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休憩時間訴訟 準備書面(9)

2005年12月3日掲載

平成16年(行ウ)第50号 賃金等請求事件
原  告  松 岡   勲  外4名
被  告  大  阪  府  外8名

準備書面(9)

2005年11月30日

大阪地方裁判所 第5民事部合議1係御中

原告   松 岡   勲

原告   家 保 達 雄

原告   志 摩   覚

原告   末 広 淑 子

原告   長谷川 洋 子

一 被告大阪府平成17年10月19日付け準備書面(7)について

1 「給特法の趣旨が時間外勤務をさせない」という原告らの主張について

 被告らが、述べるように「給特法は、国立及び公立の義務教育学校の教育職員については、正規の勤務時間の割振りを適正に行い、原則として時間外勤務は命じないものとし、教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、所定の業務に従事する場合で臨時又は緊急にやむを得ない必要があるときに限るものと定めた」(上記被告準備書面(7)5頁)のであり、限定された四項目さえも原則としては、勤務時間の割り振りが先であり、「臨時かつ緊急」時以外に、時間外勤務があってはならないのである。従って、原告の主張する、「給特法の趣旨が、時間外勤務を禁止することである」ことが極論であるはずはない。

2 「包括的職務命令」について

 被告も述べているように「教諭は、教育に関する専門職として採用され、校長の監督を受けながらも、教育活動に関する限り、自発的、創造的にその職務を遂行することが期待され、また実際にもそのようにして職務を行っていると解される」(上記被告準備書面(7)7頁)のである。
 つまり、教諭が行っている教育活動は、すべて「校長の監督の下」にあり、指揮監督権下にある労働であり、包括的な職務命令下に常に置かれ、その上で個々の実態・現実に即して教員自身が判断し、自発的創造的に教育活動をなしているのである。従って、自発的創造的労働無くしては、教育活動はあり得ない。しかし、そのことが校長の指揮監督権下にないということはあり得ない。
 また、「自発的、創造的」というのは、労働に対する教諭の意識に関わることであり、教育活動に対し「期待」されている道義的責任、職業意識でもある。
 さらに、本来、自主的あるいは自発的労働というのは、労働者である教員自身が申し述べ、主張するものである。しかるに、雇用者が労働者の言辞あるいは主張も確認せず、時間外に勤務しているからということで、被告らが、一方的に「自発的創造的勤務」と決めつけるのは、「自発的創造的にやっているのだから勤務時間とは認めない」という意図をもっており、現場の実態を無視した誤った主張である。

3 「第3 1 休憩時間の変更について」に関する主張について
 被告は、「個々の教職員の申出があれば、当初割り振られた休憩時間を(当該日の)他の時間に変更すべきである」(上記被告準備書面(7)9頁)という。しかし、現実に原告らの職場ではそのようなことは、全職員に充分周知されておらず、実際に変更した教職員も存在しない。また、現実の勤務実態としては変更は不可能なのである。
 高槻市教委と校長は、勤務時間の変更手続きについての具体的な根拠と方法(変更規準、変更申請書式等)を欠いている。このような実態の下で、恣意的に勤務時間を変更することはできない。

