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休憩時間訴訟「休憩時間訴訟判決(抜粋)」

2008年1月20日掲載

平成20年1月9日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
平成16年(行ウ)第50号 賃金等請求事件

判     決

当事者目録   (略)

主     文

1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告のらの負担とする。

第1 原告らの求める裁判        (略)

第2 事件の概要            (略)

第3 争点に関する当事者の主張の要旨  (略)

第4 当裁判所の判断

1 争点1(原告らの勤務実態)について

(1)原告らの勤務状況
 前提事実,証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、原告らの勤務状況に関して、以下の事実が認められる。
ア 原告松岡について(甲28の1、甲62、76、85、甲89の1~3、丙9の1~6、丙16、原告松岡本人)
(ア)原告松岡は、柳川中学校において、平成14年度は3年生の担任てあり、平成15年度は1年生の担任であった。
(イ)柳川中学校における休憩時間は、午後0時45分から午後1時30分までであり、これは、4時限の授業の終了から5時限の授業の開始までの間であり、生徒の昼食及び昼休みと同じ時間帯であった。
(ウ)原告松岡は、平成15年度前期の水曜日を除き、毎日1時限程度、授業を担当しない空き時間があった。
(エ)原告松岡は、昼食時間に週3回程度、担任する生徒と一緒に昼食をとり、その際に、生徒と会話をして、生徒の様子を把握するなどしていた。
(オ)原告松岡は、平成14年度は、2学期の中頃から、3年生に対する進路指導のため、生徒との相談や、書類の作成等の作業を行っていたが、昼休み(休憩時間)にもその作業を行っていた。また、担任した学級には、情緒障害がある生徒や、小学校の時から不登校であった生徒が在籍しており、昼休み等の時間に、これらの生徒に生じた問題に対応していた。
(カ)原告松岡は,平成15年度は、1年生の担任として、生徒を中学校での集団生活に慣れさせ、生徒間に生じた問題を解決し、また、担任した学級に在籍していた高機能自閉症の生徒に関して生じた問題を解決するために、昼休み,放課後等の時間に、これらの問題に対応していた。
 原告松岡は、平成15年6月9日から同月27日まで、昼休み等の時間において、教育実習生に対する教材研究・特別教育活動の指導に当たった。
(キ)原告松岡は、定例的な学年会、教科に関する会議に、主に放課後に参加していた。
 柳川中学校において、職員会議は,放課後に行われることが通例であり、昼休みに行われることは少なかった。
(ク)原告松岡は、この他に、担任クラスに関する諸事務、教科の研究・準備、定期考査の問題作成・採点、進路関係の諸事務に従事しており、これらの業務を自宅に持ち帰ってすることが度々あった。
イ 原告家保について(甲28の4、甲71、72、76、81、82、丙13、14、の各1・2、丙19、被告中井本人、原告家保本人)
(ア)原告家保は、庄所小学校において、平成14年度は1年生の担任であり、平成15年度は、5,6年生の理科専科と5,6年生の算数のT・T(チーム・ティーチング)主担養護学級児童の学習支援を担当していた。
(イ)庄所小学校での休憩時間は、月曜日・火曜日・木曜日は午後3時25分から午後4時10分までであり、水曜日・金曜日は午後2時25分から午後3時100分までであり、いずれも、授業終了後に行う「終わりの会」(10分間)の終了時刻後の、放課後の時間帯であった。
(ウ)原告家保は、平成14年度は、1年生の担任として、1学期の前半に、家庭との連絡を学年だよりで行っていた。学年だよりの発行は、当初は週2回程度であったが、その後、次第に減少し、2週に1回程度になった。
 原告家保は、平成14年度に、「研究部会(人権・道徳部)代表・指導部会(体育部)代表・高槻市人権教育研究協議会校内代表・校内推進委員会・職員会議・校内研」に関する業務を分掌していた。
 原告家保は、放課後、児童が下校するまでの間、児童の対応に当たっていた。
 平成14年度、庄所小学校では5年生がいわゆる荒れた状態になったことから、この問題に関して、放課後に臨時会議が行われることがあった。原告家保は、他の教諭とともに、5年生への対応に関する業務(個別面談、生活指導、当番等)に関する業務を担当した。
(エ)原告家保は、平成15年度は、庄所小学校が養護学級1学級を含めて8学級の小規模校であり、担任クラスを持っていなかったこともあり、校務分掌について、全部で39ある「部・委員会」のうち15に所属し、全部で25ある各代表(長)のうち11の代表(長)となり、また、前記「T・T授業」の実施において、6年生24名、5年生36名を受け持っていた。原告家保は、放課後等に、担当する部・委員会に関する業務、他の担当者との調整等に当たった。
 原告家保は、平成15年度、週22時限程度の授業を担当しており,その他の空き時間は、週5時限程度あった。
(オ)原告家保は、その他に、授業教材の準備・後片づけ、理科実験の準備・後片づけ、学校行事及び学年行事の準備等の業務に従事した。
ウ 原告志摩について(甲28の5、甲76、85、丙15の1~4、丙20、被告高浜本人、原告志摩本人)
(ア)原告志摩は、土室小学校において、平成14年度は5年生の担任であり、平成15年度は、理科専科とコンピュータ情報主担を担当していた。
