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休憩時間訴訟 準備書面(3)

2004年12月19日掲載

平成16年(行ウ)第50号 賃金等請求事件
原  告  松 岡   勲  外4名
被  告  大  阪  府  外8名

準備書面(3)


2004年12月13日

大阪地方裁判所 第5民事部合議1係御中

原告   松 岡   勲

原告   家 保 達 雄

原告   志 摩   覚

原告   末 広 淑 子

原告   長谷川 洋 子






目  次
1)一斉付与除外と分割=休憩の自由利用の妨げと勤務強化
2)労働時間管理に関する厚生労働省基準の周知徹底
3)措置要求と大阪府教委との関係
4)立法の根拠が失われた給特法
5)求釈明



1)一斉付与除外と分割=休憩の自由利用の妨げと勤務強化
 
 被告高槻市他7名の「準備書面(2)」で、「『休憩時間の自由利用を妨げず、かつ、勤務強化にならない場合』として、教員の休憩時間を学年別に定めたり、教職員と事務職員の休憩時間を別々に定めたりして運用しているので、『一斉付与の原則』反する点は、些かもない。」と言うが、果たしてそうか。

 大阪府人事委員会規則(被告高槻市他丙2号証)第3条の2は、「一斉付与の除外」について3項の条件をつけている。
1、交替制によって勤務させる場合
2、同一事業所内であっても作業場を異にする場合
3、前号に掲げる場合のほか、休憩の自由利用が妨げられず、かつ、勤務の強化にならない場合。
 高槻市立小・中・養護学校においては、1、2については該当しないので、3に反しないかどうかである。学校現場は、児童・生徒を中心に動いており、各学年の教員、養護学級担任教員、養護教員、事務職員、その他の職種が子どもとの関わりで有機的に結びついて業務を行っており、一斉休憩でないかぎり休憩時間は取ることができない。たとえば保健室で、養護教員が休憩に入ったとしても、一斉休憩でないため(子どもや他の教職員は休憩時間でないので)、子どもは「体調が悪い」とやって来るし、他の教職員も子どもの様子を見るために保健室に来る。また、保護者や他校の養護教員、市教委等からの電話はあるし、用件があって来訪もある。そのため休憩は取得できない。(このことは事務職員でも養護学級担任であっても、また、小学校低学年教員と高学年教員とが別の時間帯に休憩時間帯を設定されていても同じである。)さらに一斉付与除外で休憩時間が取れるためには勤務場所と遮断された休養室が必須であるが、多くの教職員が休憩が取れる充分な休養室が整備されていな環境条件では、このような形態での休憩は不可能である。
 これはあきらかに「休憩の自由利用を妨げ、勤務強化」となり、労働基準法違反であり、大阪府人事委員会規則第3条の2にも違反している。また、大阪府教委では休憩時間の一斉付与除外は労働基準法違反になるとして例示からはずしている。(甲13号証)(被告大阪府乙16号証) さらに、これと比較して、高槻市教委の「高槻市立学校の府費負担教職員の勤務時間、休日、休暇に関する規則」(被告高槻市他「丙1号証」)の第4条では、「ただし、学校運営上必要があると認める場合は、他の時間に変えることができる。」としか規定がなく問題である。一斉付与の除外については、高槻市教育委員会は「一斉休憩の除外」(様式5号)の書式を決めており、各市町村教育委員会に例示している。(甲39号証)ところが、高槻市教委はこの様式を作らず、校長の申請を認めている。これは文書管理上問題があるとともに、一斉付与の除外を無原則に認めることになる。2003年2月10日、高槻市教委は原告の所属する組合との交渉の中で、「『一斉付与の除外』にかかる様式については、来年度本格実施にから整備する予定である」(甲40号証)と約束しながら、いまだに作っていない。これは行政の怠慢である。このようにして高槻市教委は休憩時間の保障をネグレクトしており、現在まで休憩時間の完全実施をしないままで、いまだに試行中である。
 一斉付与の除外で当該の教職員が充分に休憩が取れるようにするためには、子どもや保護者に対して「休憩時間の明示」が行われ、休憩中に仕事が入らないようにしなければならない。一斉付与除外で成功している例があれば具体例をあげられた。
 その上、高槻市教委は休憩時間の分割まで認めている。前記大阪府人事委員会規則第3条の2においては、休憩時間の一斉付与の除外は規定されていても休憩時間の分割認められていない。休憩時間の分割は大阪府人事委員会規則の第3条の2の但し書き第3項に言う「休憩の自由利用が妨げられ、かつ、勤務の強化」になり、労働基準法違反である。
 15分の休憩時間では自由利用ができない。休憩時間の分割で特にひどい例として、高槻市立堤小学校では10分の休憩が認められているが、これは休憩の自由利用を完全に妨げる。15分にしても同様である。(甲41号証)学校の実態では、授業が終わっても、授業に関する質問や生徒指導上の対応等で教員はすぐ教室を出ることはできず、その後、足早に職員室に帰り、次の授業の用意をしているうちに次の授業のチャイムがなって教室に行くというのが常態である。これで15分の休憩は完全につぶれてしまう。このような勤務実態での休憩の分割は「休憩の自由利用の妨げ」となり、「勤務強化」になる。高槻市教委の校長へのこのような指導は休憩時間取得を不可能にしており、「一斉休憩の除外」及び「休憩時間の分割」ついて、早急に撤廃すべきである。
 高槻市教委は「黙示的にも休憩時間において原告らの自由を強く拘束するような勤務を強いたり、休憩時間に関する一斉付与及び自由利用の原則に反する事実は一切存在しないことは明らかである」と言うが、上記の事実及びこれまでの原告の主張によって完全に論破されている。



