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休憩時間訴訟 準備書面(12)

2007年8月22日掲載



平成16年(行ウ)第50号 賃金等請求事件
原  告  松 岡   勲  外4名
被  告  大  阪  府  外8名

準備書面(12)

2007年8月3日

大阪地方裁判所 第5民事部合議1係御中

原告   松 岡   勲
原告   家 保 達 雄
原告   志 摩   覚
原告   末 広 淑 子
原告   長谷川 洋 子

<目 次>
(1)文部科学省教員勤務実態調査報告(最終結果)
(2)被告高槻市の休憩時間の3原則違反
(3)管理者の債務不履行
(4)被告高槻市の服務監督権放棄
(5)給特法と未払賃金支払い義務
(6)まとめ

(1)文部科学省教員勤務実態調査報告(最終結果)

 文部科学省が、昨年7月から12月にかけて行った教員勤務実態調査の結果が出た。(甲99号証)朝日新聞2007年6月3日の特集記事によると、「公立小中学校の勤務時間は夏休みを除いた5ヶ月の平均で、1日10時間45分だった」「残業時間は40年前の5倍前後に増えた」、また、休憩・休息時間の取得状況については、「休息・休憩は8分」と報道している。(甲100号証)休憩時間(45分)+休息時間(30)分=1時間15分中のたった「8分」だ。同記事で、この調査の研究代表者である小川正人東京大学教育学部教授は「先生の長時間勤務なしには、学校経営が成り立たなくなっている。こんなに休息時間(*休憩時間の間違いと思われる)が少ないのは明らかに労働基準法違反の状態だ」と述べる。
 小川正人教授は、「教員給与見直し論議を教員勤務環境改善方策に」(雑誌「教職研修」2007年7月号)で「調査では、学校での1日当たり超過勤務が、小・中学校教諭で平均2時間程度、1ヶ月で約40時間程度(夏季休業期間を加えると約34時間)となることが分かった」と述べ、「教職調整額を教職員調整手当に変えるというのであれば、明確に時間外手当として支給し、そのための制度づくり(超過勤務を含めた勤務時間の管理体制の整備、等)も一緒に図っていくべきだ」提言している。「教員の多忙化を改善していくために、時間外手当への切り替えにより勤務時間管理のしくみを整えつつ、35人学級の実現によって恒常的な超過勤務を軽減していく方策は、そうした教員の超過勤務に対する「未払分」を予算化することで十分可能なことなのである」と締めくくっている。(甲101号証)

(2)被告高槻市の休憩時間3原則(途中付与・一斉付与・自由利用)違反

 被告高槻市は、高槻市教育委員会教育長より各学校長宛の平成14年4月12日付「教職員の勤務における服務の厳正な取扱について(通知)」(甲7号証)の「休憩時間問題について(メモ)」及び「説明用メモ」(以下、「高槻市教委説明メモ」)において、労働基準法第34条に違反(休憩時間3原則違反)する内容の指導を被告校長らに為している。同法第34条違反は、同法第119条により「6ヶ月以下の懲役、30万円以下の罰金」の刑事罰に処せられる重大な瑕疵である。
 以下、その3原則違反について述べる。なお、その論拠は、松岡三郎・松岡二郎著『全訂版口語六法全書/口語労働法』(自由国民社刊、甲102号証)と『改正労働基準法実務全書』(労働旬報社刊、甲103号証)を参考にした。また、被告大阪府も平成15年3月10付「休憩時間及び休息時間の確保に向けての運用について」(乙16号証)で同様の違法な内容で府下各地教委を指導している。これは同じく同法第34条違反である。

1 途中付与(労基法34条1項)違反

高槻市教委は「高槻市教委説明メモ」で校長に次のように指導した。
・休憩時間は、条例上午前11時から午後2時の間で45分のかた まりで取ることを原則とするが、学校運営上必要があると認めら れるときは、他の時間に変えることができる。(低・中・高学年や 担任・担任外等、分割も可能である。)
・明示した休憩時間を確保できなかったり、校務等であらかじめわ かっている職員への対応は、本人から申し出ることとし、その時 間に取れなかった理由を確認した上で、その日のうちに変更する。