(イ)原告志摩の土室小学校での休憩時間は、火曜日・木曜日・金曜日は午後3時30分から午後4時15分までであり、月曜日・水曜日は午後2時40分から午後3時25分までであり、いずれも、授業の終了時刻から15分後の、放課後の時間帯であった。
(ウ)原告志摩は、平成14年度は、担任する5年生の林間学校(6月13日及び14日に実施)のため、年度当初から計画立案、準備等に当たり、放課後に生徒と一緒に準備作業を行ったこともあった。
 また、土室小学校は、平成14年度、高槻市から研究委嘱校の指定を受け、担任する5年生が総合的学習の研究発表を中心となって行うため、原告志摩は、年度当初から計画立案、地域内外のボランティア・ゲストとの折衝準備等に当たった。
(エ)原告志摩は、平成15年度は、教材の準備、実験器具の準備・後片づけ、教材園の管理、放課後における児童との対応、ホームページの作成、コンピュータクラブのボランティアとの打合せ、機器の保守管理、コンピュータ機器の新規更新作業、情報主担者会議・研修への出張等に従事していた。
 原告志摩は、平成15年度、週20時限程度の授業を担当しており、その他の空き時間は、週6時限程度あった。
(オ)土室小学校において、職員会議は、原則として休憩時間後の時間に行われていたが、休憩時間内から行われることもあった。休憩時間に職員会議を行う際は、校長、教頭、各教科部の主任又は各学年の主任で構成される推進会議において、議題内容に照らして事前に決定され、推進会議は、職員朝礼の際にこれを提案し、教職員の了承を得ていた。
(カ)原告志摩は,休憩時間を費やしても足りず、教材の研究、作成等の業務を自宅に持ち帰ってすることが度々あった。
エ 原告末広について(甲28の3、甲76、85、105、丙11の1~4、丙12の1・2、丙17、被告大西本人、原告末広本人)
(ア)原告末広は,、の内小学校において、平成14年度は、3年生の担任であり、平成15年度は、5年生の担任であった。
(イ)原告末広の竹の内小学校での休憩時間は、6時限まである日は、午後3時35分から午後4時20分までであり、5時限まである日は、午後2時45分から午後3時30分までであり、いずれも、授業終了後に行う「終わりの会」(10分)が終了した後の、放課後の時間帯であった。 
(ウ)原告末広は、終わりの会の終了後、児童全員が下校するまでの間、児童への対応を行い、その後、教室の片づけ、ノートの点検、次回の授業の準備等を行っていた。
(エ)原告末広は、平成14年度は、竹の内小学校がNIE(「教育に新聞を」の英語略)の研究指定を受け、11月に公開授業を担当することから、9月の運動会終了後からその準備等に当たった。11月は、総合的な学習を行う時限数が増加し、原告末広は、そのための準備・打合せ、授業後の反省・点検等に当たったが、これらの作業が休憩時間に食い込むことがあった。
(オ)原告末広は、平成15年度は、担任する5年生による林間学校や児童会の行事(児童会祭り等)があり、その計画を立案し、放課後に児童と一緒に準備を行った。また、原告末広が担任する学級に自閉的な児童、不登校の児童、養護学級に入っている児童等が在籍していたことから、この問題に対処するため、放課後に保護者との連絡、家庭訪問等を行った。
(カ)原告末広は、平成14年度及び平成15年度は、電話の近くに席があったことから、休憩時間に電話の対応をすることが度々あった。
 竹の内小学校において、教諭の休憩時間における電話の対応は、管理職又は昼休みを休憩時間としていた事務職員が主に当たるようにしていたが、教頭が平成15年度に病気で勤務を休んだ時期があったこともあり、管理職又は事務職員が電話の近くにいない際は、他の教諭が電話の対応をすることがあった。
(キ)原告末広は、竹の内小学校が全学年2クラスという小規模校であったことから、校務分掌との関係で、放課後に会議に参加することが多かった。
(ク)竹の内小学校において、職員会議は、原則として休憩時間後の時間に行うこととされていたが、会議の議題によって就業時間内に会議が終了しないことが予想される場合には、教職員からの提案等によって、休憩時間内から会議が行われたこともあった。
オ 原告長谷川について(甲28の2、甲63、65、76、83、84、86、丙10の1~4、18、被告山口本人、原告長谷川本人)
(ア)原告長谷川は、大冠小学校において、平成14年度は1年生の担任であり、平成15年度は3年生の担任であった。大冠小学校は、各学年2クラスの小規模校であった。
(イ)原告長谷川の大冠小学校での休憩時間は、水曜日以外は午後3時30分から午後4時15分までであり、水曜日は午後2時40分から午後3時25分までであり、いずれも、授業が終了した10分後の、放課後の時間帯であった。
(ウ)原告長谷川は、平成14年度は、担任する1年生に養護学級に在籍していた児童がおり、放課後に同児童への連絡帳を作成し、同児童のいる学童保育に届けて、その際に同児童の様子を確かめたりしていた。同児童の下校時刻は午後5時であった。
(エ)原告長谷川は、平成14年度に高槻市教育研究会小学校生活部の部長を担当し、放課後にこの役員と会議を行うことがあった。
(オ)原告長谷川は、平成15年度は、月曜日、火曜日、木曜日及び金曜日の放課後に、担任する3年生の児童に対して補習を行っていた。月曜日は全員に対して行われ、その他の曜日は一部の児童に対して行われていたが、火曜日と金曜日は6時限まで授業があったので、上記補習は休憩時間中に行われた。これらの補習は、7月に爆弾をしかけたとの脅迫電話があった事件が発生するまで続けられた。
 原告長谷川は、3年生の他の担任教諭が新任2年目であったことから、放課後に学年会として同教諭との打合せを多く行った。
(カ)大冠小学校において、職員会議(定例会議は月1回)は,休憩時間の終了後に行われていた。

