書評

小西誠・渡辺修孝・矢吹隆史 /著
四六判・本体2000円・社会批評社刊
《本書の概要》
第1章 自衛官・家族の皆さんへ イラク出動Q&A
第2章 ドキュメント「こちらは、米兵・自衛官人権ホットライン」
第3章 イラク派遣予定部隊からの報告
第4章 サマワ自衛隊の活動を検証する
第5章 海外派兵時代の自衛隊員たちの苦悩
第6章 自衛官の人権 その現状と今日的意義
ホットライン事務局・藤尾靖之

 現在の自衛隊の海外派兵の時代に、この本は実に画期的な内容をもっている。まず曹・士階級という、自衛隊の下級隊員を対象として隊員の意識、派兵の現実、現在の自衛隊が抱える人権問題などを分析すると共に、海外に派兵され、戦争に参加させられていく自衛官にいかに「反戦・非戦」を訴えていくかという問題が、真正面から取り上げられている。
 一般の新聞などのマスコミで意見発表できるのは、多くは幹部自衛官であり、それも防衛庁の幕僚(参謀)クラスであるのが大部分だ。あえて言えば、社長や取締役が平社員やアルバイトの気持ちを代弁できるのかと言えるし、それに自衛隊の報道管制は今話題の西武資本の比ではない。一般の隊員は、町でインタビューされても「ノーコメント」に毛が生えたことぐらいもいえないのだ。
 それゆえ、この本の中で白眉なのは第2章の隊内レポートである。陸士・陸曹という自衛隊の下級隊員の普段知られることのない率直な意見が明らかにされている。ここで目立つのは、士階級の若い隊員が非常に海外派兵に対し批判的であったとしてもやる気まんまんだということだ。考えてみればあたりまえだといえる。隊内での評価が上がることはもちろん、中卒・高卒の隊員にたいし、月150万円のオファーは法外であり、金でつっていると言われても仕方のない金額だ。その一方で、陸曹の多くは人生経験をつみ、自衛隊に対する幻想を陸士ほど持たないせいか批判的な意見が多い。中には率直な反対意見もある。女性自衛官ではないかと思われる人の意見は、一般の人から見れば自衛官としての自覚があるのかなどと突っ込みたくなるだろう。しかし、そんな彼や彼女たちも自衛隊法が変わり、憲法改悪が強行されれば(それはここ数年内に起こる)、戦争をやることになるのだ。
 筆者は、A君の説得を行おうとするがうまくいかない。しかし、それは筆者の責任ではなく反戦運動の側が海外派兵の時代に運動だけでなく論理の面でも遅れをとっていることが問題だと、このレポートを見て痛感する。もっと柔軟で強い反戦の論理が必要なのだ。 他の章で語られていることだが、「武器を持つ人間が本当に人権を尊ぶ思考を持っているのならば、「はじめから武器を持たない」のでなくて、途中から武器を捨てるだろう」という考えは傾聴に値する。ベトナム反戦運動も帰還米兵の運動から始まったのだ。
 そのほかこの本では、自衛官の家族問題、自殺、いじめ、訓練強化など、ホットライン運動がこれから取り組むべき課題と方向性について展開されている。自衛隊員にとっての、「最後のよろず相談所」として、質をもっと高めなければいけないのだ。
 最後に、この本を読むことによって、塀の内と外はきっと分かり合えるということに確信を持っていただければ幸いである。(ホットライン事務局・藤尾靖之)

★この本は、1年間のホットラインの活動報告です。小西誠・渡辺修孝・矢吹隆史(現職 自衛官)の3名が代表執筆しています。 
★この本は、ホットラインニュースに同封の振替用紙で購入できます。会員・サポーターには送料・手数料込み2,000円でサービスしています。

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