 これは、「(労働協約や就業規則で定められた)休憩時間の長さと位置について、使用者は一方的に変更(繰り上げ・繰り下げ・分割・時間の伸縮)をすることができないことはいうまでもない。」ことである。(『改正労働基準法実務全書』219頁)

  「高槻市立学校の府費負担教職員の勤務時間、休日、休暇等に関する規則」には、休憩時間が午前11時から午後2時と規定されている。被告校長らが定めた同市立小学校の休憩時間帯(例:午後3時30分より午後4時15分)は、明らかに上記市教委規則にも反しており、違法そのものである。
 また、たとえ職員が同意していたとしても、・違法性のあるものを管理者が認めてはならない。「合意」に名を借りた裁量権の濫用である。また、・本来、そうした望ましくない休憩時間を明示した場合は、所属職員の健康福祉を十分に保障するために、なんらかの担保がなければならない。
 違法な休憩時間の設定が「合意」されたとした場合、刑事罰の対象からは外れるとしても、民事・損害賠償の対象となる。また、修学旅行や野外教育など特段の事由のある場合も同様である。
 本事件のように、休憩時間中の職員会議等により、変更や取り上げを強いられることは、明らかに違法である。

2 一斉付与(労基法34条2項)

高槻市教委は「高槻市教委説明メモ」で校長に次のように指導した。
 休憩時間の一斉付与については、職務の特殊性がある場合において、休憩の自由利用が妨げられず、かつ、勤務の強化にならないばあいには、休憩時間を一斉に付与することを要しない。(府条例第5条第2項、大阪府規則第3条の2)
 すでに原則が外れている(校務員・調理員、等)実態があるので、一斉休憩の除外をすることに問題は無い。(教育委員会への承認:管理運営規則第5条第2項)

 最低基準たる労基法に規定されている「休憩の一斉付与」は、所属職員が一斉に休憩を取らないと、安心して休憩が取れない、休憩している者の分まで、休憩していない者が仕事を負担しなければならないという、仕事の密度・仕事量が増すなど、「休憩の効果を損なう」ことのないようにするためにある。
 高槻市の小中学校の実態は、教員内の担任と担任外、学年毎(低・中・高学年)、教員と事務職員・養護教員・校務員・調理員等と休憩時間帯が分けられ、休憩時間が異なっている。(一斉休憩除外の職種別等休憩)また、一斉休憩を除外した分割休憩の学校が圧倒的に小学校に多く、15分の休憩もある。職種別等休憩と分割休憩が両方ともある学校まである。(甲8号証、甲41号証)これは、既に休憩の効果が失われていると言わざるをえない。
 交替休憩を罰せられない場合は、事業所の長(所属学校の校長)と過半数の教職員との書面協定がある場合である。罰せられない事業所は、官公署(別表第一に揚げる事業を除く)(一二号・教育、研究又は調査の事業を除く)従って学校長は交替休憩を命じた場合、罰せられる。
 小中学校における休憩時間帯は、府条例そのものが違法であり、民事・損害賠償の対象である。

3 自由利用(労基法34条3項)

高槻市教委は「高槻市教委説明メモ」で校長に次のように指導した。
 自由利用の原則についても、放課後など児童生徒の安全が確保さ れた時と考えられる。

 休憩時間中の外出については、所属長の許可を受けさせることは、「事業所内において自由に休息しうる場合には必ずしも違法にならない」(昭23・10・30基発1575号)が、許可制は休憩の自由に対する規制保持を超え違法との学説が圧倒的に多い。届出主義で足りる。そもそも子どもがいる学校は「事業所内において自由に休息しうる場合」に当たらない。「外出許可制」を取るのは、その時間帯に業務が入ることを予定しているからである。これは休憩時間ではなく、手待ち時間=勤務時間である。 自由利用に対する拘束の法的評価については、「休憩時間とは単に作業に従事しない手待時間を含まず労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間の意であって、その他の拘束時間は労働時間として取り扱うこと」(昭22・9・13発基17号)となっており、自由利用の保障されない休憩は労働時間になり、自由利用の原則を逸脱した高槻市教委の指導は法令違反である。

その他

 休憩時間の完全実施と休憩設備の問題は、「休憩時間の保障は、物的な設備の確保が前提である」(『改正労働基準法実務全書』223頁)これについては、2006年4月10日付「原告準備書面10」で述べた。

