世界最大の合板の輸出国であるインドネシアは、以前から不法伐採や無許可伐採の天国であると言われてきました。イギリスのEIA(環境調査機関)とインドネシアのNGOのテラパックは、2ヶ所の国立公園において、不法伐採の詳細な調査を実施し、報告書を発表しました(99年9月)。その中から一部を紹介します。
現在インドネシアの森林は、より深刻な存命の危機に陥っている。持続可能でない手法を用いた森林伐採は数十年間にも及んだが、その間政府は森林に対する支配を掌握し、同時に事実上、前インドネシア大統領・スハルト一族及び彼らが支配している財閥の蓄財となった。しかし1997年から98年にわたる大規模な森林火災により、ようやくインドネシアの強奪的な森林破壊が世界の関心を呼ぶところとなった。
去年その状況に多少の改善はあったが、ほとんどの木材伐採業者にとってその変化を見ることはない。インドネシアを襲った経済危機により、人々にとって「森林伐採」はまさに死にもの狂いで生き残るための手段となり、その結果森林破壊の勢いが一層増してしまっている。
インドネシアの熱帯雨林は世界的にも非常に貴重である。これはブラジルに次ぐ世界で二番目の面積をもち、その大きさは1億ヘクタールにもおよぶ(1995年)。地球上に残存する熱帯雨林の10%がインドネシアに在るとされるが、この森林は毎年200万ヘクタール以上の割合で消滅してきており、元々存在していた原生雨林のうち、実に72%が既に失われてしまった。
この貴重な森林はスハルト政権の時代に最も過剰に伐採されている。このインドネシア前大統領とその一族郎党は、27の木材会社への出資に私有林を併せ、約714万ヘクタールもの森林を支配していた。この古い政権下でのスハルト大統領の側近、例えばボブ・ハッサンのような者も、広大な面積にわたる森林を支配する権限が与えられていた。ハッサンの持つ企業は300万ヘクタールの森林をその支配下におき、一方もう1人の腹心であったプラヨゴ・パンゲスツは、インドネシア最大の木材伐採会社であるバリトパシフィックティンバーグループを通じて350万ヘクタールもの森林を所有していた。
1997年から98年に、スマトラ島とボルネオ島で発生した大規模な森林火災は、木材伐採とプランテーション企業が、土地の樹木を切り払ったことに主因がある。人工衛星のモニターにより、植林やオイルパームプランテーション開発のために、176の企業が意図的に火を放ったことが判明しているが、実際告発を受けているものはほとんどない。しかも火災が、残存している森林にもたらした被害は、その当時抱かれていた危惧よりもはるかに大きかった。公式見解では、50万ヘクタールの森林が損害を受けたとされているが、高感度の人工衛星による分析の結果、東カリマンタン地区のみで、400万ヘクタールもの土地が損害を受けていたことが判明している。
インドネシアの林業セクターは本質的に腐敗し、不法行為にまみれている。不法に伐採された木材量は、合法に伐採されたその量を大きく上回り、例えば1990年代の半ばにおいては、森林伐採権をもつ業者の84%が規定に従っていなかった、という事実が明らかになっている。
最近、インドネシア−イギリス熱帯雨林管理プログラム・合同プロジェクトチームが報告したところによると、正規に認可された伐採木材は毎年2950万m3であるのに対し、不法伐採された木材は3200万m3もの膨大な規模におよぶとされている。これは、毎年およそ80万ヘクタールもの森林が不法に伐採されているということを意味している。
また、この報告は天然林の不法伐採が木材の主要な供給源であり、統計の52%を占めていることを示している。それに対し、択伐と天然林の転換による合法的な木材生産高はわずか2600万m3、つまり全統計の43%を占めているに過ぎない。
不法伐採の規模は、歯止めが効かなくなったインドネシアの木材加工セクターの事業拡張によるところが大きい。貪欲にその規模を拡大している木材加工産業は毎年およそ8000万m3もの材木を処理することが可能である。しかし、合法的な伐採ではわずかに2950万m3しか供給できず、大幅な不足が生じている。
この報告書は次のように結論づけている:「丸太の需要量が持続可能な供給量をはるかに上回っていること、森林面積が減っていること、植林地からの生産が目標に達していないこと、そして資源に対するコントロールが行われていないことは、いかなる需要も満たされることはありえない、ということを明白に示している。即ち、何らかのアクションをただちに起こさない限り、森林は永遠に消え去るということである。そしてそれは、インドネシアの人々とこの国の経済を支えている膨大な利益も消え去る、ということを意味している。」
このような調査結果は、森林資源に依存する6000万人のインドネシア国民の、これからの生活保証が非常に危うくなる、という恐ろしい未来を暗示している。
