学校の外から

教育基本法改悪の修正協議本格化か?

2006年11月20日掲載

 教育基本法改悪法案は、11月15日に衆議院特別委員会で、16日に衆議院本会議で強行採決され、17日に野党欠席のまま参議院で審議入りした。また、衆議院での審議に大きな影響を与えると考えられた19日の沖縄知事選挙は野党統一候補の敗北となり、ますます与党の強引な国会運営が表面化すると予測される。それにともない民主党の審議復帰もとりざたされている。
 この間の衆議院での教育基本法改悪をめぐって気がかりなことは、民主党の一部(民主党案をとりまとめた西岡武夫が中心)と自民党との間で教育基本法改悪案の修正協議の水面下の動きがあったことである。西岡武夫がとりまとめた民主党案と自民党右派(平沼赳夫衆院議員を会長とする日本会議国会議員懇談会が中心)の教育基本法改悪の方向はとは基本的に同一であり、政府案よりもより露骨に超国家主義的である。西岡武夫は元自民党の右派文教族・元文部大臣、日本会議国会議員懇談会の顧問であり、平沼赳夫は郵政民営化反対で自民党を追われたが、沖縄知事選後に自民党復帰の予定である。どちらも日本会議系の議員である。今後の教育基本法改悪の動きとの関連で、この間に報道された民主党と自民党の修正協議の動きを調べてみた。(一作)

<以下、新聞記事のため転載禁止>
 なお、民主党案と日本会議の教育基本法改悪の方向性との同質については、以前に掲載した「教育基本法第10条と『改正』問題」の(3)自民党右派別働隊的「民主党の日本国教育基本法案」を参照ください。


教育基本法改正案 参院で与野党修正も 与党、あす衆院通過方針
(前段略)
 14日の特別委では、自民党の鳩山邦夫氏が民主党の改正案について「前文から随所でいいなと思う」と褒め上げた。伊吹文明文部科学相も「双方の案の中でいいものを作っていただければ一番ありがたい」と強調。伊吹文科相は10日にも「政府案がすべていいとは思っていない。自民党は喜んで応じるだろう」と民主党との修正協議に向け“ラブコール”を送った。

 10月下旬には、自民党の二階俊博国対委員長と民主党の改正案をとりまとめた西岡武夫元文相が会談。今月に入ってさらに「ハイレベル」での非公式協議も行われた経緯もある。
(産経新聞 2006年11月15日8時1分)

文科相 修正に含み

伊吹文明文部科学相は14日の衆院教育基本法特別委員会で、政府の教育基本法改正案について「参院を含めた審議の様子も踏まえ、政府としてはある程度の変更をせざるをえない時は、国会に諮ることは否定しない」と述べ、修正に含みを持たせた。教育委員会の廃止などを主張している民主党側に、一定の配慮を示したとみられる。
また、教育における国の役割について「未履修問題やいじめを思うと、学習指導要領を担保する国の権限を付与するのが適当ではないか」と表明。学習指導要領を徹底させるために、学校教育基本法などの関係法令改正で国の関与を強めるべきだとの考えを示した。
 現法案の原型である与党改正案にはあったのに現法案からは削除された「宗教的情操の涵養」について、「一般論としで必要だ」と述べた。
(産経新聞 2006年11月15日)

教育基本法改正案、民主が対案提出…審議復帰を模索?
(前段略)
与党との修正協議を巡ってドタバタを演じた。民主党の対案をとりまとめた西岡武夫・元文相は自民党の青木参院議員会長、片山氏と国会内で会い、法案の修正協議を持ち掛けた。しかし、片山氏は「修正すると、もう一度衆院で採決しなければならない。物理的に不可能だ」と難色を示した。その後、民主党の鳩山幹事長は記者会見で「与党と一緒に修正協議することは難しい」と述べた。
(読売新聞 2006年11月17日23時6分)

教育基本法:民主党内に参院審議復帰の動き
(前段略)
 野党は17日、同改正案の趣旨説明を行う参院本会議を欠席したが、その一方で民主党は対案の「日本国教育基本法案」を改めて参院に提出。同党の参院幹部は「審議に復帰する布石」と説明した。さらに同党の西岡武夫元文相が自民党の青木幹雄参院議員会長に修正協議を打診。自民党の片山虎之助参院幹事長は記者会見で「修正したらもう一度、衆院に返すことになる。物理的に不可能」と即座に否定した。
 民主党から早期の審議復帰論が出ているのは、いじめやタウンミーティングの「やらせ質問」などが拡大する中で審議拒否を続けることへの批判を懸念するからだが、修正協議で対案をアピールしたい思惑も働いている。鳩山由紀夫幹事長が同日の会見で「民主党案が政府案の中に取り入れられていく道はないか模索することも大事だ」と発言後、「修正協議には応じられない」と釈明の文書を出す混乱もみられた。【須藤孝】
(毎日新聞 2006年11月17日20時52分)

教基法改正案 野党欠席し衆院通過
(前段略)
 超党派の保守系議員でつくる日本会議国会議員懇談会(平沼赴夫会長)も、自民、民主両党に修正を求める働きかけを強めている。政府案16条の「教育は、不当な支配に服することなく」の主語を「教育行政」に修正することで、過激な教職員による国旗・国歌反対闘争などを封じることを目指している。
 しかし、修正実現へのハードルは高い。これまで民主党執行部が修正協議に難色を示してきた経緯に加え、野党4党の審議拒否で国会日程の見通しが立たなくなったためだ。1週間程度の会期延長論も取りざたされる中、修正の機会は失われようとしている。
(産経新聞 2006年11月17日)