2)労働時間管理に関する厚生労働省基準の周知徹底

 勤務時間管理など、現場をその対象とした「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準について」の厚生労働省通知(基発339号、平成13年4月6日。以下、労働時間管理に関する厚生労働省基準と略)を大阪府教委が各地教委に対し、また学校現場に周知徹底していないければ、行政の不作為の違法を免れない。
 被告大阪府の「準備書面(2)」において、労働時間管理に関する厚生労働省基準に関して、「大阪府においても、その通知後である平成13年5月9日付で、高槻市を含む府内の市町村等に通知しており、(中略)上記の通知の存在、内容は既に周知の事実である。」と言うが、そうではない。乙14号証の発信元は大阪府総務部市町村課長であり、市町村人事担当部(課長)宛にしか届かない。
 原告の所属する組合では、労働時間管理に関する厚生労働省基準を各学校長に周知徹底するように高槻市教委に求めてきたが(甲42証の要求C)、いまだに学校長には下ろされていない。私たちの組合が要求するまでは、高槻市教委はこの通知を知らず、高槻市教委総務課及び教職員課に文書の調査を求めたが、文書が存在しないという回答であった。それはそのはずである。文書は高槻市の人事課に届いていても、「縦割り行政」であるため市教委総務課及び教職員課には届かなかった。
 原告の所属する組合の連絡会である全国学校労働者組合連絡会(全学労組)参加の組合で、労働時間管理に関する厚生労働省基準の学校現場への周知徹底を求めて、2004年1月23日に文部科学省交渉を持った。(甲43号証)その結果、2004年2月3日の文部科学省初等中等局所管事項説明会で「再通知」(ただし、大阪府「準備書面(2)」の言う通り、文書ではなく「口頭」であったが)させることができた。さらに大阪府教委が労働時間管理に関する厚生労働省基準を高槻市教委宛に「再通知」の上、周知徹底の指導されてこそ、学校現場に届くものである。
 しかし、高槻市教委の怠慢は大阪府の「準備書面(2)」の指摘するように明らかである。現在では様々な形で労働時間管理に関する厚生労働省基準は知ることができるし、すでに原告の所属する組合からは高槻市教委に厚生労働書基準は届けてある。この文書を各校長に周知徹底し、休憩時間の管理・保障とともに、厳正な勤務時間管理を求めることは、高槻市教委の見識と責任の取り方にかかっている。よって、高槻市教委は直ちに各校長に厚生労働省基準を下ろし、休憩時間を含む勤務時間の厳正な管理を行わせるべきである。


