反安保実 NEWS 第11号
(イラク・レバノン戦争と国連・自衛隊を問う9・29集会報告)
イスラエル〜パレスチナ〜国連
       岡田剛士
   

 
 パレスチナとイスラエルを含む中東地域での紛争に、国連はいろいろな形で関わってきました。しかし、その関わりにはいろいろと問題があったし、今もある、と思います。
 例えばこの夏のレバノン戦争が、国連安保理での停戦決議(一七〇一号/八月一一日に採択)によって、ようやく停戦が実現した。「いや〜、良かったですねえ……」と。でも、そういう単純な図式だけでは済まないだろう、と思うわけです。
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 この国連安保理決議一七〇一号の内容を、ごく一部ですが、みてみたいと思います。まず第二段落。
 二〇〇六年七月一二日のヒズボラによるイスラエルに対する攻撃以来、レバノンおよびイスラエルでの戦闘が激化を続けたことにより、双方の死傷者が既に数百人を数え、民生インフラに甚大な被害が及び、数十万人の国内避難民が出ていることにつき、最も深い憂慮を表明し、
と書かれています(1)。
 七月一二日のヒズブッラーの「攻撃」だけが今回のレバノン戦争のきっかけであるかのような表現です。このヒズブッラーの「攻撃」に至るまでの、それ以前の経緯など全くなかったかのような書き方だ、とも言えると思います。また、ロイター電(八月一四日現在)では死者の数だけでもレバノン人約一一〇〇人、イスラエル人約一六〇人です。「双方の死傷者が既に数百人を数え」では、どちらの被害が甚大であったのか、イスラエルによるレバノンへの攻撃がどれほど破壊的なものだったのかが、全く不明確にされてしまっているわけです。
 第三・第四段落。
 暴力を終結させる必要性を強調すると同時に、拉致された〔abducted〕イスラエル兵の無条件での解放を含め、目下の危機を生じさせた原因に緊急に取り組む必要性も強調し、
 捕虜問題〔issue of prisoners〕の取り扱いには慎重を要することに留意するとともに、イスラエルに抑留中のレバノン人捕虜〔prisoners〕問題の緊急解決に向けた取り組みを促し、
と書かれています(2)。
 「abduct」は、例えば『新英和・和英中辞典』(研究社)だと、「〈女・子供を〉(暴力で)誘拐する」、です。まさに「拉致」です。「prisoner」のほうは、「prisoner of war/POW」が戦争捕虜の意味ですから、この決議では、これと同じ意味で使っているのでしょう。
 そうすると、ヒズブッラーによる兵士の捕捉は「拉致」であり、イスラエルが捕捉・抑留すると「捕虜」だ、ということになります。「拉致」と「捕虜」では、かなり意味合いが違ってきます。さらに、イスラエル兵については「無条件での解放」を求めており、一方でレバノン人捕虜については「緊急解決に向けた取り組みを促」すとされています。非対称性は明らかです。
 もう一つだけ、決議文の中の安保理の要求項目の六番目です。
6.国際社会に対し、避難民の安全な帰還に便宜を図ること、ならびに、レバノン政府の権限下で、本決議パラグラフ14および15に沿う形で、空港および港湾を復旧させることを含め、レバノンの人々に財政支援と人道援助を提供すべく、直ちに策を講じるよう呼びかけるとともに、同じく国際社会に対し、今後、レバノンの復興と開発に貢献するため、一層の援助を検討するよう呼びかける。
と書かれています。
 先ほどの武者小路さんからのお話の中で、「反テロ」戦争が、破壊と再建がセットになっていて、そこに国連も日本も部分的には協力しているのだという構造について述べられていました。決議のこの部分は、まさにそういう構造を示していると思います。レバノンを破壊したイスラエルの責任は、一切問われていません。そして復旧は、国際社会に対して呼びかけられている。すると当然、各国の様々な利権もからんでくるでしょう。
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 全体として、この決議一七〇一号ではイスラエル側の責任が問題にされていないと思います。「イスラエル非難を盛り込んだら決議が通らない」\\それは国連安保理の現状かもしれません。しかし運動の側に立っている僕たちとしては、破壊と殺戮の限りを尽くした側が問われないという「構造」自体を、さらには、こうした戦争を「自衛」の名の下に遂行するイスラエルという国家自体の問題を、きっちりとみていく必要があると思います。
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 もう一つ、これは日本国家のパレスチナへの関わりについてですが、今回のレバノン戦争の開始とほぼ同時期の七月一二・一三日に小泉が中東訪問を行い、その際にイスラエル、パレスチナ自治政府、ヨルダンそれぞれとの会談の中で提示したのが「平和と繁栄の回廊」創設構想でした(3)。
 要するに、持続的な和平実現のためには、経済開発による「平和の配当」と、当事者間の「信頼醸成」が必要であり、日本が媒介役を果たしながら、パレスチナ、イスラエル、ヨルダン、日本の四者からなる地域経済開発のための協議体を立ち上げる。そして具体的には、「ヨルダン渓谷西岸側に農産業団地を設置」し、その生産物の配送センターをヨルダンに設置し、湾岸アラブ諸国を市場としても想定しつつ、物流を促進する、という構想のようです。日本の対パレスチナ支援としては、これまでの支援よりも、内容的には一歩踏み込んだプランだと言えます。
 一九九三年のオスロ和平合意のときにも「平和の配当」(平和によって経済的な豊かさも実現する)ということが言われました。「平和と豊かさ」は誰もが望むものではあるかもしれません。しかし歴史的なパレスチナ問題において、イスラエル国家と、その軍事主義、パレスチナの軍事占領こそが問題なのだという、一番基本的な事柄が、しかし問われないままであれば、真の「平和」は実現しないのではないかと思います。
 さらに、この農産業団地の予定地であるヨルダン渓谷西岸側は、ジェリコという小さな町以外は、オスロ和平プロセスの時期においてすらイスラエル側による完全な占領・支配が続いてきたし、今も続いている場所です。ヨルダン川を挟んでヨルダンと境界を接しているが故に、イスラエル国家の「防衛」のためには死活的な地域です。入植地が南北に続くベルトのように建設されてきました。今後、もしもヨルダン川西岸地区からイスラエルが一方的に「撤退する」ことがあったとしても、安全保障のためにイスラエルの支配下に残されるだろうというふうに公然と語られている場所でもあります。
 それゆえ、こうした場所に構想される農産業団地が、本当にパレスチナ人たちのためになるものなのかどうか、かなり疑問だと思わざるを得ません。今後も注意してみていく必要があると思います。
【注】
(1)日本語訳は http://www.unic.or.jp/new/pr06-056-J.htm によった。以下の引用も同じ。
(2)引用中の〔 〕で括った英単語は、引用者が説明のために原文から挿入したもの。
(3)外務省のホームページ http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/18/rls_0713b_3.html を参照


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