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中国新聞、新潟日報ほか(共同通信配信) 評者:麻生佳花(僧侶、エッセイスト)

〈パレスチナ苦悩の生活〉

パレスチナの子どもたちは問う。「どうして世界中の誰一人、イスラエルを阻止できないの?」

学校に行くのも検問を通らなければならないので、兵士につかまったり、入植者たちに石を投げられ、犬をけしかけられ、カバンを奪われる。

約六十年前のイスラエル建国宣言時のパレスチナ難民は七十五万人ともされる。その大半が失った「故郷」の家の鍵を今でも持っているという。それだけ、生まれ育った町への愛着は深い。

イスラエルにとどまった人々にしても、住む街は破壊され続け、夜ごと銃撃音に悩まされてきた。「侵攻」「テロ」という暗いニュースばかりを連想させるパレスチナ問題だが、そんな地で人々はどんな生活をし、どんな思いでいるのか、平和な日本のお茶の間にはなかなか伝わってこない。その疑問に答えるように、フランスのユダヤ人の著者が、ヨルダン川西岸で暮らすパレスチナ人の生活や声を淡々と書きとめている。

かの地では「治安のため」という大義の下、パレスチナ人は土地を奪われ、壁で包囲され、飛び地に閉じ込められている。生活を困難にし、抵抗聖心を弱めるのが狙いだが、イスラエル軍に蹴散らされ、逮捕者や負傷者を出しながら非暴力の抵抗をしている村もある。居座り続けることが、大きな抵抗でもある。

著者が話をした人々の多くは、パレスチナ国家の建設という夢をあきらめかけているという。当面はイスラエル人と一緒に暮らさなければならない近未来図を前に苦悩し、絶望もしている。それでも、現実に適応し続けるパレスチナの人々は実にたくましく見える。

「これまでずっとそうだったように、ユダヤ人と仲良くやっていくことができます」

いつの日か、彼らの希望がかない、平和のうちにくらせるようになってほしい―そう祈らずにはいられない。世界はあなたたちを見捨てたりしない、と子どもたちに伝えたい。



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