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休憩時間訴訟 準備書面(1)

2004年8月13日掲載

平成16年(行ウ)第50号 賃金等請求事件
原  告  松 岡   勲  外4名
被  告  大  阪  府  外8名

準備書面(1)

2004年8月11日

大阪地方裁判所 第5民事部合議1係御中

原告   松 岡   勲

原告   家 保 達 雄

原告   志 摩   覚

原告   末 広 淑 子

原告   長谷川 洋 子






<目  次>
高槻市の「答弁書」への反論
0)はじめに
1)校長の勤務時間管理の責任について
2)高槻市の指導責任について
3)求釈明
大阪府の「答弁書」への反論
1)府・府教委、市・市教委、校長の関係
2)過労死等勤務条件の悪化について
3)休憩時間訴訟の判例
4)給特法と休憩時間
5)求釈明
結   語

<高槻市の「答弁書」への反論>
0)はじめに
 被告高槻市外7名の答弁書では、P2の中頃で、被告は「休憩時間調査結果」の取得率の訴状における分析についてまちがいがあるとしていますが、被告の高槻市教委教職員課が作成した調査結果を「被告自身が読みまちがって」います。それを指摘しますと(甲2号証ー2参照)、
 その「休憩時間試行実施に伴う実態調査」の左の表によると、C:ほとんど取得できなかった、D:全く取得できなかったの率を合わせると7割7分(無回答Eを入れて77.2)を超える、つまり、50%以上取得できたと回答した率は2割3分(22.8)に満たない結果となり、さらに「休憩時間試行実施に伴う実態調査」の右の表によると、明示した休憩時間を変えて休憩時間が取れなかった率はC、D合わせると9割弱(86.1)、つまり、50%以上取得できたという回答率は1割4分弱(13.9)にすぎない。つまり、「取得できなかった」(左)と「変更できなかった」(右)との区別ができていないし、作成者であるのも関わらず、この表の意味が理解できていない。このように原告の訴状の分析が決して間違っているのではなく、被告側が「自ら作成した実態調査票を読み間違える」という失態を演じています。

1)校長の勤務時間管理の責任について
 厚生労働省は、2000年11月30日に開催された中央労働基準審議会の建議を受け、使用者に労働者の労働時間を適正に把握する責務があることを改めて明確にし、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置を示した2001年4月6日付の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」を策定し、併せて、今後、集団指導、監督指導等あらゆる機会を通じて本基準の周知を図り、その遵守のための適切な指導を行うこと、としています。

同基準の趣旨は以下の通りです。
 労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有していることは明らかである。
 しかしながら、現状をみると、労働時間の把握に係る自己申告制(労働者が自己の労働時間を自主的に申告することにより労働時間を把握するもの。以下同じ。)の不適正な運用に伴い、割増賃金の未払いや過重な長時間労働といった問題が生じているなど、使用者が労働時間を適切に管理していない状況もみられるところである。(中略)
 本基準において、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置を具体的に明らかにすることにより、労働時間の適切な管理の促進を図り、もって労働基準法の遵守に資するものとする。
1、適用の範囲
 本基準の対象事業場は、労働基準法のうち労働時間に係る規定が適用される全ての事業場とすること。(中略)
2、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置
(1)始業・終業時刻の確認及び記録
 使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・ 終業時刻を確認し、これを記録すること。
(2)始業・終業時刻の確認及び記録の原則的な方法
 使用者が始業・終業時刻を確認し、記録する方法としては、原則として次のいずれかの方法によること。
ア 使用者が、自ら現認することにより確認し、記録すること。
イ タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録すること。
(3)自己申告制により始業・終業時刻の確認及び記録を行う場合の措置
 上記(2)の方法によることなく、自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合、使用者は次の措置を講ずること。
ア 自己申告制を導入する前に、その対象となる労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと。
イ 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施すること。
ウ 労働者の労働時間の適正な申告を阻害する目的で時間外労働時間数の上限を設定するなどの措置を講じないこと。また、時間外労働時間の削減のための社内通達や時間外労働手当の定額払等労働時間に係る事業場の措置が、労働者の労働時間の適正な申告を阻害する要因となっていないかについて確認するとともに、当該要因となっている場合においては、改善のための措置を講ずること。
(4)労働時間の記録に関する書類の保存
 労働時間の記録に関する書類について、労働基準法第109条に基づき、3年間保存すること。
(5)労働時間を管理する者の職務
 事業場において労務管理を行う部署の責任者は、当該事業場内における労働時間の適正な把握等労働時間管理の適正化に関する事項を管理し、労働時間管理上の問題点の把握及びその解消を図ること。
(6)労働時間短縮推進委員会等の活用
 事業場の労働時間管理の状況を踏まえ、必要に応じ労働時間短縮推進委員会等の労使協議組織を活用し、労働時間管理の現状を把握の上、労働時間管理上の問題点及びその解消策等の検討を行うこと。

