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みすず    2014年1、2月合併号 評者:野谷文昭(ラテンアメリカ文学者)
週間金曜日    2014年1月31日 評者:伊高浩昭(ジャーナリスト)
北海道新聞    2014年1月19日 「本の森」評者:野谷文昭(東大名誉教授)
ラティーナ    2014年1月月号 Libro 評者:伊高浩昭
まいにちスペイン語    2014年1月号
■天満放浪記    2013年10月4日
『ペルソナ・ノン・グラータ』の翻訳者、松本健二さんがご自身のブログ「天満放浪記」で、本書の背景を含めて紹介しています。記事を読む

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みすず    2014年1、2月合併号 評者:野谷文昭(ラテンアメリカ文学者)

チリの外交官によるノンフィクション。メキシコのある作家が、キューバについて書かれた本はプロキューバとアンチキューバの二つに大別できると言った。その意味で本書は後者に属すると言えそうだが、語られている論は決して乱暴ではない。彼は実証的データと作家的想像力を駆使して、1970年末から翌年3月までアジェンデ政権の代理公使として滞在したキューバでの体験を日誌風に書いている。外交官としての彼にはキューバ型の社会主義が自国にも可能か否かを知るという目的があり、結局否定的結論に達するのだが、ペルソナ・ノン・グラータすなわち好ましからざる人物として当局によって監視されていることに気付いたあたりから、叙述はミステリー小説風になってくる。ラテンアメリカ文学史にも記述されている言論統制事件としてのパディージャ事件のことやカストロとの対決などがスリリングに語られているのは、セルバンテス賞を受賞した作家である著者の筆力による。小説ならば同じ訳者によるボラーニョの短篇集『売女の人殺し』(白水社、2013年)とチリの新鋭アレハンドロ・サンブラの短篇集『盆栽/木々の私生活』(白水社、2013年)も挙げたいところだが、一作に絞った。
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週間金曜日    2014年1月31日 評者:伊高浩昭(ジャーナリスト)

〈外交官体験を作家として生々しく〉

著者はチリ人作家で元外交官(現在82歳)。チリのノーベル文学賞詩人パブロ・ネルーダは晩年フランス駐在大使になったが、パリの大使館で参事官としてネルーダを支えたのが著者である。チリでは1970年11月3日、サルバドール・アジェンデ大統領の人民連合社会主義政権が発足した。大統領は直ちに社会主義キューバとの国交回復を宣言し、著者は大使館開設の任務を帯び臨時代理公使として同年12月にハバナに派遣された。翌71年3月まで3カ月半の駐在経験を綴ったのが本書であうr。詩人エベルト・パディージャ(1932〜2000年)と文学者同士として交友関係を持つが、パディージャは革命体制を作品で批判したため「反革命」としてカストロ政権から断罪される。「スターリニズムの顕現」として世界野多くの進歩的知識人をカストロ体制から離反させたこのパディージャ事件に至る詩人本人の人間的弱さなどを生々しく描いた点に、本書一番の価値がある。キューバ秘密警察の最高幹部も登場するが、その人物描写も面白い。

「私は外交官である前に作家だ」と言う著者は、外交活動の合間の、パディージャらとの付き合いを大切にしていた。だがキューバ当局は外国人外交官である著者との交友を取っ掛かりとしてパディージャを逮捕し、自己批判に追い込む。その翌日、著者はフィデル・カストロ首相(当時)に呼び出され、深夜3時間にわたって真摯に議論する。ここは圧巻だ。著者は「好ましからざる人物」(本書の題名)になるのは辛くも免れ、次の日予定通り、大使ネルーダの待つパリに向かう。初版が1973年の本書はノンフィクションの「ルポルタージュ長篇」だ。作家ならではの文章で、面白い。

彼が最初から懐疑的なのは、キューバの革命路線が自国の社会主義路線のモデルとなるか判断する必要があったからだが、大ブルジョア一族の出であることや以前からの文学仲間がキューバの呪われた作家たちであることが災いし、当局にマークされ、またカストロの不興を買う。

友人の1人が言論統制事件の渦中にあった詩人パディージャで、その言動を述べたあたりは主観的憶測(おくそく)を交えながらも、ラテンアメリカの作家を二分してしまった事件の貴重な記録となっている。だがパディージャの豹変(ひょうへん)ぶりは本書を読んでも謎のままだ。これについては読者が推理するしかなさそうだ。

読みどころはいくつもあり、ハバナに寄港したチリ海軍の帆船上、あるいはゴルフ場での著者とカストロの言葉の応酬に加え、カストロ邸訪問記などは、緊張感あふれる中にも、ときにユーモアが覗(のぞ)き、作家の筆が冴(さ)える。そこから逆説的に、カストロが愛される理由も見えてくるのだが、著者にとってキューバはやはりカフカ的迷宮であり、ここからの脱出は、好ましからざる人物(ペルソナ・ノン・グラータ)としての追放によるしかなかったのかもしれない。

またアジェンデ政権の危うさについて触れたあたりは、日本の民主党政権崩壊の問題とも重なるところがあるだけに、大いに考えさせられた。
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北海道新聞    2014年1月19日 「本の森」評者:野谷文昭(東大名誉教授)