(2)高槻市教委による休憩時間の取得状況調査の結果(甲2の1~3、丙24)
ア 高槻市教委は、平成15年1月、2学期(平成14年9月2日~同年12月24日)における休憩時間の取得状況について、各校長に調査を依頼した。
 調査の方法は、各校長において、所属学校の教職員に質問を記載した調査票を配布し、その回答の集計結果を集計票に記載して、高槻市教委に提出するというものであった。
イ 選択式の質問に対する回答の集計結果は、以下のとおりであった。
(ア)明示された休憩時間を取得できたか(対象職員1503名)。 
 A ほぼ取得できた       108名( 7.2%)
 B 50%程度取得できた    234名(15.6%)
 C ほとんど取得できなかった  791名(52.6%)
 D 全く取得できなかった    289名(19.2%)
 E 無回答            81名( 5.4%)
(イ)上記(ア)でBないしDと回答した者において、時間の変更等で休憩時間を確保できたか(回答者1290名)。
 A ほぼ取得できた         9名( 0.7%)
 B 50%程度取得できた    170名(13.2%)
 C ほとんど取得できなかった  710名(55  %)
 D 全く取得できなかった    401名(31.1%)
ウ 調査票において,前記イ(ア)の質問にBないしDと回答した者は、更に、休憩時間を取得できなかった理由を記述式で回答することを求められていた。
 原告らが所属する各学校の校長が、上記記述式の回答内容を取りまとめ、集計表に記載した内容は,以下のとおりであった(甲2の3)。
(ア)柳川中学校(原告松岡)
 明示した休憩時間は取れていないという予想はあったが、実態はそれを超えるものであった。制度の抜本的な改善か、人的配置を施す以外に方法はない。
 授業中はもちろん、放課後も生徒対応があり、日々多忙。
 学校という特殊な現場を理解しっつも、まとまった時間で休憩したいという声も多い。各人の休憩をとれる時間帯が異なるため、個別的にしかも毎日明示する必要がある。
 まとめ取りは困難。空き時間等を個別に休憩時間に当てることを考えるしかない。
 取得は困難。忙し過ぎ。
 休憩時間確保のため、会議等の時間が整理されたことは評価。しかし、退勤が遅くなったのが実状である。
(イ)庄所小学校(原告家保)
 授業終了後の45分を休憩に充てたが、児童との対応等でほとんど取得できなかった。来年度は一斉に休憩が取れるよう十分な検討が必要。
 調査結果よりは実際は休憩時間を取得できているようにも思われる。休憩時間はきちんと取るという習慣付けが今まで無かったのが原因。
 時間の変更を行っても、生徒への対応や、授業準備、会議等のため、ほとんど取得できなかった。生徒が学校にいる限りこの問題の解決は困難。
 教育指導は、全教員で行わなければならず、時間的に交代して休憩するわけにはいかない。生徒の在校中は難しい。
 職員室で昼食をとっている職員も多数おり、ある程度取れている人も結構いた。しかし、数字上の判断だけでは正確さに欠ける。
 昼食時はその指導、校内の見回りのため、放課後は生徒指導、教科補充指導、クラブ指導と困難。
 ほとんど取得できず、時間の変更も確保できていない現状である。
(ウ)土室小学校(原告志摩)
 児童への対応や教材研究等で、なかなか取得できない現状。
 時間変更等の工夫をしても、子どもとの対応が長引き,取得は厳しかった。
(エ)竹の内小学校(原告末広)
 電話、来客対応、教材研究等のため、とりにくかった。しかし、意識づけとしての効果はあった。
 児童への対応がかなりの部分を占めている。会議については、精選や合理化を図っていく必要あり。
 会議を休憩後にすると、勤務時間がオーバーしてしまう。しかし、休憩を取ろうとする意識をもっと持つべきとの回答もあり、浸透していない面も感じる。
 昼休みも担任は昼食指導、担任外は校内巡視当でほとんど取れていないのが実態である。
 仕事量が多いため、休憩時間を取得するよりも、この時間を活用することで,家に持って帰る仕事を減らしたい。
 昼休みは担任は昼食指導、担当外は校内の見回り、分割しても放課後の休憩時間取得も難しい。
 生徒指導、保護者対応、会議、昼食指導等で取得は難しかった。
 実態は、昼休みに休憩を取れなくても他の空き時間に休憩をとるなど主体的に振替休憩が行われている。感覚的に取得できてないとの思い入れでアンケートに記載した人もいた。
 取得は困難。働くものの権利と健康を守るため、今後はもっと検討が必要。
 一斉業務停止ができない職場において、中間に連続して取得することは困難。児童への安全への対応ができる要因が必要。
 小学校の現状を考えると、交代等のシステムがない限り、取得は困難である。
 児童が学校にいる時間は取得しにくい。次の日の準備や来客の対応のため取得するのは明示された時間以外でも困難。
 校務に追われ、会議に時間がかかる。休憩室がない。児童の活動時間は目が離せない。 全体として明示した時間帯には、ほとんど取れていないのが現状である。全く取れないと答えた人は認識の違いではと思われる。
 多忙のため取得は困難であった。臨時主事や養護助教諭はとれても、自分達だけのため、まわりに遊んでいるように見えてしまう。
(オ)大冠小学校(原告長谷川)
 休憩時間には、児童や保護者への対応が入ることが多い。児童がいる間は休憩をとるという意識が薄い。
 児童の安全確保や授業準備作業のため休憩時間の取得は困難である。実態としてあるが、意識して休憩をとる工夫も必要。
 子どもがいると、来客や電話の応対のため取得は困難。また、休憩できる別室も必要。 職種による違いはあるが、設定した時間に休憩をとることは困難であった。今後はそれぞれが休憩時間の取得に意識的に努力する必要がある。
 児童がいる間は取得できない。電話や業務対応に追われる。
 明示された時間はおろか、時間変更等の工夫をしても、満足な休憩時間の確保はできなかった。
 教材研究や授業の準備、整理、放課後の子どもとの対応に使う教員が多く、休憩時間は実質とれていない。
 輪番制で昼休みをとるなど、人的配置が必要。電話、子どもへの対応はほおっておけない。
 職員会議等時間をずらして行っているが、生徒・保護者への対応、授業準備、来客、電話対応などで決められた時間には取得できなかった。
 生徒実態からみて、一斉に休憩がとれる職場状況ではない。五日制でより多忙になった。不満を持ちながらも生徒のために尽くしている。
 昼休み、放課後もそれぞれの事由で取得困難であった。

