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労働時間規制除外の労政審最終報告書が出る

2007年1月4日掲載

 労働時間規制除外(ホワイトカラー・エグゼンプション)について論議していた厚生労働省の労働政策審議会は、昨年暮れの27日に最終報告書を出した。労働側の反対にも関わらずホワイトカラー・エグゼンプションの導入を適当とし、対象者の年収条件は「管理職の平均的な年収水準を勘案」とするにとどめ、具体的な金額は示さず、今年の通常国会でに労働基準法の改正後に政省令で決めることにしたとのことである。同時期に政府の規制改革・民間開放推進会議も同様の提言をしている。労働規制除外(残業手当は出ない)の対象者の年収条件が政府の判断(政省令)で決められるのは大変危険なことであり、今後の動きについては注目する必要がある。(一作)

<以下、新聞記事のため転載禁止>
残業代ゼロ「導入適当」 労政審
(朝日新聞 2006年12月27日22時16分)

 一定の年収以上の会社員を1日8時間の労働時間規制から外し、残業代をなくす「ホワイトカラー・エグゼンプション」について、労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)は27日、導入を適当とする報告書をまとめた。対象者の年収条件は「管理職の平均的な年収水準を勘案」とするにとどめ、具体的な金額は示さず、労働基準法の改正後に政省令で決めることにした。同省は来年の通常国会に法案を出す方針だが、与党からは来夏の参院選への影響を懸念し、慎重な対応を求める声も出ており、法案の行方は流動的だ。

 報告書は、対象者の条件に(1)労働時間では成果を適切に評価できない(2)重要な権限・責任を伴う(3)仕事のやり方などを使用者に指示されない(4)年収が相当程度高い――の4点を挙げた。「管理職の一歩手前の人」を想定している。

 労働組合側は、労働時間規制がなくなれば過労死が増えるなどとして、導入反対を強く主張。報告に「新たな制度の導入は認められないとの意見があった」との文言を入れることで、労組側も取りまとめには応じた。

 一方で報告は、「導入企業ができるだけ広くなるよう配慮すべきだとの意見があった」と、年収条件を低くしたい経営側の意向にも言及。両論を併記することで導入の道筋だけはつけた形だ。

 労組側が求めてきた、残業代の割増率の引き上げについても、「一定時間を超える時間外労働は現行(25%)より高い一定率を支払う」とし、具体的な数字は政省令に先送りする。

ホワイトカラー・エグゼンプション:労政審報告に盛る 
(毎日新聞 12月27日 23時23分)

「ホワイトカラー・エグゼンプション」導入についての最終報告案が出される労働政策審議会労働条件分科会に臨む西村健一郎会長(中央)=厚労省で27日午後5時7分、塩入正夫写す 労働法制の改正に関する労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)の労働条件分科会は27日、最終報告をまとめた。報告には、一定の年収などを条件に労働者の労働時間規制(1日8時間など)を除外し残業代を支払わない「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」が盛り込まれたが、労働側は最後まで納得せず、同制度の導入は認めないとの意見が記された。「認めない」との強い表現が使われるのは極めて異例。報告を受け、厚労省は今後、法案要綱の作成に入り、来年の通常国会に提出を目指すが、労働側の反発を押し切る形でこのまま作業が進むのか、注目される。

 報告は「労働契約ルールの明確化」として▽就業規則の変更で労働条件が変更されるルールなどを盛り込んだ労働契約法の新設▽「仕事と生活のバランスを実現する」としてホワイトカラー・エグゼンプション▽働く時間に労働者の裁量を反映させる企画業務型裁量労働制の適用拡大--などを盛り込んだ労働基準法改正について行われた。

 うちホワイトカラー・エグゼンプションでは管理職一歩手前など対象者が示され、年間104日以上の休日確保などの条件は示されたが、具体的な年収などの要件はなかった。同省も具体的に記さないままで法案化を検討している。

