2001年既刊書

アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない
恥辱のあまり崩れ落ちたのだ
6

モフセン・マフマルバフ/著 武井みゆき+渡部良子/訳 装丁=本永恵子
新書判・上製・196頁・映画『カンダハール』場面写真収録。
定価1300円+税 
ISBN4-7738-0112-3 C0022 Y1300E

朝日新聞「天声人語」で紹介(10/10、10/11)
映画『カンダハール』で国際的注目をあつめるイランの巨匠マフマルバフが、今、アフガニスタンへの世界の無知に、差しだしたメッセージ。これは報道ではない。苦しみにある隣人のために綴られた言葉である。
「ついに私は、仏像は、誰が破壊したのでもないという結論に達した。仏像は、恥辱のために崩れ落ちたのだ。アフガニスタンの虐げられた人びとに対し世界がここまで無関心であることを恥じ、自らの偉大さなど何の足しにもならないと知って砕けたのだ。」(本文より)
10月3日パリ・ユネスコ本部にて発表された公式ステイトメント ハタミ・イラン大統領への公開書簡を同時収録




チェ・ゲバラ
AMERICA 放浪書簡集  ふるさとへ1953-56
6

エルネスト・ゲバラ・リンチ編 棚橋加奈江=訳 装丁=本永恵子
46判・上製・244頁・口絵写真8頁 定価2200円+税
ISBN4-7738-0102-6

若きゲバラが帰ってくる!瑞々しい感覚の手紙を携えて。
「バガボンド」を自称していた、若き日のゲバラの書簡集。医者の資格を得たゲバラは、ベネズエラのらい病院で働くためにアルゼンチンを再び出国した。旅の先々から、ゲバラは、両親、伯母などの家族、心を許した友人に宛てて、頻繁に手紙を書いた。

日記を書くと同じように手紙を書く《記録魔》のようなゲバラ、それを永久保存していた《保存魔》のような家族によって、この書簡集は明るみに出ることになった。「医者になる、研究者になる」と親に書き送りながら、メキシコでのカストロとの運命的な出会いを経て、武装ゲリラ訓練に励んでいたころの、ゲバラの心の鼓動・おののき・ゆらぎ・確信を明かす、一時代の証言。

『チェ・ゲバラ AMERICA 放浪書簡集』 解題
現代企画室編集部・太田昌国


【編者】エルネスト・ゲバラ・リンチ、【著者】エルネスト・ゲバラ・デ・ラ・セルナの写真と紹介



アフリカの海岸

ロドリゴ・レイローサ著
杉山 晃 訳 装丁:本永恵子
A5変形 上製 定価1800円+税 156P
ISBN4-7738-0110-7

ラテンアメリカ文学の新しい風!
ひそやかに、読者のこころを捉えはじめたレイローサの世界。

著者は、住み慣れたモロッコを舞台に、フクロウと少年とコロンビア人の話を書いた。パスポートを盗 まれて帰国できなくなったコロンビア人が、羽をいためたフクロウとタンジールの街をさまよう。詩の ような、夢のような、悪夢のような物語。

【訳者の言葉】
『アフリカの海岸』でわれわれを驚 かすのは、表層的な物語の背後に編まれた目に見え ぬ運命の網の目だろう。物語の多義性、多層性、そ してその背後にひそむ神秘が、この小説の最大の魅 力である。捕われたフクロウと自由を失ったコロン ビア人、羊飼いの少年とパリジェンヌ「「彼らはタ ンジェの街で一瞬だけ出会い、そのまま永遠に離散 していく。あとはすべて古屋敷の屋根裏で、すっく と立ちつづけるフクロウの夢の中……。
 『アフリカの海岸』を翻訳するのは楽しい作業であ った。レイローサの透明感のある文章は、何度読み 返しても心地よかったし、モロッコについてのガイ ドブックや写真集をひもとくのも新鮮な体験だった。




未来の記憶

エレナ・ガーロ著
冨士祥子/松本楚子訳 装丁:本永恵子

46判 上製 定価3000円+税
ISBN4-7738-0111-5 C0097 Y3000E

現代ラテンアメリカ文学のなかで、もっとも完璧な作品のひとつ。
                      オクタビオ・パス

禁じられた愛に走った罪のゆえに、罰として石に姿を変えられた女。
その物語の背後に広がる苛酷な時代と波瀾万丈の村人の生活を複数の声が語る、
豊穣なる神話的世界。現代メキシコ女性作家が切り開いた、幻想的な、フェミニズム文学の快作。