3)措置要求と大阪府教委との関係
 地方教育行政の組織及び運営に関する法律(地方教育行政法)には県費負担教職員の勤務時間その他の勤務条件について以下のように規定している。

<地方教育行政の組織及び運営に関する法律>
(県費負担教職員の給与、勤務時間その他の勤務条件)
第42条 県費負担教職員の給与、勤務時間その他の勤務条件については、地方公務員法第24条第6項の規定により条例で定めるものとされている事項は都道府県の条例で定める。
 また、県費負担教職員の勤務時間その他の勤務条件の措置要求について地方公務員法及び地方教育行政法施行令では次のように規定している。

<地方公務員法>
(勤務条件に関する措置の要求)
第46条 職員は、給与、勤務時間その他の勤務条件に関し、人事委員会又は公平委員会に対して、地方公共団体の当局により適当な措置が執られるべきことを要求することができる。

<地方教育行政の組織及び運営に関する法律施行令>
(地方公務員法の技術的読替え)
第7条 法第47条第1項に定めるもののほか、県費負担教職員に対して地方公務員法(昭和25年法律第261号)の規定を適用する場合においては、同法中次の表の上欄に掲げる規定の中欄に掲げる字句は、それぞれ当該下欄に掲げる字句に読み替えるものとする。
(第46条の人事委員会→任命権者の属する地方公共団体の人事委員会に読替え)
 上記の規定から、府費負担教職員の措置要求が高槻市公平委員会にではなく、大阪府人事委員会になされる。
1、措置要求時の意見書は請求者と大阪府教育委員会によって交わされる。
2、措置要求の判定書は請求者と大阪府教育委員会に送付される。
3、また、人事委員会による判定の結果、勧告がなされる場合は、給与、勤務時間その他の勤務条件に関しては任命権者の都道府県教育委員会宛になされる。「県費負担教職員の給与、勤務時間その他の勤務条件で、本法(地方公務員法)24条6項の規定により条例で定めるものとされている事項は、都道府県条例で定めることされており(地行行法42)、(中略)判定の結果に基づく勧告の宛先は、『道府県の機関』である。」(保木本一郎「甲44号証」P215)
 これまで原告らは何らかの形で措置要求をしてきているが、これまでの経験は上記のごとくであった。被告大阪府が紹介された原告松岡の休憩時間に関する措置要求・平成14年大人委(勤)第2号事案(乙18号)で、高槻市教委と校長が意見聴取の場に出席して意見を述べたのは唯一の例外で、その他のケースでは意見陳述をしたのは申請者、大阪府教委のみであった。また、高槻市教委や校長への事実確認については大阪府教委が高槻市教委及び校長に問い合わせをしていた。その上、高槻市教委には大阪府人事委員会から措置要求に関する情報が届かないので、これまで申請者より情報提供してきた経過がある。例示として原告松岡の休憩時間に関する最初の措置要求の判定書・平成10年大人委(勤)第2号事案を上げておく。(甲45号証)
 また、原告松岡の上記措置要求の判定書で、休息時間について「全国の県費負担教職員の休息時間の設置状況も参考にしながら、府教委において、休息時間制度について調査・研究することが望ましい。」と判定書に付記されたことが、その後の休息時間の制度化につながったことでも例証できる。(甲46号証)(甲47号証)
 原告らの服務監督者が高槻市教委であるが(地公行法第43条の「市町村委員会は、県費負担教職員の服務を監督する。」)、複雑な権限委譲のなかで上記のような事実が起こっており、大阪府教委は2度にわたる原告松岡の休憩時間に関する措置要求を知らなかった(被告大阪府「答弁書」における「否認」「不知」)とは言えないと考える。