(3)管理者の債務不履行

 被告校長らが証言で労働基準法等の法令違反を認めている。(なお、証言のページ数は各被告の「証人調書」のそれである)

1)被告竹下幸男校長の場合(原告:松岡 勲)

1 被告高槻市外準備書面(1)(2頁23行目)での「原告松岡以外の教員は、これらの事務を勤務時間内に休憩時間を使わないで処理している」との主張は「間違いないか」と原告より聞いたが、被告竹下幸男校長は「はい」と答えている。(10頁)高槻市の2002年度休憩時間取得実態調査や先に見た文部科学省の教員勤務実態調査から見て、あり得ない実態であり、虚偽の証言である。この証言に象徴されるように同被告は職員の勤務実態に対して無関心且つ無責任な管理者であり、同被告の証言は信用性に欠ける。文部科学省の教員勤務実態調査についても「知りません」(10頁)と答えている。
2 昼休み時間帯に、学年全体の教職員が生徒に対応しなければならない事態は、「二、三か月に1回あるか、極めてまれです」(6頁)と被告代理人の質問に被告竹下校長は答えているが、これは同被告が学年の生徒の実態を把握していないからである。また、昼の時間に、保護者などから電話が入って、担任である原告が4階から1階の職員室まで下りてくることは「ありました」と同被告は原告の質問に答えているが、これは休憩時間に勤務があったという証拠である。(17頁~18頁)さらに、被告代理人の質問に対して同被告は、「(休憩時間中に職員室で仕事をする職員に休憩を取りなさいと言ったことが)2、3あった」「(松岡には)いえ、ありません」と答えている。原告松岡には声をかけなかったのである。(4頁)また、会議を休憩時間に「よほど子供の安全にかかわること以外では、そういう会議をあらかじめ入れることのないように、口頭で言いました」(3頁)と被告代理人の質問に同被告は答えているが、実態としては休憩時間中に諸種の会議が入っていることを止めるように指示することなく、黙認していた。また、文部科学省の実態調査(休憩休息時間が小学校で9分、中学校で10分)に関連して、「このような実態は全然なかったのか」という原告の質問に、同被告は「全然なかったとは申し上げません」と答えている。(10頁~11頁)
 原告5名の内、原告松岡の勤務校のみが休憩時間を生徒の昼食・昼休み時間に設定されており、この時間帯は実労働があるか、手待時間であり、休憩が取れない労働時間である。
3 休憩時間の振り替えについても、被告竹下校長は、「1日1時間の空き時間はあるから、休憩時間は実質上取れている」(8頁~9頁)「明示した時間にはなかなか45分まとまって取れていない。1日の間にはきちんと取っていると思う」(9頁)と被告代理人の質問に答えているが、空き時間は勤務時間であり、仕事が継続しており、容易に休憩時間に振り替えができるものではない。また、休憩時間の振り替えについても「取れなかった場合は、振替が可能なので、その旨私の方に申しでるように」(2頁)と同被告は言うが、これは前節で述べたように違法である。
4 被告竹下校長は年度当初に高槻市教委の指示により、休憩時間の明示はしてはいるが、休憩時間を職員に保障するための手だてを講じていない。「(2002年度の)実態調査の結果を受けて、何らかの対応取られたか」という被告代理人の質問にも同被告は「ありません」と答えている。(8頁)また、2003年度に休憩時間取得実態調査をしなかった理由を原告が尋ねると、同被告は「教育委員会からの指示がなかった」からと答えたが、原告の再質問の「市教委の指示がなかったら、校長としては何もしないでいいと考えられた」のかにも、「はい」と答えている。(16頁~17頁)このように被告竹下校長の証言により、柳川中学校では実態として休憩時間が保障されていず、同被告がは管理者としての責任を果たさなかったことは明白である。

 原告松岡以外の4名の原告は小学校勤務であり、放課後に休憩時間が設定されている。これは、始業時間から7時間程度経過しており、途中付与の原則を逸脱しており、勤務開始7時間程度後に設定された休憩時間では疲労が極度に高まり、教職員の健康を大いに損ない、前節に述べたように市教委規則に反し、違法である。

2)被告中井俊次庄所小校長の場合(原告:家保達雄)

