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ミュージック・マガジン    2013年9月号(通巻614号) 評者:各務美紀
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ミュージック・マガジン    2013年9月号(通巻614号) 評者:各務美紀

〈原書第1版後の16年間もフォローする価値ある1冊〉

キューバ出身のカルロス・ムーアが82年に出版したフェラの伝記の翻訳本だ。カストロ政権からの亡命者であり、民族学者、政治社会学者でもあるカルロスは、70年代から80年代初頭に何度かナイジェリアに滞在する機会があり、その際にフェラ・クティと出会い、親交を深めたという。

原題は “Fela: This Bitch Of A Life”(“この苦しみの人生”とでも訳そうか)。フェラへの長時間のインタビューをまとめたもので、フェラ自身が自分の生い立ちや、ロンドンでの音楽留学、そしてナイジェリアへ戻ってきてからの音楽活動と政府との対立、そして精神生活を語っている。その他に、27人の妻の中の何人かへのインタビューなどももあって、フェラの人間像を客観的にも窺い知ることのできる構成になっている。

88年と94年に、私がナイジェリアのフェラを訪ねた際、当時、日本語で書かれたフェラに関する本は見つからなかったので、英語の本を何冊か読んだが、これはその中の1冊だった。

私の手元にある本は第1版のイギリス版で、今回、『フェラ・クティ自伝』と銘打ってこの邦訳本が出ると聞いた時には、このインタビューからフェラが亡くなるまでの16年間のフェラの人生は無視されてしまうの?と、心配になった。しかし、ページをめくると、その16年間のことはカルロス自身がフェラの死後、第2版出版時に加筆してあって、安心した。この時期にフェラにインタビューをし、衰えぬ人気や素晴らしく円熟した演奏を目の当たりにした私としては、狂気に囚われて落ちぶれた死を迎えたとしたカルロスの解釈には少し違和感を感じるものの、フェラ亡き今、この本の価値は計り知れないと思う。

フェラ・クティというミステリアスな人生と彼の音楽、“アフロビート”のスピリットが少しでも知られるきっかけになればと思う。また、フェラの、かなりぶっきらぼうな語り口を、おそらく苦労しつつ、そのまま訳した訳者にも敬意を払いたい。
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