多国籍企業のモニターに関するアジア地域セミナー報告

多国籍企業監視の「NGO憲章」を採択

佐久間 真一(進出企業問題を考える会事務局長)

 11月13日、14日の両日、都内で進出企業問題を考える会主催の「多国籍企業のモニターに関するアジア地域セミ ナー」が開催された。セミナーは、アジア地域での市民・NGOによる多国籍企業のモニター活動の強化を課題に、96年12月に開催された日韓共同セミナー、97年11月の東アジア地域セミナーに続く3回目の国際会議で、東京国際交流財団の助成をえて、日本国内で多国籍企業問題に関わっている熱帯林行動ネットワーク、日本消費者連盟など市民団体16団体の協賛のもとに、韓国、台湾、香港、タイ、フィリピンの5カ国・地域のNGOの代表をゲストとして招いて開催された。

1.「多国籍企業に関するNGO憲章」を採択

 13日のワーク・ショップには、主催・協賛団体関係者と海外ゲストを中心に約40人が参加し、「多国籍企業に関するアジアNGO憲章」(以下「NGO憲章」)をテーマに、各国代表のコメント発表を受けて、討議した。この「NGO憲章」は、アジア地域における市民・NGOの多国籍企業に対するモニター活動の基準と行動指針づくりを目的に、昨年の第2回セミナーから討議を重ねてきたもので、一部加筆修正の上、今回のワーク・ショップで正式に採択された。

 多国籍企業に関する指針としては、すでにILOの「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」、OECDの「国際投資及び多国籍企業に関する宣言」など国際機関による規範があり、現在、国際自由労連アジア太平洋地域組織(ICFTU-APRO)が多国籍企業に対する「行動規範」として「労使慣行に関する企業行動規範」の検討を進めているが、市民団体による多国籍企業に対する行動指針の策定は、少なくともアジア地域では初めての画期的な試みといえる。

 採択された「NGO憲章」は、前文、多国籍企業の行動規範、NGOによるモニタリング活動、多国籍企業問題に関わるアジアNGO名簿で構成されている。

 前文では、憲章の性格と目的がうたわれている。

 多国籍企業の行動規範は、多国籍企業の投資と事業活動のあり方について、OECDやILOなどの国際基準、国連消費者コードなど国際的に認知された基準や指針をベースにまとめたもので、多国籍企業の活動理念、情報公開、雇用・労働条件・労使関係、消費者保護、自然・環境・資源の保護、紛争解決の責任など19条が盛られている。今回のワーク ・ショップでは、女性労働者の人権と母性保護、児童労働の禁止、請負・下請業者への「憲章」の適用などが新たに盛り込まれた。この条項は、多国籍企業に対する市民・NGOの監視基準となる。

 NGOによるモニタリング活動は、多国籍企業の監視活動と国際的な支援・連帯活動のあり方について、アジア各国地域でのこれまでの多国籍企業問題への取り組みを踏まえてまとめたもので、投資国側NGOの責任と役割、投資受入国側NGOの役割、国際的な支援・連帯活動など10項目が盛られている。この条項は、多国籍企業問題に関わるアジアのNGOの共同行動指針となる。

 多国籍企業問題に関わるアジアNGO名簿には、憲章に賛同するアジア各国のNGOの団体名・連絡先・活動内容を収録する。多国籍企業に対する監視活動を強化していくためには、アジア地域で多国籍企業問題に関わっているNGOのネットワークづくりが必要となる。今回収録した団体名は、ワーク・ショップに参加した主催・協賛団体と海外ゲスト団体であるが、今後、アジア各国のNGOに「憲章」への賛同とモニタリング活動への参加を呼びかけ、アジア地域での多国籍企業監視のネットワークづくりを進めていくことが確認された。

 なお、「NGO憲章」に盛られた条項と指針は、今後、アジア各国でのモニタリング活動の経験を踏まえて、更新、補強していくこととし、2年後にフォローアップ作業を行うことが確認された。

2.「アジアの中の日系企業」の事例報告

 二日目の14日のセミナーでは、アジアの中の日系企業と題して、主催者報告に続いて、フィリピン、タイ、台湾、インドネシアから参加した代表が事例報告を行った。セミナーには約100人が参加した。各国代表の報告テーマと報告者は次のとおり。

■タイにおける多国籍企業の現状と労働問題

 報告者:ナパポーン・アティワニチャヤポン(アロム・ポンパガン財団理事)

■日本の原発輸出に反対する台湾の住民運動

 ---日本の原発メーカーによる台湾への原発輸出問題

 報告者:張国龍(台湾環境保護連盟・台湾大学教授)

     許思明(放射線受害者協会事務局長)

■日本の「公害輸出」に反対するフィリピン・セブ島住民

 ---常石造船のセブ島での船舶解撤事業による住民立ち退き・海洋汚染問題

 報告者:ジョーン・サニエル弁護士(環境問題法律援護センター)

     ランベルト・インテック(地元住民代表)

■パルプ工場建設で脅かされるスマトラ住民の生活

 ---OECFと丸紅の出資によるパルプ工場建設での住民立ち退き・環境破壊問題

 報告者:バンバン・ハリヤント弁護士(環境と土地に関する民衆育成機関)

 ※バンバン弁護士はインドネシア国内情勢の関係で出国できなくなり報告は代読。

 スライドやOHPを使った各国代表による事例報告を受けて、参加者を交えた質疑討論が活発に行われた。今回のセミナーでは若い女性の参加が目立った。

 セミナーでは、韓国から参加したチャ・ミギョン参与連帯・国際人権センター事務局長、香港AMRCのアポ・ロン代表、台湾環境保護連盟の鄭益明事務局長が紹介され、各国での多国籍企業問題の取り組みの現状について報告された。

 セミナーではまた、特別アピールとして、(1)三菱商事がメキシコに出資を計画中の工業用塩工場建設問題、(2)大昭和・丸紅インターナショナル(DMI)のカナダでの森林伐採問題、(3)インドネシア民主化支援アピール、(4)債務帳消し国際キャンペーンなどが関係者から報告された。

3.セミナーの成果と今後の課題

 今回のアジア地域セミナーは、3回目の開催ということもあって、海外ゲストを含む参加者の共通理解が深まり、討論もかみ合い、内容のある国際会議となった。昨年までの2回のセミナーでは、投資国側である日本・韓国・香港・台湾の東アジア4ヵ国・地域の市民・NGOの責任と役割について討議し、共通の認識を深めてきた。今回のセミナーでは、東アジア4ヵ国・地域に加えて、投資受入国側のフィリピン、タイ、インドネシアのNGOに参加してもらうことによって、投資国側と投資受入国のNGOが多国籍企業に対する共通認識を深め、行動指針を共有することになった。

 とくに、2年越しの討議をへて、今回のワーク・ショップで採択された「多国籍企業に関するアジアNGO憲章」は、アジア地域での多国籍企業に対する市民・NGOの監視活動の共同指針として活用されることが期待でき、アジアで多国籍企業問題に関わっているNGOのネットワークづくりにも役立つものといえる。

 日本の"進出企業問題を考える会"が主催する形での国際会議としては、今回の会議が最終年度となるが、今後は、アジア各国のNGOが共催する形での多国籍企業のモニターに関するNGOの国際会議の継続が望まれる。また、日本の市民・NGOとしては、日本がアジアにおける最大の投資国であることを踏まえて、今後も必要な責任と役割を果たしていくことが課題といえる。 ■

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