1 被告中井校長は、「そこで(休憩を)取っておられるもんだと私は思っておりました」(9頁)と原告の問いに答えて言うが、思っているだけで声を掛けたこともなく、何の確認もしていない。取れているかどうかの事実確認を怠っている。また、2002年度の休憩時間明示に伴う実態調査に関する前校長からの引き継ぎについても、同被告は「校務全般についての引き継ぎの中で、会議いれないとかしながら、そういう方向で努力せないかんという話はしたことがあります。その程度です。」(12頁~13頁)と言うだけで、前校長のコメントは全く生かされていないし、生かそうともしていない。
2 休憩時間の明示だけで校長の監督責任は果たされたのかとの原告の問いに、被告中井校長は「明示することによって、先生方に休憩時間が取れるんですよということを年度当初に言うたということで、私はそれで仕事としてやってたつもりです」(14頁)と言うだけで、何の後追いもなく、責任放棄としか言いようがない。
3 休憩の取得状況や利用状況を把握していたかの原告の問いに、被告中井校長は「いえ、全部の先生のとこ回ってするわけじゃありませんから」(14頁)と職員の勤務実態を把握できていないことを認めている。
4 全職員が一斉に休憩時間を取得できていたか、あるいは、自由利用ができていたかの原告の問いに、被告中井校長は「具体的に各々はわかりません」(15頁)と言い、職務怠慢がはなはだしい。
5 (2003年度の実態調査について)被告中井校長は「市教委のほうも、別にするようにという指示もなかったですし。(校長の責任としては)考えてませんでした。」と答え、校長の責任を放棄している。
6 (職員の休憩時間や時間外勤務についての具体的把握を校長の責務と考えているかとの原告の問いに)被告中井校長は「今の段階では考えていますね」と答えている。つまり、その当時は考えていなかったということを自ら認めているわけである。(22頁)

 以上、本人調書でも明らかなように「休憩時間」を明示さえすれば事足れりという校長の姿勢が、当然「休憩時間」を与えなければならない立場であったにもかかわらず、きわめて不充分にしか保障してこなかった実態を生み出し、訴状や原告の準備書面(2)、(4)で述べている通り休憩時間が取得されていない状況があったことは明白である。

3)被告高浜義則土室小校長の場合(原告:志摩 覚)

 休憩時間は過密労働からくる心身の疲労を回復するため休養を取るべき時間にもかかわらず、被告がその休憩時間をとらせず、原告志摩の休憩時間取得を侵害した。
1 被告高浜校長は、組合役員による2003年8月6日の校長交渉の席で文書明示を求めたにもかかわらず、被告らの中でただ一人2003年度の休憩時間の文書明示をしていない。(甲96-2号証、甲5号証) また、2003年度は、過密労働からくる心身の疲労の回復を図る上で重要な「休息時間」を割り振りし明示すべき初年度であっが、被告高浜校長は、組合要求を無視し被告らの中でただ一人2003年度の休息時間の割り振り・文書明示をしていない。
 他の被告が為しているにもかかわらず、休憩時間試行の根幹となる文書明示をしなかったのは職務怠慢であり、教職員の健康を守る重要な手立てとしての休息時間の割振り・文書明示をしなかったのは職務怠慢である。
2 被告高浜校長は、「(職員会議が休憩時間に繰り上げて開催されたことが)14年度につきましては3月等で、三、四回かなというふうに記憶はいたしております。(中略)15年度は四、五回あったと思います。」と言う。(6頁)
 職員会議・推進会議を主宰し、教職員が適法な労働をするよう監督する職務を担う被告は、「休憩時間は働かせてはならない時間」との管理職としての認識を欠いており、職務を怠った。
3 被告高浜校長は、「(事前に了解も取った形の中で)休憩時間を後ろに回すという割り振り変更なり、分割付与なりの形になっていた」と証言している。(21頁)
 休憩時間が15分とか20分とかカットされるとすると、それをどこへ変更するかということを管理職は職員にはっきり提示しなければならない。しかし、休憩時間の割り振り変更を同被告が提示したことは一切ない。(因みに他の被告校長はしていた。)被告は休憩時間の変更を指示すべき職務を担っているにもかかわらず、何の措置をも講じなかった。休憩時間を保障する責務を果たさず、原告を含む多数の教職員の休憩時間取得を侵害した。
4 被告高浜校長は、「専科教員の中の空き時間等も含めて、休憩時間を実質的に1日の中で一定取れていたんだろう」と言う。(7頁)
 空き時間は「授業がない時間」の意味にすぎず、勤務時間として満杯の業務を遂行しなければならない。休憩時間に当てる余裕はない。また、個々人が違う休憩時間を取らされることは休憩を取りにくくさせる。休憩時間の保障は、労基法上の一斉付与によりはじめて保障される。
5 被告高浜校長は、「児童の安全を留意しながら、休憩時間の施行を行う。子供のけがとかけんかがあったとかというふうな部分も含めて、子供たちに何かあったときに対しては、具体的にすぐ教員は動かなければならない。子供たちが登校すれば下校までは,子供たちの安全については学校が責任を持って指導もし、見守るべきだ。」と証言した。(9頁)また、「下校中の安全にも待機しなければならないですね。そういうことですね。」との原告の反対尋問に対して、「はい」と証言した。「児童の安全を留意しながら」は業務遂行時間、または手待時間であり、労働時間であることは明白である。
6 被告高浜校長は、「休憩時間は,月曜日と水曜日につきましては2時40分から3時25分。(中略)残りの日につきましては3時半から4時15分までの45分。」と言う。(7頁)
 被告が定めた休憩時間帯は、年間を通じて実施されているもので、前節で述べたように市教委規則に全て反している。市教委規則により休憩時間を設定すべきである。

