無洗米は環境にやさしいか
有限会社てんち(天地米店) 小澤 量

 最近、生協を中心に無洗米が伸びています。自治体などでも、水環境改善のためと称して給食等に無洗米使用を勧める動きが出ております。それを奨励する議員からの質問も議事録で見かけます。

私は、米屋を営む立場から、無洗米の知られざる面を調査中です。是非、いっしょに考えていただくとともに、誤解等あれば何なりとご指摘願えないでしょうか。
無洗米は、要素還元主義の象徴的製品です。現代の私達は物事の全体像を把握せずに、全体を部分に分けて、それぞれの部分のみに対応するという方法論に  浸っています。ある部分を変更したり改善したりしても、それが他の部分にネガティブに影響していき、結果として全体が良くならない。逆に言うと、何かを良 くしたければ、物事のつながり(関係性)を良く理解した上で、包括的なアプローチをしなければならない、ということを見失いがちです。

病気に対する西洋医学的対処もそうですし、最近の小中学校での完全週休二日制や総合学習の取り組みもそうです。文部科学省の主張する、「子供は学校の中だ けではなく、地域の中でも教育されるべきである」ということは正論ですが、その地域の教育力が低下しており、神戸の少年事件の背景でもある「生活感のない 無味無臭の地域」をどうにかする働きかけが同時に行われなければなりません。この実行には、官庁で言えば、産業経済省・国土交通省・農水省・環境省・厚生 労働省が全体のベクトルを合わせて行動しなければなりませんが、果たしてそういう意識が政治家・官僚・マスコミ・国民にあるでしょうか。

無洗米は、そういう私達にとても似合いの商品です。環境に優しいという口当たりの良いフレーズは十分な検証が必要です。部分にとらわれて全体が見えないと 簡単に売り口上にひっかかってしまいます。米(ヌカ)と水環境を考える時、最低限知らなければいけないことは、下水処理 (理論と現場と歴史)・精米工場 から排出されるヌカの処理の現状です。市町村の給食担当者は、下水道担当者などに確認すれば良いわけですが、ほとんどそのような意識や情報の交換はないよ うです。縦割り組織という要素還元主義の弊害です。  無洗米は、「全国無洗米協会」のHPなどによって次のように宣伝されています。

1. ヌカを精米段階で除去することで、家庭で米を磨ぐ必要をなくした製品である。米の研ぎ汁は一旦下水道に流れると、川や湖、海にまで流れ、富栄養化の原因となるが、これが排水されない。

2. おいしくて栄養豊富。

3. 除去されたヌカは、肥料や飼料として有効利用されている。

調査結果から得られた私の主張は以下のとおりです。

1. 米の研ぎ汁が環境汚染の元凶という言い分は誤り。

2. 無洗米は、普通米に比べて栄養分が多いということも針小棒大。

3. これまで米ヌカは業界内でリサイクルされていたが、無洗米ヌカについては処分が問題になる可能性がある。

米の研ぎ汁は下水道が整備された地域でそれほど問題なのでしょうか。昔は、もっと精米の悪い(精白度の低い)お米をもっとたくさん食べていました。そし て、ほとんどの台所排水は、今のように下水処理をされないまま、河川に入っていきました。そのとき、河川汚染はあったのでしょうか?この本源的質問を回避 して、現在の下水道全体の問題を米の研ぎ汁に集中させて一般消費者に一面的な情報を提供することになってはいないかと、お米に携わるものとして考えており ます。
また、一部の無洗米精米機は、灯油を使用しており、別途の環境負荷をもたらします。 要するに、宣伝されている無洗米の長所は、販売するために無理矢理作り出した議論ではないか、ということです。