2 争点2(被告校長らによる職務命令の存否)について

(1)原告らの休憩時間の取得に関する被告校長らの対応
ア 柳川中学校(原告松岡)について(丙16、被告竹下本人)
 被告竹下は、平成14年、平成15年の4月の職員会議において、休憩時間を明示した文書(丙21の1、2)を職員に配布した上で、休憩時間内に会議や打合せをしないようにすること、職務を休憩時間に行った場合は校長に対して休憩時間の振替を申し出ることを伝え、また、上記文書を職員室に掲示した。
 被告竹下は、各年4月のPTA役員会において、教職員の休憩時間内に保護者による学校訪問、電話等をできるだけ控えるように求めた。
 被告竹下は、休憩時間に教職員が電話、訪問者への対応をすることを避けるために、校長又は教頭のいずれかが、在校する際は職員室に在室して、これらの対応を行うように図っていた。
イ 庄所小学校(原告家保)について(丙19、被告中井本人)
 被告恒岡は、平成14年度の当初、教職員に対し、休憩時間を明示した文書(丙23の1)を示して、休憩時間は自由に使える旨を述べ、休憩時間を取得できない場合は休憩時間の振替を利用するように伝えた。
 被告中井は、平成15年4月又は5月の職員朝礼において、休憩時間を明示した文書(丙23の2)を職員に配布した上で、被告恒岡と同様の内容を伝えた。
 被告中井は、職員に対し、各種会議を休憩時間後に行うように注意を促し、また、休憩時間に教職員が電話等の対応をすることを避けるために、校長又は教頭のいずれかが、在校する際は職員室に在室して,これらの対応を行うように図っていた。
ウ 土室小学校(原告志摩)について(丙20、被告高浜本人)
 被告高浜は、平成14年5月の職員会議において、休憩時間に関する文書(丙15の4)を配布して、各教職員が休憩時間を適切に取得できるように伝えて、同文書を掲示し、休憩時間を取得できない場合は休憩時間の振替を利用するように伝え、また、平成15年4月の職員朝礼において、休憩時間について説明した。
 被告高浜は、教職員に対し、各種会議について、休憩時間後に行い、会議の議題を精選するなどして開催時間を短縮するように注意を促し、また、休憩時間に教職員が電話等の対応をすることを避けるために,休憩時間には校長を含む管理職又は事務職員がこれらの対応を行うように図っていた。
工 竹の内小学校(原告末広)について(丙20、被告高浜本人)
被告佐竹は、平成14年度の当初、教職員に対し、休憩時間に関する文書(丙12の1)を配布して、休憩時間を取得するように伝えて、同文書を掲示し、休憩時間を取得できない場合は休憩時間の振替を利用するように伝えた。
被告大西は,平成15年度の当初,教職員に対し,休憩時間に関する文書(丙12の2・3)を配布した上で,被告佐竹と同様の内容を伝えた。
 被告大西は、教職員に対し、各種会議を休憩時間後に行うように注意を促し、また、休憩時間に教職員が電話等の対応をすることを避けるために、休憩時間には校長、教頭又は事務職員がこれらの対応を行うように図っていた。
オ 大冠小学校(原告長谷川)について(丙18、被告山口本人)
 被告山口は、平成14年度及び平成15年度の当初、教:職員に対し、休憩時間の時間帯を示した時間割(丙22の1・2)を配布して、休憩時間を取得するように伝えて、同文書を掲示し、休憩時間を取得できない場合は休憩時間の振替を利用するように伝えた。 被告山口は、上記時間割に休憩時間と会議等の時間を区別して記載するなどして、休憩時間に会議等を開催しないように図り、また、休憩時間に教職員が電話等の対応をすることを避けるために、休憩時間には校長、教頭ができる限り職員室に在室するように図っていた。

(2)被告校長らによる職務命令の存否
 前記1(1)によると、土室小学校(原告志摩)及び竹の内小学校(原告末広)では、休憩時間中に職員会議が開かれることがあったことが認められる。職員会議の開催及びこれに対する出席は、校長の職務命令に基づくものといえるが、校長が上記職員会議を休憩時間中に開催するよう命じた明示の職務命令を認めることはできない。しかし、その会議の性質上、校長が休憩時間中の開催を黙認している以上、校長の黙示の職務命令に基づき,休憩時間中に開催されたということができる。
 しかし、それ以外には、本件全証拠によっても、被告校長らが原告らを含む教職員に対し、休憩時間中に職務に従事するように明示して命令した事実は認められない。むしろ、前記(1)の認定によれば、平成14年度及び平成15年度において、被告校長らが原告らを含む教職員に対し、明示した休憩時間を取得できるように配慮していたことが認められる。
 たしかに、前記1で認定した原告らの勤務状況によれば、原告らは、休憩時間にも相当時間にわたり、職務に従事していたことは認められる。しかし、後記3(1)で述べる教育職員の職務の特殊性に照らすと、その多くについては、原告らは、教育職員としての各自の自発性、創造性に基づき、その職務を遂行してきたと認めるのが相当であって、少なくとも、被告校長らが原告らに対し、各自の職務を休憩時間にわたり従事することを、黙示に命令したような事実は認められない(なお、前記1(1)オ(オ)の補習については、月曜日に行われていた補習は「大冠タイム」と呼ばれる、全員に対するものであったが、6時限目〔午後2時35分から午後3時20分〕に実施されており、休憩時間にはかかっておらず〔甲76〕、その他の曜日に行われた補習は一部の児童に対するものであり、校長の職務命令に基づくものとは考えにくい。)。
 また、原告らの勤務状況に照らすと、原告らが従事した職務の中には、被告校長らの判断に基づき、職務担当が定められたものがあることが認められる。しかし、これらの職務についても、上記の職員会議への出席を除くと、これらを遂行する時間帯までの指示があったとは認められず(したがって、これらの職務を休憩時間に遂行するよう指示があったとも認められない。)、原告らは、定められた職務担当につき、各自の判断から、都合のよい時間帯にその職務を遂行していたと認めるのが相当である(その日の職務内容によっては、休憩時間を取得すると、本来の終業時刻までに全ての職務を終わらせることができない場合もあることが推定されるが、これを休憩時間内に遂行するか、所定終業時刻後の残業として遂行するかは,各自の判断ということになる。)。
 原告らは、休憩時間を全く取得できないような勤務状況にあったことから、被告校長らが原告らに対して休憩時間の勤務につき黙示の職務命令をしていたというべきである旨主張するが、以上の認定判断に照らすと、仮に原告らがそのような勤務状況にあったとしても、そのことから直ちに原告らが主張するような黙示の職務命令をしていたとは認められない。