 最後に本年度の「休憩時間中の労働実態報告」(甲69-1~4号証)と龍谷大学法科大学院長の萬井隆令氏の「公立学校教師と時間外労働/給与特別措置法の解釈・運用上の問題点」(「龍谷法学」第38巻第1号、2005年6月30日、甲70号証)を上げる。
 「休憩時間中の労働実態報告」は今年9月27日~10月25日までの1ヶ月間の原告4名(家保、志摩、末広、長谷川)の休憩時間の労働実態を記録したものである。本訴訟で未払賃金請求及び損害賠償請求した期間と勤務校の違いはあるが(志摩は訴訟期間と同一校勤務、他の3名は転勤し、現任校勤務)、いずれも放課後に休憩時間が45分のまとまりとして割り振られており、休憩時間の勤務条件は同質である。この実態を見ても、休憩時間が子どもへの対応及び実質勤務の実態にあり、全く取れていないことが明確である。なお、原告松岡の分は、休憩時間が生徒の昼食及び昼休み中の時間であり、生徒への対応と実質労働の時間となっており、また、完全な手待時間であり、明らかに休憩が取れない勤務条件であること、さらに、現勤務校が訴訟期間と別の勤務校で非常勤特別嘱託員であり、勤務条件が相違するので上げなかった。
 また、萬井隆令氏の「公立学校教師と時間外労働/給与特別措置法の解釈・運用上の問題点」は、公立学校教員と労働時間制適用の意味を位置づけ、給特法成立前の教員の超過勤務訴訟から説き起こし、労働法学から見た給特法の解釈・判例批判・運用上の問題点を精緻に分析し、「給特法上は限定四項目以外には時間外労働を行われないのが建前であり、その建前に沿う限りにおいて、労基法三七条の適用除外を定める給特法五条が有効とされるのであって、地方自治体がその建前に反し給特法の構造を無視しながら、同五条だけは有効であるというのは、特別法たる給特法の解釈として適切ではないからである。給特法の建前に反する場合は、地方公務員法の労働時間制の原則に立ち戻り、労基法三七条の適用がある、すなわち、時間外労働に対しては二五%以上の割増賃金が払われなければならない。」と結論される。労働基準法及び地方公務員法と労働時間制の法理に基づき、給特法の判例批判を積み重ねた、極めて納得のいく論理である。

二 休憩室の設置義務と被告高槻市の責任について

 本件において、休憩するには、休憩室が必要にもかかわらず、原告らの学校の中で快適な休憩室が設置されていない。このとが、十分な休憩時間が確保できない大きな理由の一つであることを以下主張する。

労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)では、以下のように定められている。

第1条(目的)
 この法律は、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まって、……労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な作業環境の形成を促進することを目的とする
第23条
 事業者は、労働者を就業させる建設物……について、……換気、採光、照明、防湿、休養、避難及び清潔に必要な措置その他労働者の健康、風紀及び生命の保持のため必要な措置を講じなければならない。
第119条
 上記23条違反……使用者は六ヶ月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

 上記の法は、本来「労基法」の中に含まれていた規定を、その後独立した法として成立させたものである(昭和47年)。従って、労基法第一条の「条件を低下させてはならない」主旨から言うなら、労働安全衛生法は守らねばならぬ最低基準である。

 この上記法の規定を受け、事務所衛生基準規則によれば、

第19条(休憩の設備)
 事業者は、労働者が有効に利用することができる休憩の設備を設けるよう努めなければならない。
第21条(休養室等)
 事業者は、常時五十人以上又は常時女性三十人以上の労働者を使用するときは、労働者がが床することのできる休養室又は休養所を、男性用と女性用に区別して設けなければならない。

 と定められている。「努めなければならない」というのは、休憩の設備を設置しない場合、刑事罰の適用は外されるが、事業者に違法性はあるという主旨である。具体的な設置、あるいは十分な休憩室の設置計画がないのに、「努力している」というのは違法性が高い。「休憩時間の確保」は充分な場所(空間)無しにはあり得ない。

さらに、
事務衛則21条(休養室等)
 事業者は、常時五十人以上又は常時女性三十人以上の労働者を使用するときは、労働者がが床することのできる休養室又は休養所を、男性用と女性用に区別して設けなければならない

 上記規定は「設けなければならない」(義務規定)とされ、行政側が設置しないときは、使用者(校長・市教委)は六ヶ月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する、との規定となっている。
 しかし、使用する労働者の人数規定(常時五十人・女性三十人)もある。現在、公立小中学校は小規模化しているため、上記人数を上回る学校は極めて少ない。しかし、ならば、設けなくて良いということにはならない。どんな職場で働く労働者にも休憩室、休養室は必要なのであり、上記の「人数規定」を下回るときは、刑事罰はおくとしても、「設置しなくてもいっこうにかまわない」と判断するのは違法性があり、一般的にも、常識的にもありえない。

 以上のように、法的には原告らの職場に、当然、男女別の適当な広さの、快適な休憩室を、管理者は設置すべきであり、子どもが出入りしたり、電話がなったり、教職員が仕事をする「仕事」場所での休憩の確保は不可能である。さらに、原告らの具体的な職場の休憩室についての不備については、追って主張する。

以上