尾形憲
人権ホットライン共同代表
イラク違憲訴訟・東京共同代表


 イラクへの米英の侵略戦争が始められてから間もなく2年になる。
 この戦争はイラクでの大量破壊兵器(WMD)のアメリカへの脅威に対する自衛先制攻撃ということで行われた。だが、その後の調査団の報告で、WMDの存在もその計画も皆無であることが明らかとなった。
 ついでアメリカが持ちだしたのは、テロ集団アルカイダとフセイン政権との協力ということだった。だが、これもないことが明白となった。さらにフセイン独裁政権からの民衆の解放が謳われたが、イラクでの世論調査では米軍を解放軍とするものがわずか2%、占領軍とするものが実に92%だった。
 この戦争は国連憲章も国際法も一切無視して始められ、アナン国連事務総長もくりかえしこれを非難している。フランスやドイツははじめから反対であり、この戦争に同意する「有志連合」はわずか49カ国、参戦は39カ国だが、そのうちすでに撤兵が9カ国、近く撤兵予定や撤兵検討・縮小予定は13カ国で、残りの17カ国も派兵10人から160人という名目だけのものが10カ国で、実質的な参加は米・英・伊・日・韓・オーストラリア・デンマークの7カ国にすぎない。国連加盟191カ国のうち、これだけが小泉首相の言う「国際協力」という名の「対米協力」を行っている。
 だが、小泉政権は、“Show the Flag”“Boots onthe Ground”という米政府の要請に唯々諾々として従い、テロ特措法に次いでイラクへの自衛隊派兵を行った。憲法違反はいうまでもない。集団的自衛権行使は違憲としたこれまでの政府見解は一切無視である。さらに「極東」範囲に限定した日米安保条約、防衛出動と治安出動を定めた自衛隊法、周辺事態での日米協力いう周辺事態法、すべてへの違反であるだけでなく、「非戦闘地域」での活動というイラク特措法自体が破られているという、まったくの無法状態である。
 イラク特措法の実質審議はわずか10日、小泉首相は「憲法の前文と憲法第九条の間にはすき間がある」「はっきりとした法律的な一貫性、明確性を問われれば答弁に窮してしまう」と答えている。
 こうした無法な自衛隊派兵にアラブ武装勢力は、日本も対米協力国として名指しで殺戮の対象とした。事実、外交官2名、民間人3名が殺された。このホットラインから派遣された渡辺修孝さんを服務5人は、捕捉後NGOなどの努力で釈放されたが、死の危険の直前だった。
 イラク派兵に対して、全国から反対の声がわき上がった。まず、北海道で元防衛庁次官だった箕輪登さんが違憲訴訟の声をあげ、それは愛知、東京、大阪、静岡、山梨、仙台、栃木、関西、岡山、熊本と全国に広がった。この訴訟団のなかから、現地イラクへ行って現地検証しようという声が上がったり、またイラク国際弁護団のスポークスマンでアラブ弁護協会の副会長ジアード・アルハッサウニーさんをお招きして、これらの各地で講演をお願いする準備も進んでいる。
 イラク国際弁護団は当初、フセイン元大統領の弁護のために結成されたものだが、米英の戦争犯罪を国際司法裁判所にかけようという動きもでている。9カ国約20人の弁護士が参加しており、ヨルダンのアンマンに事務所がある。元米司法長官ラムゼー・クラーク、元南ア大統領ネルソン・マンデラなど約1500人の支援者がいる。ファルージャなどイラク各地での虐殺の証言などが集められているとこことである。シアードさんは日本にぜひ来たいと言っており、憲法第九条のことや全国に広がっている違憲訴訟の実情をアラブの人たちに知ってもらういい機会となるだろう。
 政府は、昨年の12月14日で期限切れの自衛隊イラク派兵を強行延長した。日経、産経でさえ60%をこえる延長反対の世論をおしきってである。そして自衛官やその家族へのアンケートではつぎのような声が上がっている。
 「絶対に、自衛官がイラクへ行くことに反対します」
 「イラクには行きたくない。でも命令ならば仕方がない。国民に送り出してもらえるような環境をつくってほしい」
 「今日の派遣は今までの貢献とは全く違うと思います。政府に対する憤りを感じます。調査隊が安全を確認しても、いざ自衛隊が向かうのとはわけが違うと思います。日本は軍隊ではない! イラクは歓迎しているわけでもないのに、なぜ、危険を冒してまで派遣すべきなのか、小泉さんの考えが判らない。それなら自分も行くべきだ!」
 政府はインド洋大津波にも陸海空の自衛隊を大挙出動させるなど、海外派兵の既成事実をつぎつぎ積み重ねている。だが、これに対する反対の闘いも大きく広がっている。
 共に闘おう!