インドネシアの森林は、世界でも有数の豊富な生物多様性を誇る地である。この国は多くの島々から成り立っているが、それは生物学的に異なった二つの地域にまたがっている。すなわち、一つはアジア圏域であり、もう一つはメラネシア-オーストラリア圏域である。またインドネシアに生息している哺乳類の種類は、世界中のどの国よりも多い。
更にこの国には世界の17%の鳥類、16%の爬虫類、12%の哺乳類、10%の植物が生息している。しかし、急速な森林伐採のペースは、こういった生物が絶滅危惧種として載せられるリストを長くしてきた。事際、インドネシアはどの国よりも絶滅の危機にさらされている生物を多く有し、その数は哺乳類で128種、鳥類で104種にものぼる。
絶滅の危機に瀕している哺乳類の中には、スマトラサイ、ウンピョウ、マレーグマ、テングザル、スマトラタイガー、そしてオランウータンが含まれる。これらの動物にとって最も脅威となるのが、生息地の破壊である。インドネシアに生息する29種のうち、実に20種もの霊長類が10年前と比べ、元の生息地を半分以上失っている。この10年間、このような状況の悪化が特に著しい。
書類上では、インドネシアにはこの固有の生物多様性を保護するため、1900万ヘクタールないしは森林地帯の13%を占める、広い範囲の保護区域を持つ制度がある。しかし、実際は37ヶ所の国立公園のうち、そのほとんどが経済的利益追求のために、破壊されているのである。
この状況はほとんどすべての保護区域に広がっており、それはまさしく脅威に他ならない。森林伐採そして採鉱業は、長期間にわたって公園区域を侵食してきたのだが、その破壊範囲はおびただしい勢いで広がり、インドネシアにおける残り少なくなった生物多様性に富む地域の生物種の未来を、脅かしているのである。
インドネシアにある、いくつかの林業に関する法律の基本部分は、国家による森林の支配を認めた1967年の法律に由来する。その年以来、森林伐採権(HPH)制度の下で、森林を次々と20年間の生産伐採権地に分割する方策が広く取られてきた。その結果、驚くばかりにひどい伐採、地元民の土地に対する権利の剥奪、インドネシアに特徴的な汚職が引き起こされた。
現在インドネシアで行われている政治改革によって、ある程度の変化が起こるのは間違いないが、森林改革に関してどのような変化がどの程度生じるのかはまだ明らかでない。現状は、一方が森林資源に対する既得権を永続させようとしているのに対し、もう一方のそれに反対する非政府組織(NGO)のネットワークや学者の間から、真の改革を求める声が次第に大きくなってきている、という状態にある。
インドネシアの経済危機が引き金となり、国際通貨基金(IMF)などの機関から融資の条件としての命令を受けて、林業分野に影響を与える多くの新しい対策が作り出されることになった。1998年だけで貿易自由化、森林資源利用、透明性などの多岐にわたる新法案が、少なくとも20は可決されている。
価格を固定していたインドネシア合板協会(APKINDO)の合版カルテルの解体や、国営の航空機産業とパルプ工場への融資として乱用されていた造林基金の凍結など、対策の中で効果をあげたものもいくつかあるが、大部分は効果が見られなかった。例えば林業省は、衛星写真とそれにより作成される地図を利用し、残存する森林を包括的に調査するよう要請を受けているが、まだ実行されていない。
現在、インドネシア国内の林業改革をめぐる闘いの焦点は、政府の林業基本法改正法案にある。その法案はNGO、学者、元大臣グループからの反対にもかかわらず、今国会で強行に可決されようとしている。法案の草稿づくりの際に審議が行われたが、それは形式的なものでしかなく、実際は市民社会からの意見は無視された。「地域社会による森林経営のためのコミュニケーション・フォーラム(以下、フォーラムとする)」が評したように、その精神はまさに“知らせる、招聘する、無視する”である。
NGO、政府および産業界の代表が加わっているフォーラムは、世界銀行へ提出した意見の中で、政府の法案には重大な問題点が2つあるとして指摘し、酷評している。1つは、この法案が国家による森林支配を永続させるものであること。もう1つは依然として木材生産に焦点があり、森林全体の生態系には目が向けられていないことである。
政府法案が、国家による森林経営と森林資源の独占を目指しているのは明らかであり、それは伐採権所有者に利益をもたらすだけのものである。そうした姿勢のままでは、ちょうど現政府が正当性・能力・政治的意思に欠けているために森林を守ることができないのと同じように、不法伐採などの諸問題が今後も適切に対処されていくことは決してあり得ないだろう。政府法案は、森林開発で影響を受けた地域に住む人々の声をまたしても締め出して、代わりに木材王や政治上のパトロンに報いようとしている。
