実践報告集 第12集 『一年生の陽子ちゃんの退所から」 三橋学童保育 小沢 明子 今年入所したよう子ちゃんは、七月に入ってから休みがちになり、夏休み が終わった後お母さんから、「行きたくないと言うから、休ませてしばらく 様子を見たいと思います」という話がありました。 突然の事なので驚きながらも、学校で声をかけたり、学童保育のとりくみ の時には知らせたり、なんとかつながりは持とうと思っていました。でも十 一月の末に「やっぱり行きたくないと言うので……」と退所になり、よう子 ちゃんともお母さんとも十分話しこめないまま終わってしまいました。初め てのケースなので、この事がずっと心に残っています 一年生ということで 気を配ってきたつもりですが、どうして「行きたくない」となったのかふり 返ってみて、改めてよう子ちゃんのことを書いてみたいと思います。 入 所 の こ ろ 四月、五月はお絵かきや、ままごと等をしながら部屋の中でゆったりして いた一年生です。女の子が多く、何でもやってみたいという子がほとんどな ので、「〜しよう。」「私も…。」「私がやるんだから…。」「私もやりた いのにずるい 」とにぎやかで、毎日大きな声が部屋中に響いていました。 よう子ちゃんは、そのにぎやかさに圧倒されるのか、見ているだけで入ら ないでいました。指導員といつも一緒で、みんなが書いた絵を見ながら「ゆ かりちゃん、上手だね。」とそばで言います。「本当だね。このうさぎかわ いいね。」と言いながら、「よう子ちゃんも書く?」と聞くと、「私はいい の……」と、やっぱりそばでじっと見ています。 かと思うと、帰ってくるなり「私も、やろう。」とすごい勢いで書いては 、ていねいに色を塗っていきます。「よう子ちゃん、上手じゃない 」と言 うと、「これ、あげるよ」とせっかく書いたのに、何枚もくれることもあり ました。 よく見ていると、入らずに見ているだけの多いままごとも、好きな役や好 きな子と一緒だと「やる 」と張り切ってやるところも見られます。ただ、 急に「や〜めた。」とか、黙って抜けたりしてみんなから「最後までや ってよ 」と言われる事も度々ありました。 そんな様子に私は、慣れるまでに時間がかかり、多少その時々の気分に左 右されるんだなと思っていました。 一方で、上級生が帰ってくると、よう子ちゃんは又ちがってきます。「よ う子ちゃん、一緒に遊ぼう 」と声をかけられると、飛びついておんぶして もらったり、腕にぶらさがってペタッと甘えています。 三年生のホミちゃんや、四年のあやかは、本当につきっきりで遊びを教え てあげたり、どこへ行くにも声をかけて一緒に連れて行ってくれたり、実に よく相手をしてくれます。 だから、よう子ちゃんは「何時に帰ってくるの……」と、二人の帰りを待 っていました学校でも会うと飛びついたり、「早く帰ってきてね。」とあま えるそうで、「ちょっとくたびれるよ 」と言ってくる事もありました。 そんな話を聞いて、私達のまわりには肩といい背中といい、活発な元気組が からみついてきていたので、やっぱり入りたくても入れないから、その分あ やか達に甘えるのかなと思いました。「いけない もっとかかわらなくっち ゃ 」と思う一方で、正直上級生の対応とよう子の様子に安心してまかせて いたところもありました。 遊 び の 中 で 女の子の中では、「五段石けり」と「温泉とび」がはやっていました。 一年生は、みんなが帰ってくる前に練習してどんどん上手になっていきまし た。「五段石けり」や「温泉とび」だけでなく、一輪車などでもそうですが 、ころんでもころんでも「もう少し、あとちょっと 」と何回も練習して、 いつの間にかできるようになってしまうのです。すごい努力家でがんばり屋 さんなのには感心させられます。 よう子ちゃんも、お姉さん達に教えてもらったり、私達と別のコースで一 緒に練習したりしていました。少しできるようになって、一年生だけの時な どには一緒にさせてみるのですが、ちょっとアウトになったりすると、ス− っと抜けてしまうのです。あやかやホミが、何度も声をかけて誘うのですが 「私やらない」ときっぱり断るのです。 ある日、みんなに誘われて一緒にやったことがありました。「がんばれ よう子 」とみんなが応援します。今まで練習していたこともあって、「ケ ンパ、ケンパ」とできているんだけど、何故か途中でポロポロ泣き出してし まいました。あやか達がかけよって、「大丈夫だよ。」「おまけもあるから やろう 」と励ましていました。 どうして泣いたのかよくわかりませんが、やる前から「できないかも知れ ない。」と言っていたよう子は、「できなかったらどうしよう。」と不安だ ったに違いありません。 というのは、一年生の中には「言い方のきつさ」 がありました。例えば、思ったことを遠慮なくズバズバ言う、その細かいこ と きついこと お互い共通するのは、人に言われると「なんでそんないい 方するの 」「私ばかりに言わないでよ 」「もっとやさしく言ってよ 」 と、すごくむきになります。でも言われていやな思いをするのに、人にはや っぱり同じ様に言っているのです。 そのたびに、「ホラ、自分がいやな思いしたでしょ みんなも同じだよ。 だからそんなふうに言わないで、もっとやさしく言ったらいいんじゃない」 と言ってきました。