学労ネット

労働法制の見直しと教員給与の削減

2006年6月24日掲載

 最近、気になる新聞記事がある。教員給与の削減の動きと労働法制の見直し関係の記事だ。
 どうも教員給与削減は、教員の優遇財源(人材確保法財源、現行4%)を来年4月めどに2.8%削減が政府・与党方針として固まってきたようだ。これは、文部科学省が「教員給与4パーセント引き下げの方針固める」との日経新聞の報道(06・4・23)に対しての記者会見で、「記事では、月額給与は基本給相当分と各諸手当を合わせて、教員は一般の地方公務員より4パーセント高いとされているが、これは総額を総人員で除した単純平均であり、平均年齢、学歴区分が考慮されておらず、同一条件で比較すれば、教員給与の優位性はわずか2パーセント程度であると、文部科学省では試算している」からも想定できる数字だった。

 それにややこしいのは、前回に掲載した、教員から時間外手当を実質的に排除した給特法の「教職調整額」を廃止し、時間外手当を教員にも支給するという報道である。時間外手当が支給されても、時間外手当が支給されている一般の地方公務員(行政職)との差は月額「2%」としていた。どちらも2%という数字だ。(私たち休憩時間訴訟団の試算では、1日当たりの「教職調整額」はたった13分にしかならない!)この動きとの関係はどうなのか疑問が湧く。
 そこで、もうひとつ関連するのではないかと思われるのは、「労働法制の見直し」の動きである。今、厚生労働省で検討されているのが、「ホワイトカラー・エグゼンプション」である。これは、一定収入以上(日経連は年収400万を提案)の従業員を労働時間規制の対象外とするものである。これで残業代を払わないですむという訳だ。これに対しては労働側委員の反対が強いので、合意を得るために月30時間以上の残業の場合は割増率を25%から50%にするという妥協案も出てきているそうだ。ホワイトカラーにはエグゼンプション(適用除外)、ブルーカラーには割増率アップ。ブルーカラーは低賃金だから、これで帳尻が合うとの考えだろう。なんとひどい!
 これがもし教員にも適用されたら、給特法の「教職調整額」すらいらなくなり、ある意味では「給特法的状況が労働法制全体に拡大」することになる。しかもそれ以上に安上がりで。教員の世界では、ますます無定量の超過勤務が進行する。無間地獄だ。文部科学省はこの動きもにらんでいるのではないだろうかと思う。
 以下、関連する新聞記事を紹介する。<新聞記事のため転載禁止>

小中の教員給与を2.8%カット 政府・与党方針
朝日新聞 2006年06月22日03時05分

 政府・与党は21日、一般の公務員より優遇されている公立小中学校の教員の給与水準を08年4月をめどに2.8%カットする方針を明らかにした。一般行政職の地方公務員と比べて実質優遇されている1万1323円(平均月額)分を削減する。同日、文部科学省や財務省も参加して開いた自民党の歳出改革プロジェクトチーム(PT)で合意した。

 削減すると、約70万人いる小中学校教員の平均月給は41万451円(01~05年度平均)から39万9128円になる。この結果、政府と地方自治体の歳出は2011年度時点で合計1700億円削減される。

 教員の給与は、74年施行の人材確保法で一般公務員より優遇するよう定められている。ただそれが適切かどうかに異論も多く、5月に成立した行政改革推進法に「人材確保法の廃止を含む見直し」が盛り込まれた。これを受けて、政府と自民党PTは財政再建に向けた歳出削減策の一つとして削減幅を検討してきた。

 同一条件で一般行政職員と教員の平均給与を比較した場合、同法に基づく優遇は月額約3万円。ただ、行政職員に支払われている時間外手当が教員には支給されていないことなどから実質優遇幅は1万1323円だった。

 一方、財政再建に向けて地方公務員全体の給与水準も引き下げるため、教員給与の実際の削減幅は2.8%を上回る見通し。教員の定数も少子化に合わせて5年間で約1万人減らす。これらを合わせると、11年度時点で教員人件費総額の削減額は約5300億円となる。

 文科省は削減に合わせて、メリハリのある配分をする新たな給与体系に移行する方針だ。年功主義の見直しや能力・業績の反映、時間外手当の導入などを検討している。

労働法制見直し始動 一定年収で残業代なくす制度も提案
朝日新聞 2006年06月13日21時40分
>>>新聞記事全文はPDFでご覧下さい。こちらです。

 働く人と会社の雇用契約のルールを明確にする新しい「労働契約法」と労働時間法制の見直しに向けて、厚生労働省は13日開かれた労働政策審議会の分科会で、素案を示した。長時間労働の是正のために賃金に上乗せされる残業代の割増率を引き上げる。一方で、一定以上の収入の人は労働時間の規制から外して残業代をなくす仕組みなどを提案している。会社員の働き方を大きく変える内容だ。