蔓延している不法伐採の問題に取り組むことができるのは、地域社会の人々と森林経営の問題点をめぐって意味ある対話をすること以外にない。中央集権支配を存続させ、残存する森林を守るために軍隊組織を使う方法は、失敗する運命にある。
政府法案には反対の声が数多くあがっている。「環境のためのインドネシア・フォーラム(WALHI)」は、森林開発はもとより石油や鉱物資源の採掘を規制している『天然資源法』こそが、最重要かつ賛同できる法律であるとして、政府法案の廃案を主張している。
フォーラムは、森林資源法の代替案を起草した。その法案は森林資源における主権を人々の手に戻すことを目指しており、人々の自らの責任における森林経営を提言している。また森林資源を管理し、森林利用を監視する役割は、社会のあらゆる部門が権利として持っているとうたっている。さらに、ある地域の森林利用に変更が生じるような場合には、すべての関係者からの同意が求められることになっている。
人々の権利を認めているこの代替法案であれば、不法伐採に対抗できる可能性がある。土地をめぐる紛争は、地域社会のリーダーと政府の役人が、その地域で行う交渉を通して解決されるようになり、地元の人々が巨大伐採権所有者に排除されるのではなく、所有権保持者として明確な行動が示せるようになるであろう。
現在、国会では議員たちが、1999年11月の選挙で新政府が誕生する前に、この政府提案の法案を強行に通そうと図っているが、それに対し原案のままで通してはならないと異議を唱える声も議会内外で高まっている(※編集部注:99年9月現在)。真の森林改革を求める自主的な活動は、上記の代替法案以外にもたくさん出てきている。1つは「林業諮問協議会」という全国レベルの組織で、市民社会を代表する多数の関係者に集まってもらい、政府の森林政策に代わる方法を用意していこうとするものだ。
この協議会は現在立ち上げ準備中であるが、その基本任務に関してはすでに意見の一致をみている。すなわち、公益に反したり地域社会の権利に抵触する森林利用がなされている場合に、その監視と阻止をすること。公益を脅かす森林政策に対しては政府への陳情活動をすること。そして森林資源の所有権争いを解決すること、の3点である。
この協議会の役割は、森林分野の番人となり、不法行為や贈賄などの腐敗行為を明るみに出し、紛争を解決していくことにある。協議会はいずれ、全国レベルから州・地方レベルへと権限が委譲されていくことになっており、各事例では、最も影響を受けやすい地域社会やグループでの決定が、可能になっていくだろう。
もう1つの活動は、森林認証をめぐるものである。現在インドネシアで、持続可能な生産活動をしている森林経営に認証を発行しているのは、「インドネシア・エコラベル研究所(LEI)」という独立機関で、おおいに称賛を受けている団体である。LEIの活動が拡大していくことで、木材業界は多くの環境基準や社会基準に従わざるを得なくなるであろうし、不法に伐採された木材の摘発も容易になることであろう。
3つ目は1997年にテレパックによって設立された、「フォレストウォッチ・インドネシア(FWI)」というNGOのネットワークが、成長してきていることである。このネットワークは、インドネシア国内および周辺に残存する天然林での伐採行為、プランテーション開発、採鉱とその他の産業活動を追跡するために作られた。
FWIの中心的な仕事の1つは、インドネシアの森林に関連するデータの収集と分析、そしてそのデータを関係当事者たちに提供することである。その作業によって今までに、インドネシアの森林状況の基本的なデータ ―現存の、および計画されているプランテーションや鉱山開発などの開発プロジェクト―が集められ、適切な管理がされている伐採地や、地域社会主導の森林経営システムの成功例も文書としてまとめられた。
FWIの力強さはそのネットワークの構造にある。地方のグループが、全国各地の伐採権所有者が起こす違反行為を積極的に監視すると共に、得た情報を徐々に全国レベルにまで知れ渡らせる活動を行っているからである。同時にその活動によって地方のグループは、森林経営を監視し、調査する力もつけてきている。
もしこうした真の改革が進行し、育っていけば、インドネシアの残存する森林の将来は長期にわたりずっと明るいものになるであろう。しかし実際は、現在の政治的空白のために状況は悪化してきている。国際社会は、インドネシアの現政権が、違法行為をしている伐採権所有者や、不法伐採により富を得ている木材王に対し、直ちに確実に行動を起すよう促さなければならない。■
インドネシアの違法商業伐採と大規模アブラやし農園開発(前編)
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