反安保実 NEWS 第10号

視点・論点 A
劣化ウラン兵器に関する疑念を外務省と防衛庁に質す
        梶川凉子   

  


 七月二一日、「劣化ウラン兵器禁止・市民ネット」の四回目の外務省・防衛庁への質問、申し入れ交渉が、参議院議員会館で行われた。先に提出しておいた質問書に対する回答がそれぞれ一時間半、担当職員から説明されるもの。外務省からは八名。毎年のように行ってきた交渉であるが、人事異動はかなり短期間で実施されるようで、前回に見覚えのある人は一名だった。予想のとおり、多人数のわりに内容のある回答はなかった。
 イラクへの医療援助に関して度々質問しているのに対して、「ODAによるイラクの人々に対する医療支援」という資料で説明があった。日本政府は劣化ウラン兵器が人体に影響を及ぼすものとは認めていない。米国の「白血病などと劣化ウランとの因果関係は証明されていない」という姿勢を終始支持している。劣化ウラン兵器の影響と思われる病気には極力触れないような内容になっていた。エジプトで行われている「日・エ合同医療関係の研修」でも一般医療科目に関するものがほとんどで、第五次の二〇〇六年四月からの科目にようやく一つ、小児ガン科があるにすぎない。サマーワで行われた自衛隊医官による、住民への直接診療の内容への質問にも「通常の診察、治療だけで、特定の病気を想定したものではない。飲み薬をだしたり、塗り薬をつけたりです」と。
 バルカン半島の放射線被害の調査に関する質問に対して、バルカン担当部署からの出席があった。旧ユーゴ地域の調査、放射能の除去作業、イタリーの兵士、米軍の兵士の被爆に関する情報については、「劣化ウラン兵器の影響があるとは承知してない」を連発して、質問者側の「ヒロシマ・ナガサキの被爆経験を活かした行動がなにかできないのか」との問いには答えなかった。あくまでも米国と日本政府の口上を鸚鵡返しする立場を崩そうとしないで、「……とは承知していない」をくりかえす官僚の硬直した人形を、今回もいやというほど見せつけられた。
 防衛庁からは若い事務方自衛官が四人出席。「戦場でないサマーワ」はもちろん、イラクにはまるで劣化ウラン兵器などは存在しないかのような発言ばかりが続き、笑ってしまうしかない雰囲気だった。帰ってきた隊士の帰還後の検診の内容も、「通常の健康診断」を行っている、を繰り返した。尿検査の項目を聞いても、蛋白とかコレステロール値とか普通のものです、と放射能汚染など露ほども疑っていないふうを装いつづけた。全員持たされている高価な線量計は、「なにかの放射性物質」があるといけないからで、劣化ウラン兵器を想定したものではないと強弁。それ以外になにが存在するというのか、との山崎久隆さんのつっこみにも、平然としていた。それでいて、ウランと劣化ウランはどう違うのか、と山崎さんに聞く始末。
 先任のイギリス、オーストラリア、オランダから、米英軍の使用した劣化ウラン弾についての情報は得ているかの質問に関して、「他国と行っている情報交換や収集については、相手との軍事機密協定により、お答えできない」といい、これ以外にも例によって「軍事機密」を連発して、話にならない。
 サマーワから撤退しても空自が残る。宿営地はクウェートで、バクダッドに宿営はしない、だから被爆の危険はない。バクダッドの開戦当時に多用された劣化ウラン弾の総量、使用地域に関する情報については、「入手していない」と。
 終始、「劣化ウラン兵器」の存在など一切ないかのように答弁し、「劣化ウラン兵器を無視しているようですね」などとこちら側で笑いあった。米軍も自衛隊も帰還兵士の健康チェックには放射能被害に関する項目を入れていないはずはない。自軍兵の損害を減らさないと今後の戦争は困難になるから、データを蓄積しているに決まっている。その結果は当該兵士にも一般にも公開しない。アサフ・ドラコヴィッチ博士が出したデータや治療の情報についても、知らぬ存ぜぬを貫いている。不完全な装置管理だったらしい線量計の結果ももちろん公開しない。
 こんどのイラク戦争で使われた劣化ウラン兵器は、第一次イラク戦争、バルカン半島の紛争のときの使用量の二〇倍ともいわれる。あと三、四年したらおそらく夥しい白血病などの被曝症疾患が顕在化してくるだろう。イラクへの自衛隊派兵で約七四〇億円が計上された。無償経済援助としての医療援助費はたった一五億円。もう全部使いきった。あとは有償の五〇億円があるだけだ。イラク復興支援というなら日本や海外のNGOのもっているノウハウを活かして、医療援助に派兵費を廻すほうが、どれだけ有効かしれない。医療援助費は「基礎生活分野を主とします、イラクから要求されない分野には乗り出せない。必要なところにいかないのはイラク政府の責任です」などと言う。いまの不完全な政府に任せてゆきとどいた援助ができるとは誰も思っていない。放射線医学の進んだこの国の医療をイラクの子どもたちに、早く提供してほしい。形式的ひきこもり派兵は全く無意味だ。
(かじかわ りょうこ/グループ 武器をつくるな! 売るな!)

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