学校の外から

教育再生会議第2次報告が出る

2007年6月13日掲載

 「朝令暮改の教育改革」「素人の床屋談義」と皮肉られる教育再生会議の第2次報告が出た。これによって被害を被るのは学校現場の教師たち、子どもたち。詳細は以下の教育再生会議のサイトをご覧下さい。報道された新聞記事を整理しました。
<新聞記事のため転載禁止>
(一作)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kyouiku/houkoku.html

○「社会総がかりで教育再生を・第二次報告~公教育再生に向けた更なる一歩と「教育新時代」のための基盤の再構築~」(平成19年6月1日)
○教育委員会の抜本的見直しについて(第一分科会)(平成19年2月5日)
○第一次報告「社会総がかりで教育再生を~公教育再生への第一歩~」(平成19年1月24日)
○いじめ問題への緊急提言(平成18年11月29日)

大学や学校に「競争原理導入」 教育再生会議第2次報告
(朝日新聞 2007年06月01日23時14分)

 政府の教育再生会議(野依良治座長)は1日、総会を開き、安倍首相に第2次報告を提出した。大学など学校間に競争原理を導入することで予算配分の適正化や教員の資質向上をめざすことを提言。授業時数(コマ数)を増やすために、必要に応じて夏休みや土曜日を活用することも打ち出した。個人の価値観にかかわる分野では、現在の「道徳の時間」を「徳育」として教科化することも提唱している。

 この日の報告は今年1月の第1次報告を具体化したもので、その内容は6月中に閣議決定する政府の「骨太の方針」に盛り込まれる。安倍首相は1日夜、首相官邸で記者団に「こうすれば日本の教育は良い方向に変わっていくという提言をいただいた」と語った。

 第2次報告には、第1次報告の目玉の一つだった「ゆとり教育の見直し」のための授業時数10%増の具体策として、夏休みや朝の15分、土曜の活用が盛り込まれた。土曜授業については、週5日制を基本としつつ、教育委員会や学校の裁量で必要に応じて補習などを実施できるとしている。

 学校への競争原理導入は第2次報告の柱の一つで、成果に応じて国が予算配分する仕組み作りを要請している。学校間の競争によってレベルの底上げを図る狙いがあるが、学校間格差が拡大する恐れもある。

 大学・大学院について「選択と集中による重点投資」と明記。国立大学法人運営費交付金は「基盤的経費を確実に措置する」とする一方で、研究・教育などの評価に基づいて「大幅な傾斜配分を実現する」とした。また、教員の人事・給与の年功序列をやめ、業績に連動した給与体系の導入を求めている。

 小中学校では「地域の実情に留意」したうえで、教育委員会の独自判断で学校選択制を導入できるようにし、児童・生徒が多く集まった学校に予算配分を厚くする仕組みを検討。教員給与は勤務評定を踏まえた給与体系にすることを提言し、08年4月をめどに教員給与特別措置法を改正することを打ち出した。

 首相がこだわる「高い規範意識」の育成をめざす方策も盛り込まれた。子どもの凶悪犯罪やいじめ、学級崩壊などが頻発していることから「規範意識や公共心を身につけ、心と体の調和の取れた人間になることが重要」と指摘。そのために「徳育」の教科化を打ち出した。点数評価はしないが、文科省検定の教科書を使用するとしており、道徳や規範の枠組みを国が「検定」することに異論も出そうだ。

 家族や子育てに関しては、中学校、高校の家庭科で「生命や家族の大切さ、子育ての意義・楽しさを理解する機会を拡充する」と表記。ただ、母乳育児や子守歌の効用をうたった「子育て提言」は、政府・与党内からも異論が噴き出し、最終的に断念した。

■第2次報告のポイント
●教育委員会や学校の裁量で、夏休み活用、朝の15分授業、土曜授業を実施して授業時数(コマ数)を10%増やす
●公立学校教員給与は評価を踏まえた体系にする
●教育委員会に「学校問題解決支援チーム」を設置、課題のある子どもや保護者との意思疎通に問題がある場合に解決に当たる
●現在の「道徳の時間」を徳育として教科化する
●全国学力調査の学力不振校に改善計画書を提出させ、国や教委は特別支援を行う
●幼児教育の将来の無償化を総合的に検討する
●大学・大学院での9月入学の大幅促進のため、学校教育法施行規則を改正する
●複数の大学が大学院などを共同設置できる仕組みを創設し、国立大を大胆に再編統合する
●国立大学法人運営費交付金は、基礎的な部分を確実に措置すると同時に、各大学の努力と成果を踏まえた配分になるよう新たな方法を検討する