 この基準に関する国会論議では、当然のこととして教職員にも適用されることが文部科学省の答弁であきらかになっています。(151回-参-文教科学委員会-09号 2001/05/24 、153回-参-文教科学委員会-02号 2001/10/30 )
 なお、同基準についての解説は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」についての考え方で詳述されているが、学校現場の始業・終業時刻の確認・記録の方法は「使用者が、自ら現認することにより確認し、記録する」(自己申告制)場合に相当し、市教委・管理職に労働時間の適正な管理が求められている。また、前出の国会論議で遠山文部科学大臣は「服務監督者である各教育委員会が、その権限と責任において必要に応じて教職員の勤務時間管理の実態調査を独自に行うことは可能」と答えており、市教委は「教職員の勤務時間管理の実態調査」を実施しなければならないし、管理職は勤務時間の厳正な管理に努めるべきである。この基準は休憩時間問題にも関連し、まさに被告各校長、高槻市教委にも休憩時間の適正な保障と管理が求められるものである。

★被告高槻市・各校長らの本案前の答弁に対する反論★
 以上見てきたように被告各校長には職員の勤務時間管理の責任があり、高槻市の「答弁書」で本案前の答弁で、被告7名の校長に対する「請求を却下する」よう求めているが、最初から公務員個人を請求から除外するような主張は失当である。以下、その理由を述べる。
国家賠償法の前提には憲法第17条がある。
日本国憲法第17条
 何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。憲法の規定に関連して民法では、
民法第709条
 故意又は過失に因りて他人の権利を侵害したる者は之に因りて生したる損害を賠償する責に任す
民法第710条
 他人の身体、自由又は名誉を害したる場合と財産権を害したる場合とを問はす前条の規定に依りて損害賠償の責に任する者は財産以外の損害に対しても其賠償を為すことを要す
以下の国家賠償法第1条2項はこれは公務員の個人責任を問うことも想定しているものである。
第1条2項 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
 以上から考えて、被告高槻市及び各校長らが、原告らの被告各校長らに対する請求を、本案前に却下するよう求めているのは、独自の見解に基づくものであり失当である。
 本件は原告らが被告各校長に損害賠償を求めているのであるから、被告らはそれぞれ被告適格を有し、責任の所在は実体法に拠って本案で審理されるものである。
(福岡地飯塚支判'70.8.12判例時法613-30、大阪地判'71.7.14判例時法649-65、名古屋高判'72.2.10判例時法678-46、東京地判平6.9.6判例時報150-40、東京高昭61.8.6判例時報1200。下山瑛二「国家補償法」p256。室井力・芝池義一・浜川清編著『コンメンタール行政法Ⅱ 行政訴訟法・国家賠償法』(日本評論社)芝池p431)

