反安保実 NEWS 第10号

視点・論点 E
「国民保護体制」が動き出した中で私たちは何を考えるべきか?         山本英夫

  


 ご承知のとおり、去る七月五日、北朝鮮はミサイルをロシア沿海州南方海上に発射する実験・訓練を行った。
 これに対して、日本政府は、マスコミを通じて、「日本海に着弾」などと大騒ぎ。また翌日の朝日新聞等が報じたように、各都道府県も「国民保護計画」等に基づき、体制を取り、その大騒ぎに参入していた。
 その動向について、私は「派兵チェック」八月号に北海道、新潟県、福井県、東京都の事例を紹介しながら自治体が何をやったのかを整理した。本項では、やや立ち入って問題点を探ってみたい。
 米軍は、北朝鮮軍の動向を偵察衛星や偵察機を飛ばすことによって、五月上旬から情報を収集し分析していた。日本政府にもその概要はもたらされ、政府は六月末、ハワイ沖でリムパック演習に派遣していた海自のイージス艦を日本近海に引き戻させるなどミサイルの監視体制をとっていた。
 むろん事態は、「武力攻撃事態」にも「武力攻撃予測事態」にもならなかった。だから都道府県が「国民保護態勢」を取ったのは、国民保護法に基づくものではなく「自主的判断」によるものだ。
 しかし、そんな必要があったのだろうか。何もないし、自治体が住民保護のためにやるべきことは全くない。
 佐賀県危機管理広報課は、五日夕刻に予定していた議会後のご苦労さん会(宴会)を実施したことがマスコミに報じられ、事後に処分までされたのだ。とんだとばっちりだ。なお危機管理広報課は国民保護態勢の担当課ではない。担当は総括本部消防防災課なのだ。
 近年「危機管理能力」なるものが、行政や企業の内外で優先課題とされているが、如何なる危機を如何なる方向に管理するのか、極めて危うい言説だ。佐賀県の今回の例など典型的な情報操作であり、ただ気分は「戦争」に染め上げていくものだ。
 ここで問題。総務省消防庁のまとめによれば、四七都道府県全てが何らかの対応をとったというが、「自主的」な対応だったのか?
 私はウソだろうと考える。いくらワールドカップの深夜放送を当直の職員がみていたとはいえ、即座に対策室等の設置を幹部職員が決定できるだろうか。不思議なことに対策室等を立ち上げた時間は、五日五時過ぎに集中している。NHKがテロップを流し出したのが四時三〇分頃からだというから、ものすごい手早さだ。
 またいくつもの自治体は、六月半ば以降、対策会議を開催し、どうするのかを検討してきたようであり、当然にも消防庁等国からの情報とも擦り合わせてきた。
 しかし私が疑っているのは、内閣官房の動きだ。北朝鮮当局は七月四日(三日説も)、近隣海域にいる船舶に危険情報を流していたのであり、自衛隊もこの情報をキャッチ。当然、内閣官房にもこうした情報はもたらされ、四日夜、対策会議を行っていた(『文芸春秋』九月号安倍晋三インタビュー)。こうした中で、内閣官房から非公式に都道府県に発射予告がもたらされ、都道府県としての準備が示唆されたのではないだろうか。
 国は、今回のミサイル発射事案をMD関連の早期実施にフル活用し、「国民保護」という名の有事体制構築の一大実験・訓練場にしたようだ。
 国民ホゴ体制が住民・市民を巻きこむ日が近づいている。九月一日に行われる防災訓練も戦時訓練の色合いを強めてくるだろう。私たちはどこに対抗軸を構築し、反撃を展開しうるのかを早急に検討しなければならない。
(やまもと ひでお/東京都国民ホゴ条例を問う連絡会)

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