1.の主張について:窒素・リンの排出源は、トイレが70〜80%。研ぎ汁は、むしろ下水処理しやすい物質です。米ヌカのように植物由来のBOD(汚れの 指標)は下水処理しやすいと下水施設の現場の方も言われますし、さらに現在の活性汚泥法を用いた下水処理において、活性汚泥の形成に米ヌカが向いているこ とを裏付ける研究もあります。(http://www1.ttcn.ne.jp/~kankyo/lab/t1_2.htm)
無洗米が環境に良いというふれこみは、本来、水質のことを言うなら森林・河川・湖沼・上水・下水・農業用水全体の体系で考えるべきところを、米の研ぎ汁を スケープゴートにしてミクロの問題を急所のように見せ、一方、利便性だけで購入することにためらいを感じる消費者への免罪符とする巧みな理論です。

生活排水の一部である台所排水において、本当に問題なのは、食物の輸入増加に伴い循環されずに排出されるだけの窒素・リンが増えてしまっていること。ま た、下水道整備をすすめるほど、水質は悪化する可能性もあることが知られていないことも問題です。市民は、とにかく下水処理を助ける生活を心がけるべきで ある(雨水利用・洗剤の適量使用・朝シャンなどしない、など)と考えます。

2.の主張について:
ヌカを取り去り、うまみのもとである部分(アリューロン層=白米とヌカ層の境目でビタミン等を含んでいる)をきれいに残してある。このために、無洗米はよ り美味しくなる、というふれこみです。「アリューロン層」がうまみのもとだという概念は業界ではそれなりに認知されていますが、本来はお米ごとの美味しさ の差を説明する理論です。精米の違いによる美味しさの差を説明するものではありません。精米の仕方では、玄米や胚芽米がおいしいことは説明できません。

「おいしいコメはどこがちがうか」(農文協)、で無洗米のトップメーカー東洋精米機・雑賀慶二社長は、以下のように書いています。
「糠層は数種類の層より成っており、最下層はアリューロン細胞層である。コメの場合は、糠の最下層部が胚乳(デンプン層)の上層部に細かな根が生えたよう に複雑に入りこみ、線引きできないほどに分厚い境界線を形成しているのである。要するに糠層の下層から胚乳(デンプン)に至る間は、明快な境界がないもの ととらえるべきものなのである。」

一方で、無洗米協会のHPなどでのPRを見ると、「明快な境界がないものととらえるべき」なのに、うまみの層がデンプン質の上にギアの歯のようにきれいに 並んでいて、うまみ層がきれいに残るので無洗米はおいしい、と表現しています。消費者を誘導していると言わざるとえません。

また、米の表面のビタミンが残るので栄養価が高い、とも言っていますが、それがかりに本当だとしても、その差は本来精米で失われる量と比べれば小さいもの です。精米で失われる栄養素は他にもありますから、本当に栄養を採りたいなら、胚芽米か強化米を食べればいいはずです。これなども、「差」の程度がわから ない消費者を誘導する話です。 そして、私の知るかぎり、業界関係者で無洗米がおいしいと言った方はありません。「すかすかで、お米の味がしない。」、「お米の旨み・甘味を感じない。」 という意見が多数を占めましたが、「売れりゃそれでいい。どうせ、消費者の舌はどうにかなってしまっている。」と無洗米を販売しています。

また、消費者が無洗米を食べて美味しかった、という記事を見かけますが、共通して言えることは、産地や品種に言及がないことです。便利だから無洗米を食べているというある消費者の方は、「無洗米は何を食べても同じ味がする」と教えてくれました。
日本中で色々なお米が作られています。同じ品種でも産地によって個性があります。農家による違いもあります。そういう個性が反映しにくい仕組みになるのか と思います。また、炊いている時の湯気の香りがしないお米を美味しいと思う消費者をこれから作っていくのでないか、と思うと残念な気持ちになります。

3.の主張について:無洗米工場では、ヌカが農家や園芸から引っ張りだこだと言っています。研ぎ汁の中のヌカは、ヌカの総量からすればわずかな量です。ここでも、無洗米協会は、米ヌカの全体像を見せることなく、総量からすればきわめて限定的な量を拡大して説明しています。

