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朝日新聞 2007年7月22日(日) 評者:香山リカ(精神科医)

〈あやふやな区別、政治が決定〉

世界で起きている紛争やテロの背景には、必ずといってよいほど「宗教」か「民族」がかかわっている。しかし、日本にいるとこれらの問題には疎くなってしまう。

本書は、「むずかしい」のひとことで片付けられがちな民族の問題を、「ホテル・ルワンダ」「ライフ・イズ・ミラクル」などよく知られた映画を題材にして解説した格好の入門書だ。

ヨーロッパによる異民族“発見”の歴史、民族と国民の違い、移民や多文化主義が抱える問題点などこの分野を理解する上で欠かせない基本的な知識が、父親が娘に語るというスタイルでわかりやすく語られている。

本書を貫いているのは、「区別は常にあやふやなもので、それを決定づけるのはいつも政治」という考え方と、そこで区別され、排斥されてきた先住民などの少数者側に立とうとする著者の姿勢だ。よく民族問題は「血の問題」だから解決は不可能、という人もいるが、そういう人には著者の次の言葉を贈りたい。「民族と民族の出会いは、いつもヨーロッパの側から一方的に不平等な関係の中で記録され、意味が与えられていった」。こんなことを娘に言える父親は、実際にはあまりいないだろうが。



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