私たち、「光市事件」報道を検証する会は、昨2007年11月27日に、BPOに「申立書」を提出しましたが、4月15日、BPOは放送倫理検証委員会決定として「光市母子殺害事件の差戻控訴審に関する放送についての意見」を発表しました。この発表についてのコメントは以下のとおりです。

――テレビ界の自浄作用は発動するか?

BPOが「光市母子殺害事件の差戻控訴審に関する放送についての意見」を発表

今回のBPOの意見書は、私たちが指摘した問題をしんしに受けとめ、「光市事件」裁判に関する多数の番組を検証し、それらがあまりにも画一的であることを「巨大なる凡庸」と表現し、番組制作者の側に猛省をうながしている。犯罪・裁判報道のあるべき姿にふれている点も評価できる。

「光市事件」のテレビ18番組を指摘して


BPOに「申立書」を提出

 私たちは、今年(2007年)5月以来の「光市事件」(山口県光市母子殺害事件)裁判を扱うテレビ番組が、事実を曲げて伝え、作為・演出があまりにも過剰で、放送法に規定されている公平原則に違反し、放送倫理基準を逸脱していると考え、この問題をなんとかして放送界に問題提起したいと考えてきました。

 私たちは、「光市事件」裁判を報ずるテレビ番組を制作したテレビ局に対して、放送倫理基準にてらして問題があるのではないかとの「申し入れ」を行ないました。ところが、各局ともに申し合わせたように、「何の問題もありません」という、そっけない返事がきました。

 放送界には、NHKと民間放送連盟がいっしょになって作った「放送倫理・番組向上機構」(BPO)という組織があります。そのBPOの中にある「放送倫理検証委員会」は、例の「発掘!あるある大事典U」の実験データ捏造事件を契機に07年5月に発足した委員会で、不二家についての報道が間違いだった件につき、「放送倫理上の問題があった」という「見解」を出しています。

 「光市事件」裁判についてのテレビ番組には、共通性があり、また互いに視聴率を競い合って、倫理基準逸脱の程度をどんどんエスカレートさせていることが見て取れました。制作の手法も、5月から9月にかけて、どんどんあくどくなっています。

 そこで私たちは、せっかくできた「放送倫理検証委員会」に審理してもらうことが、当面もっともよい手段だと判断しました。

 私たちは、録画ビデオを集めることからしなければなりませんでした。「光市事件」裁判を取り上げたテレビ番組は、この5月から9月の間、膨大な数にのぼります。私たちは、約300番組くらいのビデオを集めました。それを見て、音声を字にする作業も大変でした。ビデオを見ながら、各番組の問題点を洗い出し整理しました。「申立書」の文案を、有志の方々に回して相談を重ねました。そして、とりあえず有志の形で「『光市事件』報道を検証する会」の名乗りをあげ、連絡場所を決めました。

 申し立ての対象とする番組は、絞りに絞って18番組としました。それぞれに特徴があり、酷い問題点がありました。したがって18番組は、膨大な数の「光市事件」裁判を扱ったテレビ番組の中の代表的なものという意味で選んだものです。18以外に問題がなかったわけではありません。もっと数を絞るべきだとの意見もありましたが、最終的に18となりました。

 「申立書」の本文A4で13ページ、「18番組の個別問題点」が67ページ、その他、添付資料59ページが出来上がったのが、11月26日でした。

 11月27日に、申立人の代表がBPOに出向き、書類を提出しました。

 対応した事務局長や調査役の人々は、書類を見てまず、「申し立てというのはやめてほしい、申し立て制をとっていませんから」と言いました。つまり、BPOの中の「放送と人権等権利に関する委員会」(BRC)は、放送によって人権侵害を受けた当事者が訴えるところなので、申し立てを受け付け、結果はどうであれ、委員会の審理にかけることになっているというわけです。ところが、

「倫理検証」のほうは、当事者でも、一般視聴者・市民でも、虚偽の放送に関して「指摘された番組」について、それを取り上げるかどうかも含めて委員会が判断するというわけです。だから、申し立て制とは違うので、誤解されると困ると言うのです。私たちが、では何と書いたらいいのかと聞くと、要望または要請にしてくれと言います。申し立て制に対応するための人も予算もないといいます。私たちは、驚きました。人も予算もないところで委員会の仕事が始まっていることは、たいへんごくろうさまなことだが、わしたちは、ほかに訴えるところがない、テレビ界に要望とか要請をしに来たのではない、書式が決まっているわけでもないのであれば、私たちの日本語としては、「申立書」がいちばん適切であり、それ以外に考えられない、とつっぱねました。

 そんなやりとりの後、結局私たちの書類を受け取ったうえで、まず調査役が事務局として委員会に出すべきかどうかを検討し、その結果を委員会に諮るとのことでした。いろいろなハードルがあるものです。

 私たちとしては、翌11月28日に国会議員に頼んで、衆議院第1議員会館の会議室で記者会見を開き、申し立ての経緯を説明しました。


 世の中、驚くようなことが、次々と続いていますが、基本的には1980年代から続く情報化社会の様相は変わらず、いよいよテレビ放送が社会全体に対して決定的な影響力をもつように思えます。私たちが投じた一石が、テレビ界の自浄作用をうながすことになるか、あるいは、私たちのほうが無視されるか、多くの皆さんに関心をもっていただき、監視の目を増やしていただくことをお願いする次第です。

  (申立人の一人:山際永三)