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京都新聞    2014年3月16日 「楽読楽書」欄 評者:金原瑞人(翻訳家)
週間読書人    2014年2月28日
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京都新聞    2014年3月16日 「楽読楽書」欄 評者:金原瑞人(翻訳家)

〈海辺のきらめく青春小説〉

舞台は1970年代のオーストラリア。サーフィンにとりつかれた少年パイクレットと親友のルーニーは伝説のサーファー、サンドーと知り合い、次々にビッグウェーブに挑戦していく。何より張り詰めた文体が快い。

「そして一瞬波をかぶり、大量の水が勢いよく襲ってきて、僕は後方へ押し戻されるような感覚がした。回りにあるのは渦巻く蒸気だった。ほとばしりが最高潮に達した泡の源泉の中で、僕は身動きがとれなくなって、雑音と信じられない思いの中を漂い、それから、視界を奪う水煙のうねりに落ちていった」

この後から3人に奇妙な連帯感と高揚が生まれていく。しかし、若者特有の無鉄砲さや気まぐれがひずみや軋轢(あつれき)をもたらし、さらにサンドーの妻がこれに絡んでくる。傷つき傷つけ、嫉妬と羨望(せんぼう)と絶望がせめぎあう青春を、喪失の時代と捉えた作品。だがここにあるのは絶望ではなく、かけがえのないきらめきなのだと思う。
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週間読書人    2014年2月28日

〈『ブレス(呼吸)』刊行記念イベント開催「世界文学地図とオーストラリア」〉

1月29日、代官山のクラブヒルサイドでティム・ウィントン著『ブレス』(現代企画室)刊行記念イベント「オーストラリア文学とワインの会」が開催され、作家の池澤夏樹氏とメルボルン大学教授でオーストラリアの文化・文学研究者のケイト・ダリアン=スミス氏、モデレーターに本書訳者で早稲田大学法学学術院教授の佐和田敬司によるトークセッションが行なわれた。

『ブレス』の原著は2008年に刊行。昨年12月に「オーストラリア現代文学傑作選」の第二巻目として日本でも刊行された。本書は作者の出身地である西オーストラリアが舞台の青春小説でサーフィンを通じて自然や周囲の人との関係、自らの限界にぶつかっていく少年たちを描く。

池澤氏は自著においてオーストラリアを題材にし、また「世界文学全集」の編集も行うなど世界の文学に幅広く精通している。「『世界文学全集』の編集は可能な限り一人で行いました。オーストラリアの文学についても大変興味をもっていましたがその時は選びきれなかた。その折に一昨年来刊行された『異境』そして今回の『ブレス』。あの時史っていればよかったなと思います」と述懐。また旅や取材で訪れたオーストラリアのエピソードについて紹介しながら『ブレス』について「青春小説であるという容れ物を越えて登場人物の痛烈な関係を描き、そこに深く切り込んでいくということが言えます。あるいは人間と空気の関係。呼吸をすること、作中に登場するアボリジニの伝統楽器ディジュリドゥという吹奏楽器、サーフィン中に転倒して顔が出てくるまで息ができないシーン、呼吸は人間の一番基本的な振る舞いです。このあたりは全てタイトルにかかってきます。タイトルだけでなくこういった緻密な計算や伏線、仕掛けが巧みに作ってあり小説として大変良くできています」と感想を語った。

続いてダリアン=スミス氏は、オーストラリア文学は同じ英語圏であるアメリカやイギリスなどで高い評価を得ている一方、海外文学とりわけ英語文額の翻訳を多く出版している日本においては有名な作家を除き少数のものしか入ってきていないと言及。「オーストラリア文学についてもっと知ってもらいたい気持ちがありました。以前『ダイヤモンド・ドッグ』という短編小説を出版し多くの人に関心を持ってもらいました」と紹介した。『ブレス』については「人間関係の緊張とりわけ世代間の緊張がよく描かれていると思います。若い世代は好んでリスクを取り、年配の世代はリスクを取りたがらないという描写がなされます。これはオーストラリアで1980年代以降経験してきた社会的な変化の状況についても象徴しているものだと思います」と評した。

「オーストラリア現代文学傑作選」は出版を通じて、日豪の相互理解・交流を促す目的もあり、駐日オーストラリア大使館・豪日交流基金の助成をうけて刊行される。会場には駐日オーストラリア大使も出席し、会に先立ちスピーチを行った。









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