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『neoneo』    2013年6月4日 【Review】評者:越後谷研
『ミュージック・マガジン』    2013年6月号(通巻611号) 評者:伊達政保
レコード・コレクターズ    2013年6月号(通巻433号) 評者:安田謙一
朝日新聞    2013年5月19日 読書面 評者:出久根達郎(作家)
神奈川新聞    2013年5月12日「ブックカバー」欄 評者:服部宏
タウンニュース    2013年4月25日号
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『ミュージック・マガジン』    2013年6月号(通巻611号) 評者:伊達政保

〈黒澤映画を“戦争”の視点で捉える〉

黒澤明の戦中、戦後の実体験に基づくことによって展開された、黒澤映画の作品論である。そのキーワードとなるのは「徴兵忌避」。なるほど、本誌の劇評などで馴染みのある著者は、こんなことを考えていたのか。

黒澤明はその年齢、体格から考えても不思議なことだが一度も徴兵されてはいない。同時代の監督、俳優を含めた映画関係者は殆ど徴兵され兵役に就いているのだが、黒澤監督にはそれがない。戦争に行かなかった負い目と、戦争讃美の映画を製作したという戦争責任、そして戦後労働運動の象徴とも言われた東宝労働争議が戦後の一連の黒澤映画に影を落としているという。多くの資料を駆使して本書はそれらを明らかにしていく。確かになるほどと納得させられるが、著者による推測がそれらの論点を支えていることも忘れてはならない。だからといって本書の面白さが減じるわけではないのだ。

戦時の軍事産業としての東宝映画、そして航空教育資料製作所による軍事マニュアル映画によって生み出された円谷特撮技術、戦後民主化闘争と一体となった労働組合運動と組合の分裂、第二組合を中心とした新東宝の設立、そうした背景から黒澤映画や反戦反核映画としての『ゴジラ』が生まれていったことが本書でよく分かるのだ。

そして本文では直接触れられていないが、表紙の見返し「戦後期の東宝・新東宝周辺図」のとおり地域的背景も重要だ。オイラの住む団地の正面からは、東宝争議と同時期に20日間ラジオ電波を止めたストライキの拠点NHK放送技術研究所、右手には東京メディアシティ(元・新東宝、国際放映)、その右奥に東宝撮影所が見える。卒業後、最初の勤務が世田谷区砧出張所だったので、この地域には戦前から映画撮影所関係者が多く住み、労働争議も地域ぐるみで闘われていたことを知った。東宝争議から25年後のことだ。そうそう、以前、団地の近くには円谷プロダクションがあった。

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レコード・コレクターズ    2013年6月号(通巻433号) 評者:安田謙一

〈黒澤明に映画を撮らせたものの“正体”を鋭く抉る〉

『ミュージック・マガジン』誌で演劇評論を執筆される(それらを集めたのが単行本『いじわる批評、これでもかっ!』)、大衆文化評論家の指田文夫による大胆な黒澤明論が出版された。

黒澤が49年に撮った大映映画『静かなる決闘』。三船敏郎扮する医師は、かつて戦場で軍医として手術中に患者から誤って梅毒を感染してしまう。戦後、その病を告白することができないでいるさまを執拗に描いたこの映画に、著者は「なにを、こんなにうじうじ悩んでいるんだろう」と疑問をもつ。同時に「真実を告白できない三船の苦悩には、きっと別の意味があるのでは」と考え始める。

1910年生まれの黒澤明は兵役についていない。山中貞雄をはじめ優秀な映画人を戦死により失った東宝が黒澤の才能を護るべく、戦意高揚映画の製作を理由に回避させた、という説もある。本人の意志とは別のところで黒澤明は戦争に行かなかった。その贖罪が『静かなる決闘』のみならず、戦後連発した名作の数々にも色濃く反映されているという指摘を、時系列を追って展開していく。

思想よりも、信仰よりも、深いところで黒澤明に映画を撮らせたものを指田は鋭く抉る。そして『羅生門』が「真実はわからない」ではなく「本当のことは言えない」という映画であることを晒してみせる。

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朝日新聞    2013年5月19日 読書面 評者:出久根達郎(作家)