エレナ・ガーロ
Elena Garro (1920-1998)

メキシコのプエブラに生まれる。読書を好んだ両親のもとで、幼いころからヨーロッパの古典文学に親しみ、同時にフランス語やラテン語を学んだ。こうして自然と身につけた想像力、神秘主義、東洋哲学、古典趣味に加えて、家で働く先住民の使用人たちとの交わりのなかで触れた「魔術的な」世界観の影響を強くうけた。
1936年、首都の国立大学に進み、バレエと演劇を専攻する傍ら振付師として活躍した。37年、若き詩人のオクタビオ・パスと結婚、外交官としても活躍した夫と共に、米国、フランス、インド、日本などでの生活を経験、シュールレアリスムや東洋哲学、日本文化にあらためて親しみ、ジャーナリストとしても活動した(パスとは59年に離婚)。57年にパスが率いる前衛劇団のために数篇の一幕物の戯曲を書き上げ、作家としてもデビューした。この頃から60年代にかけてもっとも充実した旺盛な創作活動を展開し、本書『未来の記憶』を63年に、同じく代表作「トラスカラ人の裏切り」を収めた短編集『七色の一週間』を64年に発表した。これらの作品には、ヨーロッパ文化と先住民文化のせめぎあいの中で自己形成したガーロの世界観が如実に反映している。ガーロが加担しようとする「抑圧された弱者」にとって、外的・歴史的な現実は常に抑圧的に機能するが、彼女はそれに先住民の宇宙観と神話によって彩られた魔術的な現実を対抗させ、抑圧的で不幸な歴史的現実を否定し、自由で幻想的なもうひとつの世界を作り上げている。1970年代以降メキシコを離れて暮さざるを得なかったこともあって、メキシコ文学界におけるガーロの評価は必ずしも高くはなかったが、近年に至って再評価の動きがあり、幻想的な作風をもつ、現代ラテンアメリカ文学のもっとも重要な担い手のひとりであったと見なされている。晩年はメキシコに帰国したが、困窮のうちに暮らし、1998年9月、ひっそりと世を去った。



クライン・ブルーの石
一原有徳「山行小説集」
一原有徳 著   装丁:有賀強 カバー画、挿画は著者自身のもの。
46判・並製・260p 定価2200円+税
ISBN4-7738-0109-3 C0095

一原有徳(いちはら・ありのり)は、北海道・小樽に住む、今年 91歳 を迎える芸術家である。
40歳を越えて油彩画を始めたが、その後版画 に転向、今日に至るまで旺盛な制作活動を続けている。氏は、アルミ 版、銅版、石版以外にも、道端に捨てられたトタン、石ころ、壊れ た時計の仕掛けノコギリの歯など、ありとあらゆるものを転写して、きわめて独自な版画表現の世界を切り開いてきた。とどまるところを知らない。 

 氏の好奇心は、別な世界でも発揮される。若いころから 親しんできた登山、俳句などを媒介にしての文学表現である。北海道 の山々の登攀紀行や句集も多い。そのなかで今回の本の特徴は、氏の 初めての小説(創作)集であるという点である。第一部に収められた幻想的な作品、自らの経験に基づく登山行を素材としながらもフィクションとして組み立てられた第二部の諸作品は、表現者=一原有徳に本質的の備わっていると思われる多面的でいて、同時に個性的な世界をあらためて示すものとなるだろう。

著者紹介
一原有徳(いちはら・ありのり)
1910年徳島県に生まれる。1912年北海道真狩別村に移住。1927〜70年郵政省小樽地方貯金局に勤務。その後現在に至るまで小樽に住む。1951年ころ油彩画を始めるが、後に版画に転向。土方定一と出会い、その推薦もあって1960年東京画廊個展でデビュー。定年退職後から画業に専念しているが、現代版画の鬼才としてその作品は高い評価を得ている。また北海道の山々を歩き、登山家としても有名で、登山紀行文章も多い。16歳のころから俳句を手掛け、俳名九糸(後に、九糸郎)で句集も出版している。小社からは、1959〜81年の油彩画と版画を体系的に紹介すると同時に、文章家としての側面にも注目してその仕事の全貌を明かした『ICHIHARA  一原有徳作品集』(1989年)と、登山と俳句を介して出会った人びとのことを語った随筆集『脈・脈・脈――山に逢い、人に逢う旅』(1990年)が出版されている。