4)立法の根拠が失われた給特法
 被告大坂府は、「準備書面(1)及び(2)」において、給特法とそれに基づく給特条例の規定により、原告らは超過勤務手当を請求することはできないと主張するので、この点に関し、以下のとおり反論する。



(1)給特法成立に至るまで

 給特法制定時の衆議院文教委員会議事録(甲48号証)によれば、制定時既に下記の点が心配され、議論されていた。
 ◇長時間労働の歯止めがない。
 ◇無定量勤務の押しつけが心配である。
 ◇教員は無権利状態にされる。
 ◇歯止めを外すなーーー労基法37条違反は、使用者が懲役・罰金刑である。
 ◇「限定四項目」は元来禁止的なものの例外措置である。
 
 
 また、中央労働基準審議会は、労働基準法が他の法律で適用除外されるのは、適当でないとし、給特法成立(昭和46年5月28日・法律第77号)前に下記の建議を労働大臣に出している。

昭和四十六年二月十三日
   労働大臣 野 原 正 勝 殿


  中央労働基準審議会
   会長 石 井 照 久


義務教育諸学校の教諭等に対する教職調整額の支給等に関す法律の制定について(建議)

  標記に関し、本審議会は下記のとおり建議する。
1、労働基準法が他の法律によって安易にその適用が除外されるようなことは適当でないので、そのような場合においては、労働大臣は、本審議会の意向をきくよう努められたい。
2、文部大臣が人事院と協議して超過勤務を命じうる場合を定めるときは命じうる職務の内容及びその限度について関係労働者の意向が反映されるよう適切な措置がとられるよう努められたい。
【甲49号証、教育職員の給与特別措置法解説・P56より】

 中央労働基準審議会としては、労働基準法の「労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るようにつとめなければならない。」(労基法第1条第2項)との規定を基に、上記建議を行ったものと思量される。



(2)教職調整額4%の根拠 

〈昭和46・4・14〉
◎谷川委員
・・・それで一点お伺いいたしますが、教職調整額4%したのについては、何か根拠はおありになるのですか。その点について答弁いただきたい。
□尾崎政府委員
・・・昭和41年に、文部省のほうで公立及び国立を通じまして包括的な勤務実態調査がございました。その結果の四%ということを尊重したものでございます。しかし、私どもの場合には、手当ということじゃなくて、勤務時間の内外を通じまして包括的に基本給として評価するという点で、これを本俸評価ということにたいしてございますので、手当ペースといたしますと6%となるわけでございます。これは地方におきます事務職員の超過勤務手当水準とほぼ一致しておるということも考慮してございます。 
【 衆議院文教委員会議事録(甲48号証)P12~13】

 すでに原告「準備書面(2)」のP42~43においても述べたごとく、教職調整額が4%とされたのは、人事院の意見申出にあるとおりの率とされたからであるが、人事院の意見において4%とされたのは、文部省が昭和41年度(1966年度)に行なった教員勤務状況調査の結果による超過勤務手当相当分の俸給に対する比率約4%という数字を尊重したからである。
【教育職員の給与特別措置法の解説ーー文部省初中局内、教員給与研究会・甲49号証、P110より】



(3)「4%」の根拠は破綻

 原告の「準備書面(2)」[P42ー43] において述べたごとく、給特法制定当時[1971年(昭和46)]と現時点では、超過勤務の実態が大きく変化してきている。
 給特法制定前[1966(昭和41)]の文部省調査《甲34号証、P110ー112》と全日本教職員組合調査[2002年(平成14)]《甲35号証》、京都市教職員組合調査[2002年(平成14)]《甲36号証》、北海道教職員組合調査[2001年(平成13)]《甲37号証》を比較すると、1ヶ月の超過勤務時間が約10倍にもなっているものである。
 即ち、『・原則として超勤はしない・限定4項目以外は教職調整額4%の対象外』として定められた給与特別措置法は、立法の根拠がすでに失われているものである。
 