2)高槻市の指導責任について
 被告高槻市の「求釈明」には、「被告高槻市にのみに対して」賠償請求をしている根拠を求めているが、それは高槻市独自の指導責任を問うたからである。(延滞損害金の請求は高槻市のみにだけではなく、被告各校長7名に対しても行っている。)
 訴状にも縷々述べたように、休憩時間保障に対する高槻市教委の指導は無責任極まり、原告5名の労働基準法に保障された休憩時間取得の権利が侵害された。とくに2003年度については、高槻市教委は休憩時間の保障に関する指導を放棄したと断じる。
 勤務時間の文書明示については、2003年度は10校でなされておらず(甲5号証)、そのうち原告末広在籍校の竹の内小学校(被告大西校長)については組合による校長交渉で明示させましたので、9校が文書不存在になりました。今年度(2004年度)も高槻市公文書公開条例により公開請求をしたが、8校において文書明示がなされていないことが判明しました。被告大西竹の内小学校長は原告末広が転勤したためなのか、今年度は明示していません。なんという無責任な態度かと驚かされます。なお、今年度、原告長谷川の勤務校の被告山口大冠小学校長は転勤し、新校長として南出満校長が赴任したが、新校長が各職種の勤務時間が一目瞭然に分かる形式で職員への交付による勤務時間の文書明示をしたことは周知徹底義務という点から画期的なことである。
 2002年度は市教委の指導があって全校で文書明示がなされたのに、2003年度以降、ほぼ10校近くの学校で文書明示がなされていないのは市教委が文書明示についての指導をしていないからである。文書明示不履行により、労働基準法第106条の周知徹底義務がおろそかになり、原告への権利侵害は明らかである。
 また、休憩時間の3原則の不履行について、訴状には触れていない件を補足する。大阪府教委は2003年度から休息時間が規則化されたことを契機に「休憩時間・休息時間の確保にかかる基本パターン」を提示したが、そのなかで「一斉休憩除外」については労働基準法違反になるとして、原案では「一斉休憩除外」の例示があったものを削除した。しかるに高槻市では「一斉休憩除外」を認めている。(甲7号証ー4、甲8号証)これは労働基準法違反である。
 以上、高槻市教委の休憩時間の文書明示不履行及び休憩時間の3原則不履行に関わる指導放棄が原告の休憩時間の取得の障害となったことは明らかであり、被告各校長とは別に国家賠償法による損害賠償を被告高槻市に請求するものである。

3)求釈明
1、被告高槻市及び各校長は、国家賠償の請求について、公務員個人は民法による連帯責任を負わないことを、最高裁判所の判例多数として主張する。
 しかし、なぜそうなのかの理由あるいは法律上の根拠について、司法を実質的に国民に開かれたものにしていくためにも、被告ら自身の考えを明らかにされたい。
2、 高槻市は「弁明書」(P2)で、「特に高槻市教委が、2003年度に本格実施計画を反故にし、2004年度、休憩時間の保障を放棄したとの点、さらには、勤務時間の明示をしていないとの各指摘については強く否定する。」とあるが、高槻市教委は2003年度に各学校長に休憩時間の職員への交付による文書明示及び休憩時間保障の指導をどのように文書でなしたか、その事実を提示されたい。

<大阪府の「答弁書」への反論>
1)府・府教委、市・市教委、校長の関係
 大阪府の「答弁書」に述べられた給与負担者、任命権者、学校設置者、服務監督者、管理職の行政組織的な関係について、認識誤認と認識不足を認め、概ね認める。
 ただし、疑問点としては、地方公務員法第48条に基づく人事委員会規則による勤務条件の措置要求の際、大阪府人事委員会に大阪府教育委員会は「当局」として「意見書」「見解」を出し、応答している。府費負担教職員の場合、服務監督権は地教委にあるだけならば、府教委は人事委員会に「服務監督権がないので、地教委に聞かれたい。」と突き返すのではないか。しかし、現実の運用では、措置要求での「当局」が府教委であることは原告の経験では明らかであり、府教委にも一定の服務・監督権があるのではないかと考える。
 各原告は大阪府人事委員会にそれぞれ措置要求をした経験がある。特に原告松岡は2度にわたり休憩・休息時間の保障に関する措置要求をしている。それに対して、府人事委員会に「当局の意見」を述べた府教委は休憩時間が保障されていない実態については知らないとは言えないのではないか。
*原告長谷川「宿泊行事」(平11・4・26)、長谷川「退職勧奨」(平11・4・26)以上は「地方公務員人事判定集第48集」、家保・志摩・末広・長谷川「研修問題」(平12・3・3)、松岡「休憩・休息時間」(平・12・4・5)以上は「地方公務員人事判定集第49集」、松岡「休憩・休息時間」(平16・3・3)

