反安保実 NEWS 第3号

視点・論点B 
「竹島問題」と「反日デモ」
―韓・中の活動家たちとのやりとりから感じたこと
           ◆笠原 光

  


 三月二〇日、韓国での世界共同反戦デーのデモに日本からの連帯訪問として参加した。折りしも、島根県が「竹島の日」を制定した直後で、韓国に入るやいなやテレビには一日中そのニュースが流れっぱなし。一方で、私が会った活動家たちは一様に「この問題が韓国のナショナリストたちに利用されるのは避けたい」と一歩距離を置いた姿勢。しかし、「日本の運動側からこの件に関する声明や活動の情報が欲しい」と強く依頼された。
 四月初め、今度は「つくる会」の教科書採択問題を発端に中国でデモが起きた。いち早く「『反日デモ』に関して、もっと別の立場を示すような日中の民衆の共同声明を出したい。そして、日本の運動が今回の件に関してどのような立場を取っているか、どのような活動が行われているか至急教えて欲しい」と連絡してきた劉健芝*は、中国本土、香港、台湾のメディアやインターネットでの議論は「つくる会」の教科書採択や日本の国連常任理事国入りに圧倒的反対を示しているが、一部のデモ参加者の過激な行為を誇張して映すこうしたメディアでないものに人びとのもっと冷静な感情をみることができるとして香港のメディアから次のような調査結果を送ってくれた。「一四二五人の香港の若者を対象にした調査では、過半数が日本の国連常任理事国入りに反対する一方、七〇%が自分たちも現代史についてよりよく知るべきと答えた。日本製品やマンガをボイコットすると答えたのは二〇%以下。そして、より良いコミュニケーションのために中国と日本の教師や若者の交流が必要と答えている。九六〇人の市民を対象とした別の調査では、八七%が日本の教科書問題に憤りを感じると答えたものの、デモや日本製品のボイコットに賛成したのは一〇%。三〇〇人を対象とした調査では、九〇%が日本の再軍備に反対しながらも九〇%が友達として日本人と付き合うと答えた。」
 キンチはまた、中国本土でもデモの暴力行為に対してはさまざまな見方があると言う。中国人の大部分は、日本の右翼勢力が一部分であることは認識しており、今回のデモがその右翼勢力を利することになるのではないかという懸念も広まっている。国内での暴力的デモに対する激しい非難と理性ある行動を求める声の高まりと政府による規制もあり、四月末にはデモは収束に向かった。今、公的知識人たちは、日中の市民社会間の対話、中国自国の歴史についても振り返ること、「平和」問題について再考しようと呼びかけている。一四万部を売り上げる著名な月刊知識人雑誌『讀書』には、日中の相互理解を促進のため六月に日本人知識人著のエッセーが掲載される予定だ。また、東アジアの活動家の間での情報交換とコミュニケーションのための中国語、朝鮮語、日本語、英語の四カ国語のウェブサイトもオープンする。
 一方、日本国内では、活動家、教育者、宗教者、NGO関係者ら一六人を呼びかけ人として「日本は近隣アジアとの衝突の道から引き返せ―歴史認識と『反日デモ』について―」という声明がつくられた。小泉政権に対して近隣アジア諸国との全面衝突の責任を取っての辞任と、日本政府の旧日本帝国による侵略・植民地化の忘却・免罪・美化につながる行為・政策の廃止を求めたものである。わずか一週間の間に七二八人の個人と六四団体から賛同が寄せられ、日本政府とマスコミの一方的主張に疑問や憤りを抱えていた人たちが多かったと実感した。この声明に関しては、衆議院議員会館と日本外国特派員協会で記者会見が開かれたほか、英語にも訳されアジア圏の活動家たちにも送られた。
 今回、韓国と中国の活動家と話すことによって、私が日本で報道を見ながら「これが日本政府の姿勢を変える大きな動きになるか」と感じる一方で、韓国や中国の活動家たち(国の事情は異なるものの)のナショナリスティックな動きの高揚と日本の右翼勢力への警戒が非常に大きいことが分かった。彼女ら/彼らのこの警戒心は、双方の国で起こった反日の動きをある意味で押しとどめることになったと言えるかもしれないが、このような状況の中に置かれている両国の活動家たちは、日本国内の運動や世論が日本政府の対アジア外交姿勢を変えるためにより力強く、幅広く高揚していくこと、そして、日韓中の民衆間の、より活発で戦略的な情報交換や協働の場を強く求めていると感じた。
(かさはら ひかる/アジア平和連合(APA)ジャパン)
*嶺南大学(香港)のカルチュラルスタディーで教鞭を取る。また、ARENA(Asian Regional Exchange for New Alternatives)のリージョナル・オルタナティブ・スクールのローカル・ガバナンス・プログラム共同議長、中国社会福祉および開発リサーチセンター(CSD/Development Research Centre )と湖北省(中国)の村を基盤とするジェームス・イェン農村再建運動機関の運営委員。

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