時には上級生にもそんな調子で言うこともあり、こわい もの知らずの一年生という感じでした だから、よけいによう子ちゃんの不 安は大きかったのかも知れません。目をパチパチさせるよう子ちゃんに、「 大丈夫だよ。みんな最初はできないんだから…」「できなくたって、練習す ればできる様になるんだから…」ひかりちゃんもこれから覚えるんだから一 緒に練習しよう 」と声をかけてきました。 もちろん他の子ども達にも、そのことと合わせて、言い方のきつさがどん なに相手を傷つけるかと言うことも言い続けてきました。 そんな事があっ てからも、よう子ちゃんは別のコースで私達やひかりちゃんと練習を続けて いました。 七月になってから「私もやる 」と言ってみんなと一緒にやることも見ら れ、「よう子うまくなったじゃん 」「もっと前からやればよかったのに… …」と、みんなから励まされていました。何よりも私達がうれしかったのは 、途中から入所したひかりちゃんがアウトになったりすると、よう子ちゃん は、「石が入ってるとこは、入らないんだよ。」「線ふまないで、気をつけ て 」と教えたりアウトになって「う〜」と落ちこむひかりちゃんに、「私 も最初そうだったんだよ」「今度がんばればいいよ」と、励ましていたので す。 「時間がかかるけど、みんなこうやってゆっくりゆっくりできるよう になっていくんだな 」と感激した日でした。 ふ り 返 っ て そんなよう子ちゃんが、夏休み後に「行きたくない 」となってしまった のが信じられませんでした。 「どうしてだろう。」「私達のよう子ちゃんのとらえ方、かかわり方は、 どうだったんだろう。」と、連絡帳、クラブだより、日誌をひっくり返して みました。 あれこれ考えてもわからない状態でしたが「とらえ方」という点でわかっ たこともあります。どれを見てもそこに書かれているよう子ちゃんは、気に はなるけれどがんばっている「いい子」なのです。 「学童って楽しいよ。 だから明日も来るからね。」というよう子ちゃんに、「明日も一緒に遊ぼう ね。」と、その通りに受けとめていましたが、反面お父さんが早く仕事が終 わった時などは、「早く帰ってきて 」とずいぶんねだるといいます。 給食が始まるころに、「食べられなかったらどうしよう。」「残したら叱 られるかな」と心配そうに言っていた事がありました。「ピーマン食べられ ないからな…。」「きらいの出たらどうしよう 」と、にぎやかにみんなが 言う中で、「私、ピーマン好きだもの」 「おいしいのに、食べられないんだ 」 「私は何でも食べられるよ 」 と、一人きっぱりと言うよう子ちゃんです。 確かに学童保育の食事やおやつの時にはすごい時間がかかっても残さず全 部食べますでも、家では相当好き嫌いがあってなかなか食べないというお母 さんの話です。 お手伝いのことでも、工作のあと片付けを始めると、あやかと遊んでいた のに、「私も手伝う。」とすっとんで来て、ボンドやハサミを片付け、ゴミ を拾ってほうきで掃くまでしっかりやります。 そんな様子を見ていると、お母さんから聞く話と違って、とてもいい子の ような気がして逆に気になりました。 学校のお友達と一緒の時も、やっぱ り様子はちがいます。 一年生だけの下校時は、見ていてかわいらしくにぎやかです。そんな中で 一きわ大きな声で、「てめぇ、なにやってんだよ 」という言葉に驚き振り 向くと、逃げる男の子を追いかけている元気のいい女の子は、よう子ちゃん でした。「よう子ちゃんどうしたの?」と声をかけると、「お母さんがいる から帰るね。」と言って、男の子を「早く帰ろう 」とつきとばしながら帰 っていく姿は、まるで別人のようでした。「よう子ってね、友達とこうだっ たんだよ…」と、相棒の指導員と話すと信じられないといった様子でした。 学童保育での姿と違うのに驚き、「どうしてだろう。」と、よう子ちゃんの 気持ちがますますわからなくなります。 お母さんと話した時に、「家で自転車に乗ったり、近所の友達と遊んだり 気ままにしていたいと言うから…」とか、「小さい時から弟と二人でいるこ ともできたし、一人でも大丈夫だから…」という言葉を聞いて、「一人で気 ままにしていたいのか…。」と、思いましたが、一方で学童保育では気まま にできないのだろうかと、保育についてもふり返ってみました。 どの子もそうですが、入所したらまず何でも話していいしできなくてもい いんだと、安心できるところでありたいと思っています。 最初は緊張して いても、一緒に生活する中でお互い少しずつわかり合ってきます。それには 時間がかかるんだ ゆったりとゆったりと…。 そう思っていたのに、実際には毎日の中で「がんばったね えらいね 」 「できるようになったね よかったね 」と、言葉をかけながら、いつも「 もっともっと 」「がんばれ がんばれ 」と言っていたような気がします 。よう子ちゃんにしてみれば、「いい子でいなきゃ…」と思ったのではない でしょうか。遊びの中でスーっと抜けてしまうこと、ポロポロ泣いたことを もっと考えてあげるとよかったと反省します。 そのことが、退所の原因につながるかどうかはわかりませんが、改めて、 学童保育では「できない。」「失敗しちゃった 」と、みんなで言えるよう な、一人一人がわかり合えるようなところでありたいと思います。 そのために、もっと時間が欲しいと思いますし、子ども達の気持ちをしっ かりとらえていける力が、もっともっと欲しいと思っています。