4)被告大西昭彦竹の内小校長の場合(原告:末広淑子)

1 被告大西校長は、休憩時間の3原則について答えられず(7頁)、休憩を取らせなかった場合の罰則についても知らなかった。(7頁)これは、労働者にとっての休憩時間の重要性や、与えなければ労基法違反であり、使用者の重大な犯罪行為だということが全く認識されていないということである。職員に休憩時間を与えるべき使用者として、認識不足であり、無責任極まりない。
2 被告大西校長は、2002年度休憩時間がほとんど取れていない状態であったにもかかわらず、
・前任の被告佐竹校長との引き継ぎについて「特段の引き継ぎはしておりま せん」と答え、さらに「その中身につきまして、どのような内容であるの か、私にはその50%の中身、あるいはほとんど取れなかった中身がわか りません」(9頁)と答えている。前年度から休憩時間の試行が始まり大事 な2年目というのに、前年度の実態を知るための引き継ぎもしていない。
・2003年度になっても「会議を入れない、それから振替の制度について はありますと、申し出てくださいという、その2点以上には、特にはした ことがないと思います」(9頁)という状態で、前年度と何ら変わらない。 前年度の休憩が取れていない実態を改善するための新たな手だては全くな されていない。
・2003年度は「教育委員会のほうから特段指示がなかった」(10頁)の で休憩時間取得実態の調査をしていない。
以上3点は、職員に休憩時間を与えるべき校長としての管理責任放棄であり、私たち職員が「休憩時間が取得できない」という違法状態を生み出している。3 被告大西校長は、休憩時間中「それについて、こちらのほうが何をされているのかというようなことを、のぞいていくようなことはしておりません」(10頁)、「つぶさに何をされているにかということについて、それを調べるようなことはしておりませんので、それは、分かりません」(14頁)と述べ、職員の休憩時間取ができているかどうか把握する必要ないと言っている。これは管理責任の放棄以外の何ものでもない。
4 被告大西校長は、「休憩時間中の保護者、電話対応などはしなければならない」(15頁)、「対応せざるを得ない場合は当然出てきます。」(16頁)、「休憩時間に勤務をしている教育の実態があるということを認識している」(18頁)、「すべて休憩時間に何も入らないという事態は学校ではちょっと想定しにくい」(6頁)等、休憩時間に保護者や電話等の対応をせざるを得なかったり、勤務をせざるを得ない教育現場の実態があると証言している。休憩時間が「手待ち時間」=労働時間になっており、これは校長自ら違法を認めているものである。

5)被告山口正孝大冠小学校長(原告:長谷川洋子)

