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レポート『北アルプス国際芸術祭2017公式ガイドブック』発刊記念「アートフェスティバルの楽しみ方―今、なぜ〈芸術祭〉なのか」
5月25日(木)銀座 蔦屋書店



5月25日(木)、銀座 蔦屋書店で『北アルプス国際芸術祭2017公式ガイドブック』発刊記念「アートフェスティバルの楽しみ方―今、なぜ〈芸術祭〉なのか」が開催された。哲学者の東浩紀、BT編集長の岩渕貞哉、総合ディレクターの北川フラムとの鼎談ということで、チケットは早くに完売。会場は熱気に包まれた。

会はまず、北川による北アルプス国際芸術祭のパワーポイントを使ってのプレゼンテーション。現地での制作風景など最新の情報も盛り込み、開幕まで1週間となった芸術祭の開幕準備が急ピッチで進められている様子が伝えられた。

続いて、岩渕は今年開催される国内外の芸術祭、国際展を紹介、BT8月号(6月中旬発売)で、これまで別々に特集してきた海外の国際展と国内の芸術祭を「アートフェスティバル」という括りで初めて一緒に紹介することを告げた。

そして著書『ゲンロン0観光客の哲学』が話題の東が発言。震災後の東北に通う中で、当事者第一主義への違和感から、「当事者」の対極ともいうべき「観光客」を論ずるに至る経緯を語った。それは、「ナショナリズムvsグローバリズム」という硬直化した二項対立からは捉えられなくなっている世界の見方を、「観光客」という「無責任」にグローバルに移動する人々の存在によって更新し、「連帯」の可能性を探ろうとする野心的な試みだ。

東は、この「観光客論」をヴォルテール、ルソー、カント、ヘーゲル、アーレント、ローティなどの哲学者の思想を検証する中で鮮やかに組み立てていくのだが、それがあまりにも、北川が越後妻有や瀬戸内での試行錯誤の中で考え、実感してきたことと符合していることに驚く。

現在、世界中で10億人の観光客が移動し、日本でも昨年、海外からの観光客が2000万人を超えた。昨年の瀬戸内国際芸術祭には国内外から100万人が訪れている。そこには大きな底流が動いていると思わざるをえない。北川は、第三次グローバリゼーションの時代、アートが人々の移動を生み出していることに注目し、それが地域を変える原動力になってきたことを実感してきた。

一方で、東は「観光客=悪」という固定概念に異議を唱え、観光客の「軽薄な好奇心」にポジティブな可能性を見る。「観光客は自分の土地ではやらないことをやる。その地で歓迎されるかどうかはともかく、他者と出会う。他者の土地では階層移動ができる。」「観光は、新しい産業と新しい交通が生み出した、新しい生活様式と結びついた行為、古い既得権益層と衝突する行為」であり、硬直化した二層構造から次のステージへの移行を可能にするというのだ。

それを受けて北川はさらに、「当事者」である住民にも、自分たちの土地を出て、「観光客」となることを勧めていると語った。「当事者」が「観光客」になり、再び「観光客」を「当事者」として受け入れる。そのダイナミズムの向こうに、次の芸術祭の姿があるのだろう。

地球規模の「観光」がもつ、深い意味と、現況を根本的に変えていく力についての東の深い洞察は、都市化により顧みられなくなり過疎・高齢化により地域力が減退した地域の元気を取り戻すために芸術祭に取り組む人々にとって、大きな指針と勇気を与えるものだ。『観光客の哲学』の冒頭で、東は書いている。

「批評には、まだ大きなことができる。」

思想と実践の幸福でスリリングな出会いを感じることのできた一時間半であった。

▼会場の様子









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