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経済界  2010年9月7日号    評者:藤原作弥(元日本銀行副総裁)

〈日米開戦前夜、歴史的スクープを連発した米国人記者の謎を追う〉

この本は約15年前に発刊された『グッバイ・ジャパン』(ジョセフ・ニューマン著、篠原成子訳、朝日新聞刊)を下敷きにしており、その後編とも(続編とも、検証版とも)言うべき著作である。

その『グッバイ・ジャパン』の原著である英語版は実は1942(昭和17)年、アメリカで刊行されたベストセラー。本書と、その原著との関係から説明しなければ、話がややこしくなるので、まず時計の針を30年以上前に戻す。

37年前の某月某日、ニューヨークのタイムズ・スクウェアでJ・ニューマンは一人の日本人紳士に呼び止められ、タバコの火を求められた。ニューマンはそれがきっかけで来日、「ニューヨーク・ヘラルドトリビューン」紙の東京特派員となる(その紳士とは渋沢栄一の三男でアメリカ通の渋沢正男だった)。

時、あたかも日本は対米戦争の前夜、ニューマンは数々の「東京発」大スクープをアメリカに向けて放つが、そのニュース・ソースは、「ゾルゲ・尾崎諜報団」の一員、アバス通信(後に仏AFP通信)の特派員、ブランコ・ヴーケリッチだった。

そのニューマンは41年10月、「ゾルゲ・尾崎スパイ団」が逮捕される2日前に「休暇」と称してハワイに向かう。さらに同年12月、日本の真珠湾攻撃の2日前、ニューヨークに帰国する。そして翌年、出版したのが、日本は〈天皇・軍部・財閥〉の「汚れた三位一体」と指摘して綴ったベストセラー『グッバイ・ジャパン』。

さて時代は経って90年代前半、朝日新聞・経済記者の伊藤三郎氏はその“三位一体論”と平成バブルの〈政・官・財〉の「汚れた三位一体」論の類似性に着目し、J・ニューマンにインタビューし、往年のベストセラー『グッバイ・ジャパン』を94年、あらためて朝日新聞から日本語に翻訳・復刻出版し、話題を呼んだ。

ニューマンは翌年、82歳で死去したが、伊藤記者には絶えず疑問が残っていた。スパイ容疑の逮捕を辛くも逃れ、日本を去ったニューマン自身が実はスパイだったのではないか……。それをワシントンの国立公文書館などで丹念に調査報道したのが本書。〈あなたはスパイだったのですか?〉のサブタイトルが付いているゆえである。

とにかく面白い。そしてスパイ天国の日本の安全保障とインテリジェンスの問題について重要な示唆を与えてくれる本だ。



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