2001年10月30日

声明
市民は盗聴法の廃止を求める

盗聴法の廃止を求める署名実行委員会                  
日本消費者連盟 東京都目黒区目黒本町1-10-16 @03-3711-7766
日本基督教団社会委員会/日本国民救援会中央本部/
東京共同法律事務所(海渡)/ネットワーク反監視プロジェクト

■テロと報復戦争と盗聴強化に反対
 9月11日、アメリカで同時多発テロ事件が発生しました。私たちは、旅客機でビルを攻撃して多数の一般市民を犠牲にしたこのようなテロ行為を許すことはできません。しかし、この事件を受けてアメリカがアフガニスタンに加えている空爆などの報復のための戦争行為にも反対です。現に、アフガニスタンでは、報復攻撃により多数の一般市民が犠牲になっています。武力による報復は、報復を生んで終わりのない戦争となり、どれほどの生命が失われるか知れません。
 さらに、私たちはアメリカでテロ対策を理由として進められている司法的なチェックを欠いた盗聴や包括的な電子メールの収集などにも反対です。そもそもエシェロンシステムは本来敵国とされる国の軍事的情報の収集を対象としていました。しかし、これがいまや、同盟国やアメリカ国内のあらゆる情報のチェックに使われはじめており、また、すべての電子メールを捕捉するとされる電子メール傍受システム「カーニボー(肉食動物)」も本格的に稼働をはじめたとされます。このような世界一の盗聴体制を築き上げたはずのアメリカが、今回のような大規模なテロ工作を未然に防止できなかったことは、いくら盗聴と監視体制を強めても確信的なテロ行為には無力であることを示しているのではないでしょうか。テロ行為を準備する者は盗聴・監視のシステムをくぐり抜けようと必死に対策を講ずることでしょう。結局「自由」を守るために、テロの監視を強めれば強めるほど、一般の市民こそがプライバシーを失った「自由の牢獄」に住むことになってしまうのです。
 私たちは今回のテロを口実に日本がこの戦争に参加していくこと、そのために有事国家体制・国家秘密を守る体制と市民に対する盗聴・監視体制を強めていくことに強く反対します。いまこそ、日本は平和憲法の立場から、将来の平和な世界を見据えた和平の手段を考え、この冬には数百万人の餓死者も予測されるアフガニスタンの経済復興と難民支援の対策を考えていくことで国際的な責務を果たすべきだと考えるものです。

■緊急立法のはずが二年間適用なし
 1999年8月自民党・自由党・公明党は内外の大きな反対を押し切って盗聴法・組織的犯罪対策法を強行採決しました。
 それから丸2年が経過しました。しかし、この盗聴法による令状申請は一件もされず、盗聴捜査は実施されていないとされています。この事実が端的にこのような人権侵害立法の必要性がそもそもなかったことの証左といえます。

■プライバシーの危機をもたらす国家権力の情報収集とデータベース化
 法成立後に明らかになった神奈川県警・新潟県警をはじめとする警察腐敗・不祥事は、警察が盗聴法などを利用して収集する市民のプライバシーが不当な目的に悪用されるのではないかという深刻で広範な懸念を引き起こしました。警察刷新会議の報告に基づいて、苦情処理の充実などを理由として、人員増が図られました。その実態は市民生活の隅々まで警察が入り込み、組織犯罪対策センターなどハイテク警察化を急スピードで進め、市民生活の監視を強めています。不祥事で人員が増えるという意味では完全に焼け太り状態となっているのです。市民の警察組織に対するに不信は解消されていません。
 最近クローズアップされてきたアメリカ・イギリス等を中心とする世界的な盗聴システム・エシェロンに日本の三沢基地も組み込まれていることがわかってきました。このスパイシステムは、軍事目的だけでなく、アメリカ企業のための産業スパイ目的にも利用されてきたとして、欧州議会は厳しく非難しています。
 日本でも盗聴だけでなく、携帯電話の位置認識機能、Nシステム、街頭ビデオやコンビニや銀行などの店内ビデオなどが犯罪捜査に活用されています。また、警察の情報漏洩事件は、警察が氏名と生年月日で索引化された大規模なデータベースを構築し、これにあらゆる個人情報データベースを統合しようとしていることを示しているのです。
 また、現在国会に提出されている個人情報保護法はその名称とは裏腹に、市民の個人情報を行政や企業が勝手に利用することを許すものであり、公人とされる政治家などのプライバシー保護のため、報道機関・ジャーナリストの取材・報道の自由を制限するものであるという危惧が高まっています。
 個人情報の保護にとっては、まず、強大な国家権力による盗聴捜査やエシェロンシステムによる情報収集を禁止し、住民基本台帳法の改正が目指している公共機関の収集する個人情報データベースのネットワーク化を認めないことなどの方がより本質的で重要な施策といえます。

■市民立法運動としての盗聴法廃止運動
 私たちは法成立後も市民のプライバシーを侵害する盗聴法の廃止を求める活動を続け、法成立後前国会まで民主・共産・社民各党と良識ある無所属議員がこぞって盗聴法廃止法案を衆・参議院に提出するに至っています。
 2001年8月の参議院総選挙では、小泉与党が信任されたとされます。しかし、この選挙結果は、打ち続く不況からの脱出の希望を小泉構造改革に託そうとしたものにすぎません。小泉政権の発足前夜の森政権の支持率は一割台であり、市民の多くは過去の小渕・森政権の施策を支持したわけではないのです。先立つ衆議院選挙では盗聴法に強く反対した政党は議席をのばし、盗聴法を推進した政党と議員は市民の厳しい審判を受けたことは記憶に新しいところです。
 この間のロビー活動を通じて、私たちは現在は野党に回っている自由党ばかりでなく、与党の議員や秘書の方々から、非公式には「警察がこんなにひどいと思わなかった。こんな法律は成立させるべきでなかった」という声を聞いています。神奈川県警の現職警官による女子大生脅迫事件は盗聴法成立前の事件ですが、これらの腐敗が白日に曝されたのは法案成立の後でした。私たちは、公明党をはじめとする心ある与党議員の中から腐敗した警察に盗聴の権限を認めたのは誤りだった、という良識の声がわき上がることを心から期待しています。

■私たちはあきらめない
 盗聴法の適用事例がゼロということは、組織犯罪対策のために盗聴捜査が緊急に必要である等という法案審議時の警察の説明が、絵空事にすぎなかったことを示していると考えます。
 私たちはこの稀代の悪法・盗聴法を廃止するまであきらめるつもりはありません。私たちは、二回の選挙を経て、また、今回のテロに対する市民の不安に乗じて、警察は既成事実を作るために盗聴捜査を開始し、既に容疑者の割り出されている事件をあたかも盗聴捜査によって事案が解明されたかのような「盗聴捜査有効キャンペーン」をはじめる可能性もあるとみています。
 私たちの集めた盗聴法廃止を求める署名は既に22万人を超えています。大きな組織がバックにない市民的な署名運動が集めた署名数としては画期的と考えます。成立すべきでない法律が成立しても、市民と良識ある国会議員の協同した力で廃止できるのだという民主主義の生きた実例を作るため、私たちは盗聴法の廃止の運動を続けていきます。この臨時国会にも野党・無所属の議員ばかりでなく、心ある与党議員のみなさんのご協力も得て、盗聴法の廃止法案を衆議院、参議院の両院に提出していきたいと考えています。 どうか今後もご協力をお願いいたします。

以上