2)過労死等勤務条件の悪化について
 大阪府の「答弁書」では、「教職員の健康破壊、過労死、退職後の早死」については「否認」とあるので、以下に見解をまとめる。

△「ますます悪化する教員の勤務実態」▽
~現時点の勤務条件の実態・国会の質疑から~
★過労死ラインに達する超過勤務★
[2004年5月26日(水)]、衆議院文部科学委員会において、石井郁子議員(日本共産党)は、小中学校教員の超過勤務が過労死ラインに達していると追求し、文部科学省に実態調査と人員増を求めている。(159-衆-文部科学委員会-22号 平成16年05月26日)
★若年退職者が増加★
 平成15年度末の大阪の教員の退職者は、定年退職724名だったが、40歳から59歳の特別退職者は1,596名と2倍に上がっている。広島県の教員の場合で見ると、定年退職者数が44名で、若年退職者が240名だから実に5.45倍になっている。
 これに対し河村国務大臣は、平成12年度の教員の離職者数は、全離職者の22,389名のうち、定年離職者数が15,049名で、67%は定年退職と答えている。
★超勤、80時間10分(1ヶ月の平均)★
~休憩保障なし加算で96時間~
 全教(全日本教職員組合)の調査でも、超勤は80時間10分と出ている。これは厚生労働省が2002年2月、過重労働による健康障害防止のための総合施策という通知を出しているが、これは是正しなければならない時間外労働と考えていいのではないか。(別の質問で、休憩が保障されない場合、月96時間の超勤になると述べている。)
★超勤、1ヶ月45時間で労災認定★
 これに対し恒川政府参考人は、脳・心臓疾患の労災認定基準の評価の目安は、1,発症前1ヶ月間ないし6ヶ月にわたつて1ヶ月当たりおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど業務との関連性が徐々に強まると判断、2,発症前1ヶ月間におおむね100時間を超える超勤が認められる場合または発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって1ヶ月あたりおおむね80時間を超える超勤が認められる場合、業務との関連性が強いと判断されるとのべた。
★月45時間以下の超勤と年休取得促進~厚生労働省★
 厚生労働省は、事業主に対し時間外労働を月45時間以下とするよう努めることと、年次有給休暇の取得促進を図ることなどを求めている、と答えている。
★病気休職者(特に神経疾患)[平12から]急増★
~原因は仕事の増加~
 また石井委員が病気休職者の推移、精神疾患者の推移を尋ねたのに対して近藤参考人は次のごとく答えている。
 公立学校の病気休職者の在籍者に占める割合は、平成3年が0.38%、同7年0.38%、同12年0.53%、同14年0.57%、であり、精神疾患の場合は、平成3年が0.11%、同7年0.13%、同12年0.24%、同14年0.29%、である
★仕事時間、10年間で[1日]1時間35分増加★
 石井委員は、全教の調査によると、1992年の場合は、仕事時間が、持ち帰りの仕事を含んで9時間27分だった。ところが2002年には11時間2分となっている、この10年間で1時間35分増加していると述べ、仕事時間の増大が精神疾患の増大と見る必要があると述べた。★骨抜きにされた給与特別措置法★
~過労死ライン月80時間、常態化は異常~
 また同委員は、給特法は「原則として時間外勤務を命じない」(第3条)「命じる場合は(1,学校行事に関する業務、2,学生の教育実習の指導に関する業務、3,教職員会議に関する業務、4,非常災害等やむをえない場合に必要な業務)で、臨時又は緊急の場合に限る」(第4条)とあるが、過労死ラインの月80時間が常態化、平均化しているというのは本当に異常としかいいようがない、と追求した。
★超勤時間、1967年から6倍に!!★
~通達(始業、就業時間の使用者確認・記録)周知・徹底は?!~
 文部省は1966年4月から1967年にかけて教員の勤務実態調査をやっている。その調査では週平均の超勤時間は1時間48分であったが、国立教育政策研究所の調査〔中間報告書・資料集、2002年(平成14)3月30日発行]では週平均15時間、6倍になっている。厚生労働省労働基準局長名通達(平13.4)[労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準]は周知、実施しているか。
 これに対し、近藤政府参考人は、この通知が出された後、平成14・15・16年と、各都道府県の教育委員会の人事担当者の会議において、通知の趣旨・内容の周知徹底を図っているとのべた。[以上、衆議院文部科学委員会速記録より]

