2003年 ILO条約勧告適用専門家委員会レポート

強制労働禁止条約1930年(No.29)
日本 (批准: 1932)
勧告書CEACR 2002/第73会期

  2002年条約勧告適用専門家委員会による勧告書

  本委員会は2002年11月1日に日本政府から本委員会の最近2回分の勧告書に対する回答ならびに複数の労組報告に対する反論を含む文書2通と付属資料を受領したことを注記する。
  本委員会は東京地評からの報告と5件の付属資料を2002年6月6日に受領し、同年7月29日にそれらのコピーを日本政府に手渡した。また全造船からの2002年7月29日付の報告と7件の付属資料は2002年8月12日に受領し、それらのコピーは同年9月2日に日本政府に渡された。韓国の2労組(KCTUとFKTU)からは2002年8月27日付報告を9月4日に受領し、付属資料11件は10月1日に受領。それらのコピーは同日に日本政府に渡された。

  本委員会は最近数年の会期で第2次大戦中とそれ以前の数年間に起こった2件の案件、軍隊性奴隷制、被害者が戦時“慰安婦”と呼ばれているケース、と戦時産業強制労働への条約適用を検討したことを想起する。

1. 戦時性奴隷性の被害者

  本委員会は以前に、第2次大戦中とその戦争直前の数年間に、少女や女性が、比喩的に“慰安婦”と呼ばれ、慰安所とよばれる軍隊施設に拘束され、軍人に性的なサービスを提供することを強要された事件を検討した。そして、この行為は条約で絶対的に禁止された事項の範疇に入るものと判断した。本委員会はこの行為は慰安所に監禁された女性と少女の重大な人権侵害と性的虐待であり、性的奴隷制度とみなされと認めた。

  2000年勧告書の段落8と10の中で、本委員会はかなりの人数の元慰安婦たちが日本国内の法廷で訴訟を起しており、その段階は審査中、第一審判決が出たもの、あるいは上訴予定など色々であったことを記述した。本委員会はまた上記勧告の段落5の中で、参考意見として、本委員会は救済を命ずる権限はない、また救済は日本政府のみが条約に基づく責任ある主体として与えることができると述べた。しかしながら、同じ勧告書の段落10で、本委員会は日本政府が元慰安婦とそれを支える組織と協議して、手遅れになる前に、彼女たちの期待に沿えるようなやり方で補償する新しい道を見出して欲しいと表明した。

  その後、2001年の勧告書の中で、本委員会は労組からの報告とそれに対する政府回答を受領した後で、政府が元慰安婦たちの請求に満足できるようなやり方で応えることとその詳細を2002年のILO総会で発表することを再度、希望した。

  日本政府はこれに応えて慰安婦の件についての最新詳細報告の中で3つの主要点を主張した。
  第一に、2001年の専門家委員会勧告書には手続き上に次の問題がある。
・ 政府の回答を待たずに労組の言い分だけを基にして勧告が準備され、発表された。
・ 労組の言い分の中味をよく検討もせず、総会で取り上げるべきだと性急な結論を出した。
・ 労組はもともと強制労働だけを案件にしていたのに、慰安婦問題をその中に取りこんだ。
  第二に、日本政府は慰安婦の状況に関連する問題から発生する補償に関する個人の請求権には法的根拠はないから、労組の言い分は間違っているとの見解を表明した。日本政府は本委員会に対してこの問題についての討議を終了し、この案件は終結したと宣言せよと要求した。
  第三に、日本政府の見解としては個人請求権には法的根拠はないとの立場にもかかわらず、日本政府は何度も謝罪を行ってきていると反論した。そして、アジア女性基金が償い金を出すたびにつける首相の謝罪状に言及した。

(a) 手続き上の問題
  取り上げられた第一の問題に関して、本委員会は手続きに問題があったという見解を拒否する。労組の報告は戦後補償一般の問題を取り上げていたし、慰安婦問題は大いに関係がある。2000年勧告書で取り上げた当時としては重大な問題について日本政府はまったく対応しなかったのだから、労組が具体的に要求しようとしまいと委員会として問題を追求し、総会で取り上げるべきだと要求する権利がある。
(b)個人請求権の法的根拠
  第2の問題については、本委員会は日本政府が以前と変わらず、第2次大戦から発生する賠償、財産、並びに請求権に関しては、戦時慰安婦と強制労働者として知られる問題を含めて、義務は果たしたとの立場をとることを注記する。政府の言い分によれば、連合国政府や太平洋アジア諸国政府との多国間、2国間平和条約の規定が各国政府と各国国民と日本と間にある戦争賠償、請求権を放棄している。

