「西松建設訴訟・最高裁勧告の実現を求める会」発足にあたってのアピール

今年は日中平和友好条約締結30周年にあたります。日本と中国の経済関係が密接不可分なものとなる一方で、両国の間にはなお歴史認識の溝が横たわっています。未来にむけて日中関係をさらに発展させていくために、その溝を埋める努力が求められています。
中国人強制連行の補償請求訴訟について、最高裁判所(第2小法廷)は、昨年4月27日、初めての判断を示しました。中国人被害者たちの西松建設に対する請求を容認した広島高裁判決は変更されましたが、問題の解決について、重要な方向性を示したものとして注目されます。
 すなわち、「個別具体的な請求権について、債務者〔西松建設〕側において任意の自発的な対応は妨げられないところ、本件被害者らの被った精神的、肉体的苦痛が極めて大きかった一方、上告人〔西松建設〕は前述したような勤務条件で中国人労働者らを強制労働に従事させて相応の利益を受け、更に前記の〔国家〕補償金を取得しているなどの諸般の事情にかんがみると、上告人〔西松建設〕を含む関係者において、本件被害者らの被害の救済に向けた努力をすることが期待されるところである。」と(〔  〕内は引用に当って)。
最高裁がこのような勧告を行うことは極めて異例なことですが、そう勧告せざるを得ないほど中国人強制連行・強制労働の実態がひどいものであったからに他なりません。勧告には、西松建設と関係者が中国人被害者の救済にむけて決断することへの最高裁の期待が込められているといえます。
 日本経済団体連合会が2004年5月8日 付で採択した「企業行動憲章」は、『企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)』への取り組みを強調しています。CSRへの取り組みに消極的な企業、CSRに関心を示そうとしない企業は、投資不適格企業とみなされる時代を迎えています。
去る2月18日、中国人強制連行・長崎訴訟の控訴審(一審敗訴)で、福岡高裁は、結審した後進行協議を行い、今後和解の場の設定を模索することにしました。被告の三菱マテリアル側は「和解するなら、全体的、抜本的な解決につながる和解を考えたい」としています(長崎新聞、08年2月19日)。業界内の他企業の動きをうかがい牽制しあう時代は終りを告げようとしています。
最高裁判決1周年を前に、私たちは本日、「西松建設訴訟・最高裁勧告の実現を求める会」を発足させました。
 広島県安野へ強制連行された中国人たちの多くは無念の思いをいだいたまま亡くなられ、生存者は年老いています。被害者のためにも日本企業の名誉のためにも一日も早い問題解決が必要です。私たちは今後、被害者たちとともに、西松建設がCSRを果し最高裁勧告を早急に実現することを求めていきます。

 2008年4月19日

「最高裁勧告の実現を求める会」(あいうえお順)
池田香代子(翻訳家) 石村修(専修大学教授) 内田雅敏(弁護士) 内海愛子(早稲田大学客員教授) 奥平康弘(東京大学名誉教授) 鎌田慧(ルポライター) 古関彰一(独協大学教授) 斎藤貴男(ジャーナリスト) 佐高信(評論家) 田中宏(龍谷大学教授) 辻井喬(作家) 土屋公献(元日本弁護士連合会会長) 田英夫(元参議院議員) 土井たか子(憲法研究者) 内藤光博(専修大学教授) 弘田しずえ(カトリック正義と平和協議会運営委員) 古川純(専修大学教授) 前田哲男(軍縮問題研究家) 村井吉敬(早稲田大学客員教授) 村岡久平(日中友好協会理事長) 矢田部理(弁護士) 山内敏弘(龍谷大学教授) 水島朝穂(早稲田大学教授) 渡辺峯(元日本YWCA会長) 白西紳一郎((社)日中協会理事長)

連絡先■「最高裁勧告の実現を求める会」
       東京都新宿区三栄町八番地三栄ビル6F 四谷総合法律事務所気付
      TEL:03-3355-2841 FAX:03-3351-9256