また、北海道教組(日本教職員組合)の資料では、
☆一人、月平均51時間余の超勤☆
 北教組は、2001年11月21日から1ヶ月間にわたって、全道22支部のすべてから、6000名の教職員を抽出して、業務を17項目に分類して超勤実態調査を行った。
 その結果教職員一人あたり月平均の超勤時間は51.43時間(校内での超勤37.01時間、自宅持ち帰り14.42時間)という膨大なものとなっていることが判明した。しかも調査対象教員全体の約36%が月間50~100時間、10%が「過労死認定基準」にあたる1ヶ月100時間を超える超勤を行っていることが分かった。また全体として中学校では部活の占める割合が多く、小学校では持ち帰り残業が多い。☆教職調整額4%は、6時間弱☆
 給特法でいう1ヶ月の正規の勤務時間の教職調整額4%は、6時間弱にあたる。したがって、調整額を支給していることをもって、超勤手当を支給しない根拠にならない。
☆教職員「心の病」で休職が10年間で倍増☆
 文部科学省の調査発表(2002年12月25日)によると公立の小中高校の教職員の2001年度の休職、降任、免職などの合計は5384人で、これは前年度より6.9%増。
 その内訳は、「病気休職」が約5200人と最も多く、そのうち鬱病など「精神疾患による休職」が2503人で前年度比10.6%と1割をこえて増加した。これは10年前に比べると2.2倍という急増ぶりで、病気休職者全体も1.4倍となった。
 また、在職者全体に占める「精神疾患による休職者」の割合については、0.27%と八年連続で増加している。こうした調査をみても「心の病」をもつ教職員がいかに急増しているかが分かる。
[月刊労働組合、Jan.2003,38-41頁、住友肇(北海道教職員組合書記長)]

以下は大阪府の事例
精神疾患:大阪府公立学校教員の休職 全国平均の約1.9倍
~毎日新聞大阪本社版(2001年7月15日)~
 精神疾患で休職した大阪府の公立学校教員が99年度に145人に達し、1万人当たりの休職者数は府知事部局の約3.1倍、全国の教員平均の約1.9倍、東京都の約1.5倍に上ることが、野田正彰・京都女子大教授(精神病理学)の調査で分かった。都道府県教委と知事部局の精神疾患の経年変化を比較した調査は全国で初めて。人数で比較すると99年度は10年前の5割増で、95年から急増していた。
 大阪府教委は毎年、精神疾患の休職者(大阪市立を除く)を集計して文部科学省に報告している。野田教授は府教委と知事部局の90年度から99年度までのデータを取り寄せ、比較・分析した。
 その結果、教員はこの10年間で96人(1万人当たり22人)から145人(同37人)に増えたのに対し、知事部局は15人(同10人)から17人(同12人)と横ばいだった。また、全国の教員は1017人(同10人)から1924人(同20人)に、東京都は74人(同11人)から143人(同25人)になっていた。
 大阪府の教員は10年間の延べ人数が1171人で、横ばいの知事部局の約8倍だった。

3)休憩時間訴訟の判例
 休憩時間がとれなかった場合に未払賃金・超過勤務手当を請求した判例をあげてみると、

◎すし処「杉」事件(大阪地判昭56・3・24)
 飲食店で午後10時頃から午後12時頃までの間に客の途切れた時などに適宜休憩してもよいとの合意による時間は「現に客が来店した際には即時その業務に従事しなければならなかった」ので、休憩時間でなく労働時間とした。
 ◇労働経済判例速報 �*1091 昭56.8.20

◎立正運送事件(大阪地判昭58・8・30)
 休憩時間中も車両の管理保管の監視等の点よりこの時間を労働時間とした。
 ◇労働経済判例速報 �*1165 昭58.10.20
 ◇労働判例 �*416 1983.12.1

◎住友化学工業事件[最(三)判 昭54・11・13]
 アルミニュウム製造の操炉作業に従事する労働者が、15分程度の食事時間を除いて、操炉作業現場で常時作業にとりかかれる状態に置いて、一勤務一時間の休憩時間を与える旨を定めた労働協約および就業規則に違反する債務不履行に関するケースであるが、二審の名古屋高裁は、この時間に完全な労働に服してはいないが、肉体的・精神的疲労に対して30万円の慰謝料の支払いを認め、最高裁もこれを支持した。
 ◇労働判例 �*242 1976.3.15
 ◇労働判例 �*299 1978.8.1
 ◇労働経済判例速報 �*1032 昭54.12.10
 ◇別冊ジュリスト47 休憩時間の意義

◎護法労働組合未払賃金請求事件(大阪地判平9・4・30)
 被告は身体障害者、未亡人、母子家庭等の生活を援助することを目的として設立された財団法人大阪身障者未亡人福祉事業協会であり、パチンコ店の遊技客が遊技で出した玉と引換に受け取った景品を現金で買い取ることを主たる事業としている。原告はその事業所で働く従業員16名(全員が護法労働組合に所属)で、景品交換所を離れることができない労働実態により奪われた時間外手当、深夜手当及び休憩時間分の割増賃金を請求したものである。
 *大阪地裁で全面勝訴、大阪高裁で和解成立・地裁判決確定。