(4)4項目以外の(休憩時間)超過勤務と給特法

 原告らは、教育現場が膨大な業務量をかかえているため、刑事罰で保護された休憩時間も、業務を遂行しなければ完遂できない実態にあること、又それが常態化していること、又持ち帰り残業も行われていることを述べている。[「訴状」P7~10、原告全員の「陳述書」(2004.6.7及び8.11)、「準備書面(2)」P2~22]
 そこで「4項目以外の超勤」に係る手当につき判断している判例とその解釈、及び学説を取り上げてみることとする。

△判例とその評釈等▽

★措置要求に対する判定の取消請求事件
[昭和63年1月29日判決、昭和60年(行ウ)第25号、棄却・確定]
 【判例自治・45号、21~25頁、甲50号証】

◇本件に係る部分の要旨を述べれば以下の通りである。 
◎教職員に対し、生徒の実習に関する業務、学校行事に関する業務、教職員会議に関する業務、非常災害等やむを得ない場合に必要な業務の四業務(四項目)を超える時間外勤務命令は違法である。
◎四項目を超えて職務命令が発せられ、教職員が当該職務に従事した場合、教職員には教職調整額の支給があるから、時間外勤務手当等を支給する旨の給与条例の規定の適用が当然排除されるということはできず、時間外勤務等を命じられるに至った経緯、従事した職務の内容、勤務の実情等に照らして当該教職員の自由意思を強く拘束するような形態がなされ、しかもそれが常態化しているなど時間外勤務等の実状を放置することが時間外勤務等を命じ得る場合を限定列挙して制限を加えた規定の趣旨にもとるような事情の認められる場合は、時間外勤務手当等の請求を受けた給与負担者がその支払いを拒むことは信義公平の原則に照らして許されない。
◎手当その他の金員を支給することは基本規定である給与条例に戻ることであるので地方公務員法25条1項、地方自治法204四条の2の規定に違反するものではない。
※ 地方公務員法25条1項『職員の給与は、前条第6項の規定(職員の給与、勤務時間その他の勤務条件は、条例で定める)による給与に関する条例に基づいて支給されなければならず、又、これに基かずには、いかなる金銭又は有価物も職員に支給してはならない。』
※ 地方自治法204四条の2『普通地方公共団体は、いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基づく条例に基かずには、これを・・・・・職員に支給することができない。』
 
上記判例に照らしてみるに、すでに述べたごとく本件「休憩時間」を業務の遂行に使用しなければ、業務が完遂できないものであり、勤務時間そのものである。よって給与支給の対象となること明らかである。

★、措置要求に対する判定の取消請求事件[昭和63年1月29日判決・昭和60年(行ウ)第25号 ]、に対する解説・《山本吉人・法政大学教授》【別冊・ジュリスト96、(204~205頁)クラブ活動引率にともなう時間外勤務手当の請求 甲51号証】