3 争点3(原告らの被告大阪府に対する、休憩時間中の勤務に対応する給与請求権の有無及びその額)について

(1)旧給特法の適用範囲について
ア 旧給特法について
 旧給特法10条は,公立の義務教育諸学校等の教育職員について、労働基準法37条を適用しない旨定める。そして、証拠(甲49、乙6、乙7の1・2、乙29、30)によれば、その立法趣旨は、教育の勤務時間については、教育が特に教員の自発性、創造性に基づく勤務に期待する面が大きいこと、また、教員には夏休みのように長期の学校休業時間があること等を考慮すると、その勤務のすべてにわたって一般の行政事務に従事する職員と同様の時間管理を行うことは必ずしも適切でないこと、これらのことから、勤務時間の管理について運用上適切な配慮を加えるとともに、教員の時間外勤務とこれに対する給与等に関する制度を改め、教員の職務と勤務の態様の特殊性に応じたものにしたものであることが認められる。
 また、前掲各証拠によれば、旧給特法3条、8条は、国公立の義務教育諸学校等の教育職員について、教員の勤務に前記のような特殊性があることから、その勤務にっいて勤務時間の内外を問わず包括的に評価することにして、労働基準法37条等に定める時間外勤務手当及び休日給の制度を適用しないことにする代わりに、俸給相当の性格を有するものとして教職調整額を支給することとしたこと、教職調整額に関して、国立の義務教育諸学校等の教育職員については、昭和41年に文部省が行った教員の勤務状況調査の結果その他を勘案して、俸給月額の4%額を支給することとし(旧給特法3条)、公立の義務教育諸学校等の教育職員については、国立の義務教育諸学校等の教育職員に関する事項を基準として、支給の措置を定めなければならないと定められたこと(旧給特法8条)が認められる。
 そして、前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、これらの規定に関連して、適正な勤務条件を確保するための措置として、正規の勤務時間外における命令による勤務が教員にとって過度の負担にならないようにするため、旧給特法7条は、国立の義務教育諸学校等の教育職員にっいて、文部大臣(当時)が人事院と協議して時間外勤務を命じる場合の基準を定めることとし、これに基づき、文部省は、「教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合に関する規程」(昭和46年7月8日文部訓令第28号)(乙2)及び「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法の施行について」(昭和46年7月9日文部事務次官通達第377号)(乙6)で、時間外勤務を命じる場合について、(1)生徒の実習に関する業務、(2)学校行事に関する業務、(3)学生の教育実習に関する業務、(4)教職員会議に関する業務、(5)非常災害等やむを得ない場合に必要な業務と定めたこと、旧給特法11条は、公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合につき、国立の義務教育諸学校等の教育職員について定められた例を基準として条例で定める場合に限るものとする旨を定めたことが認められる。
イ 府給与条例、府勤務時間条例及び府教委勤務時間規則にっいて
 府給与条例は、旧給特法10条、8条、3条の規定を受けて、教員の勤務に特殊性があることに鑑み、義務教育諸学校等に勤務する教育職員については、その者の給料月額の4%に相当する額の教職調整額を支給することとし、時間外勤務手当の支給を定めた規定(21条)を適用しない旨を定める(26条の3)(乙1)。
 また、府勤務時間条例は、義務教育諸学校等に勤務する教育職員に対し、正規の勤務時間以外の時間に勤務することを命ずることができる旨を定め(7条、18条)、勤務を命じることができる場合について、府教委が、国立の義務教育諸学校等の教育職員について定められた例を基準として、人事委員会と協議して定める場合に限られる旨を定めている(11条、18条)(乙3)。
 そして、府教委勤務時間規則6条は、府勤務時間条例11条を受けて、勤務を命じることができる場合について、限定4業務((1)生徒の実習に関する業務、(2)学校行事に関する業務、(3)教職員会議に関する業務、(4)非常災害等やむを得ない場合に必要な業務)に当たる場合で、臨時又は緊急にやむを得ないときとすると定める(乙4、5)。
ウ 小括
 前記ア、イのとおり、旧給特法、府給与条例及びこれに関する前記法令の規定は、教育職員の勤務の特殊性に鑑み、その勤務については勤務時間の内外を問わずに包括的に評価することとし、時間外勤務手当の支給を定めた規定を明文で除外し、時間外勤務手当の支給に代えて、俸給相当の性格を有する給与として俸給の4%に当たる教職調整額を支給するものとしている。そして、原告らは、平成14年度及び平成15年度において、これらの規定の対象となる教育職員であった。
 このことに照らすと、原告らは、休憩時間に勤務した場合であっても、本来、法令上この勤務に対する対価の受給権を取得するものではなく、たとえ、原告らが、休憩時間に勤務を行い、この勤務が府教委勤務時間規則6条所定の事由(限定4業務)に該当しない場合であっても、そのことから直ちにこの勤務に対する対価を受給するものではないというべきである。
 もっとも、休憩時間における勤務について、給特法、府給与条例及びこれに関する前記法令の規定の趣旨を全く没却するような事態が生じた場合、すなわち、休憩時間において、勤務をするに至った経緯、従事した職務の内容,勤務の実情等に照らし、休憩時間における勤務が教育職員の自由意思を極めて強く拘束するような形態でなされ、かつ、そのような勤務実態が常態化しているなどの場合においては、時間外勤務手当の支給除外を定めた法令の規定の趣旨に反するものとして、労働基準法37条、府給与条例21条の適用は除外されず、教育職員は、休憩時間の勤務につき対価の支給を求めることができると解するのが相当である。
 そこで次の(2)において、原告らに、上記のような例外的な勤務実態が存するかという点について検討する。

(2)原告らの勤務における対価の受給権の有無
ア 前記1の認定判断によれば、原告らは、平成14年度又は平成15年度において、各校長から明示された休憩時間において、相当時間にわたり勤務に従事していたこと、当時、原告らを含む高槻市立小中学校の教育職員の多くが、明示された休憩時間を十分に取得できないと感じるような勤務状況であったことは認められる。
 しかし、他方において、原告松岡は、平成14年度又は平成15年度において、一時期を除き,毎日1時限程度の空き時間があり(前記1(1)ア(ウ))、原告家保は、平成15年度に理科専科等を担当していた際、週5時限程度の空き時間があり(同イ(エ))、原告志摩は、平成15年度に理科専科等を担当していた際、週6時限程度の空き時間があった(同ウ(エ))。
 さらに、証拠(丙4~8の各1・2)によれば、原告らは、平成14年度及び平成15年度において、所定終業時刻までの数時間に年次休暇を取得することが少なくなかったことが認められる。
 そして、前記1で認定した勤務状況及び教育職員の職務の特殊性に照らすと、原告らが休憩時間に従事した職務の大半は、教育職員としての各自の自発性、創造性に基づいて遂行されたものと認めるのが相当である。
 また、被告校長らが、職員会議への出席を除き、休憩時間に職務に従事するように明示又は黙示に命令したとは認められず、むしろ、原告らを含む教職員に対し、休憩時間を取得できるように配慮してきたと認められることは、前記2で述べたとおりである。
 そして、原告らが休憩時間を取得することが極めて困難であるような状況にあったとまで認めるに足りる的確な証拠はない。
 このようにみると、原告らの休憩時間における勤務が、勤務をするに至った経緯、従事した職務の内容,勤務の実情等に照らして、原告ら各自の自由意思を極めて強く拘束するような形態でなされ、かつ、そのような勤務実態が常態化しているとまでは認められない。そして、原告らの休憩時間における勤務の実情を放置することが、時間外勤務を命じ得る場合を限定列挙して制限を加えた趣旨にもとるような事情を認めるに足りる証拠はない。 以上によれば、原告らは、被告大阪府に対し、休憩時間の勤務につき対価の支給を求めることはできないというべきである。
イ 原告らの主張について
(ア)原告らは、休憩時間における職務内容や勤務態様に照らし、原告らの休憩時間は、実質的にみて使用者の指揮命令下における手待時間であり,労働時間であった旨主張する。 たしかに、教育職員の職務の特殊性に照らすと、教育職員は、休憩時間中であっても、突発的な事態に対して、生徒指導等の方法で対応する必要が生じる場合が存することは窺える。
 しかし、前記(1)で述べたところに照らすと、原告らは、休憩時間に職務に従事する必要が生じた場合があったことをもって、直ちにこの職務の対価の支給を求めることはできないというべきである。
 しかも、原告らの勤務状況等(前記1参照)及び教育職員の職務の特殊性に照らすと、原告らが休憩時間に従事した職務の大半は、教育職員としての各自の自発性,創造性に基づいて遂行されたものと認めるのが相当であることは、前記アのとおりである。
(イ)原告らは、教育職員において、給特法の成立後、4%の教職調整額に対応する時間以上の時間外勤務を余儀なくされており、この勤務に対する手当が支給されるべきである旨主張する。
 しかし、旧給特法等の規定が、教育職員の勤務の特殊性に鑑み、その勤務については勤務時間の内外を問わずに包括的に評価することとし、時間外勤務手当の支給を定めた規定を明文で除外し、時間外勤務手当の支給に代えて、俸給相当の性格を有する給与として俸給の4%に当たる教職調整額を支給するものとしていること、この点に照らすと、原告らは、休憩時間に勤務した場合であっても、原則として、法令上この勤務に対する対価の受給権を取得するものではないと解すべきことは、前記(1)ウで述べたとおりである。原告の上記主張は、これに反するものであり、採用できない。
(ウ)原告らは、教育職員に対して、限定4業務以外の業務について時間外勤務命令が出された場合には、賃金が支給されるべきである旨主張する。
 しかし、仮に原告らが休憩時間に行った職務が限定4業務に該当しない場合であっても、そのことから直ちにこの勤務に対する対価を受給するものではないことは、前記(1)ウで述べたとおりである。原告の上記主張は、これに反するものであり、採用できない。
(エ)なお、原告らは、旧給特法を適用して、休憩時間における労働に対する賃金を支払わないことが、労働基準法だけでなく、憲法27条2項(勤労条件に関する基準の法定)に違反する旨の主張をするが(原告ら準備書面(12)21頁参照)、地方公務員法、旧給特法は、労働基準法の特別規定であって、労働基準法と異なる規定を法律で定めること自体が、憲法27条2項に違反するわけではない。