◎日本貨物鉄道事件(東京地判平10・6・12)
 手待時間、仮眠時間であっても、場所的に拘束されるなど使用者の指揮命令下に置かれているときは、労働時間である。
 使用者は休憩時間中に労働させると、刑事罰をうけることになっているが、(34条3項・119条)それと同時に、右のケースからもうかがわれるように、他の労働時間と合算して8時間を超えた場合には、法定の時間外手当を支払わなければならないし(→37条)、また、付加金を請求されることもある。(→114条)
 ◇労働判例 �*745 (1998,11,15)

◎大星ビル管理会社事件(東京高判平8・12・5)
 ビル管理会社で24時間勤務に就く労働者の「仮眠時間」は場所も特定化され、警報が鳴り、いつでも具体的作業に就かなければならない制約があるので、労働時間とした。
 最高裁は、大星ビル事件で仮眠時間を労働時間にすることについては、東京高裁と同じ考え方をとったが、時間外、深夜労働の算定にあたり、変形労働時間の場合、各週、各自の所定労働時間を超える場合のみ時間外とすべきこと並びに通常賃金から除外すべき賃金(家族手当、通勤手当等)を考慮すべきなのに考慮していない点を指摘し、破棄し、東京高裁に差戻しをした[→最(一)判平14・2・28]
 ◇ 労働判例 �*706 (1997,2.15)
 ◇ 労働判例 �*822 (2002,5.15)
 ◇ 労働判例 �*629 (1993,8.1) ←東京地裁判決

◎地公災大阪府支部(新金岡小学校)事件(大阪高判平16・1・30)
 公務外災害認定処分取消請求控訴事件で、自宅への持ち帰り残業(超過勤務)や給食時間=休憩時間を労働時間と認めた上で、原告の訴えを退けた1審判決を覆し、過労死と認定した画期的な判決である。
 ◇月刊むすぶ No401(2004.5.1)
 

 各判例は休憩三原則の自由に利用できない休み時間は休憩ではなく休息=労働時間であることを確認していることに注目すべきである。
 また、黙示の命令について、前出の国会論議で(153回-参-文教科学委員会-02号 2001/10/30 )、文部科学省初等中等教育局長矢野重典氏は「一般には命令のない勤務につきましては始業時刻に入る」と答えており、部活動等の勤務が黙示の命令にあたるとしている。この考えからいくと、休憩時間の勤務は黙示の命令の最たるものであると言える。