同じ著者によって
『脈・脈・脈:山に会い、人に会う旅』 46判・340頁・2200円+税
若いころから親しんできた北海道の山と俳句を媒介にして邂逅した忘れ得ぬ人への思いを記す。
『一原有徳作品集 ICHIHARA』 A4判・352頁・18000円+税  
最初に手懸けた油彩画に始まり、絶えず工夫と変貌を続ける版画制作の全貌を伝える画期的画集。
【本書の目次】
幻想小説編●化身/銅色の月/クライン・ブルーの石/耳、口、鼻/掌小説 13編
山行小説編●乙部岳/ニトヌプリの地吹雪/オロフレ峠/武利岳/美笛高地/雄
鉾岳/福島峠/阿女鱒岳



大地の芸術祭                    
越後妻有アートトリエンナーレ2000
ECHIGO-TSUMARI ART TRIENNIAL 2000
 
越後妻有大地の芸術祭実行委員会/編 日英対訳/装丁=本永恵子
A4判変形( 297mm× 219mm)並製・344p
ISBN4--7738-0108-5 定価4800円+税
「人間は自然に内包される」との思いのもと、 2000年夏 53日間にわたり、新潟県妻有地域で「大地の芸術祭:越後妻有アートトエンナーレ2000」が開催された。広大な里山の自然・集落を舞台に、32ヵ国のアーティストが作品を展開した。地域再生への願いをこめて、美術による地域おこしというプロジェクトに 800人を越えるボランティアが参加し、地元住民が協働した。16万人の人びとが訪れ、炎暑のなか、作品に導かれるように里山を旅した。アーティスト、住民、ボランティア、来訪者……関わった人すべてにとって、大地の芸術祭は、ひとつの「体験」だった。それは、どんな「体験」だったのだろうか。
中原佑介、間宮陽介、北川フラム、大西若人、水野るり子などによる文章と詩、安斎重男ほかの写真家による「アートをめぐる里山の旅」、すべての作品の多面的な姿とデータを網羅し、地元住民をはじめ関わった人びとの声を集め、この異色に満ちた芸術祭の全貌を生き生きと伝える、画期的な作品集。



双頭の沖縄
aaaaaaaaaaクライシス
アイデンティティー危機

伊高浩昭 著   装丁:本永恵子 
46判・上製・372p 定価2800円+税
ISBN4-7738-0107-7 C0071 Y2800E
独自の視点に基づいた丹念な取材と、異質な立場の人びととのしなやかな対話。ジャーナリズム本来の仕事によって浮かび上がる20世紀末〜21世紀初頭アジアの光景。安保容認・基地新設・日本同化推進=禁断の領域に踏み込む沖縄人。反基地・反軍隊・平和主義・自立の原則を守ろうとする沖縄人。「二つの頭」をもって、重いアイデンティティー分裂症に陥る沖縄の現状を鋭く抉る。著者=伊高浩昭はジャーナリスト。メキシコ、沖縄、ブラジル、南アフリカなど一貫して世界の「辺境」を取材。1970年代後半の沖縄滞在に基づく記録『沖 縄アイデンティティー』(マルジュ社、1986年)は版を重ねて読まれた。他に『メヒコの芸術家たち』(現代企画室)『キューバ変貌』(三省堂)など著書多数がある。