<教育再生会議>土曜授業、9月入学など提言 第2次報告
(毎日新聞 6月1日21時37分)

 政府の教育再生会議(野依良治座長)は1日、首相官邸で総会を開き、第2次報告「公教育再生に向けた更なる一歩と『教育新時代』のための基盤の再構築」を正式決定した。土曜授業の復活と「徳育」の新設に向け、学習指導要領の改定などを今年度中に行うよう提言。安倍晋三首相が唱える大学の9月入学も、今年度中に学校教育法施行規則を改正し「全国立大学での入学枠」を設定するよう求めた。土曜授業と9月入学は、早ければ来年度から実現する可能性もあるが、報告の拙速さを懸念する声も出ている。
 安倍首相は総会で「学力向上や徳育、大学改革で深い議論をいただいた。教育現場や国民の理解を得る努力をしたい」とあいさつした。第1次報告で掲げた「授業時間数10%増」を巡っては、土曜日や夏休みの活用、1日7時間授業などの案を示し、教育委員会や学校の裁量で選んで実施するよう提示。特に土曜授業は「学校週5日制を基本としつつ、総合学習などが行えるようにする」として、今年度中に学習指導要領を改定し実現につなげるよう求めた。
 同時に、来年4月をめどに教員給与を一般公務員より優遇するよう定めた人材確保法を改正し、優秀な教員を優遇する給与体系の導入を明記。4月に実施された全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)で成績が振るわなかった学校に対して予算や教員配置の面で支援するよう提唱した。
 道徳教育に代わる「徳育」は点数評価の対象としない「新たな教科」と位置付けるが、「多様な教科書と副教材」を使い授業を行うこととした。「多様な教科書」について再生会議は「文部科学省検定教科書が前提」(同会議担当室)としている。第1次報告で示した「高校での奉仕活動必修化」に加え、小学校では集団宿泊体験、中学校では職場体験活動を各1週間実施することも盛った。
 大学・大学院改革は、すべての国立大学での9月入学枠の設定を提唱し今年度中に関係法令を改正するよう求めた。複数大学が大学院を共同設置したり、一つの国立大学法人が複数大学を設置・管理する仕組みづくりも掲げた。

 提言を見送った「親学」に関しては、妊婦や子どもの検診の場を活用した子育て講座を提唱。学校と家庭が協力し「早寝早起き朝ごはん」を子どもに体得させることもうたった。家庭教育のための情報提供として「乳幼児にはテレビを長く見せない」などの「科学的知見」を紹介しているが、当初検討された「母乳による育児」の奨励は盛り込まれなかった。
 ただ教育再生会議の議論に対し、政府・与党内から批判が出ている上、年金支給漏れ問題で国会が混乱しており、国民の関心を呼ぶかどうかは不透明だ。【平元英治】

◆第2次報告のポイント◆
・「授業時間数10%増」確保のための土曜授業=07年度中に学習指導要領を改定
・道徳教育に代わり「徳育」を「新たな教科」として創設。「多様な教科書と副教材」で指導するが、点数評価はしない=07年度中に学習指導要領を改定
・小学校で集団体験、中学校で職場体験活動を各1週間実施=07年度中に学習指導要領を改定
・全国立大で9月入学導入=07年度中に学校教育法施行規則を改正
・全国学力テストの成績不振校に改善計画書を提出させ、予算や教員定数、人事面で支援
・テレビ視聴の抑制など「子育てにかかわる科学的知見」を情報提供
 【ことば】教育再生会議 安倍首相が官邸主導で教育改革を進めるため、昨年10月に閣議決定して設置。有識者委員17人と首相、塩崎恭久官房長官、伊吹文明文部科学相の計20人で構成される。今年1月の第1次報告では「ゆとり教育を見直し授業時間数の10%増」などを提言した。文教政策に関しては文科相の諮問機関である中央教育審議会(中教審)があり、中教審との整合性が課題となっている。最近では自民党からも「問題意識があいまいで議論に深みがない」との批判が出ており、2次報告の実効性が問われそうだ。


教育再生会議:揺らぐ「安部カラー」の柱 第2次報告
(毎日新聞 2007年6月2日 0時58分)(最終更新時間 6月2日 1時26分)

 政府の教育再生会議が1日まとめた第2次報告は、徳育の新設や土曜授業の復活などで「安倍カラー」を改めて打ち出した。安倍晋三首相は、2次報告を夏の参院選で訴える「教育新時代」の柱に据える構えだ。ただ、個人の価値観にかかわる徳育などの問題では議論が迷走。年金支給漏れ問題や松岡利勝前農相自殺で政権の求心力が低下する中、「教育改革が反転攻勢につながるのか」という疑問の声も漏れる。報告の内容実現に向けた課題を探った。【竹島一登、平元英治、佐藤丈一】