4)給特法と休憩時間
 大阪府「答弁書」では、「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」について、「教育職員については、所定の教育調整額を支給する一方、正規の勤務時間を超えて勤務させる場合を一定の場合に限定するとともに、その限定された範囲内における時間外勤務、休日勤務については時間外手当、休日勤務手当を支給しないことを定めている。」としている。以上のことと関連して、給特法の規定を受けた「教育職員に対し時間外勤務を命じる場合に関する規定」第4条では、教育職員に時間外勤務を命じる場合は「臨時又は緊急やむを得ない必要あるときに限るものとする」とあり、また、この第4条の規定、それに伴う大阪府の規則及び「限定4項目」については大阪府「答弁書」の通りである。
 給特法は、「限定4項目」(1,生徒の実習に関する業務 2,学校行事に関する業務 3,教職員会議に関する業務 4,非常災害等やむを得ない必要な業務)以外は、「原則として時間外勤務は命じない」(超勤に関する文部大臣訓令)ものとした。(「給特法をめぐる諸問題」日本教職員組合) ところが給特法は労基法37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)〈割増賃金の不払いに対しては、六ヶ月以下の懲役又は三十万円以下の罰金〉を適用除外としたため、膨大な超過勤務実態が存在し、中途退職者・病気休職者・精神疾患者が近年増加することとなった。週休二日制に伴い導入されたチームティーチング、総合学習の導入されたことが、時間外勤務が膨大になったことの原因とされている。
 労働基準法第34条の休憩時間の規定は教職員にも適用され、「限定4項目」には休憩時間の未払労働については含まれておらず、休憩時間に関わって発生した未払賃金は給特法の教育調整額によって補われているとは言えない。また、休憩時間は勤務時間でなく、賃金が支払われていない時間である。管理職は休憩時間に労働が続くことのないように労働環境を整備する義務があり、休憩時間に職員が働かなくてもよいようにしなければならないし、勤務が継続した場合は未払賃金を支払わなければならないと考える。(原告が請求しているのは未払賃金であって、超過勤務手当ではない。)また、割り振りの変更によって、休憩時間が確保できるようにしなければならない。しかるに、学校現場の実態として、休憩時間もふくめて、労働が継続しており、8時間45分の連続勤務になっている。(勤務時間の終了後の超過勤務を入れると、さらにそれ以上の無定量の連続勤務が続く。)これは労働基準法第34条違反であり、これは同法第119条にある「6箇月以下の懲役又30万円以下の罰金」という罰則規定に該当し、刑事告発も可能である。
  給特法は1971年(昭46.5.28)に成立している。なぜこの悪法はできたのか、順を追って調べてみることとする。
 日教組が超勤手当問題を具体的に運動方針として提起したのは、1965年の水戸大会であった。給特法成立[1971年(昭46・5・28)]の6年前である。当時、静岡・東京・千葉などいくつかの教組が「超勤手当支払い請求訴訟」を起こしていたが、この年の12月21日、静岡地裁が静岡高教組の提訴について全面勝訴の判決を下した。判決の要旨は「勤労者である教職員の場合、勤務時間も定められており、無定量の奉仕義務はない。校長は労基法上の使用者であり、学校日誌や職員会議録を調べた結果、職員会議のための超勤を命じた事実が確認できるので、県は超勤手当支払いの義務を免れることはできない」というものであった。つづいて1966年1月29日には、同じ静岡地裁が県教組静岡支部の提訴に勝訴の判決をくだした。(日教組三十年史・日本教職員組合編、420頁ー445頁、「超勤手当制度をめぐるたたかい」)
 給特法について、当時から「いわば定額手当制度による時間外労働の手当の免脱という脱法行為に他ならない。この点については、すでに大阪地裁「橘屋事件」(昭40・5・22判)、東京簡裁「関東プレハブ事件」(昭40・7・15判)などにおいてその違法性が指摘されているところである。」との批判があった。(山本吉人「教育労働者の労働条件」、『日本労働法学会誌33号・教育行政と労使関係』1969.5.12所収)
 もともと給特法は、膨大な超勤に対する手当の支給を阻止するためにつくられた法律である。1,校長は、原則として超勤は命じない。2,命じるのは、前出限定4項目のみである。3,4%の教職調整額を支給する。とし、「命じない」との建前で膨大な超勤を強いることができる事を見越したもとでつくられた法律である。最低基準たる労基法を下まわる勤務条件を強いるため作られたものであり、悪法そのものである。
 最近の判例(地公災大阪府支部新金岡小学校事件)では、自宅への持ち帰り残業(超過勤務)や給食時間=休憩時間を労働時間と認めた上で、原告の訴えを退けた1審判決を覆し、過労死と認定しているが、このことは原告らの休憩時間訴訟が提起していることと深い関連性があると考える。
 以上見てきたように、給特法では休憩時間の未払賃金を対象としていず、休憩時間が取得できなかった2002年度分、2003年度分の未払賃金を大阪府は支払う義務がある。
 なお、休憩時間の未払賃金に関わる超勤手当支払いの規定が府条例にないのは、「給特法」が原告らに適用されることと関連があると思料されるので、その点に関する準備書面を追って提出する。

5)求釈明
1、休憩時間の保障の手だてともなる厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」を文部科学省は今年の初等中等教育局所管事項説明会で(2月3日)、各都道府県・政令都市の教育委員会から管理や財政担当の課長級(主幹など)の担当者の出席の上、再通知したと聞いているが、いまだ府教委から高槻市教委に通知されていないのはなぜか。
2、府人事委員会への措置要求の際の府教委が「当局」として応答してきているが、もし服務監督権がなければ、応答できないと考える。勤務条件については、府費負担教職員への服務・監督権は府教委にもあると考えられるが、その見解をお聞きしたい。

<結語>
 大阪府及び高槻市の「答弁書」の問題点は、休憩時間に労働を継続せざるを得ないことを知りながら、または把握する責任があるにもかかわらず、これに対する有効な手立てを取らないことにより未払賃金が発生したことである。裁判所に対して、早急に事実審理、実態審理に入るように要望します。