林吸収源の問題も、京都議定書に組み込まれた柔軟性条項と同じく大きな抜け穴となる危険性があり、少なくとも2000年のCOP6まで国際交渉でおのおのの抜け穴が拡大されるのを防ぐよう務めることが、環境NGOの使命である。
- もちろん、温暖化対策の内容として国内の森林・林業関係の施策をいかに進めるかのビジョンも重要だが、まず京都議定書が口約束に堕することを食い止めなければ、徹底的な国内での政策論争が起こらず、各国での実際の温暖化対策も全く進まず、折角のビジョンも絵に描いたモチに終わるだろう。
- 現に日本政府は、京都議定書の6%削減目標のうち、目標年の全森林の二酸化炭素(CO2)吸収量を追加、算定させることで、最大3.7%分ほどを森林の吸収分で確保することを期待している、と表明している。
- しかもその内で元々の京都フォレスト<2.1)を参照>として勘定できそうなのは0.3%に過ぎないことも認めている。日本政府が無責任に抜け穴拡大を目指すと公表しているのを食い止める側の論理の概要を紹介したい。
2.京都議定書での森林の取り扱い
1)議定書3条3項
- 『京都フォレスト』つまり1990年以降の植林/再植林/森林減少活動のみに限定して、成長中の森林のCO2吸収機能を評価し、削減実績の中に組み込むこととなった。
2)議定書3条4項
- 『土地利用変化と林業』(LUCF)部門での人為的な活動について、科学的な計測方法に関する再交渉を行い、合意が得られるものについては削減実績として追加することが認められた。
3)その他の条項
- 90年実績で森林減少の方が優っている国に対しては、基準年もネットで排出量を計算し、目標年のネットで計算した排出量から差し引く、ネット・ネットアプローチを許容する救済条項がある(議定書3条7項)。その他、持続可能な森林管理の促進など、林業推進の項目がある。
- (ネット:森林に関わる活動による吸収分をCO2の排出量から差し引きすること。)
- 以上のように決まったものの、京都会議では、森林の定義とは何か、植林や森林減少とはなにを意味するか、炭素の蓄積量をどこまで勘定できるか、など、詳細についての合意はなかった。
- 例えばIPCC(気候変動に関する政府間パネル)によるafforestation/reforestationの定義は、戦前からの荒れ地に植林するか、戦後一旦農地化されてしまった土地に植林することであるので、日本の人工林にはほとんどあてはまらず、日本も他の多くの先進国もCO2排出側の国となることが確認されている。
- (但し、現在改訂を討議中。)
3.COP4での議論- ある意味で先送り
- これらの疑問点、整理すべき点については、科学的な評価を行い、政策決定者向けのレポートを作成するようIPCCに求める方向ですでに98年6月のボン会合で話がまとまっていた。
- 2000年5月に完成するこの特別レポートを受け、COP6で最終決定をすることを目指すことがCOP4では確認された。つまり他の柔軟性条項と同じ会合で、ほぼ並行して審議を行い、最後は徹夜で政治決着を付けるような交渉が行われることとなったため、折角のIPCCによる科学的な体系付けが無視される不安を残す日程となった。
- IPCCでは現在各国から論点を受付け中で、日本政府はすでに提出済みであるが一部の項目で見解を出していない。
- 議定書3条4項に関する下部機関ワークショップは99年4〜5月にアトランタで開催予定で、各国政府の交渉担当者が抜け穴拡大のための何らかの見解を持ち出してくると思われる。([追記]参照)
4.吸収問題の今後に向けて
- LUCF(土地利用の変化及び林業)対策の要定義項目を以下に列記する。
京都フォレスト:(議定書3条3項の部分)
- IPCCの定義 land use change (=deforestation), afforestation, reforestationと、FAOの定義するafforestation,
reforestation, deforestationとの食い違いの解決が必要。
森林の中での炭素貯蔵量の変動:(以下すべてが議定書3条4項の議題となりうる)
- CO2排出側 logging, degradation
- CO2吸収側 regeneration, ameriolation
- 森林管理の影響
- その他の森林内の炭素貯蔵量:
- 根の部分Root、森林土壌の炭素Soil Carbon 落ち葉層Litter
- その他:
- 農地の有機物炭素land use
- 原生林の保全preservation
- 林産物の長寿命利用
- 林産物の金属資源等の代替効果
- バイオマスとしての化石燃料代替効果
- 貿易の影響の勘定など
・森林関連の計測可能性
- これは大きな議論を呼ぶ問題だろう。いずれの指標を使うとしても、各国での利用可能性、精度などは異なる。逆に言えばこれらの指標よりも詳細な土中の炭素などの統計は取りようがないはずだが、新たな計測方法が入ってくるのなら、今後の急速な普及を達成できるものでなければならない。
・各国の森林の特徴
- 多くの国々で抱えている森林問題は多様なので、それぞれの問題解決に都合の良い、あるいは解決を回避したい政治的な利害関係が入り交じっているといえる。
- 日本 :人工林王国-但し利用されず/世界最大の木材輸入国
- 米国 :過去の森林伐採からの復活途上/農地による吸収に期待?