◇徳育「押し付け」批判も

 「優先順位を付けた方がいい」「メリハリをつけないと、現場の人たちに『すべて一斉にしないといけない』と思われる」

 池田守男座長代理や義家弘介担当室長ら中核メンバーが先月29日、東京都内で開いた運営委員会では、25日にまとめられた第2次報告の原案を巡って激論がかわされた。委員たちは各項目に関する実施期限を設けるべきだと指摘。原案にはなかった「期限設定」が固まった。

 出席者の一人は「第2次報告のメッセージ性は第1次報告に比べて弱い」と語る。当初予定していた「『親学(おやがく)』に関する緊急提言」を見送るなど目を引く項目は少ないが、「実効性が高まればメッセージになる」(中心メンバー)との狙いがあった。

 ただ、これらの大半は議論の過程で迷走した。第1分科会(学校教育)は3月29日、徳育を「正式な教科」とする方針を提示。この場合、子どもの点数評価や文科省検定教科書の使用が条件となる。議論をリードする白石真澄主査(関西大教授)は記者会見で「将来的には成績判定がなされる」と明言したが、政府・与党の反発を受け、点数評価は見送る方向となった。

 特に教科書の使用について、「国が国民に価値観を押し付ける」という与党内の批判が根強かった。それでも、推進役の山谷えり子首相補佐官は1日の会見で「基本的な徳目は知っておいた方が良い」と徳育教科書の導入にこだわりをみせた。

 再生会議関係者は「首相のハイリゲンダム・サミット(6~8日)出席前に総会を開くため、生煮えで決めた項目もある」と打ち明ける。原案段階で「大幅に促進」との表現にとどめられていた9月入学は「全国立大で実現」に格上げされた。「学生の就職が不利になる」などの慎重論もあったが、首相が昨年の自民党総裁選で提唱し、中心メンバーの中嶋嶺雄国際教養大理事長の持論だったことにも配慮した結果といえそうだ。

◇官邸と文部省 調整不足が露呈

 「年金なんかは主張が明解だが、教育は攻め(の姿勢が大事)なんだ」。先月31日朝、国会近くで開かれた伊吹文明文部科学相と文科相・文相経験者ら10人余りの会合で、自民党文教族のドン、森喜朗元首相がハッパをかけた。会合は今月まとまる「骨太の方針」に、教育予算の増額を明記するよう首相に働きかける打ち合わせだった。

 教育予算は構造改革路線の小泉政権下でマイナスが続いたが、教育を最重点課題に掲げる安倍首相の下、文教族には首相が初めて本格編成する08年度予算で「今度こそ」の思いが強い。「(予算獲得は)歳出削減の政府方針に縛られている再生会議には無理。これは政治の仕事だ」(閣僚経験者)。夏の概算要求もにらみ、主導権は文教族に移りつつある。

 首相が夏の参院選で教育改革を掲げて勝利すれば、予算や制度改革に弾みがつく。ところが、その足元が年金支給漏れ問題や松岡前農相の自殺で揺れ始めた。教育予算を巡り「効率化も必要」と繰り返す首相には「まるで財務省」との落胆も党内にあり、森氏らの会合も首相とのすれ違いを埋めることが狙いだった。

 「教育改革の改革を」--。河野太郎衆院議員ら自民党若手議員は、月刊誌「世界」6月号に「安倍教育改革」への疑問をぶつける論文を寄稿した。第1次報告の「規範意識=奉仕活動」の構図には「論理の飛躍と思えるような唐突な提言」と批判している。

 首相は1日の再生会議総会で「土曜授業」「徳育の教科化」「国立大学の9月入学」「メリハリある教員給与体系」の4点を「特にお願いしたい」と語り、具体化を急ぐよう要請した。次々と法案成立を目指す国会戦略と同じく、参院選を控え“突貫工事”での目玉政策作りに腐心している。

 ただ官邸主導をアピールしながらも教育制度を論議する場としては元々、文科相の諮問機関の中央教育審議会があり、再生会議の報告も制度改革の実現には中教審の審議を経なければならない。教育再生会議には「屋上屋」(文科官僚)との指摘が根強く、官邸と文科省の調整不足がしばしば露呈する。

 今回、「ゆとり教育の見直し」で浮上した土曜授業についても、授業実施には学校教育法施行規則の改正が必要となるが、文科省に慎重論が多いため正式決定直前になって、規則改正には踏み込まず、その前段階の「学習指導要領の改定」を求める形にとどめた。