〈偉丈夫はなぜ徴兵されなかった〉

映画監督の黒澤明は壮健な偉丈夫だったが、徴兵経験はない。軍務経験もゼロである。自伝で、徴兵司令官が父の教え子だったため兵役を免れた、と書いている。著者は徴兵制度に情実があり得たか、と疑問を抱く。

調べると召集延期の条件には、××に従事して必要欠くべからざる者、という項目があることを知る。続いて戦時下の映画会社の実態を調べる。黒澤の会社では、極秘で航空教育用の映画を製作していた。教官不足のため、映画を教材に用いたのだ。軍部の御用だから、余ったフィルムを劇映画に流用できる。黒澤は会社の宝であり、戦病死した山中貞雄の先例をくり返したくなかった。本人に内緒で軍部に手配りした。

黒澤は兵役未体験が心の負担になった。「静かなる決闘」の主人公の描き方に、その辺の真理が現れている。およそ黒澤映画らしからぬ、うじうじと悩む男―という風に兵役義務の観点から考察した、新鮮な黒澤作品論である。

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神奈川新聞    2013年5月12日「ブックカバー」欄 評者:服部宏

〈巨匠のトラウマ 説得力ある推論〉

作品論、監督論から脚本・撮影・美術などの各論まで、黒沢明はもう語り尽くされたのではないか。などと思い込んでいたわが傲慢を、恥じ入るばかりだ。

指田文夫著『黒澤明の十字架 戦争と円谷特撮と徴兵忌避』(現代企画室・1995円)。軍隊経験、戦場体験を持たないことが巨匠の強い負い目になり、それが作品に影を落としているという。斬新な指摘、分析に“一気通巻”。

身長185センチ、体重75キロの威丈夫が、なぜ召集を免れたか。東宝の思惑、軍との深いつながりがあったためと著者は推論する。

徴兵「忌避」には、三国連太郎の大陸逃亡計画のように積極的なイメージがあるが、黒沢はむしろ同胞と共に戦いたいと考えていた。加えて戦時中の作品「一番美しく」が軍の意向に沿った作品であることが心の傷になった―。

それらの屈折が、作品にどう反映したか。「静かなる決闘」を皮切りに「わが青春に悔なし」「醜聞」「羅生門」「赤ひげ」「影武者」「乱」「夢」などを引き、黒沢のトラウマと贖罪意識をくみ取る。

“状況証拠”が主体で“物証”に乏しいが、読後の印象は“クロ”。推論に説得力がある。

著者は長く横浜市に勤務し、同市南区に住む大衆文化評論家。

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タウンニュース    2013年4月25日号

〈吉野町の指田さん 黒澤映画の新解釈本 研究重ねて出版〉

吉野町在住で大衆文化の評論活動を行う指田文夫さん(65)が4月上旬、黒澤明監督の映画に関する新しい解釈をまとめた著書『黒澤明の十字架 戦争と円谷特撮と徴兵忌避』を現代企画室から出版した。

黒澤映画の中でも特に1949年から50年に公開された「静かなる決闘」「野良犬」「醜聞」「羅生門」の4作品を中心に批評している。指田さんは「静かなる決闘」を観て、「終わりがあっけなかった」と作風がほかと大きく異なると感じ、研究を開始。関係者の証言や映画会社「東宝」の資料を検証した。その結果、映画監督としての才能を評価していた東宝の力により、黒澤監督が戦時中に徴兵を免除されたのではという推測にたどり着いた。

徴兵免除に着目

指田さんは「戦後の黒澤は、『姿三四郎』を代表とする娯楽映画監督だった。戦後、徴兵されなかった黒澤は、戦争に行かなかったことを申し訳ないと思っており、その後、シリアスな作品に変わるのは、贖罪意識が影響しているのでは」と分析する。

指田さんによると「贖罪意識に着目した黒澤映画批評は見たことがない」という。「今年は『姿三四郎』で監督デビュー(43年)から70年。黒澤映画に新たな光を当てられれば」と話す。昨年まで横浜市役所に勤務していた指田さんは今後も映画や音楽の評論を行っていく意向だ。

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