(i) 条約
  日本政府が取り上げる条約や協定には下記がふくまれるが、それに限定されるわけではない。
  1951年サンフランシスコ平和条約第15条(b)項「この条約に別段の定めがある場合を除き、連合国は、連合国のすべての賠償請求権、戦争の遂行中に日本国及びその国民がとった行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権並びに占領の直接軍事費に関する連合国の請求権を放棄する。」
  1965年財産及び請求権に関する日本国と大韓民国との間の協定第2条1項「両締約国及びその国民の財産、権利及び利益並びに両締約国及び国民の間の請求権に関する問題が、。。。完全かつ最終的に解決された。」
  1972年日中共同声明第5項「中華人民共和国政府は、日中両国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する。」
  日本政府は次のように述べる、「この意味で、国内法での個人請求権を含めた請求権問題は日本国とその国民並びに連合国とその国民との間で完全かつ最終的に解決された。」

(ii) 日本政府の過去の発言
  以前の勧告で、本委員会は全造船が2001年6月の報告の中で、戦争関連の補償問題に関する日本政府の立場は平和条約は国家レベルでの補償要求権と外交的保護を終焉させるものであるが、被害についての個人の権利を終わらせるものではないというものであると報告したことに注目した。同労組は日本政府が何度もこの立場を明白にしてきたとして、次の例を示した。

  ― 原爆被害者裁判(最終判決1963年)における日本政府の陳述は次のようである。「サンフランシスコ条約第19条(a)項の条文は日本国がトルーマンやアメリカ合衆国から被害についての補償を要求する日本国民個人の権利を放棄したことを意味しない。」

  ― シベリア抑留者補償要求裁判(最終判決1989年)、この裁判では日本政府は日ソ共同声明第2項、第6節で放棄した権利は、「日本国が有する外交的に保護された請求権であり、日本国民個人の請求権ではない。われわれが外交的保護と言う時、それは外国で起こった国際法違反により被害を被った日本人について国がその外国の責任を追求する国際的に認められた国家の権利を意味する。。。上述したように、日本国は日ソ共同声明では日本国民個人に属するいかなる権利を放棄していない」という立場をとった。

  ― 1991年8月27日、参議院予算委員会における外務省条約局局長柳井俊二氏の発言によれば、1965年の日韓基本条約は個人から国内法的に被害に対する損害賠償を求める権利を剥奪したわけではなく、「日韓両政府がこれらの問題を外交問題として取り上げることをできなくさせただけである」と答弁した。

  本委員会は、これらの組合からのコメントに対する日本政府の回答によれば、柳井氏の発言は、「日本と連合国間の個人の請求権をも含めたすべての前大戦関連の賠償請求権問題は一般国際法の概念である外交的保護の権利の視点からみて解決済みだ」と説明しようとしたものである。すなわち、彼は「連合国あるいはその国民に対する日本国民の請求権が却下されたとしても、日本国はもはや連合国の責任を追求することができないということを説明したものだ」と主張していることに注目する。日本政府はさらに柳井氏による1992年2月26日に衆議院外交委員会での別の発言を追記し、同氏が、「法的根拠をもつ実質権利、すなわち、財産権については日本政府は協定による例外を除いて韓国国民の財産権を破棄した」。それゆえ、「韓国民はもはや日本に対してこれらの財産権を私権あるいは国内法の権利であるから法的根拠あるものとして請求することはできない」ことは明確に説明したと述べたのである。

  本委員会は日本政府が労組によって提示された他の例を論破するコメントをしなかったことに注目した。他の例とは、すなわち、原爆被害者訴訟(最終判決1963年)における政府陳述とシベリア抑留者補償要求訴訟(最終判決1989)における日ソ共同宣言第6条の解釈に関する政府陳述であるが、共同宣言第6条の条文の引用以外には、特にコメントはなかった。

(iii) 国連人権委員会に提出された報告書の数々
  本委員会はゲイ・マクドウガル女史によって第50会期人権小委員会に提出された1998年6月22日付の“武力紛争下の組織的強姦、性的奴隷ならびに奴隷類似の行為に関する最終報告書”(UN document E/CN.4/Sub.2/1998/13)に注目する。本委員会はまた人権小委員会によって国連特別報告官に任命されたマクドウガル女史が國際人権法グループの理事であることに注目し、韓国労組KCTUとFKTUの報告に添付された彼女の報告書が、旧ユーゴスラビア國際刑事裁判所では国際法の権威ある見解として引用されたことに注目する。本委員会はさらに、その報告書には付属文書として、“第2次大戦中に設置された慰安所に対する日本政府の法的責任の分析”が添付されていたことに注目する。

  同報告で、マクドウガル女史は次のように述べている。「第2次大戦中のアジア全域で行われた日本軍による女性の奴隷化は、その当時としても、奴隷制度を禁ずる國際慣習法の明白な違反である。奴隷制度と同じく、戦争法は強姦と強制売春を禁じている。」(付属文書、パラグラフ 12, 17)。本委員会は更なる答申に注目する、「広範な、あるいは制度的な 人間の奴隷化が人道に反する罪であることは少なくとも半世紀にわたって認識されてきた。これは武力紛争の期間にそのような犯罪が継続的に行われた時には特に真実である。奴隷化に加えて、広範なあるいは制度的な強姦行為は人道に反する罪の伝統的な構成においては”非人道的な行為“の一般的な禁止項目に該当する。。。”(付属文書、パラグラフ 18 と20)