- ロシア:世界最大の亜寒帯林/統計の未整備/凍土中のメタン
- カナダ:大亜寒帯林/天然更新=被皆伐林の取り扱い/凍土中のメタン
- 豪州 :農地拡大のための森林減少が大/JI(共同実施)による吸収源プロジェクトに期待
- ニュージーランド:人工林王国/輸出王国
- チリ、アルゼンチン:CDM(クリーン開発メカニズム)による吸収源プロジェクトに期待
- コスタリカ:CDMによる森林保全プロジェクトに期待
- 中国 :森林は劣化/減少中、多様な森林
- "第一約束期間"(2008〜2012年)の内に抜け穴拡大を求める意図を公表しているのは日本政府くらいだが、米国は下部機関のワークショップを誘致するなど議論を進めようとしており、新たな計測方法の提案を予定しているかもしれない。
5.日本政府の抜け穴拡大論理の問題点
- 以下の論点はそれぞれが効果的な反論であると確信している。
- ・前記のとおり、日本が3.7%を求めることは、目標年の森林による吸収分はすべて対策として評価されることになり、京都会議で強い批判を浴びた当初のグロスネット方式の復活を意味している。自分で決めた議定書を破ることを堂々と提案しているものであり京都会議の議長国として不適切。
- ・またそれにより、他の国(米国、カナダ)にはるかに大きな抜け穴を導入させることになる。
- ・将来森林の吸収源が排出側に変わるという科学者の予測があり、短期の吸収した炭素は安全ではない。したがって今行うべきはまずは排出の削減である。
- ・範疇の拡大によって科学的な不確実性が増える問題があり、そのまま3.7%まで行くはずがない。
- ・特に日本は中山間地の農林業が崩壊する恐れが大きく、火災、病虫害などによって近い将来に排出側に変わる恐れもなしとはしない。
- ・木材貿易の影響の勘定問題は、日本政府は態度を明らかにしていないが、他国と利害の対立する政治的な問題である。
- 林業の振興のためには、貯蔵量の拡大として伐採加工された木材を評価することを認めることになると思われる。しかし自給率20%の日本林業の現状では当然、輸入木材も組み込まざるを得ない。この80%を占める輸入木材は、日本の削減目標の6%以上に相当し、日本国内の毎年の全森林の吸収量よりも量が多い。
- 輸入木材に関わる外国での森林伐採分を日本の責任と勘定するAtmospheric
Flow Method (大気フロー法)を採用するべきである。
- これ一つで、日本の森林関連の大きな抜け穴が閉じられ、他の産業分野で新たなより厳しい対策を打ち出すことが必要となるが、こと林業部門にとっては、2010年の国産材自給率向上の数値目標を打ち出すものとなり、林業活性化に役立つ。逆にもしそうしなければ、自給率0%に限りなく近づき、国内林業は息の根を止められることを意味する。
- 日本政府の主張の詳細は未だ明らかになっていないが、国際交渉の中で一国だけが主張を100%押し通せることはあり得ない。日本政府は、直ちに国内での追加の温暖化対策を再検討するべきである。■
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【追記】
本文の3.で触れた99年4月下旬に開催された下部機関ワークショップでは、米国政府は京都会議で否定された完全グロスネット方式の復活を主張し、特に科学的な不確実性が大きい農地の土壌中の吸収により第一約束期間での抜け穴拡大を、さらに森林内の土壌中の吸収で第二約束期間以降の大幅な抜け穴拡大を目指していることがはっきりした。
- しかし、日本政府からは新たな主張は現れず、実は農地面積も植林の余地も少ない日本の状況では、他国のようには拡大できる抜け穴がほとんどないことがほぼ確実となってきている。
- 特に第一約束期間に限って言えば、吸収源で3.7%分を確保するというのは見込み薄であることがはっきりしてきた。というのは、第一約束期間においては、90年以降の人為的活動による吸収源のみを勘定するよう、議定書の3条4項で限定を掛けているためである。
- そこで、最後に記したように、日本政府がストックチェンジ法を採用させるよう主張する方針を立てているのかどうかが重要になってくる。この方式では実は、木材輸入量は他国から吸収分を買ってきたものとみなされるため、目標年次の同等輸入量6%分の内の一定割合が国内で更に吸収したと見なされる。
- しかし仮にこの方式が採用された場合、自国での林業活動が抑圧されるばかりか、現在数値目標を負っていない熱帯途上国からの木材輸入が特に拡大し、熱帯林の減少の激化を通じて地球温暖化を加速する、いわゆるリーケージ現象を起こすことが予想される。
- 日本政府は、この抜け穴拡大を目指すことにより京都議定書を自らの手で抹殺する方向を望むのか、それとも熱帯林破壊と温暖化の両者に責任のある国として自国で排出削減政策を実施する方向を選ぶのかの瀬戸際にある。
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