 同省では7月に中間報告、今秋までに最終報告をまとめ、来年の通常国会に労働契約の新法や労働基準法改正案などの関連法案を提出したい考え。素案は残業代の割増率の引き上げなど労働者を守るため規制が強化される部分と、残業代が必要ないなど企業にとって使いやすい人材を増やす側面の両面を含む。労使双方から反発が出ており、どこまで一致点が見いだせるか議論の行方は不透明だ。

 素案では、長時間労働を是正するために、現在最低25%の残業代の割増率を、月30時間を超える場合に50%とする▽長時間残業した人の休日取得を企業に義務づける▽整理解雇の乱用を防ぐルールの明確化などを盛り込んだ。

 その一方で、一定以上の年収の人を労働時間規制から外して残業代の適用対象外にする「自律的労働制度」の創設▽就業規則など労働条件変更の際、過半数の社員でつくる組合の合意があれば個別の社員の合意と推定▽裁判で解雇を争って無効になった場合でも解雇を金銭で解決できる仕組みの検討――なども示した。

 自律的労働制度の対象となる社員について、厚労省案では具体的な基準は示されていないが、日本経団連は昨年、年収が400万円以上の従業員を労働時間規制の対象外にするよう提案しており、基準の設け方によっては多くの正社員の残業代がなくなる可能性もある。

 同日の分科会では、労働側が、労働時間規制の適用除外を広げる案や解雇の金銭解決などが盛り込まれていることに「これまでの議論が反映されていない」と強く反発。労使の一致点が見つからなければとりまとめをしないよう求めた。

 一方、使用者側も「雇用ルールを明確にするのに必ずしも法制化は必要ない」などとして、ルールの厳格化によって人事・労務管理などが規制されることに警戒感を示した。

残業代、引き上げへ 月30時間超のみ、少子化が後押し
朝日新聞 2006年06月11日17時24分

 少子化対策で焦点となっている「働き方」を見直すため、厚生労働省は、時間外労働に上乗せされる賃金の割増率を引き上げる方針を固めた。長時間労働を是正し、仕事と子育てが両立できる環境整備を促す狙い。割増率を現行の最低25%から5割程度にする案を軸に検討している。ただし経済界の反発にも配慮し、対象は時間外労働が月30時間を超える場合に限る方向。残業代は段階的に上がることになりそうだ。

 13日に開く労働法制見直しに関する審議会で示す中間報告素案に盛り込む。働き方の見直しとして素案はこのほか、時間外労働が40時間を超えたら1日、75時間超では2日の「健康確保の休日」を企業に義務づけ▽取得率が低い有給休暇について年5日程度は企業側の責任でとらせる――などを盛り込んだ。

 労働基準法は、労働時間を原則1日8時間、週40時間と定めており、これを超えた場合、企業は通常の賃金に加えて割増賃金を払う必要がある。割増率は平日25%、休日35%で、欧米各国の50%前後に比べ低水準だ。長年の懸案だったが、国際競争力低下などを理由にした企業側の反対でこれまで据え置かれてきた。

 しかし、最近の少子化で状況が変わった。女性が産む子どもの平均数を示す05年の合計特殊出生率が過去最低の1.25に低下するなど歯止めがかからないことから、政府・与党内に「従来の対策では流れを変えられない」との危機感が強まり、働き方の見直しが最重点の課題として浮上。厚労省も長時間労働の是正に本格的に乗り出す必要があると判断した。

 残業が減れば仕事と育児が両立しやすくなると期待されており、6月中にもまとめる政府の少子化対策にも「長時間労働の是正等の働き方の見直し」が盛り込まれる方針だ。

 一方、与党の公明党も少子化対策として割増率引き上げを提案している。平日は一律40%(休日は50%)とした同党案に対し、厚労省案は対象を残業時間が長いケースに絞ったため、効果が不十分との声が出る可能性もある。

◇企業の9割「30時間以内」
 同省が企業を対象に行った05年度の実態調査では、一般労働者の平均的な時間外労働は月15時間で、9割近い企業で「30時間以内」に収まっていた。実際には、サービス残業などで時間外労働にカウントされていない例も多くあるとみられ、同省案がどこまで長時間労働の是正につながるかは不透明だ。一方で、経済界には割増率引き上げそのものへの反対も根強く、調整は難航も予想される。

 同審議会では同時に、一定以上の年収の人を労働時間規制から外す「自律的労働制度」の創設も提案されており、労働側には「割増率を上げても、適用除外がどんどん広がることになれば意味がない」との警戒も広がっている。

◇ <キーワード:労働法制の見直し> パートや派遣社員が増え働き方が多様になる一方、労働組合に属さない人も増加し、解雇や有期契約などを巡る企業とのトラブルが急増。政府は労働法制の根本的な見直しを進めている。雇用契約の基本ルールを明確にするのが新たにつくる「労働契約法」で、採用から退職までの権利・義務を規定する。同時に、労働時間法制も一体的に見直す。来年の通常国会での立法や労働基準法改正を目指すが、規制強化を嫌う企業と、労働者保護を強めたい労組の間で対立点も多い。