▽喜多明人・早稲田大教授(教育学) 徳育の「新たな教科化」は、国家が道徳や家庭教育に介入する可能性をはらんでおり、戦前の「修身」を連想させる。にもかかわらず再生会議委員が無自覚そうなのが心配だ。シンクタンクの調査では、日本の子どもは学習意欲を失いつつある。「土曜授業で授業時間を増やせば学力が高まる」という認識は甘いといわざるをえない。全国学力テスト結果が振るわなかった学校への予算配分も、学校間の競争を激しくするのではないか。

▽八木秀次・高崎経済大教授(憲法学) 第2次報告が徳育の必要性を強調しているのは「豊かな情操と道徳心を培う」ことを目標に掲げている改正教育基本法の趣旨の具体化を図ったものということができる。学力向上のため、土曜授業も柱に据えられたが、子どもの自主性を強調してきた戦後民主主義的教育観そのものを変えないと、学力は向上しない。再生会議には第3次報告で、徳育の文科省検定教科書のあり方など徳育に関してさらに充実した提言を期待する。


大学9月入学・小中土曜授業など、教育再生会議が2次報告
(読売新聞 2007年6月1日20時39分)

 政府の教育再生会議(野依良治座長)は1日、首相官邸で総会を開き、大学への9月入学の拡大、小中学校での授業時間増に向けた土曜授業の活用と道徳の教科化などを盛り込んだ第2次報告を決定し、安倍首相に提出した。

 特に9月入学では、全国立大に新たな入学枠を設けるための今年度中の関連法改正を政府に求め、首相も伊吹文部科学相に対応を指示した。

 第2次報告は「公教育再生に向けた更なる一歩」と題し、「学力向上」「心と体」「大学・大学院改革」「財政基盤の在り方」の四つの柱からなる。第1次報告の「授業時間10%増」の具体策として、夏休みや土曜の活用、1日7時間授業の実施を提案したが、週5日制を基本とする制度自体は見直さなかった。

 規範意識の向上のため、従来の「道徳の時間」を教科「徳育」に格上げし、指導を充実するよう求めた。点数評価はせず、免許も設けないが、検定教科書や副教材を使用することを想定している。家庭教育の支援や育児相談の充実など、5月に見送った「子育て提言」の一部も盛り込んだ。

 大学・大学院改革では、留学生の受け入れ拡大を通じて国際化を図るとした。国立大での運営費交付金の配分方法の検討、大学や学部の再編も打ち出した。

 こうした中で、9月入学枠の設定のほか、<1>土曜授業などのための今年度中の学習指導要領改訂<2>徳育の教科化のための今年度中の指導要領改訂<3>教員給与体系にメリハリを持たせるための08年4月をめどとした教員給与特別措置法の改正――を「四つの対応」とし、政府が優先して取り組むよう求めた。

 再生会議は今後、12月の第3次報告に向け、「6・3・3・4」の学制の在り方や大学入試の抜本改革、教育バウチャー制度などを検討する方針だ。


教育再生会議 第2次報告決定 学力向上へ土曜授業可能
(産経新聞 2007/06/02 02:59)

 政府の教育再生会議(野依良治座長)は1日、安倍晋三首相も出席して総会を開き、第2次報告を正式に決定した。緊急性の高い「4つの対応」として、平成19年度中に学習指導要領を改定し「徳育」を教科化することや、学力向上を目指し授業時間の10%増を図り、土曜日の授業も行えるようにすることを打ち出した。政府は2次報告を「骨太の方針」に反映させる。

 「4つの対応」はほかに、めりはりのある教員給与体系を実現し、大学の4月入学原則を弾力化して全国立大学に9月入学枠を設定するという内容。20年4月をめどに教員給与特別措置法を、また19年度中に学校教育法施行規則をそれぞれ改正するよう求めている。

 現在の「道徳の時間」を大幅に見直し指導内容、教材を充実させる「徳育」に関しては、従来の教科とは異なる「新たな枠組み」に基づき教科と位置付け、「多様な教科書と副教材を機能に応じて使う」よう求めた。数値による成績の評価や教員に対する専門免許の創設は見送った。

 第1次報告で提言されていた授業時間を10%増やすための具体策としては、夏休みの短縮と活用、1日7時間の授業などを列挙。教育委員会や学校の裁量で、必要に応じ土曜日にも授業を行えるようにするとしている。

 12月に予定される第三次報告に向けた検討課題については、(1)学校や教委の第三者評価制度(2)現行の「6・3・3・4」制のあり方(3)小学校での英語教育のあり方(4)行政が配布した利用券を使い、生徒が自ら選んだ学校に通う教育バウチャー制度-などを挙げた。

 一部から反発を受けた「親学」の提言は、最終的に見送った。