  1965年の韓国基本条約第2条と1951年の平和条約第14条項目(b)に言及して、マクドウーガル女史の報告書は次のように言う。「これらの条約をあやつって責任を逃れようとする日本政府の試みは二つの理由で無効である。(a) 強姦キャンプの設置に日本政府が直接関与していたという事実は、条約が書かれた時点で隠蔽されていたということ、これは日本が今日、公正な立場で条約に頼って責任回避をしようとする、いかなる試みをも妨げる決定的な事実である。(b) 条約の単純明快な言語を見れば、それが人権侵害あるいは人道法違反の日本軍による被害について個人が補償を求める請求権を奪うことを意図したものではないことを示している。」(付属文書、パラグラフ55)

  本委員会はまたマクドウガル報告書の付属文書パラグラフ 58を労組がコメントの中で言及していることに注目する。それは次の部分である。「1965年財産及び請求権に関する日本国と大韓民国との間の協定の条文からみてもこの協定が両国間の財産請求権問題を解決するものであって、人権問題を取り組んでいないことは明白である。(引用源省略)この協定には”慰安婦“、強姦、性的奴隷、あるいは他の韓国民間人に対するいかなる残虐行為も言及されていない。むしろ、協定の中の条項は両国間の財産と商業的関係を言及している。事実、日本の交渉担当者は協定についての話し合いの中で日本は日本人が韓国人に対して加えた残虐行為について韓国に支払うと約束したと言われている。(引用源省略)」本委員会はまた付属文書のパラグラフ58で報告書が次のように述べていることに注目する。「明らかに、日韓条約のもとで提供された資金は経済的復興のためだけのものであり、日本の残虐行為の被害者のための個人補償のためではない。そうであるからして、1965年日韓条約はー広範囲な適用を思わせる言葉使いにもかかわらずー両国間の経済的並びに財産に関する請求権を消滅させたのであって、個人の請求権を消滅させていない。。。」

  本委員会はまた付属文書のパラグラフ62中で指摘された論点に注目する。「その上、1965年日韓基本条約と同じように、公平と正義の重要性を鑑みれば、日本が責任を逃れるために1951年平和条約に頼ることはできない。何故ならば、日本政府は条約ができる時点で慰安所の設置、維持、運営の全ての面で日本軍が関与していた程度を明らかにすることができなかったからである。(引用省略)公平のもう一つの原則として、ユスコーゲン規範が発動される時、そのような基本法に違反したと告発されている国が法の文言にこだわることで責任を回避しようとすることは許されない。」

  日本政府は国連特別報告官マクドウガル報告書についてコメントし、1998年から2002年まで、人権小委員会で上記の特別報告書に基づいた決議文が採択されてきたと述べ、「それらの決議文はただマクドウーガル報告を歓迎する主旨のもので、日本とか戦時慰安婦として知られる問題について触れていない。また決議文の中には日本に勧告するとか非難するような文言は一切含まれていなかった。」と主張した。
  しかしながら、本委員会は、例えば、特別報告官マクドウガル最終報告書の2000年6月更新版についての決議文のような人権小委員会の決議文は、いかなる国であれ個々の国家を名指ししないし、勧告をしたりしないが、報告書全般を評価したものであり、決議が実行されるよう、また評価した特別報告官の報告書でなされている勧告が実行されるように人権高等弁務官が監視し、小委員会に報告するよう、呼びかけていることを指摘する。

  本委員会は1996年の“戦時性奴隷問題に関する北朝鮮、韓国、並びに日本における調査”と題するラディカ・クマラスワミ女史提出の報告書(国連文書E/CN4/1996/53//Add.1)に注目する。女史は国連人権委員会52期会議の特別報告官である。報告書の追加文書1は韓国労組KCTUとFKTUの報告に添付されてきたものであるが、そのパラグラフ107で1994年に出版された國際法律家委員会(IJC)の慰安婦問題に関する文書が言及されている。その文書は日本政府によって取り上げられる条約類は決して非人道的な扱いについての個人の請求権を含む意図はなかったと述べられている。ICJの議論によれば、「請求権”という用語は不法行為に関する請求権に適用するように意図されていないし、その用語が合意済みの覚書や追加議定書にも定義されているわけでもない。」 またICJは「交渉の間にも戦争犯罪や人道に反する罪の結果として起こった個人の権利の侵害に関する事柄は一切話し合われていない」とも論じている。ICJはまた、「韓国の場合、1965年の日韓条約は対政府賠償だけに関するもので、被った被害に基づく個人の請求権を含んでいない」とも述べている。

