2001年2月22日

盗聴法国会報告に関する声明
「実施ゼロ」は盗聴法の廃止を求める市民の声に押された結果である

盗聴法の廃止を求める署名実行委員会     
連絡先 @03-3711-7766(日本消費者連盟気付)

 私たちは盗聴法の制定に反対し、法成立後はその廃止のための活動に取り組んできた市民団体・労働団体・ネットワーカーなどでつくる実行委員会です。私たちの集めた盗聴法廃止を求める署名はすでに21万人を超えています。
 政府・法務省は2月16日、「平成12年中に、検察官又は司法警察員において、傍受令状を請求し、傍受令状の発付を受け、又は傍受の実施をしたことはなく、また、傍受が行われた事件に関して逮捕された者はない」と国会に報告しました。
 盗聴法の成立は一昨年(1999年)のこと。施行はその1年後の昨年8月です。さらに施行から昨年末までは約4か月。準備期間を含めて実に1年4か月の期間がありながら、1件も実施しなかったと報告したことの意味は大きなものがあります。
 私たち「盗聴法の廃止を求める署名実行委員会」では、この事実について以下の3点を表明します。

●実施ゼロという事実は、盗聴法に反対する市民の声の大きさに圧倒された結果であり、盗聴法廃止運動の大きな勝利である。

●一年の準備期間、約4か月の実施可能期間がありながら、1件も実施できなかったという事実は、「緊急の課題」とする盗聴法の趣旨自体と矛盾する結果であり、その必要性について再度慎重な検証がなされるべきである。

●一連の不祥事により、警察は全く信頼を欠く組織であることは明白である。令状を請求しない非合法盗聴捜査が本当になかったのか、厳密な調査が求められる。

 昨年は盗聴捜査の実施が1件もなかったという事実は、盗聴法廃止運動の実に大きな勝利です。そして一昨年の警察不祥事を受けて、「こんな警察に盗聴法は渡せない」という市民の声が大きく高まったことによるものです。
 一部報道によると、「同法は実施の要件が厳しく制限されており、捜査現場では運用にあたって慎重に対応している」と法務省ではみているとされていますが、盗聴法への批判と市民の監視の前に盗聴を実施できなかったということにほかなりません。

 政府・与党は法案審議中、盗聴法とそれに基づいた捜査態勢の整備が「緊急の課題」だと説明していました(陣内孝雄法務大臣・当時、1999年7月6日参議院法務委員会)。また、「薬物取引などの組織的犯罪が増加していて、そのような犯罪捜査には通信傍受が非常に有効だ」という説明をしていました。しかし、1年4か月の時間がありながら、1件の実施もないのは、これらの説明と大きく矛盾する結果です。
 そもそも、私たちは盗聴法の必要性について大きな疑問を抱いていました。多数の法曹関係者や犯罪捜査の専門家からも、実効性について疑問の声があがっていました。盗聴捜査がそれほど有効で、組織的犯罪対策が「緊急の課題」ならば、なぜ施行後4か月も実施しないのか。この空白の4か月は、このような説明に無理があったことの証左であり、これにより盗聴法の趣旨自体が根底から崩れ去ったといえます。
 また、今年度数億円の予算を計上しながら、一件も実施できないということは、きわめて非効率だと言わざるを得ません。アメリカでは、盗聴捜査に莫大な予算(令状1件あたり約720万円・全体で年間50億円以上)をかけながら、急増する盗聴件数の一方、証拠として採用された通話は、盗聴した全通話回数のうち2割を割っているといわれています。盗聴捜査が、新たな「無駄な公共事業」とならないうちに、費用対効果の面からも、再度詳細な検証が必要です。

 もう一方で、法に基づかず、令状の請求も行われずに非合法に実施された盗聴がなかったのか、この点も追及する必要があります。NTT労働者やインターネットの専門家などによれば、すでに警察が整備している盗聴システム(試験モニター装置・TWS、仮メールボックス)では、政府が「乱用の歯止め」と説明する法律上の規定さえも無効にすると指摘されています。方法によっては、警察署内からの盗聴も可能であり、令状請求に基づいた通信業者の協力さえも不要にしてしまいます。
 また、施行規則なども事実上警察にフリーハンドを与えるものです。昨年の一連の不祥事で、警察が法律を守らない組織であることも明らかになっています。緒方宅盗聴事件についても未だに認めず、責任も追及されていません。私たちは、客観的でより詳細な情報が公開されない限り、非合法盗聴の可能性を否定することはできません。

 このように、そもそも憲法に違反し、必要性・有効性、実施方法、実施組織、すべての点において条件が整わないこの悪法は、即刻廃止すべきであると考えます。