【著者の言葉】知事・市長の次回選挙を打算する政治生命大事の保身、知事・首長の命令に従って実務を進める幹部公務員たちの「行政」、中央政府の圧力と利権を沖縄に繋ぐ役目に熱心な県選出の保守派国会議員たちやその下部にある保守派県議・市議たちの惰性、そして環境破壊という大自然の価値喪失を畏れず経済第一主義で邁進する建設業者ら利権狙いの財界恐竜たちのすさまじい利己主義、さらには日本同化推進派の宣伝活動、加えてジャーナリズムの非力も与って、新基地建設受け入れという安っぽくもおぞましい「苦渋の決断」はなされた。歴史改竄につづく、誤った判断によって、沖縄に伝統的な平和主義の操は裏切られ、傷付き、変質した。だが一方には、嘉手納空軍基地を「人間の鎖」で包囲するような行動を厭わない正統派の平和主義者たちがいまも厳然と存在する。 20世紀末から21世紀の初頭にかけての沖縄は、禁断の領域に踏み込んだ沖縄人と、反基地・平和主義の操を守ろうとする沖縄人の「二つの頭」を持って、重いアイデンティティー分裂症に陥っている。本書の題名に「双頭の沖縄」を選んだ所以である。分裂症は21世紀初頭以降もしばらくつづくだろう。分裂が昇華されて新しいアイデンティティーを生み出すのか、それとも薩摩の琉球支配開始 400周年の2009年に向けて日本同化が完成していくのだろうか。    
【本書の目次】              プロローグ
アイデンティティ分裂症
◆第一章 大田県政の盛衰
◆第二章 稲嶺県政で右旋回
◆第三章 大田昌秀は語る
◆第四章 宴のあと
◆エピローグ    
     



田中正造の近代

小松裕 著  装丁:有賀強
A5判・上製・840p 定価12000円+税
ISBN4-7738-0103-4 C0023 Y12000E
人間として譲ることの出来ない何事かに賭けた巨人。
その思想の遍歴の過程を、現在のために、つぶさに明かす。
2000枚の力作: 思想的評伝。
(著者の言葉)
最終的に検討しようと考えていることは、正造の到達した国家構想の内実をふまえ、正造の思想が日本の近代思想にどのような豊かさを与えるのか、という点である。それを考察することは、おそらく、日本近代思想の世界史的可能性を探ることになり、結果として、私たちに日本近代思想史の書き直しを迫ってやまないであろう。またそれは、民衆にとってもっとも望ましい近代とはいかなるものであったかを明らかにすることにも通じるであろう。(本書より)

小松 裕(こまつ ひろし)
1954年山形県生まれ。
早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。
現在、熊本大学文学部教授。
[主な著書]『田中正造 二一世紀への思想人』筑摩書房、1995年。
『「韓国併合」前の在日朝鮮人』共編著、明石書店、1994年。
『史料と分析 「韓国併合」直後の在日朝鮮人・中国人―東アジアの近代化と人の移動』共編著、
明石書店、1998年。



ハバナへの旅
レイナルド・アレナス著  安藤哲行訳  装丁:本永恵子 
46判・上製・224p 定価2200円+税
ISBN4-7738-0100-X
著者が自由を求めて亡命した国=米国は、
すべてが金次第の、魂のない国だった。
幼く、若い日々を過ごした故国=キューバ
の首都ハバナへの、哀切きわまる幻想旅行。
空はいまもおなじ、水はいまもおなじ、太陽はおなじ、でもぼくはどこにいるんだ、遠くなり小さくなったとはいえ夢を抱いていたあの時代はどこなんだ、まだ夢、まだ夢としてあるんだ、ぼくの青春時代はほんとうにどこにあるんだろう、青春でなにをしたのだろう。(「ハバナへの旅」より)
レイナルド・アレナス(Reinaldo Arenas)
写真 Lazaro G. Carriles
【1943ー1990】キューバ・オリエンテ州、オルギン近くの村に生まれる。革命勝利の前年には独裁者バチスタに抵抗するゲリラ組織に参加。革命後は農業会計士の勉強をし、農場で働く。初期の革命的な熱狂の時代が終わると、次第に画一的な規範がすべての人に求められ、同性愛者に対する迫害も始まって、ホモセクシュアルであるアレナスは居心地が悪くなり、「革命」から距離をとり始める。小説を書き始め、65年の『夜明け前のセレスティーノ』は文芸家協会コンクールで入賞するが、刊行されたのは二年後。その後の作品もキューバ内での出版は認められず、原稿が没収されたりもした。反政府的な言動や同性愛者であることを理由に逮捕されること数回。80年にマリエル港から脱出し、ニューヨークに住む。以後、雑誌を創刊したり、旺盛な執筆活動を繰り広げるが、エイズによる健康状態の悪化と精神的な落ち込みを理由に、ニューヨークの自宅で自殺。
邦訳に『めくるめく世界』『夜になるまえに』(いずれも国書刊行会)がある。