<教育基本法>保守系超党派の日本会議など4団体が集会

 超党派の保守系でつくる日本会議国会議員懇談会(会長・平沼赳夫衆院議員)など4団体は7日、東京都内で集会を開き、政府提出の教育基本法改正案について、与党に民主党との修正協議を求める決議を採択した。「国を愛する心」の明記などを求めている。
(毎日新聞 11月7日18時59分)

教育基本法 民主、対立鮮明化狙う 週明け審議復帰も探る
(前段略)
 民主党は17日、鳩山由紀夫幹事長や輿石東参院議員会長ら衆参幹部が会談し、引き続き審議に応じない方針を確認。鳩山氏は同日、伊吹文科相が呼びかける法案の共同修正に応じず、「与党が修正協議を言うなら民主党案を成立させるべきだ」との考えを示した。

 だが党内で認識のずれもある。とりまとめ役の西岡武夫・元文相は17日、自民党の青木幹雄参院議員会長と国会内で非公式に会談。その後の会見では「この(不正常な)状態を放置するのは好ましくない」との認識を示した。

 さらに、衆院での法案審議中に自民党側から非公式に修正協議を打診されたことも明かしつつ、「個人的な意見」としながらも「自民党がかなり踏み込んでくれば、(修正)協議の場を設けることは党内合意が得られる」とも述べた。
 参院民主党としては、沖縄県知事選が終わった20日以降は、いじめ、タウンミーティングの「やらせ」、必修科目の履修漏れなどの教育問題や、麻生外相らの核保有議論発言などを、国会審議で突くチャンスを逃したくない。このため、首相出席による予算委開催などを条件に審議に復帰したい思惑もある。(林尚行)
(朝日新聞 2006年11月18日)

参院でも対案提出へ 国会正常化 民主が模索

 民主党は16日夜、幹部間で協議し、衆院で提出した「日本国教育基本法案」を修正し、17日午前に参院に提出し直す方針を決めた。このほか、教育委員会制度の抜本的改革を目指す「地方教育行政適正運営確保法案」や、教育を進める施策や予算に数値目標を盛り込むよう規定する「教育振興計画」に関する法案を同時に提出する。

 民主党は教育基本法改正案の衆院採決を欠席し、審議を拒否しているが、「与党が参院で審議を進めようとする以上、手をこまねいているわけにはいかない」(幹部)と判断した。同日の参院議院運営委員会理事会では、教育基本法改正案を審議する特別委員会設置を求める与党側に対し、いじめ問題などの調査を主眼とする特別委員会設置を逆提案しており、法案提出とともに正常化を模索する動きとみられる。

 一方、教育基本法改正案の採決を欠席した民主、共産、社民、国民新の野党4党は16日、国会内外で抗議集会を繰り返した。民主党の鳩山由紀夫幹事長は、衆院本会議後に開いた4党の緊急集会で「強行採決されて残念だ。この悔しさをバネに参院で恨みを晴らそう」と述べた。
(産経新聞 2006年11月17日)

【主張】教育基本法改正 民主は修正協議に応じよ

 衆院教育基本法特別委員会が再開され、政府の改正案と野党の民主党案について提案理由の説明が行われた。本格的な論戦は30日から始まるが、不可解なのは民主党までが政府案の成立に徹底抗戦の姿勢を示していることだ。

 政府案は自民党と公明党の与党合意に基づき、「我が国と郷土を愛する態度」などの育成をうたい、民主党案は「日本を愛する心」「宗教的感性」の涵養(かんよう)を盛り込んでいる。

 愛国心や宗教的情操教育では民主党案の方が踏み込んだ表現をしている半面、民主党の教育行政に関する規定には日教組などが介入する余地を与えかねないとの批判もある。そうした違いはあるものの、両案は総じて共通点が多い。双方が知恵を出し合い、より良い案にすることは十分可能である。

 同じ野党でも、社民党と共産党は対案を持たず、教育基本法の改正そのものに絶対反対の立場だ。対案を出している民主党が、これらの少数野党と歩調を合わせるのは、建設的な野党として賢明な選択とはいえまい。

 過去に、与党と民主党の修正協議が実を結んだ例として、平成15年に成立した有事関連3法などがある。教育基本法は憲法と並ぶ重要な国の根本法規であるだけに、その改正案はできるだけ多くの国会議員の賛成を得て成立することが望ましい。

 野党4党は時間切れに追い込む作戦のようだ。しかし、先の通常国会で、すでに50時間の審議が行われている。与党は臨時国会であと30時間の審議を行い、11月上旬には衆院を通過させたい意向だ。政府案は3年に及ぶ与党協議会での議論を踏まえ、民主党案も2年近い同党教育基本問題調査会で検討を重ねた。これ以上、いたずらに時間を費やすべきではない。

 現行の教育基本法は終戦後の昭和22年3月、GHQ(連合国軍総司令部)の圧力や干渉を受けながら成立した。「個人の尊厳」や「人格の完成」など世界共通の教育理念をうたっているが、肝心な日本人としてのありようがほとんど書かれていない。

 安倍内閣は、教育基本法改正を臨時国会の最重要課題としている。学校でのいじめや家庭での幼児虐待など、荒廃する教育現場を根本から再生するには、今国会での成立が急がれる。
(産経新聞 2006年10月26日)