(iv) 法廷における判決について
 日本の軍隊性奴隷制度を裁く女性國際戦争犯罪法廷
  本委員会は日本の軍隊性奴隷制度を裁く女性国際戦争犯罪法廷がその2001年12月4日付(2002年1月31日付と訂正)の“共通訴因についての判決と賠償と補償への適用”(Case No.PT-2000-1-T)で言及した2001年9月4日付ニューヨーク・タイムズ紙に掲載された記事に注目する。この判決のコピーは全造船が報告に添付して提出したものである。さて、スティーブ・クレモンス氏が書いたこの記事は、最近(2000年4月)、機密扱いからはずされた吉田茂首相とオランダ外相とのサンフランシスコ条約の調印直前に起こった往復書簡について書かれたものである。これによれば、サンフランシスコ条約調印直前、吉田首相はオランダ外相にたいして、「日本政府は条約調印によってオランダ政府がオランダ国民の個人的な請求権を奪い、結果として条約発効後、これらの請求権が消滅するようになるとは考えていない」と書いている。

  本委員会は日本の軍隊性奴隷制度を裁く女性国際戦争犯罪法廷がその2001年12月4日付(2002年1月31日付と訂正)の“共通訴因についての判決と賠償と補償への適用”(Case No.PT-2000-1-T)に注目する。これは全造船がその報告に添付して提出したものである。本委員会は2000年12月8日から10日にかけて東京で開かれたこの法廷が極東國際軍事裁判法廷、本来の東京裁判では正されなかった性に関連した犯罪を裁くために設置した民衆法廷であることを注記する。本委員会は全造船が「この法廷で活躍した裁判官、検事総長、法律顧問が旧ユーゴスラビヴァ國際刑事裁判所やルワンダ國際刑事裁判所でも実際に裁判に取り組んだ国際的に高名な専門家たちであった」と報告していることに注目する。さらに全造船は裁判における重要な評決に言及していることも注記する。さらに本委員会は韓国労組、FKTUとKCTUが女性國際戦争犯罪法廷を高名の立派な裁判官が参加した民衆主導の裁判とコメントしていることを注記する。

  本委員会は“判決手続きの紹介と背景”の中でこの法廷の登録部が日本政府に手続きの通知と2000年11月9日から同年11月28日の訴訟手続きに参加するようにとの招待状を送ったにもかかわらず、返事を受け取っていないとの記述に注目する。にもかかわらず、法廷は日本政府が同意して参加した場合に主張するであろう全ての主張を代弁させる努力をした。その目的を達成するために、女性國際法廷はアミカスキュリーとして補助する弁護士に政府側が申し立てる言い分を収集するように要請し、この要請に応えてアミカスキュリーは準備書面を提出した。さらに女性國際法廷は懸案中の裁判で出されている日本政府側の言い分と軍隊性奴隷制度を調査した国連特別報告官の報告書に対する日本政府の反応を考慮した。

  本委員会は判決のパラグラフ1034に記述された同法廷の1965年日韓基本条約に関する答申に注目する。答申は次のようである。“財産、権利、利益が慰安婦たちの日本に対する請求権のようなものを含むかどうかは疑問である。両国は平和条約交渉に関する覚書を採択しているが、その中では両者は「財産、権利、利益とは法的に財産価値のあると認められたあらゆる種類の実質的な価値である」ことで合意している。これは慰安婦たちの広範囲な請求権を排除しているように見える。韓国は交渉の場で8項目と呼ばれる韓国共和国の請求の骨子を提出した。このリストに慰安婦たちに加えられた非人道的な犯罪についての慰安婦の請求権が含まれていたとの証拠はない。はっきり言えば、条約の条文は「負債の清算を含む財産処分か両国間の商業的関係の調整」を包含するものである。(引用省略)。

  同法廷は同様に1970年の國際司法裁判所の意見を引用した。(Barcelona Traction, Light and Power Co., Ltd. 1970 ICJ Rep.3, paras 33-34 (5 February)。その意見とは国家がその本質ゆえに負う國際社会への義務について明確に語ったものである。
「そのような原則は人間の基本的権利、それには奴隷化や人種差別から守られることもふくまれるが、に関する原則と規則から推論されるものである。」
  また同法廷は国家責任についての国連特別報告官の第三次報告書(UN document A/CN.4/507/Add.4, 2000年8月4日付)に言及して、次の答申を書いた。
「その範囲において普遍的で、内容については奪うことのできないものとして一般的に受け入れられており、その遂行にすべての国家が法的利益を有するという規範の範疇は小さいが、大量虐殺と奴隷制度はこれに含まれている。これらの原則から、同法廷は次のように判断する。『2国間条約や多国間条約が、被害者が属する国家間で合意された条約であっても、すべての人間の被害を賠償するという不参加の国家の有する利益を放棄することはできない。』(パラグラフ 1041-1043)」

  本委員会はこれらの推論や他の法的見地に基づいて同法廷が日本の平和条約依存に関して、「交渉に加わった当事者である国家には人道に反する罪の結果傷ついた個人の請求権を放棄する権限はなく、われわれはこれらの請求権が永久的に放棄されたという主張を却下する」という結論に達したことに注目する。