4 争点4(被告校長らに対する損害賠償請求の成否)について

 公権力の行使に当たる地方公共団体の公務員がその職務を行うにつき故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には、地方公共団体がその被害者に対して賠償の責に任じ,公務員個人はその責を負わないというべきである(最高裁判所第二小法廷昭和53年10月20日判決・民集32巻7号1367頁)。
 そして、原告らの被告校長らに対する本訴請求は、原告らの休憩時間中の勤務にっいて、被告校長らに違法行為があったとして損害賠償を求めるものであり、被告校長らの職務行為に関するものであるから、国家賠償法1条1項に基づき請求されるべきものである(公務員の違法な職務行為に関する損害賠償を、民法の不法行為に関する規定に基づいて請求することは認められない。)。
 以上によれば,被告校長らは、原告らの本訴請求について、被告高槻市とは別個に、損害賠償責任を負うものではない。
 したがって、原告らの被告校長らに対する本訴請求は、その余を検討するまでもなく、理由がない。

5 争点5(被告高槻市又は被告校長らにおいて、原告らの休憩時間に対する把握,管理について,違法があったか)について

(1)高槻市教委及び被告校長らにおける義務
 平成14年度又は平成15年度において、高槻市教委は、高槻市立小中学校教諭であった原告らに対し、地教行法43条1項に基づき、服務監督権限を有しており、また、被告校長らは、所属職員であった原告らに対し、学校教育法28条3項又は40条に基づき、監督する権限を有していた(前提事実(2)ア参照)。
 そして、高槻市立小中学校教諭は、労働基準法34条の休憩時間に関する規定が適用されるところ、府教委勤務時間条例5条1項は、市町村教育委員会において、府教委の定める基準に従い、1日の勤務時間が6時間を超えて8時間以内である場合に、原則として、45分間の休憩時間を、勤務時間の途中に置かなければならない旨を定め、府教委勤務時間規則は、校長が上記の休憩時間を定める旨を定める(前提事実(2)ウ参照)。
 これら法令の規定によれば、高槻市教委及び高槻市立小中学校の校長は、各学校に所属する教育職員に対し、休憩時間が取得できるように、その実情を把握して、適正に管理するように図る義務を負うというべきである。そして、教育職員における休憩時間の取得の管理について、職務上の義務に違反する行為をし、又は職務上の義務を履行しなかったときには、国家賠償法1条1項にいう違法な公権力の行使があったと認め得る場合が存するというべきである。
 そして、上記の違法な公権力の行使があったか否かは、教育職員における休憩時間の取得に関する具体的な実情を踏まえて、高槻市教委及び高槻市立小中学校の校長において、教育職員における休憩時間の取得を妨げるような行為をしていたか否か、あるいは休憩時間の取得が妨げられている状況を認識しながら、これを放置していたか否か等の点を考慮して、損害賠償義務を認め得るような職務上の義務違反があったか否かによって判断するのが相当である。