◇給特法下の時間外勤務手当
 給特法が労基法37条の適用を除外した以上、いかなる超過労働(時間外、休日労働)についても手当を支給する必要はないとする考え方=「全面的否認論」を主張することも可能である。しかし、この場合、調整額4%という低額の手当を代償に、無定量、無制限の超過労働を容認することの当否が問題になる。
※労働基準法第37条  使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
 他方、教育労働の特殊性(本判決では、給特法の立法過程、教職員の勤務の実態、特殊性を詳細に検討する)なども無視できないであろうし、今後、労働時間法制の見直しが生じ、この特殊性に力点をおいて、労基法の適用の当否とか裁量労働(労基法38条の2)との関係なども討議される可能性がある。
※労働基準法第38条の2  労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
 この「全面的否認論」に対し、「部分的否認論」、すなわち、給特法7条に基づく文部省訓令または、同11条に自治体の条例などで時間外労働を命じうる場合が定められている以上、これらの事由に該当する超過労働のみに労基法37条が不適用とされ、それ以外については、法または条例に基づいて手当を請求できうるとする立場がある。(本件の場合、原告がこの立場、被告は全面的否認論)。本判決は、これらの2つの理論のうち、中間的立場であり、「全面的否認論」は立法趣旨からみて妥当性を欠くことを強調する。他方、「部分的否認論」に立ちながら、限定的列挙事由に該当しない時間外労働に関して、すべて手当請求が可能とみることも給特法の趣旨に反すると判断する。おそらく労基法37条を適用しないと規定することに着目するのであろう。その結果、時間外労働が強制的になされ、常態化する場合は、法及び条例の趣旨に反するから、給与請求権を認めるべきであると結論づける。給特法の条文構成の抽象性ーーー労基法37条不適用を明確化しておきながら(10条)時間外労働を命じる場合の限定を文部省訓令に委任(7条)し、また、これ以外の時間外労働についての手当に関して何の規定も設けていないーーーといったことから、本判決は、苦心の結果、中間的立場に立つといえる。しかし、本判決は、法7条による文部省訓令と同種の本件給与条例7条を「単なる訓示規定」と解することを否定する以上、「部分的否認論」に立脚しないと一貫性がないとの批判もあろう。

『・・・時間外労働が強制的になされ、常態化する場合は、法及び条例の趣旨に反するから、給与請求権を求めるべきである・・・』との判断を、「訴状」(P7~10頁)、原告全員の「陳述書」(2004.6.7及び8.11)、「準備書面(2)」(P2~22)において述べられている実態をあてはめ考察すれば、当然に給与請求権を認めるべきものと思量される。

★、措置要求に対する判定の取消請求事件[昭和63年1月29日判決・昭和60年(行ウ)第25号 ]、に対する評釈・《和田 肇・名古屋大学助教授》 【ジュリスト、1990.6.15、№958、113~115頁、甲52号証 ※和田氏は現在、名古屋大学教授】
 
 和田氏は、「判旨に賛成である」としながら、[評釈]のなかで次のごとく述べている。

『・・・時間外勤務手当の支給に代わって教職調整額を支給するとした法改正の趣旨は、教職員の勤務の特殊性に着目した給与体系を作るというだけでなく、時間外勤務を制限することも含んでいる。(この点については、文部省初等中等教育局内教員給与研究会編著・教職員の給与特別措置法解説68頁以下等参照)《※甲49号証》 そうであるとするならば、こうした趣旨を逸脱するような時間外勤務については、不法行為に基づく損害賠償請求で処理する方法(その要件等については検討すべき点も多いが)以外に、法に欠缺がある場合として、労働者の時間外勤務に対しては手当を支給するという本来の原則に回帰する余地も十分あるのではないだろうか。』

 和田氏は、1990(平2)年6月発行のジュリストに発表した論文であるが、その中で「・・・(給特法は)時間外勤務を制限することを含んでおり、こうした趣旨を逸脱するような時間外勤務については・・・」と述べているが、現時点においては、原告らの勤務する大阪府高槻市立小中学校に限らず、全国的に「こういた趣旨を逸脱するような時間外勤務」が行われているものである。その実態は、本件における原告らの、「訴状」(P7ー10)、原告全員の「陳述書」(2004.6.7及び8.11)、「準備書面(2)」(P2~22)における陳述、全日本教職員組合の調査[原告準備書面(2)P35頁、及び甲35号証]、国立教育政策研究所の調査[原告準備書面(2)40頁]、京都市教職員組合[原告・準備書面(2)及び甲36号証]、北海道教職員組合の調査[原告準備書面(2)P40、及び甲37号証] 、文部科学省調査発表(2002.12.25)[原告準備書面(2)P41~42、甲16号証]、そのまとめとしての、原告・準備書面(2)P43の、◆1ヶ月の超勤時間の比較(小中学校平均)36年間で10倍に、の記述からも明らかである。