  日本政府は、女性國際戦争犯罪法廷と同法廷が2001年12月に下した判決についてのコメンとして次のように述べた。「この法廷は慰安婦問題の関係者によって私的に開催されたもので、公式の組織ではない。それゆえ、日本政府は同法廷の声明書や所見に対してなんらかのコメントをする立場にない。」

(v) 日米裁判所の答申と判決
  日本政府はその報告の中で、サンフランシスコ条約第14条項目(b)によって、すべての個人の請求権を放棄されたという日本政府の解釈は一連の法廷判決と一致していると主張し、元捕虜から起された請求権に関する二つの訴訟からの判決を引用した。それらは2000年9月21日に米国カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所で下された日本における強制労働訴訟に関する判決と2001年10月11日に東京高等裁判所で下されたオランダ人元捕虜によって起された訴訟に対する判決である。本委員会は日本政府によって引用された米国カリフォルニア州地方裁判所の次の判決に注目する。「条約は戦争の遂行中に日本国及びその国民がとった行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権を放棄する。この放棄についての言語ははっきりと広範にわたり、条約の冒頭部分の規定に言及している個所を除いて、どこにも条件に関する文言や制限はない。。。。第14条項目(b)の条項は十分に広範で現在の原告の請求を包含する。本法廷は対日平和条約がこの訴訟で原告が提示したような請求権を妨げると結論する。」

  本委員会はまた米国の訴訟で日本政府によって引用された判決の部分には、同地方裁判所の「平和条約は、その条項によって、“戦争に関係した経済的な損傷“の解決案を採用した」とする同法廷の所見が除外されていたことに注目する。(強調添加済み)

  その上、日本政府は最新の報告で、2001年1月1日から2002年6月30日までの期間、日本国内の高等裁判所で2件、地方裁判所で3件の戦時中の軍隊性奴隷制度の被害者による請求権訴訟があったことを報告した。日本政府はまたこれら全ての訴訟で原告の日本政府に対する要求は却下されたと報告した。1998年4月の山口地方裁判所下関支局の判決について、日本政府は被告も原告も広島高等裁判所に上訴したと報告した。日本政府は高等裁判所が2001年3月29日に判決を下し、政府の答弁を認めて、政府に果たして立法措置をしなければならない憲法上の義務があるかどうかは不明であり、戦後補償をどう処理するかは総合的な政策作成の見地から立法府の思慮分別にゆだねられるべきだと述べたと報告した。日本政府はまた原告が2002年3月に最高裁判所に上訴し、最終判決を待っているところだとも報告した。

   本委員会はこの訴訟で出された判決が2001年12月の女性國際戦争犯罪法廷の判決で討議されていたことに注目する。「広島高等裁判所が個人には国際法の身分がないことを理由にして下関支局の判決を覆した。本法廷は広島高等裁判所の判決に国際法上の事柄について同意しないばかりか、原則的にも、国際法は人権をより多く保護する国内法や救済を消滅させることはないことを注記する。」

  個人請求権の法的根拠についての委員会の結論本委員会はこの問題の複雑さと慰安婦に補償を求める法的根拠があるかどうかについての意見の多様性を示すために、この件を詳細に調査した。本委員会としては問題を疑問のままとする。日本政府は最新の報告でも個人の請求権が条約によって消滅したと主張しているが、そのような見解は、上記の引用で示したように、必ずしも独立の専門家に支持されていないことを注記する。

  以前にも言明したように本委員会は条約侵害があったからといって救済を命ずる権限はない。本委員会は2000年の勧告書で「補償問題は条約で解決済みとの日本政府の主張は正しい」と述べたが、その結果、個人請求権は消滅したかどうかについてのコメントは避けた。本委員会が2国間あるいは多国間条約の法的効果について判断する立場にはないからである。最終的に法的な問題について言明することはできないし、しないものとする。また、それらは我々の権限外にあることでもある。

(c) 慰安婦の請求に対する政府の対応
  日本政府によって提起された第3の主要点について、日本政府は再びいわゆる戦時“慰安婦制度”問題を認識し、何度も謝罪と痛恨の年を表明してきたことを主張する。また日本政府は被害者に償い金を送るために設置された“女性のためのアジア平和国民基金”あるいは“アジア女性基金(AWF)"に可能な限り、協力し、基金の運営費を負担し、首相の謝罪の手紙を送りつづけたと主張した。日本政府は2002年9月にAWFが償い金の配布プログラムの実施を完了したと報告した。日本政府によれば、前回の所見を委員会に提出した2000年10月以来、114人の被害者が新たに償い金を受領し、AWFはフィリピン、韓国、台湾の合計285人の被害者に償い金を届けた。

  本委員会は複数の労組の報告から2002年にAWFが計画を止めると発表したことに注目する。2002年7月29日付の報告で、全造船はAWFが285人の生存者が償い金を受け取ったと発表したことを報告した。しかし、全造船はこの人数が中国、朝鮮人民民主共和国、インドネシアの生存者を含んでいないこと、韓国、台湾、フィリッピン、オランダでも少数の被害者が受け取っただけであることを指摘した。