(2)そこで、原告らにおける休憩時間の取得に関して、高槻市教委又は被告校長らにおいて、国家賠償法1条1項にいう違法な公権力の行使があったかについて、以下検討する。ア 原告らの休憩時間に関する状況
 原告らが、平成14年度又は平成15年度において、被告校長らから明示された休憩時間において、相当時間にわたり勤務に従事しており、休憩時間を十分に取得できないと感じるような実情にあったことは、前記1のとおりである。
 しかし,原告松岡を除く原告らの休憩時間は、放課後の時間帯であったところ、放課後に行う勤務のうちどのような作業を、休憩時間に従事していたかを具体的に特定することは困難である。そして、前記2(2)、3(2)のとおり、原告らの勤務状況及び教育職員の職務の特殊性に照らすと、休憩時間にかかる時間帯に実施された職員会議への参加を除き、原告らが休憩時間に従事した職務の大半は、教育職員としての各自の自発性、創造性に基づいて遂行されたものと認めるのが相当であり、原告らが休憩時間を取得することが極めて困難であるような状況にあったと認めることはできない。
イ 高槻市教委による休憩時間の取得に関する対応
 高槻市教委が、平成14年4.月12日付けの「教職員の勤務における服務の厳正な取扱い」(甲7の1~4)を発して、高槻市立小中学校の各校長に対し、所属職員に勤務時間の厳守(休憩時間の明示を含む)等、服務の厳正な取扱いについて指導の徹底を図るよう求めたことは、前提事実(6)のとおりである。
ウ 被告校長らにおける原告らの休憩時間の取得に関する対応
 他方において、被告校長らが、原告らに対し、休憩時間に職務に従事するように明示又は黙示に命令した事実は認められないことは、前記2(2)のとおりである。
 また、前記2(1)の認定によれば、被告校長らは、原告らを含む所属職員に対し、休憩時間について記載した書面を配布するなどして、休憩時間を明示した上で、休憩時間を取得するように周知を図り、休憩時間に職務を行った場合には休憩時間の振替を申し出るように伝えていたこと、原則として、休憩時間に会議等を行わないように指示し、所属職員が休憩時間内に電話、外来者等の対応をしないように図るための措置を講じていたこと、職員会議等を休憩時間内に行う場合には、その必要性について、職員に事前に説明する又は委員を務める職員との間で事前に検討するなどの配慮を講じていたことが認められる。 そして、証拠(丙16~20、被告竹下本人、被告中井本人、被告高浜本人、被告大西本人、被告山口本人)によれば、被告校長らは、いずれも、所属する原告ら各自の勤務状況について、他の教諭と比較して特に多忙であるとは認識しておらず、原告らの職務内容に照らし、休憩時間を取得することが可能であると認識していたことが認められる。また、原告らが被告校長らに対して休憩時間の振替を申し出たことを認めるに足りる証拠はない。そして、原告らが休憩時間を取得することが極めて困難であるような状況にあったとまで認めるに足りる的確な証拠はないことは,前記のとおりである。これらによれば、原告らの休憩時間の取得状況に関する被告校長らにおける上記のような認識が、その実情を全く踏まえないものであったとは認められない。
 被告校長らが、原告らに対し、原告らが休憩時間中に勤務していた際に勤務を止めるように指示していたことを認めるに足りる証拠はないが、このことは、以上の認定判断を妨げるものではない。
工 厚生労働省基準との関係
 厚生労働省が、平成13年4月6日付けで、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」(平成13年4月6日基発339号)を発したこと、この厚労省基準が、使用者において、労働時間の適正な把握のために、使用者において、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録すること、そのための方法として、使用者が自ら現認すること又はタイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎とすること等を定めていることは、前提事実(5)のとおりである。
 しかし、教育職員の職務の特殊性に照らし、教育職員の職務のうち、各自の自主性、創造性に基づき遂行されるものがあることは、前述したとおりである。そして、証拠(丙4~8の各1、2)及び弁論の全趣旨によれば、原告ら各自は、所属する学校において、出勤簿の記載、休暇届の記載等によって、出退勤につき管理されていたことが認められる。そして、前記ウの認定判断に照らすと,被告校長らが自ら上記の方法で労働日ごとの始業・終業時刻を確認し,記録しなかったとしても,そのことをもって原告らの休憩時間における勤務態様を適正に把握し,管理していなかったとはいえない。
 なお、原告らは、高槻市教委が各校長に対して上記厚労省基準の周知を図らなかったことが違法である旨主張する。しかし、平成13年5月9日付けで、大阪府総務部市町村課長から各市町村等の人事担当部(課)長宛に、上記厚労省基準が通知されており(前提事実(5))、各市町村が、上記厚労省基準につき、どのような方法で基準の実現を図るかは、各市町村の合理的裁量に委ねられたものというべきである。
オ 小括
 前記アないしエによれば、高槻市教委又は被告校長らにおいて、原告らの休憩時間の取得を妨げるような行為をしたとは認められず、また、原告らにおける休憩時間の取得状況を認識しながら、これを放置していたとまでは認められない。前記1、2のとおり、休憩時間に職員会議が開催されることがあったが、このような場合は、休憩時間の分割取得による振替によって対処すべきであるところ、高槻市教委や被告校長らが、これを拒否した形跡もない(被告校長らとしては、このような場合、すすんで、休憩時間を振替取得するよう配慮すべきであったとはいえるが、振替取得することを原告らの判断に委ねたこと自体を違法とまではいえない。)。
 原告らは、高槻市教委が、平成15年度以降、休憩時間の取得に関する実態調査を行わず、また、休憩時間の試行を継続していることを論難するが、これらの事実は、その当否はさておき,以上の判断を左右する性質のものではない。
 以上によれば、高槻市教委又は被告校長らにおいて、原告らの休憩時間に対する把握又は管理について、国家賠償法1条1項にいう違法な公権力の行使があったとは認められない。
 したがって、この点に関する原告らの被告高槻市に対する損害賠償請求は、その余を検討するまでもなく,理由がない。

6 争点6(被告高槻市又は被告校長らにおいて、原告らに対し、休憩時間の明示、労働基準法34条の遵守について,違法があったか)について

(1)休憩時間の明示について
 高槻市教委が、平成14年4月12日付けの「教:職員の勤務における服務の厳正な取扱い」を発して、高槻市立小中学校の各校長に対し、所属する教職員に対する休憩時間の明示等について指導したこと、被告校長らが,上記指導を受けて、平成14年度及び平成15年度の当初、所属する教職員に対し、休憩時間の時間帯等が記載された文書を配布又は提示して、休憩時間を明示し、休憩時間の取得につき周知を図ったことは、前提となる事実(6)、前記2(1)のとおりである。
 原告らは、労働基準法15条、労働基準法施行規則5条3項の規定に照らし、各職員に対して休憩時間に関する文書を交付すべきである旨主張する。しかし、上記各規定は、労働契約の締結に際して、使用者に労働条件を明示することを義務付けた規定であるが、前記で認定したような状況において、高槻市教委又は被告校長らが、各職員に対し、休憩時間を示した文書を交付すべき職務上の義務を負うとまでは認められない。
 また、原告らは、被告高浜が原告志摩に対し、平成15年度に休憩時間に関する文書の明示を行わなかった旨主張する。しかし、被告高浜が、平成14年5月の職員会議において、休憩時間に関する文書を配布して、休憩時間を適切に取得できるように伝え、平成15年4月の職員朝礼において、休憩時間について口頭で説明したことは、前記2(1)ウで認定したとおりであり、これらによれば、被告高浜が平成15年4月に行った休憩時間に関する説明が、休憩時間の明示に関する職務上の義務に反するものであったとは認められない。
 以上によれば、高槻市教委又は被告校長らにおいて、原告らとの関係で、休憩時間の明示について、国家賠償法1条1項にいう違法な公権力の行使があったとは認められない。 したがって、この点に関する原告らの損害賠償請求は、その余を検討するまでもなく、理由がない。