△給特法に係る学説▽

●教育職員給与特別措置法ーーー労働法学の立場から  青 木 宗 也
【 「教育権理論の発展」日本教育法学会年報(第2号)1973、P70~77 昭和48年3月30日 発行 有斐閣・甲53号証】

 給特法が成立(昭和46年(1971年)5月24日)した約2年後に、労働法学者・青木宗也氏は、『教職特別措置法ーー労働法学の立場からーー』と題する論文を、日本教育法学会年報に発表している。その論文の中から、本件、「休憩時間中の労働」に直接関連性があると思量される部分を取り出してみることとする。

◇教育労働の特殊性と教職特別措置法
 教職特別措置法第1条は、教育職員の職務と勤務態様の特殊性に基づき、その給与、その他の勤務条件について特例を定めるとしている。すなわち、教職員の職務と勤務態様の特殊性を考慮して、時間外休日労働について、一般労働者よりも下回る条件を押しつけようとするものである。
 そこで、まず問題は、なぜ一般労働者より下回る条件を教育公務員なるが故に押しつけることがゆるされるべきかである。すなわち、教職特別措置法はまず、4パーセントの教職調整額を支給することと引きかえに、労基法33条3項を適用することとして、時間外、休日労働について、36条の手続きをとることを排除した。ところで、36条は、職場の過半数労働者の意志によって、長時間化し、恒常化する時間外休日労働を排除して8時間労働制への復帰を目指す規定である。その適用を排除することは、結局、管理者の自由な意志によって、無定量な長時間にわたり恒常化する時間外、休日労働を容認することを意味する。さらに、37条の適用除外を規定するわけで、わずか4パーセントの教職調整額とひきかえに、時間外、休日労働手当を失うということになる。それ故、一般労働者に対する労基法上の保護以下の条件が、教職特別措置法によって、教育公務員に押しつけられることとなるのである。はたして、教育公務員の職務と勤務態様の特殊性を理由として、このような、マイナスを押しつけることが許されるかが問題となる。
※労働基準法第33条  災害その他避けることのできない事由によつて、臨時の必要がある場合においては、使用者は、行政官庁の許可を受けて、その必要の限度において第32条から前条まで若しくは第40条の労働時間を延長し、又は第35条の休日に労働させることができる。ただし、事態急迫のために行政官庁の許可を受ける暇がない場合においては、事後に遅滞なく届け出なければならない。
3 公務のために臨時の必要がある場合においては、第1項の規定にかかわらず、官公署の事業(別表第1に掲げる事業を除く。)に従事する国家公務員及び地方公務員については、第32条から前条まで若しくは第40条の労働時間を延長し、又は第35条の休日に労働させることができる。
※労働基準法第36条 使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第32条から第32条の5まで若しくは第40条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、1日について2時間を超えてはならない。
 教育労働者の勤務条件は、生活条件であると同時に、教育条件でもある筈である。よりよい教育を実現するためには、より豊かな勤務条件が保障されることは申すまでもないことであろう。教育基本法6条2項は教員の職務を遂行するためには、教員の身分は、尊重され、その待遇の適正が、期せられなければならないと定め、さらに、10条2項は、教育行政の任務として「教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立」を果たすべきことを定める。まさに、勤務条件が教育条件であり、より豊かな教育を実現していくためには、その整備と向上をはかること必須の条件であることを、定めているのである。
 したがって、教育労働者の職務の特殊性に着眼して、一般の労働者のそれよりもより以上の労働条件が保障されなければならないことになるのである。ところが、教職特別措置法は、一般労働者のそれを下回わる条件を押しつけるものであり、教育基本法にも反し、不当である。教育の本質をわきまえず、それを否定する措置として不当であるといって良い。
◇教職特別措置法適用上の若干の問題
 教職特別措置法では、5つの事項に限定して、時間外労働を容認することとなるのであるが、教育労働の現場の実態をながめてみると、実際には定員が少く、他方、雑務等が増大してきている。したがって、5つの事項以外の業務を事実上時間外労働によって行う場合がしばしば出てくることが予想しうる。
 このような時間外労働が実際に行なわれた場合に、それを法的にどのように処理すべきかが問題である。従来は時間外労働は命じないものとするとして、事実上時間外労働が行なわれれても、それを時間外としないで処理するというのが一般的傾向であった。教職特別措置法も3条で、「原則として時間外労働は命じないものとする」と規定する。したがって、今後も、5項目以外の時間外労働は命じないものであるから、時間外とは認めないとして、強行されてくることが予想しうる。しかし、教職特別措置法のもとでは、5項目についてのみ時間外労働を容認したのであるから、それ以外の時間外労働につては、労基法33条3項に基づく時間外労働ではないものといわざるを得ない。しかも、現実に時間外労働を事実上の強制のもとで行なわせているわけであるから、指揮下において果され時間外労働と考えられるわけであり、少くも、それは法的に時間外労働だといわざるを得ない。ところで、それが時間外労働であるとした場合に、それは法的にどのように処理されるべきであるかが問題となる。
 結局、労基法上時間外労働は33条の場合と36条の場合にしか認められないのであるから、その場合の時間外労働は、36条の時間外労働と考えられ、その手続をとることが義務づけられると考えられる。
 したがって、36条の手続きを取らない限り36条違反が成立するものと考えられる。(処罰規定は労基法119条)
 ところで、その時間外労働は、36条による時間外労働であるとしても、教職特別措置法によって、労基法37条は適用除外になっているので、2割5分以上の割増賃金の支払は、使用者に義務づけられないこととなる。しかし、労働時間が、条例で週40時間と定められ、それにもとづいて、その日その日の労働時間の割振りが行なわれている場合、所定賃金は、その労働時間に対して支払われているわけである。したがって、その所定時間以上にわたって、時間外労働を行った場合には、割増賃金は右に述べたように支払う義務はないとしても、少くともその時間に見合って賃金の支払は義務づけられるはずである。すなわち、ただ働きはあり得ないからである。 