  韓国労組KCTUとFKTUはその報告の中で、アジア女性基金の善意はいわゆる“慰労金”を受け取るようにしつこく迫る基金関係者に悩まされた多数の被害者たちによって、否定されていることを指摘した。韓国労組によれば、被害者たちが基金は日本国民の善意かもしれないが、これは国際法にもとずく法的責任の解決としての日本政府の正当な反応とは考えていないという。さらに、韓国労組はアジア女性基金が経済的援助だけをして公的責任を認めることや公式的な調査という経過を回避しようとするものだと受け取られていると報告している。

  日本政府はその回答の中で請求権問題は日本政府と条約に調印した国々とその国民との間で法的に解決ずみであるから、アジア女性基金がすでに高齢の元慰安婦への現実的な救済を提供する唯一の実行可能な道であると考えるようになったと述べた。また日本政府は別の部分で、この計画の受益者はなんらかの形で感謝を表明し、基金の計画は着実に実行され、多数の元慰安婦が感謝の言葉で表明しているように彼女たちに歓迎されていると考えると述べた。

  本委員会は1998年国連特別報告官マクドウガル最終報告書の次の言葉に注目する。「人権小委員会は他の国連機関と共に1995年のアジア女性基金創設を歓迎する。アジア女性基金は1995年7月に”慰安婦“に対する道徳的責任感から日本政府によって設置されたものであり、”慰安婦“の窮状を援助するNGOの活動を支援し、一般市民からの募金を集め生存する”慰安婦“への償い金とすることを意図している。しかしながら、アジア女性基金は”慰安婦“悲劇の被害者である女性個人に対して公式の法的補償を与えるという日本政府の責任を満すものではない。なぜならば、アジア女性基金は第二次大戦中に起こった犯罪についての日本政府の法的責任を認めるように意図されていないからである。」(付属文書、パラグラフ 64)

  本委員会は、日本政府に追加措置を求めている複数の組織が、政府が被害者に直接支払う補償がないこと、被害者に対する法的責任を認めた上での謝罪がないこと理由に、AWFを十分な反応と考えていないことに注目する。日本政府と労組から提供された最新のコメントや情報を考慮して、本委員会は、以前にも述べたように、政府からの補償と見られていないためAWFからの償い金が大多数の“慰安婦”から拒否されたことと、首相によって送られた謝罪の手紙を償い金を受け取った少数の“慰安婦”の中で数人が政府の責任をとっていないとして拒否したという事実は、被害者の大多数の期待が満たされていないということを示していると考える。

  本委員会はさらに国連特別報告官クマラスワミ1996年報告追加文書1に示された勧告に注目する。日本皇軍によって実行された軍隊性奴隷制度の犠牲の数少ない生存女性に対して正義を与えるために行動しようとの率直さと意欲を特別報告官に示した日本政府の協力を特に当てにして、特別報告官クマラスワミは、日本政府が(a)第二次大戦中に日本皇軍によって作られた慰安所の制度が国際法の侵害であることを認め、その侵害についての法的責任を受け入れる、(b)日本の軍隊性奴隷制度の被害者個人に補償を支払うこと、そして補償は人権小委員会の特別報告官が人権と基本的自由の重大な侵害の被害者に対する賠償、補償そして原状回復の権利について概説した原則に基づくものとする。

  本委員会はさらに類似の勧告が国連特別報告官マクドウガル氏の最終報告書のパラグラフ63-67と日本の軍隊性奴隷制度を裁くために開かれた女性国際戦犯法廷の2001年12月の判決のパラグラフ1086に提示されていることに注目する。

  本委員会は韓国労組KCTUとFKTUが、国連の人権機構や本委員会の度重なる勧告にもかかわらず、日本政府の取り組みになんの変化を感じられないと報告していることに注目する。また全造船が、元慰安婦たちは加齢によって法廷に証言するためや、日本政府との交渉のために訪日することが極めて困難になりつつあるとコメントしていることに注目する。また、全造船は“数年のうちに被害者は全員死亡し、過去の誤まりを正す機会は永久に失われるかもしれない”との危惧を表明した。


性奴隷についての最終結論
  本委員会には2国間あるいは多国間条約の法的効果について決める権限はないから、この件については最終的な申し立てをすることはできないし、そうしないと再度確認する。以前にも表明したところではあるが、本委員会は日本政府の過去の条約違反による被害者が老いつつあることと、この問題についての他の尊敬すべき機関や個人によって同様に公然と表明された見解にもかかわらず、日本政府が被害者の期待に沿うことをしないことを憂慮するものである。本委員会は将来的に日本政府が被害者の期待に応えることを希望すると繰り返し言明する。本委員会はこれからも法廷での判決、法律、また政府の行動などについての関連報告の情報を受け取ることを求める。総会委員会は三者間ベースでこの事柄を検討するかどうかを考慮したいと願うかもしれない。


