反安保実 NEWS 第10号

視点・論点 @
自衛隊イラク撤退後の海外派兵  
        池田五律      

  


 七月一七日、陸上自衛隊イラク復興支援群・同業務支援隊が、サマワの宿営地からの撤退を完了した。その撤退は、「路上爆弾の攻撃が少ない夜間の一番安全な時間を選」び、隊員はタリル空港から航空自衛隊のC130でクウェートに送り、車両は民間業者に委託して陸送するというものだった。宿営地には合計一四回も迫撃弾が撃ち込まれ、二〇〇五年六月一三日に自衛隊車両が遠隔操作の路肩爆弾で攻撃されてフロントガラスが割れドアが破損、隊員が実弾を装填し戦闘態勢に入って以降は宿営地に籠もりっきりになっていたのだから、攻撃をおそれるわけだ。死傷者を出さずにすんだのは、イラク人の現地雇用が「弾よけ」になったからだともいわれている。「復興支援」でなく、「戦闘地域」に派兵すること自体が目的であり、その派兵のために「復興事業」が行なわれたといっていいだろう。
 陸自がサマワから撤退しても海外派兵は終わらない。航空自衛隊は米軍など多国籍軍への「後方支援活動」を拡大し、タクシーさえ危険だから近づかないといわれるバクダッド空港をはじめバスラ、モスル、バラド、南部タリルと北部アルビルへと輸送活動を継続・拡大した。任務拡大に伴い、C130を三機と要員約二〇〇人に加え、多国籍軍との連絡や調整、情報収集などを行う「バグダッド連絡班」を編成し、クウェートを拠点とする要員も約一〇人増やした。米空軍の公式ウェブサイト「エアフォースリンク」が「空自は創設以来、初めて戦闘地域(combat zone)に配備される」と記載したが、文字通りの有志連合の一員としての「戦闘地域」での「後方支援活動」だ。それをターゲットにした攻撃によって航空自衛隊員に死傷者が出る危険性は少なくない。
 空自だけでなく、海自はインド洋での給油活動を継続している。陸自も、イスラエル占領下にあるシリアのゴラン高原にPKO派兵を継続中だ。イスラエルのレバノン侵攻で緊張の高まる中、ゴランPKOも安全とはいえない。危険地域への常時派兵状況とともに私たちは暮らしているのである。そして陸自も、北富士演習場内にはサマワの宿営地そっくりの訓練施設「リトルサマワ」で迫撃弾攻撃、爆弾を搭載した車の突入、自爆「テロ」、デモとの遭遇などの事態を想定した二四時間体制の派兵部隊訓練とサマワでの実地経験を今後に活かす機会を虎視眈々とねらっているといえよう。第九次派兵部隊の中心を担った第一師団が駐屯する練馬駐屯地だけをとっても、夜間市街地戦闘訓練が行われたり、南方転地演習の一環としても同様の訓練が行われた。第九次派兵隊員を含む第一師団が東京都総合防災訓練の一環と称して北区から足立区にかけ河川敷を夜間行軍する訓練を行なったりしている。国内での市街地戦闘をも射程に入れて、内外で本格的に「対テロ戦争」を担える存在に陸自は変貌しようとしているのである。
 また、小泉が去っても小泉時代に国会に提出された法案の審議は終わらない。国会末期に提出された防衛庁省昇格法案は、単に防衛庁の名称を省に変えるものではない。周辺事態での諸活動や「国際平和協力活動」の本務化を目論むものである。しかも、その次が既に控えている。日経新聞八月一七日によれば、次期首相の最有力候補といわれる安部晋三は二〇一〇年前後の憲法改正を視野に入れ、自衛隊を自衛軍と明記するとともに、集団的自衛権は改憲案に明記するのでなく現在の憲法の解釈変更で行使を認める方向で意見集約を行うという政策構想を打ち出すという。改憲を待たずに、「対テロ支援特措法」、「イラク復興支援特措法」などの時限的特別法でなく、有志連合での戦闘への参加を可能にする集団的自衛権行使の合法化を急ごうというわけだ。この動きは、恒久的海外派兵法の浮上を必至のものとするだろう。国連協力名目での派兵国家から有志連合の一員としての派兵国家へ。その第一歩となる防衛庁省昇格法案を阻止する取り組みを強化しよう。
(いけだ・いつのり/派兵チェック編集委員会)

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