〈キューバの迷宮と裏側〉

本書を読んだカストロは癇癪(かんしゃく)を起こしたという。ロマンチックな先入観を抱く観光客や、冷戦時代の二分法的感覚で世界を見る者には見えない、革命防衛のために疑心暗鬼になっていたキューバの裏面に鋭く切り込むノンフィクションだからだ。

エドワーズはチリの外交官で、誕生したてのアジェンデ政権の代理公使としてハバナに赴任する。その1970年末から翌年3月までの滞在記でありながら、ミステリー小説のスリルとサスペンスに満ちているのは、著者が優れた作家でもあるからで、「私」は名探偵のごとく推理し、監視され、危機に陥り、相手とやり合う。

彼が最初から懐疑的なのは、キューバの革命路線が自国の社会主義路線のモデルとなるか判断する必要があったからだが、大ブルジョア一族の出であることや以前からの文学仲間がキューバの呪われた作家たちであることが災いし、当局にマークされ、またカストロの不興を買う。

友人の1人が言論統制事件の渦中にあった詩人パディージャで、その言動を述べたあたりは主観的憶測(おくそく)を交えながらも、ラテンアメリカの作家を二分してしまった事件の貴重な記録となっている。だがパディージャの豹変(ひょうへん)ぶりは本書を読んでも謎のままだ。これについては読者が推理するしかなさそうだ。

読みどころはいくつもあり、ハバナに寄港したチリ海軍の帆船上、あるいはゴルフ場での著者とカストロの言葉の応酬に加え、カストロ邸訪問記などは、緊張感あふれる中にも、ときにユーモアが覗(のぞ)き、作家の筆が冴(さ)える。そこから逆説的に、カストロが愛される理由も見えてくるのだが、著者にとってキューバはやはりカフカ的迷宮であり、ここからの脱出は、好ましからざる人物(ペルソナ・ノン・グラータ)としての追放によるしかなかったのかもしれない。

またアジェンデ政権の危うさについて触れたあたりは、日本の民主党政権崩壊の問題とも重なるところがあるだけに、大いに考えさせられた。
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ラティーナ    2014年1月月号 Libro 評者:伊高浩昭

ラ米では文化人、特に詩人や小説家が外交官を兼ねることは珍しくない。著者の国チリではノーベル文学賞を受賞したガブリエーラ・ミストゥラルとパブロ・ネルーダはともに長らく領事として世界各地に駐在しながら詩作に励んだ。ネルーダは晩年、フランス駐在大使になったが、パリの大使館で参事官としてネルーダを支えたのが著者である。

チリでは1970年11月3日、サルバドール・アジェンデ大統領の人民連合社会主義政権が発足する。大統領は就任と同時に社会主義キューバとの国交回復を宣言し、著者は大使館開設の任務を帯びて臨時代理公使として同年12月ハバナに赴任した。それから翌71年3月までに3ヶ月半の駐在経験を綴ったのが本書である。著者以外の重要な登場人物を挙げれば、『赤髭司令官』の異名をとった内務省公安局第2部(政治・防諜警察)の元副部長でラ米諜報・情宣担当副内相だったマヌエル・ピニェイロ(1993-98)、詩人エベルト・パディージャ(1932-2000)、革命の指導者フィデル・カストロ(当時の首相、現在87歳)の3人である。チェ・ゲバラの死後、ペルーに登場した軍事革命政権と誕生して間もないアジェンデ・チリ政権をカストロ政権がどう捉えていたのかという「内幕」を赤裸々に綴った点や、世界野多くの進歩的知識人をカストロ体制から離反させたパディージャ事件に至る詩人本人の「生態」を生々しく描いた点に本書の価値がある。

作家と二足の草鞋を履いていた著者は「私は外交官である前に作家だ」と言い、外交活動の合間にパディージャをはじめキューバ人作家との付き合いを大切にしていた。ところがパディージャは作品で革命体制を批判したことから断罪される運命にあった。当局は、外国人外交官である著者との交遊を取っ掛かりとして詩人を逮捕し、自己批判に追い込んだ。その翌日、著者はフィデルに呼び出され、深夜3時間に亘って真摯に議論する。ここは圧巻だ。著者は「好ましからざる人物(ペルソナ・ノン・グラータ)」の烙印を押されるのを免れたが、フィデルに追われたわけではなく、次の日予定通り、大使ネルーダの待つパリに向かう。

初版が1973年の本書はノンフィクションの「ルポルタージュ長篇」だ。主観が客観をはるかに上回るため曖昧さも残るが、作家ならではの文章だ。だから面白い。
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まいにちスペイン語    2014年1月号

タイトルは「好ましからざる人物」という外交用語。著者は現在、チリ大使館としてフランスに滞在中。苑著者が1970年来から翌年3月にかけてアジェンデ社会主義政権の代理公使としてキューバに赴任するが、結局は追われるように出国する。その顛末を綴ったのが本書。キューバ体制批判の書として世界的に有名なノンフィクションだ。キューバを離れる前夜、フィデル・カストロその人と交わした3時間以上に及ぶ対話が生々しい。



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