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地理歴史教育 2017年7月号 評者:白鳥勲(彩の国子ども・若者支援ネットワーク)
白金通信 2017年4月号 評者:高橋源一郎(明治学院大学国際学部教授)
出版ニュース2016年12月上旬号
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地理歴史教育 2017年7月号 評者:白鳥勲(彩の国子ども・若者支援ネットワーク)

私は貧困世帯の学習支援活動に取り組んでいるので、貧困が「人間の尊厳を奪う」現実を毎日見ている。多くの人、特に若者にじっくりと読んでほしい書である。

「なぜ豊かな国と貧しい国があるのか」「豊かな国にもある厳しい格差と貧困」「私たちにとってグローバル経済とは」「お金がお金を生む仕組み」「格差の減らし方―税金という接着剤」「すべての人が食べられる世界とは」など、世界の貧困と格差の問題を考えるうえでどのような事実を見つめて、何を明らかにすべきかが父親と娘の会話という形で示される。「問題の答えではなく、問題そのものを解き明かすためのツール」を読む者に与えてくれる。

それぞれのテーマについて問題を把握する視点、切り口が新鮮だ―南北問題の大事なと頃とは「歴史と人間の尊厳、ルーツは軍事力による植民地」、深刻な飢えが起きる原因の大半は「内戦などの武力紛争」、国際協力とは「日本国憲法を守ること、戦争をしないこと」、国内の格差の見つけ方とは「ある国のすべての所得を高い順から並べてトップ10%の人が全体のどのくらいの所得を占めているかを調べる」、税金の本来の役割は「格差を解決すること。すべての人が同じ人間として生活できる、社会の中で人々をくっつける接着剤のようなもの」、日本の農村が貧しさから抜け出したのは「農地を耕す者が所有したこと、食糧価格制度、農民の団結」―以上のような語り口で世界と日本の貧困と格差を考える糸口が随所にちりばめられている。

大変な犠牲を払ってつくられた日本国憲法9条、13条(個人の尊厳)、25条(生きる権利)がないがしろにされようとしている今、本書が問いかけている内容は重い。
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白金通信 2017年4月号 評者:高橋源一郎(明治学院大学国際学部教授)

勝俣先生は、国際学部教授を退官される直前の卒業式で、「わたしは、きみたちが社会に出て、生き延びる術を教えてきたつもりです」とおっしゃった。では、知識や情報ではなく、『生き延びる術』とは何だろう。それは、未知の何かが起こったとき、あるいは、どうすればいいのかわからなくなったとき、自分を助けてくれる自分の中の力だ。大学のカリキュラムにはいろんなことが書いてある。あるいは、先生たちは、黒板にいろんなことを書く。けれども、それらを学んだとして、その中のどれほどが『生き延びる術』といえるものだろうか。

勝俣先生は、この本の中で、具体的に、『生き延びる術』について書いている。確かに、本の中に書かれているのは、いま、わたしたちの世界の中に広がっている貧困と格差の問題、それをどうやって考えればいいのか、ということへの示唆だ。だが、そんな本は他にもある。ここには、それ以上の何かが存在している。

この本の中で、問いを発するのは、書き手、もしくは語り手の「娘」である。若い世代の代表として、「娘」は「父」に疑問を投げかける。その疑問に対して、「父」は、全身全霊をかけて応えようとする。ここで何より大切にされているのは、巨大な問題に対する回答の正しさではなく、誰に対して、どんな態度で応えるのか、ということだ。そのことに気づいたとき、我々は、この本のほんとうのメッセージを知るのである。
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出版ニュース2016年12月上旬号

現代企画室の「子どもと話すシリーズ」は、高校生や若者を対象としたものだが、大人にも勧めたいシリーズである。このたび続刊として勝俣誠著『娘と話す 世界の貧困と格差ってなに?』、それに『(改訂新版)娘と話す メディアってなに?』が刊行された。

『世界の貧困と格差ってなに?』(小B6判・200頁・1200円+税)は、国際政治経済学社であり、アフリかの地域研究を専門とする父と高校生の娘が、対話を通して世界各地の貧困と格差を考える。

高校生の娘が父と共にアフリカを訪れたことをきっかけに、国による貧困の差やグローバル経済の仕組み、地域の豊かな資源と貧困の関係、格差をつくる金融ビジネス、格差の減らし方、国際協力についてなど幅広いテーマを話し合う。

「わたしたちはどんな世界に住みたいのか」。このような問いに対して、著者は、〈「その世界とは北も南もお互いの違いがあっても、もはや武力の応酬でなく、話し合いで乗り越え、しかも地球環境を壊さない世界のことだ」といえるシナリオを今世紀にこそ見つけなければなりません〉と。これを考えるきっかけが本書の大きな目的であると言う。そして「より質素に生きられる地球文明は可能なのでしょうか?」。これが次に取り組むべき課題であると。

わたしたちはメディアを使いこなせているか−山中速人著『(改訂新版)娘と話す メディアってなに?』(小B6判・200頁・1200円+税)は、コミュニティラジオ局を舞台に、パーソナリティを務めることになった大学生の主人公が、新聞、ラジオ、テレビなど、マスメディアの歴史から現在のあり方まで幅広い問題を、ラジオ番組を通して検討していく。

それは1930年代のドイツで始まった、金もうけの王国に亡命知識人がやってきた、テレビがすべてを変えた、メディアが現実をつくり出す? マイノリティは発言する、最終回の「インターネットはわたしたちをどこに連れていくのか−ネットメディアの光と影」は、昨今の危機感を反映し全面的に書き換えたという。そして人びとがメディア・リテラシーを磨くことを訴える。

このシリーズは、子どもたちが対話を通して世の中の難問に挑むシリーズ。フランスのスイユ社から刊行され、人気を博したシリーズの翻訳版に日本語のオリジナルを加えて展開している。



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