1 原告の「教職員に、休憩時間をとりなさいと、どのくらいの頻度で声かけしたか」という問いに、被告山口校長は、「(前略)会議とか、そういったものは入れないということも申し出ておったので、あえて、それ以上のことはそんなにきつく、ただ、職員室に帰ってきたときに丸付けをしておる教師だとかがいた場合には、休憩時間やでというようなことで話はしたことは何度かありました。」(5頁)と答えた。被告代理人が「(前略)いわゆる頻度の問題なんですけど、1年間の中で、先生の名前を特定できないけれども、数回だったとかいうような趣旨の発言、これはいいんですか。(中略)どうですか。多かったのか、少なかったのか、分からないのか。」と被告山口校長に質問し、被告山口校長は、「まあ、3回や4回はしているという、私はそういう意識を持っておるから言ったわけです。」(16頁~17頁)と答えた。また、「私自身は、もう当初最初から、休憩のことも話をし、やってきましたから、そんなに少ないという思いは持っていなかったから、それ以上言わなかったということです。」(17頁)とも答えている。
甲2号証の3において、被告山口校長は、「休憩時間に児童や保護者の対応がはいることが多い。児童がいる間は休憩時間を取るという意識が薄い。」と記している。
 つまり、同被告は、教員は休憩時間が取れない状況が多かった、休憩時間の児童保護者対応はせざるを得ない勤務であり、休憩時間に多くの教員は、せざるを得ない勤務をしていた事を認めている。しかし、同被告が認めた現状が多くあるにもかかわらず、「会議を休憩時間に入れなかった」という取り組みをした事を根拠として、1年間に個人的な3、4回の声かけを、「そんなに少ないと思わない」と述べているのである。 校長は、休憩時間を教職員に与える責任義務がある。休憩時間に多くの教員がせざるを得ない勤務をしていることを認めているにもかかわらず、「会議時間の設定」のみで自分の責任義務を回避する事は、管理責任を問われ、違法である。
2 また、原告の「(前略)大冠小学校では休憩時間は放課後になっていますが、(中略)その日のうちに取れないというふうな事例はございませんでしたか、2002年度、2003年度。」という質問に、被告山口校長は「私自身は、やっぱりその日のうちにということを話をしておりましたから、それがどうやったかということも私は承知してません。」(10頁)と答えている。また、原告の質問「(前略)もし、その日のうちに(休憩時間を)取れないときは、先生は何か対応は考えられましたか。法律的にはそれを明くる日に取るということはできませんから。特段何か。」に対して、「やってません。」(11頁)と答えている。 被告山口校長は、教員が休憩時間に保護者対応等のせざるを得ない勤務をしていたことを認めている。その振替を教員が取れたのか、取れなかったのかは、勤務時間内の事項であり、同被告の管理の範疇に入る。同被告は各教員の勤務時間内の勤務実態を把握せず、休憩時間を与える職責を放棄していたと言える。

(小括)

 以上述べてきたように、被告校長らの証言は(証人尋問のなかった校長らの被告高槻市準備書面での主張を含めて)、「休憩中は会議を入れないように」とか、「休憩時間を振り替えてもよい」と職員に伝えたと証言している。しかし、すくなくとも以下の四点において、教職員の管理者としての校長らは、「休憩時間付与義務」の遂行を怠り、結果、付与義務の完全不履行であったと言わざるを得ない。
1 校長として、休憩三原則を十分に満足できない時間と空間に、休憩時間を設定し明示している。しかも、一斉付与・自由利用にしても「例外」「特例」に依拠し、それを原則通りに正していこうとする具体的方針を全く持っていない。かえって、望ましくない休憩三原則の例外を定着させてしまっている。
2 手待時間を休憩時間と混同し、休憩時間を児童生徒の応対、授業の準備に使わざるを得ないことになっている実態を改善しようとしていない。
3 「休憩時間が取得できないときは申告して振り替えればよい」との見解は違法である。しかもそれを、周知徹底しているとは思えない。
4 教職員の休憩時間の実態をつかんでいない。証人も、「特段の調査をしていない」「高槻市教委からの指示がなかった」等発言している。確実に休憩時間が取得されているかを調査確認するのが管理者としての責任であり、それができていない管理職は「休憩を与える」という労基法上の義務違反である。