 付与された労働側の反対意見は「既に柔軟な働き方が可能な制度があり、新たな制度の導入は認められない」とした。

 また、使用者側の委員の一人が「中小企業に影響の大きい問題なのに議論は尽くされておらず(報告は)時期尚早だ」と反対した。

 今回の報告について、使用者側委員の紀陸孝・日本経団連専務理事は「働き方の新しい選択肢の一つとしてこの制度を考えてほしい。導入する際には労使が話し合って決めることになっており問題はない」と話した。

 一方、会見した労働側委員の長谷川裕子・連合総合労働局長は「制度は24時間働けと強いるようなもの。厚労省は終始、制度の導入ありきで、私たちの訴えにも『過労死を助長する』との過労死遺族の訴えにもかたくなだった。一体誰のための役所なのか。盛り込まれたのは残念だが、反対を貫きたい」と話した。【東海林智】

 ◇ことば…日本版ホワイトカラー・エグゼンプション 労働基準法に基づく労働の時間規制(1日8時間など)を除外し、成果などを基に賃金を支払う制度。米国の制度をモデルにしており、年収など一定の要件を満たす管理職一歩手前の企画、研究職などホワイトカラー労働者を対象に導入を検討。本人の裁量で、例えば繁忙期には連続24時間働き、そうでない時は1時間勤務も可能になる。一方、時間規制がないため、どれだけ働いても残業代は一切支払われない。米国では当初、高所得者のステータスシンボルのように扱われたが、現在はファストフード店の副店長レベルまで適用範囲が拡大されている。

ホワイトカラーの労働時間規制除外、労基法改正案へ
(読売新聞 2006年12月27日20時28分)

 管理職一歩手前のホワイトカラー(事務職)のサラリーマンについて、厚生労働省は27日、1日8時間、週40時間の法定労働時間規制から除外する「自由度の高い労働時間制」(日本版ホワイトカラーエグゼンプション)を、労働基準法改正案に盛り込むことを決めた。

 同日開かれた同省の労働政策審議会労働条件分科会が、導入を求める最終報告をまとめ、柳沢厚労相に提出。報告書には「長時間労働となる恐れがあり、認められない」とする労働側の意見も併記されたが、同省は「議論は尽くされた」として、今後、来年の通常国会提出に向けて、法案作成に着手する。

 新制度が導入されると、労働者は自分の判断で、出社・退社時刻など、1日の労働時間を調整できるようになる一方で、残業手当は支給されず、成果で給料が決まる。企業が新制度を導入しようとする場合は、事前に労使で協議し、労働者側の同意を得なければならない。新制度の対象者については、週休2日に相当する年104日の休日確保を企業側に義務付け、違反した場合は罰則を科す。

 最終報告では、新制度の対象者の条件として、<1>労働時間の長さで成果を評価できない職種<2>重要な権限や責任を相当程度伴う地位にある<3>業務の手段、時間配分について、経営側から具体的な指示を受けない<4>年収が相当程度高い――の4項目を挙げた。

 同省は、具体的な年収の額を省令で定めることにしており、大企業の課長、係長職の平均年収を参考に、800~900万円以上とする方向で検討している。

 新制度の法制化には、公明党が慎重審議を求めており、法案作成に向けて、与党との調整の難航も予想される。最終報告には、<1>残業代の割増率(現行は25%)の引き上げ<2>採用から解雇までの雇用ルールを定める労働契約法の制定――なども盛り込まれた。

事務職の労働時間規制除外など提言…規制改革会議
(2006年12月25日23時38分 読売新聞)

 政府の規制改革・民間開放推進会議(議長・草刈隆郎日本郵船会長)は25日、雇用・労働、教育など11分野の規制改革に関する最終答申を決定し、安倍首相に提出した。

 一定要件の事務職を法定労働時間規制の適用から除外する新制度(日本版ホワイトカラー・エグゼンプション)の導入や、いじめなどを理由に転校できる制度の周知徹底などを求めた。

 政府は26日の閣議で答申を最大限尊重する方針を決定する。安倍首相は今年度末で設置期限が切れる同会議の後継組織を来月中にも前倒しで設置し、議長は草刈氏を続投させる方針だ。