(2)労働基準法34条との関係について
ア 高槻市教委が、平成14年4月12日付けで各校長に「「教職員の勤務における服務の厳正な取扱いについて(通知)」を発したこと、この中の説明用メモに「「((1)(2)は省略)(3)休憩時間は、条例上午前11時から午後2時の間に45分のかたまりで取ることを原則とするが、学校運営上必要があると認められるときは他の時間に変えることができる。(4)休憩時間の一斉付与については、職務の特殊性がある場合において、休憩の自由利用が妨げられず、かつ、勤務の強化にならない場合には、休憩時間を一斉に付与することを要しない。」と記載されていることは、前提事実(6)のとおりである。
イ ー斉付与の原則との関係について
(ア)原告らは、高槻市教委が、平成14年度、休憩時間の試行をする際、各校長に対し、「職務の特殊性がある場合において、休憩の自由利用が妨げられず、かつ、勤務の強化にならない場合には、休憩時間を一斉に付与することを要しない。」と指導したことが、労働基準法34条2項に違反する旨主張する。
(イ)労働基準法34条2項は、休憩時間は一斉に与えなければならないと定めるところ、地方公務員法58条4項は、一般職の地方公務員について、条例に特別の定めがある場合は、休憩時間を一斉に与えることを要しない旨を定めている。
 そして、府勤務時間条例5条2項、18条は、市町村教育委員会において、職務の特殊性又は当該公署の特殊の必要性がある場合において、人事委員会規則で定めるところによるときは、同条例5条1項で定める休憩時間を一斉に与えることを要しない旨を定め、府勤務時間規則3条の2は、職務の特殊性又は当該公署の特殊の必要性がある場合において、休憩の自由利用が妨げられず、かつ勤務の強化にならない場合に当たるときは、休憩時間を一斉に与えることを要しない旨を定めている(前提事実(2)ウ(ウ)、(エ))。
 また、府教委勤務時間規則4条1項ただし書は、府勤務時間条例5条1項で定める休憩時間にっいては、学校運営上必要があるときは、他の時間に変えることができる旨を定めており、高槻市教委の「高槻市立学校の府費負担教職員の勤務時間,休日,休暇等に関する規則」4条は、高槻市立学校に勤務する府費負担教職員の休憩時間について、府教委勤務時間規則4条1項と同じ内容を定めている(前提事実(2)ウ(オ),(キ))。
(ウ)前記(イ)の各規定によれば、高槻市立小中学校に勤務する府費負担教職員の休憩時間については、職務の特殊性又は当該公署の特殊の必要性がある場合において、休憩の自由利用が妨げられず、かつ勤務の強化にならない場合に当たるときには、休憩時間を一斉付与することを要しないことになる。
 高槻市教委による前記(ア)の指導は、前記(イ)の各規定に基づくものであると認められる。
 そして、小中学校の教職員の職務の内容が、放課後も含め、多数の生徒の教育・指導を含む以上、一斉付与が困難であることは明らかであり、職務の特殊性を認めることができる。
 また、一斉付与の原則(労働基準法34条2項)の趣旨は、休憩時間の効果を上げるとともに、労働時間及び休憩時間の監督上の便宜を図るためにあるところ、高槻市教委による前記(ア)の指導をもって、上記の趣旨に反するものであるとは認められない。また、高槻市教委による前記(ア)の指導によって、原告らの休憩時間の自由取得が妨げられたと認めるに足りる的確な証拠はない。
 以上によれば、高槻市教委による前記(ア)の指導が国家賠償法1条1項にいう違法な公権力の行使であったとは認められない。
 したがって、この点に関する原告らの被告高槻市に対する損害賠償請求は、その余を検討するまでもなく,理由がない。
ウ 休憩時間の分割について
(ア)原告らは、高槻市教委が、平成14年度、休憩時間の試行をした際、各校長に対し、「休憩時間は、条例上午前11時から午後2時の間に45分のかたまりで取ることを原則とするが、学校運営上必要があると認められるときは他の時間に変えることができる。」旨指導したことが、休憩時間の分割を認めたものであり、労働時間の自由利用の原則(労働基準法34条3項)に違反する旨主張する。
(イ)府勤務時間条例5条1項、18条は、市町村教育委員会において、府教委の定める基準に従い、1日の勤務時間が6時間を超えて8時間以内の場合において、勤務時間の途中に45分の休憩時間を置かなければならないが、ただし,公務の運営上の事情により特別の形態によって勤務する必要のある職員について、府教委は、別に休憩時間を定めることができる旨を定める(前提事実(2)ウ(ウ))。
 そして、府教委勤務時間規則4条1項は、府勤務時間条例5条1項本文に定める休憩時間について、校長が定め、昼間において授業を行う学校に勤務する職員については、午前11時から午前2時までの間に置くものとし(同条項1号)、ただし、学校運営上必要があると認められる場合は、他の時間に変えることができる旨を定め(同条項ただし書)、高槻市教委の「高槻市立学校の府費負担教職員の勤務時間、休日、休暇等に関する規則」4条は、高槻市立学校に勤務する府費負担教職員の休憩時間について、府教委勤務時間規則4条1項と同じ内容を定めている(前提事実(2)ウ(オ)、(キ))。
 高槻市教委による前記(ア)の指導は、上記各規定に基づくものであると認められる。
(ウ)そして、休憩時間の自由利用の原則(労働基準法34条3項)の趣旨は、労働者が労働時間の途中において、休息のために労働から解放されることを保障するためにあるところ、労働基準法34条及び前記(イ)の規定は,休憩時間を分割して付与することを禁止したものとは解されず、高槻市教委による前記(ア)の指導が、上記の趣旨に反するものであるとは認められない。
 また、高槻市教委による前記(ア)の指導によって、原告らの休憩時間の取得が妨げられたとまで認めるに足りる的確な証拠はない
 以上によれば,高槻市教委による前記(ア)の指導が、国家賠償法1条1項にいう違法な公権力の行使であったとは認められない。
 したがって、この点に関する原告らの被告高槻市に対する損害賠償請求は、その余の点を検討するまでもなく,理由がない。

7 結論

 以上のとおり、原告らの被告大阪府、被告高槻市及び被告校長らに対する本訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結日 平成19年8月27日)

大阪地方裁判所第5民事部

  裁判長裁判官     山 田 陽 三
     裁判官     細 川 二 朗
     裁判官     足 立 堅 太