(4)被告高槻市の服務監督責任放棄

 被告高槻市が服務監督責任放棄をしている直近の実態は、以下の組合交渉での2007年5月31日付「回答書」に表れている。(甲104号証)「回答書」は次の通りである。

1 休憩時間について、今年度は試行か本格実施か答えられたい。 もし、今年度も試行ならば、労働基準法に試行はないと考えるが、 市教委の考えはいかがか。休息時間について、実態として機能し ていないと考えるが、いかがお考えか。
(回答)休憩・休息に関し、府費負担教職員については、府下統一 して実施されるものが望ましいと認識している。
2 市教委は2002年度に休憩時間取得実態調査をして以来、実 態調査は一切為さず、実態を把握できていない。また、休息時間 については、いかなる調査も為されていない。休憩・休息時間も 含め、職員の勤務実態全体を明らかにするため、勤務実態調査を 実施されたい。また、実態調査の方法を検討するために組合と協 議をされたい。
(回答)平成18年7月10日付で、文部科学省から「教員勤務実態調 査」について依頼があり、全国的な調査がなされましたので、市教委 として現在のところ調査をする予定はない。

 休憩時間の保障は、服務監督権者としての高槻市の責任であり、「府費負担教職員については府下統一して実施されることが望ましい」というような問題ではない。高槻市と比較すると、甲77-1号証で例示した吹田市は、2003年度に休憩・休息時間を試行実施し、翌年の2004年度にはその本格実施をしており、2007年度は完全実施4年目になる。また、試行実施から毎年度その取得実態調査を職員全体のアンケート形式で実施し、その調査集計結果を冊子にし、各学校・組合に配布している。それと較べて高槻市は、休憩時間試行6年目にもなる2007年度も休憩時間が「試行」であるとしているが、これは「労働基準法違反」である。さらに、2002年度の休憩時間取得実態調査以来、一度も実態調査を為していない被告高槻市の服務監督責任の放棄は明白である。その上、被告高槻市は、文部科学省の「勤務実態調査がなされましたので、市教委としては現在のところ調査する予定はない」と言う。しかし、文部科学省勤務実態調査は、調査票が文科省から調査校に直接送付・直接回収されたので、高槻市教委は一切関与せず、そのデーターを高槻市教委は把握できない。これで「実態把握」ができたと言うのであろうか。これは服務監督責任の放棄そのものである。
 高槻市教委は2002年度に休憩時間の明示(試行)だけはしたが、それ以降、休憩時間明示の指導をせず、休憩時間が取得できるための手だてを何ら講じず、放置したままである。そのため、組合が情報公開請求した結果、2003年度、2004年度には明示文書が存在しない学校が10校前後あった。(甲5号証、甲11号証)また、提訴の影響か、開示請求の結果、2005年度より全明示文書存在とされたが、毎年数校程度の学校で明示文書としては不適当な文書が混入しており、高槻市教委に要請して、再明示の措置を取らしているという体たらくである。 このように高槻市教委の服務監督責任の放棄によって、原告らが被った身体的・精神的被害は甚大であり、高槻市はその損害賠償の責任がある。

(5)給特法と未払賃金支払い義務

1 自発的・自主的でも労賃はいる。
 被告大阪府は、平成17年1月17日付「準備書面3」で「教員に対し休憩時間に勤務を命じることはできないが、他方、教員が教師としての責任感から自発的、自主的に休憩時間に勤務した場合でも、その勤務に対する対価請求権が発生すると解する法律上の根拠はない」(7頁)と述べる。しかし、原告らにとっては、休憩時間にやらざるを得ない本務としての仕事であり、自発的、自主的であるかどうかは、主観的なことがらであり、労基法上の労働対価請求権となんら関係ない。被告らは、あえて教員の人間的地位を貶めて「ただ働き」を肯定しようとするものである。
 問題は、本務労働として休憩時間中に仕事をせざるを得ない状況があったという事実である。それは、教員という仕事の性質上、いくら休憩時間とは言え児童生徒への保護監督責任を免れないと言う事実があり、その責任から、直接児童生徒に関わるか、あるいは手待時間となるかは別にして、時間的空間的に自由にならない以上、休憩時間は確保できていないと言うべきである。
 さらに、教員の時間外勤務や自宅持ち帰り仕事が常態化しており、その点においても、休憩時間に仕事せざるをえない。
 教員の労働について、全体的な見地から、休憩時間を位置づけなくては、休暇制度そのものの持つ意義、・疲労の回復効果 ・生活者らしい余暇権の確保を十分に保障することはできない。