2. 戦時産業強制労働

  本委員会は以前に中国と韓国を含むアジア諸国から何十万人という労働者を強制的に徴用し、戦時日本の私企業の管理下にあった工場、鉱山、建設現場で労働をさせたことを検討した。本委員会は1946年外務省作成の“日本における中国人労働者と労働条件”と題する報告書などを検討した。この資料によって、労働者は非常に過酷な労働条件で働き、残忍に扱われ、死亡率は17.5%から場合によっては28.6%と高かった事が判明した。これらの労働者は日本人と同様の給与と待遇が約束されていると言われたにも関わらず、実際には給与はほとんど支払われてないか、支払われたとしても極めてわずかな金額であった。本委員会はそのような悲惨な状況で労働させた戦時日本による大量徴用や強制労働は条約違反であると認めた。

  過去2回の勧告書で、本委員会は、元捕虜その他による訴訟がまだ数件あることに注目し、被害者の老齢と時の経過の早さを考慮して、政府が満足すべきやり方でこれらの被害者の請求に応えることができることを希望した。

  本委員会は最新の詳細報告によって日本政府が戦時強制労働の問題は同盟国やアジア太平洋地域の他の政府と結んだ戦後条約や協定にしたがって義務を果たしたこと、またこの問題はこれらの条約や協定の当事国によって法的に解決済みとの見解を変えていないことを示したことに注目する。

  以前に報告したように、日本政府は近隣諸国の政府に対して積極的に友好関係と協力を促進してきたと指摘する。特に、韓国、中国に対して行った経済援助に言及する。日本政府はまた過去の歴史について正式な謝罪も様様な機会に行ったと主張し、次の例を提示する。

  ― 1972年日中共同声明では、「日本側は過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する。」との文言がある。

  ― 1993年の河野洋平官房長官が戦時慰安婦問題に関する調査結果について、次のように述べた。「政府は、この機会に、改めて心からお詫びと反省の気持ちを申し上げる。また、そのような気持ちをわが国としてどのように表すかということについては、有識者のご意見などを徴しつつ、今後とも真剣に検討すべきものと考える。われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。」

  ― 1995年8月15日の終戦50周年記念日に村山富一首相が述べた言葉。

  ― 2002年に小泉純一郎首相から戦時奴隷制度の被害者たちに送られた手紙。その中で、「われわれは過去の重さを避けてはならないし、将来に対する責任を回避してはならない。道徳的責任を痛切に感じているわが国は謝罪と痛恨の念を持ちつつ、過去の歴史を直視し、正確に将来の世代に伝えていくべきだと私は信じます。」

  本委員会は日本政府によって引用された謝罪の言葉や表現の中に日本政府が過去の歴史を直視し、道徳的責任を回避しないという意思を持つとの表現を繰り返し使っていることに注目する。

  2001年勧告書の中で、本委員会は係争中の訴訟の一つで建設会社鹿島が中国人被害者と和解し、5億円(約450万ドル)の基金を創設し、生存者と戦時中に花岡鉱山で死亡した強制労働被害者の親類に補償を行う、そして中国赤十字が基金の運営を担うという情報を得た。本委員会は日本政府に対してその和解についての追加情報とその基金が他企業の訴訟に与えた影響を報告するよう要請した。

  本委員会は日本政府が、鹿島訴訟は中国人によって私企業にたいして起こされた民事訴訟であり、似たような訴訟が幾つか日本国内の法廷で係争中だから、政府はいかなる詳細情報も提供する立場にはないと報告してきたことに注目する。日本政府はまたこの合意には謝罪ならびに補償についての被告企業の法的責任を認めるものはないと報告した。

  本委員会は花岡友好基金について東京地評が和解は順調に進行していると報告したことに注目する。鹿島建設は5億円の寄付で花岡友好基金を設立した。本委員会は2001年3月26日に北京の赤十字で第一回の基金理事会が開かれたこと、同年9月27日に21人の被害者に最初の支払いが行われたこと、並びに12月15日に同様の儀式を行って遺族40人への支払いが行われたことに注目する。

  東京地評は戦時強制労働の補償に関する地裁レベルで下された最近3件の判決に言及した。これらの内には、政府に不利な判決2件がふくまれており、それらは2001年7月12日に東京地裁が下した劉連仁訴訟に関する判決と京都地裁が2001年8月23日に浮島丸訴訟で下した判決である。もう一件は私企業に不利な判決で、2002年4月26に福岡地裁が下した判決である。

  劉連仁訴訟と浮島丸訴訟の判決については、東京地評は重要な勝利だと報告している。東京地評は裁判所が戦時徴用の政策と実行ならびに強制労働の実行に直接もとづいた政府の責任を認めていないが、政府にはその政策の被害者となって強制連行された中国人労働者を救助し、帰国を促進する義務があることを認めたこと、また裁判所が日本政府が怠慢の故にこれらの義務を果たさなかったのだから補償の責任があると判断した点でこれらの判決は重要だと指摘している。東京地評は政府がこれらの判決を時効とその他の法的専門的字句をあげつらって上訴していると報告した。東京地評は日本政府がありとあらゆる法的な逃げ口上を使って責任を回避しようとしているとの見解を表明した。さらに東京地評は日本政府が強制労働関連の訴訟や要求すべてを拒否しつづけていると報告している。

