ホットラインへの相談

 自衛隊のイラク派兵が長期化する中で、ホットラインへの自衛官・家族の相談も当初よりはしだいに減少している。もっとも、これは私たちにとっても予想された事態だ。派兵の既成事実化ということもあろうが、何よりもイラク・サマワでの自衛隊の状況がまったく報道されなくなっているからだ。サマワからすべての報道機関が撤退したことも大きい。
 しかし、この中でも、ホットラインへの自衛官・家族の相談も少なからず存在する。開設当初では、隊員家族のイラクでの命の危険などの問題が多かったが、最近多いのは、隊内のいじめの問題だ。
 上官らの執拗ないじめに遭っている。そのいじめも陰湿で繰りかえし行っている。勤務を過重に付けられたり、休みの日でも外出を不当に制限される。果ては、酒席を異常に強要されるなどなど。
 ここ数年、自衛官の自殺の異常な多さが報道されているが、この自衛官の自殺の問題も、おそらく、この隊内のいじめ問題と関係する。防衛庁においても、この自殺の原因はほとんど解明されていない。たぶん、自衛隊のイラク派兵に伴う対テロ訓練の苛酷化などが、すでに隊内に異常なまでのストレスをつくりだしている、ということだろう。
 私たちは、このような自衛隊の長期の派兵に伴う、自衛官のあらゆる人権の問題も取り組んで行くべきであろう。本来、ホットライン運動の開設目的は、「自衛官の人権」の相談ということであり、常設の人権機関として、ホットラインが在ることはとても大事なことであるからだ。

「日本国籍」の米兵からの相談

 この最近、ホットラインには米兵からの相談も寄せられた。本来、米兵からの相談については、米・オークランドのホットラインに繋ぐことにしているのだが、この米兵は、「日本国籍」の米兵だ。米兵の中には、米国の市民権獲得のために入隊している中米などのマイノリティーが多いのであるが、おそらく、このような市民権獲得のために入隊している「日本国籍」の兵士は、多数存在するのかもしれない。
 相談者の米兵は、今春にはイラクへ派兵される予定だという。本人は、もちろん、アメリカのイラク戦争には反対であり、入隊当初、イラクへ派兵されるというのは、予想もしていなかったという。
 アメリカ本国の部隊にいる「日本人兵士」との連絡は、なかなかとりにくいのだが私たちはこのケースは、とても重要な問題を抱えていると思う。というのは、これからのイラク戦争の長期化では、自衛官のみならず、米軍の中の「日本人兵士」の「戦死」のケースも生じると思うからだ。
 イラク戦争では、多国籍軍の戦争の中で世界各国の兵士たちの「戦死」が生じているが、このような「日本人兵士」の存在も忘れてはならない。

イラク戦争の長期化と反戦運動

 いずれしろ、現在進行している事態は、イラク戦争の長期化であり、自衛隊のイラク派兵の長期化だ。米国防長官によると、アメリカのイラク派兵期間は、あと5年ということである。実際には5年で済むかどうか。、問題なのは、自衛隊のイラク派兵も少なくとも、あと5年は続くということだ。最近の「日米同盟の緊密化」からして、米軍が撤退するまで自衛隊が撤退するということは考えられないからだ。
 自衛隊の派兵が、このように長期間続くとなると、イラク情勢の泥沼化からしてこの「イラク事態」によって、自衛隊は大きく変わっていくことになる。つまり、「派兵の時代」の長期化・継続化は、自衛隊はもとより、国内の体制も変えていくことになりうるのだ。
 現に、今通常国会では、自衛隊の「海外出動」が「本来任務」(自衛隊法第3条改悪)として加えられようとしている。そして、改憲もまた、このイラク情勢の推移によって進行すると言えよう。この意味では、私たちはイラク反戦―自衛隊撤退運動を軸に、反戦運動を再度創造的に強化すべきときにきている。