 青木宗也氏は上記論文において「・・・5つの項目以外の業務を事実上時間外労働によって行う場合がしばしば出てくることが予想しうる」と述べているが、給特法成立(昭和46年)の2年後に予想したことが、現時点において的中したものである。先見の明、確かなものと言わざるを得ない。青木理論の正しさを証明したものである。



5)求釈明
<被告高槻市他7名に対して>
1、休憩時間の一斉付与の除外、分割の実施校において、休憩時間の取得が成功している事例を上げられたい。
2、労働時間管理に関する厚生労働省基準について、被告大阪府は「既に周知の事実」であると言っているが、高槻市の責任でこの基準を学校長に周知・徹底する意志があるかどうか答えられたい。
3、被告大阪府の「答弁書」において「原告ら府費負担教職員の服務監督は市教委に属するので、原告らに対し時間外勤務を命じる権限等も、市教委又はその委任を受けた高槻市立の学校の校長にあり、府教委にはない。」とあるが、これを認められるかどうか答えられたい。

<被告大阪府に対して>
1、大阪府教委は各地教委に労働時間管理に関する厚生労働省基準を周知・徹底する義務がある。今後、各地教委に対して周知・徹底される予定があるかどうか答えられたい。すでに周知・徹底されているならば、どのように周知・徹底されたか、具体的な手続きとその内容を明らかにされたい。また、各地教委が各学校宛に周知・徹底したかどうかをどのような調査方法で確認したのかも明らかにされたい。
2、大阪府教委のスケジュールでは、休憩・休息時間の完全実施は来年度からとなっているが、予定通り完全実施が可能かどうか再度お訊ねする。

以上