  それに対する回答の中で、日本政府は2001年1月から2002年6月30日の期間に戦時中の強制労働政策について日本政府からの補償を求める5件の訴訟に対する判決が高等裁判所で、2件の判決が地方裁判所で下されたが、これら全部で原告の請求は却下されたと報告した。日本政府は、したがって東京地評が取り上げている劉連仁判決や浮島丸判決はきわめて例外的であり、過大評価すべきでないと述べた。日本政府は、政府は損害に対する補償の責任はないので、高等裁判所に両方とも上訴中であると報告した。日本政府は中国国民と韓国国民の請求権は日本政府が当事者となっている戦後の平和条約と2国間協定で法的に解決済みであるので、劉連仁、浮島丸事件の判決はこれらの条約による解決を正しく理解しておらず、全く不適当であると報告した。

  本委員会は2002年4月22日付福岡地裁が政府に対する請求は却下したが、三井鉱山に対しては戦時中、日本政府と協力して原告たちの強制連行と強制労働を計画し、実行したことを理由に15人の原告の一人一人に1100万円の損害賠償を命ずる判決を下したことに注目する。全造船はそのコメントの中で、この判決が第二次大戦中の強制連行、強制労働による被害に対して支払いを命じた最初の判決であると述べている。同法廷はその意見の中で、1972年日中共同声明の第5条と日中平和友好協定で、中国政府が戦争賠償についての要求を放棄したことに言及した。また他方、同法廷1951年のサンフランシスコ平和条約締結時に、中国政府が中国国民個人は請求権を持ち出す立場にあるとの立場をとっていたという事実と1955年3月、当時の銭其?副首相兼外相が中国政府は国家レベルでの戦争賠償請求権を放棄したが中国人個人の請求権は放棄していないと公開の場で述べた言葉に言及している。これらの事実を考慮して、同法廷は中国人個人の請求権が最終的に放棄されたかどうかは、法律的には不明瞭だと主張し、結論として、同法廷が原告の被害に対する請求権が日中共同声明と日中平和友好協定によって放棄されたとは認識しないと述べた。 

  福岡地裁の判決に対して、日本政府は同法廷が日本政府に対する要求を却下したことと、日中戦争の間で被った被害についての中国人個人の請求権が日中共同声明や日中平和友好協定で放棄されたかどうかについては、法的な疑問があるとの判決を下したことを指摘した。さらに日本政府はそのような判決は、共同声明その他についての日本政府と中国政府の見解を考慮せずに原告が提供した、下らない、偏見にみちた情報を基になされたものであると述べた。日本政府は三井鉱山がこの判決に納得せず、福岡高等裁判所に上訴しており、ただ今、そこで審査中であると報告した。1955年3月に中国副首相兼外相銭其シンが中国政府は国家レベルでの請求権は放棄したが、中国国民個人の請求権は放棄していないと公然と述べたという同法廷の答申については、日本政府は「この言葉はメディアによって報道されただけであって、中国政府によって確認されたものではない」と批判した。日本政府はメディアによって報道された中国政府高官の3件の言葉を引用したが、それは銭其シン副首相の1955年3月の発言とは矛盾しているように見えた。

  本委員会は全造船が米国の第107回議会で下院に2001年3月22日に、上院に同年6月29日に導入された“2001年米国戦争捕虜への正義法”H.R.1198(ローラバッカー法)に言及していることに注目する。同法は第二次大戦中、戦争捕虜として捕らえられた米国軍の一員が日本国民の利益のために日本国で行った労働に関連して虐待ないしは不払い賃金への補償を求めて彼らが日本人に対して連邦裁判所で起こしている訴訟を守ることを目的としている。同法第3節(a)(1)項によれば、法廷は平和条約の第14節(b)が米国国民の日本国民に対する請求権が米国政府によって放棄されていて、訴訟を不可能にする要件を構成することを否定するものだと規定している。本委員会はローラバッカー法がサンフランシスコ条約が個人の強制労働補償の請求を妨げるべきものではないことを支持する意見が段段有力になりつつあることの好例だとする全造船のコメントに注目する。

  それに回答して、日本政府はローラバッカー法が平和条約による解決を遡及的に変更するという重大な問題をはらんでいることを指摘した。さらに、米国政府がこの法案がサンフランシスコ条約で規定された義務を冒涜し、日米関係を悪くするものだとして、強く反対していることを報告した。


戦時産業強制労働についての最終結論

戦時性奴隷制度の時と同様に、本委員会には多国間ないしは二国間の国際条約や協定の法的効力について決める権限はないことを言明する。また、本委員会は同じように浮島丸、劉連仁、三井鉱山、福岡地裁の案件などのその後の進展やその他の密接な関連のある判決、政府の立法、行動などについての情報を引き続き求める。また総会委員会は3者ベースでこの事柄を検討したいと思うかもしれない。