2 包括的職務命令について
 包括的職務命令は、教員の労働が子どもへの働きかけを中心とする人間的、教育的な営みであることを踏まえたものである。原告ら教員の仕事は、授業、生活指導、保護者との協議などの細々とした内容を、いちいち管理職の命令によって為す性質のものではない。
 教員の具体的な職務遂行にあたっては、教員に判断をまかされているのが実情である。管理職は教育計画にのっとって各職員に校務の分掌を命じたのち、その適正な執行を見守り指導しつつ、労働関係法規を遵守すべく勤務の管理をおこなわなければならない。したがって、原告らの休憩時間の仕事や時間外勤務に対して「黙示の命令はない」だとか「命令はしていない」などという被告らの主張はまさしく、責任逃れとしか言いようがない。
 被告大阪府は、平成17年10月19日付「準備書面(7)」で、包括的職務命令の概念を認めると「教職員の自発的、創造的な教育活動と、明示又は黙示の命令による超過勤務とを区別することが不可能となるとともに、教職調整額を支給することによって教職員の本来の自発的、創造的な教育活動を包括的に評価しようとした給特法の趣旨に反する結果になる」(10頁)と述べる。しかし、「自発的、創造的な教育活動と、明示又は黙示の命令による超過勤務とを区別すること」は学校現場の労働には当てはまらない。なぜなら、主観的・精神的な「自発的、創造的」態度は、教育活動全体に求められるものであり、客観的な「明示又は黙示の命令」と同次元で論ずること自体が誤りであるからだ。
 こうした被告らの姿勢は、現実に存在する「休憩時間の業務」や、限定四項目以外の「超過勤務」や「持ち帰り仕事」を「自発的、創造的」とすることで、無定量・無制限の労働を容認し、実質強制することに帰結している。原告らが休憩時間を十分に取得できていないというのは、休憩時間を「取らない」のでなく「取れない」のである。その責任は被告らにある。

 以上述べてきたように、休憩時間に労働した分の未払い賃金は、当然支払われるべきである。ただ働きは絶対にないのであり、休憩時間に「自発的、創造的な教育活動」に名を借りて強制的に労働をさせてはならない。これは、憲法27条2項(勤労条件の基準)、労基法第5条(強制労働の禁止)、第24条(賃金の支払い)、第34条(休憩時間)に違背する。被告大阪府は、休憩時間に発生した勤務に対する賃金支払い義務がある。

(6)結び

 以上述べてきたように、被告高槻市と被告各校長は、原告らが休憩時間が保障されなかったことによって被った損害に対する賠償義務を負っていることは明白である。また、被告大阪府には、原告らに対し、休憩時間に係る勤務に対する賃金支払い義務がある。
 原告らは、貴裁判所が、訴状「請求の趣旨」記載の通りの判決を出されるよう、強く望むものである。

 最後になるが、原告として、一言申し述べておきたい。全国の学校で働く教員は、文部科学省調査でも明らかになったように、密度の高い、長時間の連続労働を余儀なくされている。しかし、使用者たる大阪府は給特法を恣意的に解釈し、それを盾にして、「残業・超過勤務」に対して超過勤務手当・割増賃金を支払って来なかった。本件の「休憩時間中の本務労働」に対しても同様である。
 本件で明らかになったように、原告らは、子どもや保護者への責任として「休憩時間にも為さねばならなかった当然の教育的行為」、つまり本務労働を為してきた。もしこれを、「自発的創造的に、休憩時間に勝手にやっている労働」あるいは「休もうと思えば休めた」などと教育委員会・校長が断じるならば、原告らのように、教育の重要さもその困難さも乗り越えて業務を完遂している教職員(労働者)の生存権を保障した労働基準法を無視しているに等しい。
 口先だけで「休憩をとってもよい」と言われても、法律通りに、ゆっくり休憩が取れる状況が私たち原告の学校現場にあるのかと、教育委員会には、なんども問いただしたい。
 裁判官におかれましては、私たち原告の過酷な学校現場の状況を十分に把握していただき、労働基準法が正しく適用されるような勤務条件となるよう、ご判断いただきたい。

以上