(C)井上陽子
「アンチ・ファシスト」と描かれたTシャツで現れた、土肥いつきさん。京都で府立高校の教員となって33年。数学を教え、放送部の顧問を務める。人権教育にも長く取り組んできた。
クリスチャンの家庭に「長男」として生まれる。大学で電子工学を学び、高校教員という道に進んだ。だが、「最初は差別問題と正面から向き合うことから逃げてたんですよ」。日本社会において、若く〝健康〟な男性である自分は特権的な立場にいるという自覚はあった。マイノリティと向き合えば、自分の立場の差別性を直視せざるを得ない。「そんなしんどいこと、したくないわと」
一方で、尊敬する教会の先輩に「学校には在日の子どもが必ずおる。関わらなあかんぞ」と言われた言葉は心に残っていた。しかし「関わる」という意味からしてわからない。在日や被差別部落という背景をもつ生徒に声をかけるのに3年以上かかった。その間に学び、多くの知識は得る。「だから(通名でない)〝本名宣言〟や〝部落民宣言〟を教条的に〝やらなあかん〟〝やらせなあかん〟と。子どもらをバックアップするようでいて、押しつけていたと思います」
教員生活は充実していたが、家に帰ると心の奥にしまった「小さな箱」が開く。男性の体であることへの違和感と、女性の体になりたいという思い。いつきさんには、子どもの頃から誰にも言えずに抱えてきた「苦しさ」があった。ある時、ゲイの同僚に借りた本によって「苦しさ」に名付けることができた。「トランスジェンダー」
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