 答申では、「1日8時間週40時間」の現在の労働時間規制について、「自らの能力を発揮するため労働時間にとらわれない働き方を肯定する労働者も多くなっている」と指摘し、高年収で権限も大きい事務職を労働時間規制から外す法整備を次期通常国会で行うべきだとした。新制度の導入は厚生労働省でも検討中だが、労働側が強く反発し、同省の審議会分科会で議論が紛糾している。

 教育分野では、「いじめ」などを理由に転校できる制度の活用を市町村の教育委員会が阻害している面があるとし、対応状況の調査を求めた。教育委員会制度の改革については、政府が7月に閣議決定した「経済財政運営と構造改革に関する基本方針」(骨太の方針)にも明記された内容を踏まえるとし、抜本的な改革を目指す姿勢を示した。

 教育委員会制度を巡っては、7月の中間答申では「教育委員会制度が十分機能していない」とし、地方自治体への教育委員会の設置義務の撤廃検討を盛り込んだ。しかし答申案策定の段階で、教育委員会の機能強化を求める世論があったことなどに配慮し、答申への明記を見送ることにした。

規制改革・民間開放会議 労働時間「規制除外を」 金銭解雇も提言
(2006年12月26日03:43 産経新聞)

 政府の規制改革・民間開放推進会議(議長・草刈隆郎日本郵船会長)は25日、最終答申をまとめ、安倍晋三首相に提出した。一定以上の年収がある事務系職員に1日8時間、週40時間の労働時間規制を適用しない日本版ホワイトカラー・エグゼンプション制度の新設について、19年1月の次期通常国会に提出することを求めた。

 労働分野では、裁判で解雇が不当とされても、企業が金銭を支払えば職場復帰させないですむ「解雇の金銭的解決」についても検討し、次期通常国会への提出を求めた。7月の中間答申にはなかった農業分野では、新規参入を拡大させる観点から、農地情報を提供する仕組みを19年度中に構築するよう提言した。

 最終答申は保育、教育分野にも力をさいた。就労形態の多様化に伴って、保育所のニーズが高まっていることから、親がバウチャー(利用券)を活用して認可保育所を自由に選べるバウチャー制度の導入の検討を要求。小・中学校におけるバウチャー制度の導入についても積極的な対応を求めた。

 ただ、同会議が7月の中間答申に盛り込んでいた「教育委員会設置義務の撤廃」については、今年、いじめや必修科目未履修の問題が発覚したことで、教育委員会の権限強化を求める声があることに配慮。「抜本改革を早急に検討すべき」とするにとどめた。都道府県教委が持っている教職員の人事権については、一定規模の市町村に権限移譲することを提言した。

 このほか、税理士などの業務独占資格について「処分基準があいまい」などとして、不適正な行為に対する厳格な処分を求めた。
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 ■規制改革路線に壁

 規制改革・民間開放推進会議がまとめた最終答申は、7月の中間答申に盛り込まれていた「教育委員会設置義務の撤廃」の記載が見送られるなど、宮内義彦オリックス会長時代と比べると、後退した印象がぬぐえない。草刈隆郎日本郵船会長が議長に就任して2カ月余り。小泉純一郎前内閣で加速した規制改革路線が、安倍晋三内閣になって壁に突き当たっている。

 宮内会長は、安倍内閣が発足したのにあわせる形で議長を辞任し、草刈氏は10月に後任議長に就任した。短い時間のなか、安倍内閣色が出せたのは「成長路線の一環である農業の自立などの何点か」(草刈議長)にとどまった。

 だが、その理由は時間のなさだけではない。宮内時代には、混合診療の解禁などをめぐって規制改革担当相が厚生労働相と折衝して果実を勝ち取った。今回は閣僚折衝もなく、労働規制関係の提案は「言いっぱなし」の感が強い。会議に対する国民の関心も薄かった。

 今の規制改革会議は平成19年3月で廃止される。4月以降は新たに改組される見通しだが、経済合理性で割り切れない教育や労働規制に切り込むには、内閣に熱意がなければ難しい。(飯塚隆志)