一方、今までもお米の重量の約10%にあたるヌカは、主にサラダ油を作るために油脂工場に引き取られていました。米ヌカは、全国で大体年間100万トン排 出されます。米業者で、その内約80万トン排出、その60%くらいが、サラダ油に、残りが冬場のえのきたけの栽培土や飼料・肥料・漬物に回ります。

ところが、困ったことに無洗米工場から出る顆粒状のヌカは、油脂工場が引き取りません。そこで無洗米ヌカを飼料・肥料に使えないか検討しているそうです。 飼料・肥料にしても需要は限られています。最近の情報では、無洗米の顆粒状ヌカを鶏卵用飼料である魚粉に混ぜてかさを増やすということがあるそうです。さ らに、最新情報では、これもBSE問題の影響でできなくなります。農水省管理のもと、100%魚粉のものしか、飼料会社は買えなくなるそうです。混合飼料 という形では、魚粉にヌカを混ぜることは法的にも問題ないそうですが、混合飼料の需要は低下しつづけているそうですので、この分野で処理することはいずれ にせよ難しいと思われます。

今までは少量だった無洗米の顆粒状ヌカは、大した問題ではなかったのですが、これからが大変のようです。協会・メーカーは、「米の精」なる名称で無洗米ヌカを販売するようですが、全国的に本当にはけるのか、はけない場合はどうなるのかが心配されます。
茨城の農家から出荷されたお米が東京で無洗米になり、その無洗米ヌカをその茨城の農家で使ってくれないかという話も聞いております。15円/15キロで す。私の店に集荷に来るヌカ業者は、15円/15キロで集荷してそれを油脂メーカーなどに販売しています。東京から茨城まで運んで安くてもいいから引き 取って欲しいということは、いかに商売になっていないかを証明しています。

最後に、無洗米が普及することによって予想される問題を指摘しておきます。

1.災害に強い町作りへの影響
神戸の震災後、「災害に強い町作り」が提唱されています。もし、無洗米が一般的になるとどうなるでしょうか。

無洗米設備は、これまでの精米設備に比べると非常に高額です。一部の大手精米業者だけが買うことが出来ます。この傾向が進むと、卸も小売も在庫を持つ必要がなくなります。現在、地方の大型精米工場への精米委託が増えております。

経営者としては、在庫の資金やスペースを心配する必要がないのはありがたいことですが、いざ災害が起こった時はどうなるでしょうか?現在、府中市の米穀小 売商組合は、市と契約を結び、災害時の協力店舗となっています。玄米在庫が市内にない状態では、全く協力することが出来ません。また、お米を研ぐという技 術を忘れてしまった状態では、無洗米しか使用できません。技術・設備・品物を分散化させておくことこそが災害対策であるにもかかわらずに、全く反対の方向 に進んでしまいます。

2.環境悪化の懸念
無洗米設備では、最後に灯油を使ってヌカに熱処理を加えます。表向きは研ぎ汁を河川に流さないで済むということですが、裏ではこのようにこれまで要らなかったエネルギーを使います。

また、あるメーカーの無洗米設備は中身が分からなくなっていて、品種を変えると設定を変えなければならず、また設備が高額なために、一つの工場で多数品種を取り扱うことは難しいので、あらゆる品種を無洗米にしようとすると、配達ルートが多様化・少量化します。

小売は複数卸と付き合い、卸は複数工場と付き合う。すると、どうなるでしょうか?非常に少量商品が流通するために、今までより多くのトラックが行き来します。すなわち、東京都などで問題になっている排気ガス規制に逆行します。

編集者注:本記事は本会へ下水処理に関する問合せを受けたことに端を発し、原稿をお願いしたものです。環境へのやさしさが強調される裏には、気が付きにくい問題が隠されていることも少なくないことを示す好例と考え掲載いたしました。

小澤さんの連絡先は以下の通りです。

東京都府中市宮町1-34-14-101
TEL 042-361-2511 FAX 042-365-7050
E-Mail rio-ozawa@mub.biglobe.ne.jp




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